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お茶会の日
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「いいお天気で良かったわ」
今日はすべての庭木が良い状態になるように祈っていた。
一番見頃の花は鉢植えにしてお客様の見える範囲に配置してある。
庭師の師匠である祖父は、楽士が奏でるように庭を作る。
詰め込みすぎてもいけないし、寂しいのももちろんダメだ。
花ばかりではなく視線を逃すような緑や石で強弱のリズムをつける。そうすることでお客様は飽きずに楽しめる。
ノッティ公爵家の庭は有名だ。
庭好きが高じて設計までする公爵と、花好きな夫人の二人が揃えば最高の庭が出来上がった。
手に入る限りの植物と人材が集まる。
庭での茶会に参加することはステータスであった。
なかでも、異国の客人を王家からの命で招くことがある。
今日もカリム国の姫がいらっしゃる。
将来は王子か公爵家に嫁ぐ方だと噂されている。
今日は数人の貴族の子女と交流されるそうだ。
若い方が多いということで、普段よりもサーラの意見が取り入れられた。
華やかでありながら令嬢たちのドレスを引き立てるような景色にした。
遠くからでもお姫様を見てみたいと、こっそり庭から覗くことにした。
はしたないけれど、庭をご覧になる様子を見たいし。
お茶会の給仕をする侍女は貴族令嬢だ。行儀見習いのようなもので体力のいる仕事はほとんどしない。
貴族令息に見初められる可能性だってある。
すれ違う時にそんな話をしているのを聞いた。
どうせ、彼女たちに「泥付き娘」と笑われるサーラには関係ないけれど。
カリム国の姫は長身で、スラリとした美人だった。この国の着飾った令嬢たちが少し子供っぽく見える。
「わあ、素敵……!」
見とれていたら、姫の後ろにいた男性が振り返って、睨まれた。
鋭い目付き。
そのまま、視線を外さない。
怖い!
殺気というものを初めて感じた。
見つめていただけなのに、これ程睨まれるなんて。
それぐらいでないと王族の護衛は務まらないのかもしれない。
銀色の髪の毛の護衛が怖くて、後退りした。
敵意はないし、ただの使用人だとわかったらきっと許してくれるわ。
と思ったのに、何でこっちに直進してくるの!?
######
カリム国の姫は、いつもと違う彼に声をかけた。
「どうしたの、セイ。そわそわして」
「姫様、身体に異変はありませんか?」
「ないわ。まだ何も口にしていないし」
「ここの庭に来てからどうも……花の香りがきつくなったような気がするのですが」
「そうかしら。香りは感じないわ。令嬢方の香水かしら。あなたは鼻がいいから」
「いえ、そういった類いのものは判別できるのですが、」
ビシッと固まったあとに物凄い勢いで振り返った。
「何か見つけたの」
「見つけてしまったかもしれません。
姫様、あとはお茶会ですし侍女殿にお任せしても構いませんね」
「ええ、どうせあなたが席にいたら威圧感があるから、適当に庭を拝見させてもらえば……」
「ありがとうございます!」
姫の言葉を遮って、護衛騎士は走り出した。
「セイ、どうしたのでしょう。目が血走っていたような、
あら、まさかあの少女に向かっているの?」
「まさか、無体なことはされないと思いますが」
侍女は別の騎士を見た。姫も頷く。
「一応追いかけますね」
銀色の獣人騎士が小さな少女に話しかけている図だけでもお茶会には異質だ。
少女が困っているのが遠目にもわかる。
#####
「すみません、私、姫様が美しいから見ていただけで怪しいものではないんです!」
ぺこぺこと頭を下げる少女を見て、ますます混乱した。
花のような香りが濃くなる。
「君は、一体」
「申し遅れました!この屋敷で働いているサーラと申します。花壇や庭を担当しているので、身なりが汚れていてすみません。
ですが、姫様には決して近づきませんので!
給仕をされるのはきちんとした侍女さまなので、失礼はないと思います」
「そんなことはどうでもいい」
「すみません!」
思ったより冷たい声が出てしまって後悔した。彼女が萎縮して謝ったので更に後悔した。
しかし、逃がすわけにはいかない
「怒っているわけではない。
そんなことより、君のことを教えてくれ」
「……はい?……」
こてん、と首を傾げる様子も可愛らしい。
可愛らしい?
私が?
