【完結】すり替わられた小間使い令嬢は、元婚約者に恋をする

白雨 音

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魔法学園二年生



光を頼りに歩いて行くと、別世界とも思える、開けた場所に出た。
そこは天井が無く、吹き抜けで、見上げると淡い青色の空が広がっていた。
中央には、雨が溜まって出来たのか、大きな水場があった。

何時間かぶりに見た空に気持ちが安らぎ、わたしは腕を伸ばし、
大きく深呼吸した。

「ああ、空気が美味しい…!空が眩しいわ…」

終了の時間が近付いている今、空は遠く、実際は陽もそれ程強くは
無いのだろうが、それでも眩しいと感じた。
わたしは空から視線を下ろし、水場に目を向け…息を飲んだ。

「酷い…!」

水は透明では無い、底の方ははっきりと暗い紫色に澱んでいた。
わたしが近付こうとした時、左口から、何人かの生徒が走り出て来た。

「水場だ!」
「おー!やったー!!」
「ああ、喉が渇いたぜー」

それを飲むつもりだと気付き、わたしは叫んだ。

「待って下さい!飲んではいけません!!」

わたしの声が届いたのか、彼らはピタリと足を止め、わたしを見た。
わたしは「飲んではいけません!」と叫び、彼らの方へ走った。

「エバ!こんな所で何してるの?」

彼らに続き、シャーロットが現れ、わたしを見て驚きの声を上げた。
シャーロットのグループの様だ。わたしは息を整え、それを告げた。

「わたしの事は後程…
皆さん、この水は飲んではいけません、底の方が澱んでいますでしょう?」

「確かに、変な色してるけど…」
「光の加減とかじゃね?」

水を飲もうとしていた男子生徒たちは、水場を覗き込んだ。

「あんたたち、馬鹿ね!エバは魔法薬学の申し子なのよ、
大人しく言う事きいた方がいいわよ」

シャーロットが言ってくれ、男子生徒達は不満そうな顔をしつつも黙った。
わたしは鞄から空の試験管を取り出し、その場に膝を付き、水を掬った。
『鑑定魔法』を使い、それを検査すると…

「毒が混在しています」
「毒!?」
「マジか!?」
「仕方ねー、諦めようぜ」

わたしはその場に座ったまま、水場に目を凝らしていた。
何か原因が掴めないかと…

「エバ、行かないの?そういえば、あなた、まさか独りじゃないわよね?」
「それが、グループと逸れてしまったのです…」
「ええ!?大変じゃないの!探すの手伝うわ!」
「いえ、それはいいのですが…」

わたしは、見ていてそれに気付いた。

「変だわ…水が…」
「どうしたの、エバ、何かみつけたの?」

シャーロットが隣で一緒に覗き込む。
水は澱んでいたが、一部、澱んでいない箇所があった。
その水の底には水草が生えていて、水草は活き活きとしている。
毒の影響を受けていないのだ、それに、周辺の水は透き通っている…
わたしはパッと顔を上げ、目を輝かせ、シャーロットに言った。

「この水場を、浄化出来るかもしれません!」

シャーロットはわたしの目を見て、力強く頷いた。

「協力するわ!どうするか教えて!」
「この水底に生息している水草が見えますか?
あの水草は毒に影響を受けていません、周辺の水も綺麗です。なので…」
「その水草を成長させればいいのね!」

シャーロットは言うと、走って行く。
同じグループの子たちは「おい、早く行こうぜ!」と不満を洩らしたが、
シャーロットは「直ぐに終わるわよ!その辺で休憩してて!」と言い返し、
逆方向まで行くと、水場に向け、魔力を送った。
わたしも水草に魔力を送った。

シャーロットの魔力は強く、直ぐに水草は成長を始め、水面に変化が現れた。
わたしも頑張って魔力を送る…

幾らかし、水場は活き活きとした水草で溢れ、
そして、その水は美しく透き通っていた。

魔力をかなり消耗したわたしは、その場に座り込んだが、
シャーロットは元気で、わたしに駆け寄って来ると、思い切り抱き付いてきた。

「きゃ!」
「やったわ!エバ!あたしたちって凄いわよね!?」
「はい、こんなに綺麗な水場は見た事がありません…少し、頂きますね」

わたしは水を覗き込み、袖を捲ると、手を伸ばして水草を採った。
そして、空になっていた飲料水の容器に、ここの水と一緒に入れた。

「あなたって、勉強熱心ね!」
「初めて見る水草だったので、それに、毒を浄化出来るなんて凄いですもの!」

わたしがそれを鞄に仕舞った時だった。
上空から強い風が吹いた。

「きゃ!」
「うわ!」
「なんだ!?」

見上げると、巨大な生き物が飛んでいて、こっちへ降りて来た。
それは、逞しく大きな足に、鋭く光る爪、体は真っ白く、大きな翼があり…
その大きな目は、アクアマリン___

