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カイが髪を切りました
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「髪を切ろうと思うんだが」
「え、やだ」
朝食の席でカイとリナはそのまま気まずく沈黙の食事を続けた。
「じゃあまだ伸ばそうかな」
「カイさんが切りたいなら」
同時。
「どうしても切りたいわけでもないけど」
「切っても似合うと思うよ」
同時。
これはもうしばらく何も言わず、次に相手の言ったことに賛成しよう
とお互いに待つ。
「……じゃあ、仕事行ってくる」
「うん!そうだね!それがいいよ!いってらっしゃい!」
あ、賛成するテンションの使いどころ間違えた
リナはブンブンと振り上げた手をそっと下ろした。
ーーーーーー
騎士団の朝訓練で
「カイさん、今度は何ですか。また奥さんに逃げられたんですか。」
「また、って言うな。逃げられてない」
明らかに落ち込んでいる様子のカイ。
気分で八つ当たりするような人間ではない。海の底の泥のように静かに後悔に落ち込んでいる。
ただ、後輩は訓練を組むのを避けている。
落ち込んだり嫁絡みの考え事をしているカイは、ボーッとして
手加減を忘れるのだ。
うっかり絞めすぎたり
無意識に手刀で気絶させたり
自分の関節を数ヶ所外して新人をガタガタ怯えさせたり
だいたい面倒くさいことになる。
後輩たちからの
『なんとかしてくださいよ』という願いを察してしまったヒューゴがタイミングをはかって声をかけた。
「あー、カイ、なんかあったのか」
「俺の嫁が可愛すぎないか?」
ヒューゴ、帰ろうとする。
後輩たちに
『もっと粘ってください!』
と留められる。
「間違えた。
俺は嫁を可愛がりすぎておかしなことになってないか」
『え、今さらですか』
後輩たちは思ったが言えなかった。
「今さらか。安心しろ、みんな知ってる。」
あ、言っちゃうんすね、ヒューゴさん。
「まあそうだよな。自覚はある。
今朝のことなんだが」
ヒューゴさん、ナチュラルに技かけられてる。
「俺が髪を切ろうかなって何気なく言ったらリナが、やだって言って。
それが嫌なんじゃなくて、俺はそんなことまで嫁の言葉に一喜一憂するような奴になったのかと思うと、器が小さい気がして」
「カイさん!やめてあげてください!ヒューゴさん気絶してます!」
「多分髪を切ってもリナは嫌がらないんだろうけど、気にしてしまう自分がちょっとな、わりきれないというか」
「今はヒューゴさんを気にしてあげてください!!!」
後輩のおかげでヒューゴはすぐに気がついた。
「で、髪を切るのか?どれくらい」
「この前の件もあるので女に見えないくらい短くしようかと思ったんだ。あと、こうやって後ろに引っ張られているのは、前から禿げるような気がして。
あと、老けて見られがちだからな。
リュートみたいに化け物みたいに若く見えなくていいけど、年相応を維持したい」
前髪。
「出会ったときから今の髪型だから前髪あるとこ想像できない。というか心底どうでもいい」
言っちゃうんすね、ヒューゴさん。(後輩たちの心の声)
「リナさんに聞いて言う通りそのまま切ればいいんじゃねえのか?」
「それもなんか嫁が好きすぎて自分で何も判断できない奴みたいじゃないか?」
「今まさにそうだろ」
「リナの言う通りに切って俺は楽になるかもしれないが、もしそれで似合ってなければリナが責任を感じて悲しまないだろうか」
「知らん」
ヒューゴは今度こそ去っていこうとした。
後輩たちは、ヒューゴが高速でツボを指圧という名の攻撃をされていたのを見ていた。
ヒューゴ、転ぶ。
両足痺れさせていたから。
「おまえ、こんな陰湿な攻撃するのかよ。」
「あ、すまん。つい無意識で」
ーーーーーーーー
結局、帰りにカイは髪を切った。
前髪あり。少し斜めに流し
髪は背中の真ん中ほどまであったのを手のひら一つ分ほど短くした。
後ろで三つ編みも出来る長さ。
お団子にもできる。
そして帽子も買った。
ドキドキしながら帰ったら、リナさんに褒められたらしい。
多分、髪を切ろうが伸ばそうがリナさんは変わらないんだろう。
そんなことを翌朝の訓練で聞かされた。
落ち込んでいるカイよりももっとヤバイのが上機嫌な時のカイだ。
助走なしで宙返りをしたり壁を上ったり、わかりやすく浮かれている時はまだいい。
組手の時に、ぼんやりして絞めすぎたり
手刀を連続で叩きつけて気絶させたり
自分の関節を外して移動させて狭いところをくぐり抜けて擦り傷だらけになっていたりする。
普段は尊敬できる先輩だ、と思いつつ後退りする後輩たち。
クールだった頃のカイを懐かしく思いつつも、嫁にベタぼれなカイも人間らしくていいと思っていた。