初対面の女性をまさかそんな風に
それではまるで
(番でもあるまいし)
そう思ったときに、ドクンと大きく胸が高鳴った。
口許を押さえる。
今にも愛を請いたくなるような衝動。
これは聞いていた番を見つけた時の症状にそっくりだ。
それと同時に姫様と侍女達が言っていたことも思い出す。
『いきなり番だから!って盛られても人間側はわからないからトラウマになるかもしれないわね』
ここは、怖がられてはいけない。
小柄な少女からしたら武骨な騎士など怖いだろう。
「驚かせてすまない、私はカリム国のセイ。姫様の護衛をしている。
その、素晴らしい庭なので少し興奮してしまった。君が案内してくれないだろうか」
「お庭がお好きなんですか」
ぱあっと、表情が明るくなったサーラ。
「……好きだ!」
「そんなにも喜んでもらえて嬉しいです。ご案内します!」
「危なかった、言うところだった」
一部始終を見ていたセイの後輩騎士。
「いや、ガッツリ言ってましたやん、先輩。姫様ー!すごい面白いことになってます!」
今日はすべての庭木が良い状態になるように祈っていた。
一番見頃の花は鉢植えにしてお客様の見える範囲に配置してある。
庭師の師匠である祖父は、楽士が奏でるように庭を作る。
詰め込みすぎてもいけないし、寂しいのももちろんダメだ。
花ばかりではなく視線を逃すような緑や石で強弱のリズムをつける。そうすることでお客様は飽きずに楽しめる。
ノッティ公爵家の庭は有名だ。
庭好きが高じて設計までする公爵と、花好きな夫人の二人が揃えば最高の庭が出来上がった。
手に入る限りの植物と人材が集まる。
庭での茶会に参加することはステータスであった。
なかでも、異国の客人を王家からの命で招くことがある。
今日もカリム国の姫がいらっしゃる。
将来は王子か公爵家に嫁ぐ方だと噂されている。
今日は数人の貴族の子女と交流されるそうだ。
若い方が多いということで、普段よりもサーラの意見が取り入れられた。
華やかでありながら令嬢たちのドレスを引き立てるような景色にした。
遠くからでもお姫様を見てみたいと、こっそり庭から覗くことにした。
はしたないけれど、庭をご覧になる様子を見たいし。
お茶会の給仕をする侍女は貴族令嬢だ。行儀見習いのようなもので体力のいる仕事はほとんどしない。
貴族令息に見初められる可能性だってある。
すれ違う時にそんな話をしているのを聞いた。
どうせ、彼女たちに「泥付き娘」と笑われるサーラには関係ないけれど。
カリム国の姫は長身で、スラリとした美人だった。この国の着飾った令嬢たちが少し子供っぽく見える。
「わあ、素敵……!」
見とれていたら、姫の後ろにいた男性が振り返って、睨まれた。
鋭い目付き。
そのまま、視線を外さない。
怖い!
殺気というものを初めて感じた。
見つめていただけなのに、これ程睨まれるなんて。
それぐらいでないと王族の護衛は務まらないのかもしれない。
銀色の髪の毛の護衛が怖くて、後退りした。
敵意はないし、ただの使用人だとわかったらきっと許してくれるわ。
と思ったのに、何でこっちに直進してくるの!?
######
カリム国の姫は、いつもと違う彼に声をかけた。
「どうしたの、セイ。そわそわして」
「姫様、身体に異変はありませんか?」
「ないわ。まだ何も口にしていないし」
「ここの庭に来てからどうも……花の香りがきつくなったような気がするのですが」
「そうかしら。香りは感じないわ。令嬢方の香水かしら。あなたは鼻がいいから」
「いえ、そういった類いのものは判別できるのですが、」
ビシッと固まったあとに物凄い勢いで振り返った。
「何か見つけたの」
「見つけてしまったかもしれません。
姫様、あとはお茶会ですし侍女殿にお任せしても構いませんね」
「ええ、どうせあなたが席にいたら威圧感があるから、適当に庭を拝見させてもらえば……」
「ありがとうございます!」
姫の言葉を遮って、護衛騎士は走り出した。
「セイ、どうしたのでしょう。目が血走っていたような、
あら、まさかあの少女に向かっているの?」
「まさか、無体なことはされないと思いますが」
侍女は別の騎士を見た。姫も頷く。
「一応追いかけますね」
銀色の獣人騎士が小さな少女に話しかけている図だけでもお茶会には異質だ。
少女が困っているのが遠目にもわかる。
#####
「すみません、私、姫様が美しいから見ていただけで怪しいものではないんです!」
ぺこぺこと頭を下げる少女を見て、ますます混乱した。
花のような香りが濃くなる。
「君は、一体」
「申し遅れました!この屋敷で働いているサーラと申します。花壇や庭を担当しているので、身なりが汚れていてすみません。
ですが、姫様には決して近づきませんので!
給仕をされるのはきちんとした侍女さまなので、失礼はないと思います」
「そんなことはどうでもいい」
「すみません!」
思ったより冷たい声が出てしまって後悔した。彼女が萎縮して謝ったので更に後悔した。
しかし、逃がすわけにはいかない
「怒っているわけではない。
そんなことより、君のことを教えてくれ」
「……はい?……」
こてん、と首を傾げる様子も可愛らしい。
可愛らしい?
私が?
初対面の女性をまさかそんな風に
それではまるで
(番でもあるまいし)
そう思ったときに、ドクンと大きく胸が高鳴った。
口許を押さえる。
今にも愛を請いたくなるような衝動。
これは聞いていた番を見つけた時の症状にそっくりだ。
それと同時に姫様と侍女達が言っていたことも思い出す。
『いきなり番だから!って盛られても人間側はわからないからトラウマになるかもしれないわね』
ここは、怖がられてはいけない。
小柄な少女からしたら武骨な騎士など怖いだろう。
「驚かせてすまない、私はカリム国のセイ。姫様の護衛をしている。
その、素晴らしい庭なので少し興奮してしまった。君が案内してくれないだろうか」
「お庭がお好きなんですか」
ぱあっと、表情が明るくなったサーラ。
「……好きだ!」
「そんなにも喜んでもらえて嬉しいです。ご案内します!」
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