「うわあああ!!逃げろー!!」

生徒たちは叫びを上げ、凄い勢いで洞窟の中へ逃げ込んで行った。
だが、そんな事はわたしには関係無かった。
ただ、その神々しい姿を目を見開き、見つめていた。

「エバ!動けないの!?逃げるのよ!」

シャーロットに腕を掴まれたが、わたしは頭を振った。

「逃げる必要なんて、ありません…」

白い竜が水場の傍に降り立った…
わたしは、胸が高揚し、その名を呼んでいた。

「ノアシエル様___!!」


ああ、どれだけ望んだだろう?
初めて、その存在を知ってから、ずっと、その姿に憧れ、惹かれていた。
一目でいいから、見る事が叶うなら…と。

そのアクアマリンの目が、わたしを見た。
そんな気がした…いえ、気の所為などではないわ!

そう思った時、わたしの周りの音は止んだ。
空気も止まった___

《我の名を知る者は珍しい》
《しかも、まだ小娘ではないか》

それは、不思議に響く、音楽の様な声だった。

わたしの目の前を、走馬灯の様に、わたしの記憶が映し出され、
流れていく…
水の騎士の墓、ノアシエルの絵画、ノアシエルの栞、ノアシエルの本、
そして、ノアシエルの刺繍…
ウィリアムとわたしの姿も…

《三番目の王子か…懐かしい》

三番目の王子というのは、ウィリアムの事だろう。
ノアシエルが知っている事に、わたしは驚いていた。

《三番目の王子は、心優しき者》
《あの者を通し、水の騎士を思い出す》

《国がどれ程乱れ、衰退したとしても》
《あの者さえ破られなければ》
《この国は護られる》
《希望の光》

ウィリアム様が___!?

《第三王子を慕う者よ》
《第三王子と同じ魂を持つ者よ》

《あの者や、聖女を護る力を授けよう》


水色の光がわたしの胸に入ってくる。

そして、わたしの体の隅々に染み渡っていく…

瞬きした瞬間、わたしは元の世界に戻っていた。
まるで、意識だけ別の世界に居たみたいだった。

「エバ!エバってば!!大丈夫!?」

シャーロットに体を揺さ振られ、わたしは彼女の目に視点を合わせた。

「はい、大丈夫です…ノアシエル様は…」

わたしが目を上げると、白竜はアクアマリンの目でわたしを見、頷いた。
水場に顔を付け、水を飲むと、
その大きな翼を羽ばたかせ、風を煽り飛び立って行った。

「きゃー!」

強い風を受け、シャーロットがわたしに抱き付く。
わたしは最後まで、ノアシエルの姿を見ておきたくて、腕で風を避けながら、
その姿を追っていた。

ノアシエルの姿が空に溶け…

わたしは息を吐いた。

「ああ!もう!怖かったー!エバは良く平気だったわよね?」
「はい、憧れの伝説の竜ですから!」

わたしが笑って言うと、シャーロットは不思議そうな顔をした。
だが、ノアシエルが去った跡を見て、飛び上がり、歓喜の声を上げた。

「エバ!見てよ!凄い!!宝石よ!」

ノアシエルの足跡の上には、幾つもの小さな宝石が散らばっていた。
ダイヤモンド、アンバー、エメラルド、ルビー、サファイア、そしてアクアマリン…
わたしとシャーロットはそれを拾うと、袋に詰めた。
拾ったからといって、わたしたちの物には出来ない、
この場所は学園の保有地でもある、教師に報告しなければいけない。

「これって絶対、水場を浄化したお礼よ!
先生たちにも、そこをしっかりアピールしましょうね!
ああ、でも、誰にも内緒よ!こんなの、嫉妬されちゃうわ!」

シャーロットは、ノアシエルを見て洞窟に逃げて行ったグループを追い、
わたしは実習も終盤とあり、オーロラたちのグループを探す事にした。


結局、オーロラたちを見付けるのは叶わず、制限時間もあり、
わたしは洞窟の出口へ向かった。
出口で待つ教師に、わたしは事情を話し、グループが出て来るのを待った。

途中で逸れてしまい、グループに戻れ無かったわたしは、かなり減点されて
しまうだろうが、今のわたしには、全く気にならなかった。

ノアシエルと会えた、そして、ノアシエルの話を聞き…力を貰った。

まるで、現実とは思えない。
そして、それはいつまでもわたしの心を浮き立たせていた。


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