【完結】バッドエンドの落ちこぼれ令嬢、巻き戻りの人生は好きにさせて貰います!

白雨 音

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第二章

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それから数日、わたしは姉が朝食を終えるのを待ち、一緒にオースグリーン館へ行き、
昼間は料理や掃除等をして過ごした。
それから、晩餐に間に合う様にコルボーン卿の館に戻り、夜を過ごす___

姉が訪ねて来た時には、『姉とは一緒に居られない!』と拒否感が強かったのだが、
意外にも、わたしたちは上手くやっていた。

だけど…

「そうだったんですか!それは良い事を知りました!」
「ええ、随分、興味がおありなのですね、コルボーン卿?」
「ええ、興味はありますよ、ですが、僕にもその…」
「それでは、ここだけの話にしておきます」
「助かります!あなたは良い方ですね!流石、エレノアのお姉さんだ!」

ウィルと姉が楽しそうに話しているのを見ると…
堪らなく、もやもやとしてしまう。


わたしはウィルが好きだ___

今まで考えない様にしてきた事だが、姉が現れた事で、浮き彫りになってしまった。
わたしはこれまでになく、姉に激しく嫉妬した。
そして、ウィルを取らないで欲しいと願った。
ウィルが姉と話している姿なんて、見たくない!
早く、帰ってくれたらいいのに___と。

「自分が嫌になるわ…」

姉がいなければ、ウィルがわたしに振り向くか、というと、そんな事は無いというのに…

「お姉様が結婚している事だけが救いだわ…」


わたしはそれに縋っていたのだ。
だが、事態は思わぬ方へ進むものだ。

そう、嵐は突然、訪れた___


◇◇


その日の午後、雪が舞う中、コルボーン卿の館前に、立派な馬車が着いた。
降り立ったのは、豪華な毛皮のコートに身を包んだ、初老の夫人だった。

「オールストン公爵夫人、マチルダです、ルシンダに会いに来ました」
「直ぐにお呼び致しますので、中でお待ち下さい」

夫人は執事に促され、護衛を二人連れ、館に入った。


ボブがその事をオースグリーン館へ知らせに来てくれ、わたしは勿論、姉も驚いていた。

「直ぐに戻るわ」

姉は厳しい口調で言うと、掃除道具を置き、エプロンドレスで走って行った。
わたしも掃除道具を放り、姉の後を追った。


「お義母様、お待たせ致しました」

姉がパーラーへ入って行き、わたしは扉を少し開け、中を覗いた。
公爵夫人は我が物顔で長ソファに座っている。
「お座りなさい」と言われてから、姉は向かいに座った。

「まぁ、公爵子息の妻ともあろう者が、何て見苦しい恰好をしているのかしら。
でも、もう、厳しい事は申さなくて良くなりましたから、許しましょう。
ルシンダ、ジェイコブとは離縁して頂きます___」

!?

突然の事に、わたしは息を飲んだ。

公爵夫人は息子の嫁に離縁を申し渡しに来たというの!?
一体どうして?お姉様は何も言っていなかったのに…

何かあっても、わたしになど話す人ではないが、それにしても、両親もそんな話はしていなかった。
一度目の時だって、姉は…
どうしてたかしら?
わたしはそれを思い出せなかった。

一度目の時、わたしは自分の事で精一杯だったし、侯爵夫人になるべく、
厳しい教育を受ける為に、ボーフォート侯爵家に居て、ほとんど実家には帰っていなかった。

わたしが悶々としている間にも、公爵夫人の話は進んでいた。

「理由はあなた自身が一番良く分かっているでしょう。
私はあなたが夫を放って、度々実家に帰るのを、良く思っていませんでしたよ。
それが、今度は妹を理由に、こんな所に…!ああ、何てふしだらなんでしょう!
私には信じられませんよ!あなたは若いし、遊び足りないのでしょう?
ジェイコブと離縁し、好きなだけ遊ぶといいわ___」

公爵夫人は、姉が不貞を働いたと言いたいのだろうか?
確かに、姉は良く実家に戻って来ていたが、遊んでいた風では無かった。
そもそも、姉はお堅くて、浮ついた事が嫌いな質だ。
好きな事と言えば、難しい本を読む事位だもの…

姉は声を荒げる事なく、毅然として返した。

「私は一度も、不貞はしておりません。
実家に顔を出す時も、独り暮らしの妹を訪ねる事も、お義母様に許可を頂いています。
良く思われないのなら、許可は出されない筈ではありませんか」

「フン!私は許可した覚えはありませんよ、作り話はお止めなさい!
誰に物を言っているの!伯爵家の娘が!___!____!!」

驚く様な暴言の嵐に、わたしは耳を塞いでいた。
わたしが一度目の時に、教育係から嫌という程、浴びせられてきた言葉だ___
わたしは恐ろしさに震えたが、姉は今も毅然としていた。

「私は一度も夫を裏切った事はありません。
両親や妹の心配をして、何が悪いというのですか?」

「オールストン公爵家に入ったのでしょう!元の家族など、捨てなさい!」

「お義母様はそうなさったのですか?」

「私は公爵家の娘ですよ!あなたの様な下位貴族とは違うのよ!
私に意見をするなら、子を産んでからなさい!
子も産めない、役立たずの嫁が___!!」

酷いわ!!

