魔術師の先輩が言うことには

「見合いすることになって」

先輩にシャワーのお礼に何かしたかったけれど、好みが違うだろうし先輩のほうが高給取りな上に育ちも良い。
物は選ぶ自信がないので、食事を誘った。
すると、
「いいの？」
と子供のようにパアッと笑顔になった。
「高価なお店は無理ですけど」

先輩が、じゃあこういうのは？と提案してくれたのは。

運河のそばの屋台でいくつか食べたあと、庶民的なバルに行くとか

そういう経験はない。友だちや職場の人と屋台に行ったことはあるけどお祭りの時だけ。
バルは女性だけでは行くことはない。最近は女性向けの店も増えているみたいだけど。

「俺も行ったことないから行ってみたかったんだけど、なかなか機会がなくて」

多分、お値段も庶民的だと思う。先輩の優しさを感じる。

屋台で食べて、ライトアップされた運河を歩いている時に

「今度見合いすることになって」

と先輩が言った。
そのあと詳しく聞きたかったけれど先輩が別の話を始めたので聞きそびれた。
バルで少し酔いが回ったので、よろけたら先輩が手を繋いでくれた。
嬉しかったのに悲しくて、ほら、やっぱりこんな人に近づいたら好きになってしまうじゃん、と少し泣きたくなった。