魔術師の先輩が言うことには

「真面目だから」

ヒューイ先輩と食事をしてから、職場の同僚たちに話しかけられることが増えた。
今までのように届け物をした時に
「なにか雰囲気変わりましたね」
と言われたり、親しい人からは
「恋人でもできた？」
と聞かれる。
そんなことはないと否定するとニヤニヤされる。片思いだと思われたのかもしれない。

確かに、いつ先輩に会っても良いように少しだけ髪型に気をつかったり鏡をみることが増えた。
あまり話したことのない部署の男性から、お菓子を分けてもらったりお茶をしていかないかと誘われたこともある。たまたまそこの部署の休憩に良い時間だったらしい。
紙コップで手渡されたお茶を飲むあいだ、世間話をした。

二回目は、帰りに食事でもどうかと誘われた。
正直、男性と二人で行くのは無理だと思った。部署も違うし話題もないだろうし。
そうしたら、同じ部者の女性が一緒だというので行ってみることにした。
ヒューイ先輩との食事を思い出したけれど、わざわざ先輩に言うことではない。そんな関係ではないから。

仕事を定時に終えたあと、近くのお店に行くことになった。
女性が一人と男性二人。
まだあとから数人来る予定だと聞いて、デートの誘いかと思って警戒したのは自意識過剰だったと反省した。

食事と共に軽いお酒を飲んで打ち解けたころに
「アリスさんは真面目だね」
と誉められた。
地味な仕事ばかりだったけれど見てくれる人がいると嬉しくなった。
「そう、真面目ですよね」

通路から聞こえた声に振り返ればやっぱりヒューイ先輩。

女性陣の顔が輝くのがわかった。有名だから先輩。
先輩も職場の人と仕事終わりに約束しているらしい。先にきてしまったところ、私が見えたので挨拶にきてくれたらしい。
一杯だけ一緒に飲むことになった。
共通の知り合いである私のことを話している。なんだか照れ臭い。
先輩の待ち人が来たらしく、すぐにテーブルを離れた。

「本当、アリスは真面目過ですよね。こいつ、頑張りすぎるので心配なんですよ」

と、私の頭をポンポンと軽く撫でた

他の人たちが赤くなった。私も多分。
先輩は無意識にやっているからずるい。