「三年経っても、子が産まれなかった時には、離縁すると言ってありましたね、
これで、あなたの顔を見なくて済むと思うと、清々しますよ!
書類はこちらで用意して来ました、後はあなたの署名だけです、ルシンダ」

護衛の一人が書類を出し、夫人が迫る。
姉はペンに手を伸ばした___

「待って下さい!!」

わたしは黙っていられず、パーラーに飛び込んだ。
このまま、何も言わずに、公爵夫人の言い成りになったのでは、姉が可哀想だ!
姉は手を止め、驚いた顔で振り返った。
夫人は顔を顰めている…

「わたしはルシンダの妹、エレノアです!
姉はわたしが家を出たので、心配して来てくれたんです!
両親はわたしを怒っていますから…両親の代わりです!
姉とずっと一緒に居たので、姉が不貞をしていない事はわたしが保証します!
姉はこう見えて、真面目でお堅くて、曲がった事が大嫌いですから、
そんな、不貞なんて、絶対にしません!ただ、家族愛が強いだけなんです!
だから、離縁なんて、考え直して下さい!」

わたしは必死で訴えたが、夫人は「フン!」と鼻で笑った。

「姉が姉なら、妹も妹ですわね!何て、礼儀知らずなんでしょう!
それに、薄汚い…まるで、鼠ね!」

掃除をしていたので、汚れても良いエプロンドレスを着ている。
それに、髪もボサボサだろう。
だけど、鼠だなんて…!
礼儀知らずはどっちよ!!と言い返しそうになったが、姉の方が早かった。

「論点をズラさないで下さい、妹は関係ありません。
問題は、子が出来なかった事、その事には、私も納得しています」

「でも、結婚してたった三年よ!?子供はこれから出来るわよ!
お姉様は若いし、まだ十分にチャンスはあるわ!」

「そう、チャンスよ、離縁する事がね___」

姉はわたしに微笑み、ペンを走らせ、署名をした。

「これで、公爵家とあなたは何の繋がりもありません、
以後、公爵家を貶める様な行為は許しませんからね!
あなたが元妻だと名乗る事すら悍ましいわ!」

公爵夫人は、館を出て馬車に乗るまで悪態を吐いていた。
姉は一言も言い返さず、無表情で馬車が見えなくなるまで玄関に立っていた。
馬車が見えなくなると、踵を返した。

「掃除の途中だったわね」

「掃除なんていいわよ!今日はもう終わりよ!部屋に行って、着替えて休む?」

「変に気を使わないでよ、調子が狂うでしょう」

姉はツンと顎を上げたが、「ふう…」と息を吐くと、「部屋で話すわ」と、わたしを促した。


「…公爵夫人はね、最初から私の事が気に入らなかったのよ。
夫人が欲しいのは、頭が空っぽで、平凡な容姿で、自分の言い成りになる
操り人形であり、夫人の引き立て役なの」

「お姉様とは正反対だわ…」

どちらかと言えば、一度目の時の《わたし》だ___

「パーティの時や客人を迎える時、夫人よりも私が目立ってはいけないの。
用意されるドレスはいつも地味で、型も流行遅れのものだったわ。
化粧も碌にさせて貰えない。
自分は厚化粧をして、宝石を付けた品の悪いドレス姿で、
『妻は慎ましくなさい』と言うのよ?呆れるわ」

「でも、ジェイコブと会わずに離婚を決めて良かったの?」

「ジェイコブも私にうんざりしていたわ。
ジェイコブは私の美しさに惹かれたけど、私が賢いとは思っていなかったのよ。
ジェイコブは自分より賢い妻なんて嫌なの、私が何か言う度に、怒鳴り散らす様になったわ。
私が従順にしていれば、嘲笑い、威張り散らす…私もうんざりしていたわ。
もう、ずっと、夫婦なんかじゃなかった…」

「私は、オールストン公爵家では、空気になるしかなかった。
私が実家に帰っていたのは、何も両親を心配していたからじゃないわ。
自分を取り戻せる場所が、そこしか無かっただけよ。
あなたの所に来たのは、曾祖母の遺産が気になったからだけどね」

姉は「ふっ」と笑ってから、笑みを消した。

「これまで、あの人たちに我慢していたのは、ノークス伯爵家の為よ。
公爵家に刃向かっては、伯爵家なんて簡単に潰されるでしょうし、
それに、両親にも期待されていたしね…
でも、もう限界だったのね…私もあの人たちも、だから、これでいいのよ」

姉は自分に言い聞かせる様に言い、頷いた。
その表情は暗かった。
わたしは姉に同情していた。
姉が、一度目の時の自分と被って見えたからだ…

「エレノア、あなたは賢かったわ、侯爵家からの縁談を断った…
断られる様に仕向けたのだったかしら?
あなたなら受けると思ったけど、断って正解よ。
あなたはここに居る方が、ずっと合っているわ」

わたしは素直に頷いた。

「お姉様、暫く、ここに居てもいいのよ?」

「いいえ、ノークス伯爵家に帰るわ。
両親も私に言いたいことが山ほどあるでしょうし、聞いてあげなきゃ」

姉は直ぐに荷物を纏め、館を出て行こうとしたが、
夜も近い事で、何とかこの日は引き止めた。

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