でも組むのは嫌だというのが総意であることに変わりはない。
「え、やだ」
朝食の席でカイとリナはそのまま気まずく沈黙の食事を続けた。
「じゃあまだ伸ばそうかな」
「カイさんが切りたいなら」
同時。
「どうしても切りたいわけでもないけど」
「切っても似合うと思うよ」
同時。
これはもうしばらく何も言わず、次に相手の言ったことに賛成しよう
とお互いに待つ。
「……じゃあ、仕事行ってくる」
「うん!そうだね!それがいいよ!いってらっしゃい!」
あ、賛成するテンションの使いどころ間違えた
リナはブンブンと振り上げた手をそっと下ろした。
ーーーーーー
騎士団の朝訓練で
「カイさん、今度は何ですか。また奥さんに逃げられたんですか。」
「また、って言うな。逃げられてない」
明らかに落ち込んでいる様子のカイ。
気分で八つ当たりするような人間ではない。海の底の泥のように静かに後悔に落ち込んでいる。
ただ、後輩は訓練を組むのを避けている。
落ち込んだり嫁絡みの考え事をしているカイは、ボーッとして
手加減を忘れるのだ。
うっかり絞めすぎたり
無意識に手刀で気絶させたり
自分の関節を数ヶ所外して新人をガタガタ怯えさせたり
だいたい面倒くさいことになる。
後輩たちからの
『なんとかしてくださいよ』という願いを察してしまったヒューゴがタイミングをはかって声をかけた。
「あー、カイ、なんかあったのか」
「俺の嫁が可愛すぎないか?」
ヒューゴ、帰ろうとする。
後輩たちに
『もっと粘ってください!』
と留められる。
「間違えた。
俺は嫁を可愛がりすぎておかしなことになってないか」
『え、今さらですか』
後輩たちは思ったが言えなかった。
「今さらか。安心しろ、みんな知ってる。」
あ、言っちゃうんすね、ヒューゴさん。
「まあそうだよな。自覚はある。
今朝のことなんだが」
ヒューゴさん、ナチュラルに技かけられてる。
「俺が髪を切ろうかなって何気なく言ったらリナが、やだって言って。
それが嫌なんじゃなくて、俺はそんなことまで嫁の言葉に一喜一憂するような奴になったのかと思うと、器が小さい気がして」
「カイさん!やめてあげてください!ヒューゴさん気絶してます!」
「多分髪を切ってもリナは嫌がらないんだろうけど、気にしてしまう自分がちょっとな、わりきれないというか」
「今はヒューゴさんを気にしてあげてください!!!」
後輩のおかげでヒューゴはすぐに気がついた。
「で、髪を切るのか?どれくらい」
「この前の件もあるので女に見えないくらい短くしようかと思ったんだ。あと、こうやって後ろに引っ張られているのは、前から禿げるような気がして。
あと、老けて見られがちだからな。
リュートみたいに化け物みたいに若く見えなくていいけど、年相応を維持したい」
前髪。
「出会ったときから今の髪型だから前髪あるとこ想像できない。というか心底どうでもいい」
言っちゃうんすね、ヒューゴさん。(後輩たちの心の声)
「リナさんに聞いて言う通りそのまま切ればいいんじゃねえのか?」
「それもなんか嫁が好きすぎて自分で何も判断できない奴みたいじゃないか?」
「今まさにそうだろ」
「リナの言う通りに切って俺は楽になるかもしれないが、もしそれで似合ってなければリナが責任を感じて悲しまないだろうか」
「知らん」
ヒューゴは今度こそ去っていこうとした。
後輩たちは、ヒューゴが高速でツボを指圧という名の攻撃をされていたのを見ていた。
ヒューゴ、転ぶ。
両足痺れさせていたから。
「おまえ、こんな陰湿な攻撃するのかよ。」
「あ、すまん。つい無意識で」
ーーーーーーーー
結局、帰りにカイは髪を切った。
前髪あり。少し斜めに流し
髪は背中の真ん中ほどまであったのを手のひら一つ分ほど短くした。
後ろで三つ編みも出来る長さ。
お団子にもできる。
そして帽子も買った。
ドキドキしながら帰ったら、リナさんに褒められたらしい。
多分、髪を切ろうが伸ばそうがリナさんは変わらないんだろう。
そんなことを翌朝の訓練で聞かされた。
落ち込んでいるカイよりももっとヤバイのが上機嫌な時のカイだ。
助走なしで宙返りをしたり壁を上ったり、わかりやすく浮かれている時はまだいい。
組手の時に、ぼんやりして絞めすぎたり
手刀を連続で叩きつけて気絶させたり
自分の関節を外して移動させて狭いところをくぐり抜けて擦り傷だらけになっていたりする。
普段は尊敬できる先輩だ、と思いつつ後退りする後輩たち。
クールだった頃のカイを懐かしく思いつつも、嫁にベタぼれなカイも人間らしくていいと思っていた。
でも組むのは嫌だというのが総意であることに変わりはない。
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