モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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第1章 悪役令嬢は目立ちたくない

第14話 馬と鋏

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 馬は荒れ狂いながら私の方に向かって走ってくる。

 (え・・・?)

 私はあまりの事にぽかんとしてしまう。そして次には恐怖で固まって動けなくなってしまった。

 まるでスローモーションのように目の前で馬が立ち上がり、私を踏みつけようとするのをただ見つめていた。

 (ふ、踏まれる!)

 身体をすくめた瞬間だった。まるで何かに弾き飛ばされたように、馬が馬車もろとも後ろに吹っ飛んだのだ!

 (え?え?え?)

 私は動けないまま周りの喧騒を聞きながら、少しずつ身体が震えだすのが分かった。

 「アリアナ嬢!怪我は無いか?」

 声をかけられてゆっくり後ろを振り向くと、右手を馬の方に挙げてクリフが立っている。
 
 (い、今のって・・・?)

 「ク、ク、クリフ様が、た、助けて下さったのでしょうか・・・?」

 「ああ、咄嗟の事で手加減できなかった・・・。座ってて、ちょっと見てくるから」

 馬は馬車と一緒に横倒しになったまま動かない。クリフは心配そうに馬の方へ歩いていった。

 「アリアナ様!だ、大丈夫ですか?」

 「お怪我はありませんかっ?」

 ミリアとレティシアが青ざめながら私の方に駆け戻ってきた。

 「え、ええ、大丈夫です」

 やっと周りを見る余裕が出来て来た。リリーとジョージアも無事の様だ。

 そして突然の事に驚いた先生方が、こちらに集まって来た。

 「大丈夫か?なんで馬車が!」

 「けがは無いかっ!」

 他のクラスの生徒もざわざわしながら、こちらを注目していた。

 (どういう事なんだろう・・・。単なる事故?・・・でも調教されている馬が急に暴れだすなんて・・・)

 訝しく思いながら、最初に馬車が繋がれていた場所に目をやった。

 (ん?)

 そこには数人の女生徒が集まっているのが見えたのだが、それがどうも様子がおかしい・・・。

 (・・・まさか・・・ね)

 だけど、もやもやする気持ちを押さえられなくて、私は馬の様子を見ていたクリフに駆け寄った。

 「・・・クリフ様、あちらを」

 小声で彼に目配せをした。

 クリフは直ぐに私の言わんとすることが分かったようだ。小さく頷くと目を閉じて何か唱えだした。

 (あ!魔術)

 クリフはもう魔術が使えるのか!さすが攻略者だなぁと呑気に感心していると、

 彼は軽く開いていた両手をパンと握るように打ちつけた。

 すると怪しい動きをしていた女生徒達の方から小さな悲鳴が聞こえた。彼女達はぎゃあぎゃあ騒ぎながら、座り込んでいる。

 「クリフ様、何をしたんです!?」

 そう言った私の問いには答えず、クリフは女生徒達の方へ歩き始めた。私も慌ててクリフの後を追う。

 女生徒達の近くに行くと、彼女達がなぜ騒いでいたのか分かった。女生徒達4人の足の裏が地面に張り付いたまま動かせないようなのだ。地面に倒れこんで、顔を引きつらせながら必死にもがいている。

 「いやー!足がっ」

 「きゃー、どうして動きませんの!」

 「痛い!痛いですわ。」

 「皆様、落ち着いて、落ち着きあそばせーっ!」

 4人ともパニック状態で、まるでコントを見てるようだ。

 クリフが彼女達のそばに行き軽く腕を振った。すると彼女達の足は急に自由になり・・・

 「きゃっ!」

 「いやっ」

 「痛いっ!」

 「どうしてっ!?」

 反動で4人とも、それぞれ違う方向へすてんっと転がる。お尻を強く打ったみたいで、全員涙目で顔をしかめていた。

 クリフはそんな彼女達を冷めた目で見ていたが、ふと何かに気が付いたようで、しゃがみ込むと地面に落ちていた物を拾い上げた。

 「なんですの?」

 私が聞くと、クリフはしゃがんだまま手に持っている物を私の方へ見せる。日の光を反射してキラリと光ったそれは、小ぶりだが鋭く尖っている裁縫用の鋏だった。

 「馬の背には、何かで刺したような傷があった」

 「えっ?」

 「木に繋いでいたロープにも刃物で切られた跡があった」

 私とクリフはまだ地面にへたり込んでいる4人を見た。

 (あれ?なんかこの顔ぶれ、見覚えが・・・)

 突然中庭での記憶がよみがえった。

 「あっ、あなた達は前にリリー様をイジメていた方達ですね!?」

 私がそう言うと、4人もクリフも「えっ」と言う表情で私の方を見る。

 そしてクリフが厳しい目を4人に向けた。

 「な、なんの事か分かりませんわっ」

 「そ、そうよ。変な言いがかりをつけないで下さいませ・・・」

 そう言いながらも明らかに目が泳いでいる。

 「だからリリー嬢の居る方へ馬をけしかけたのか?」

 クリフがそう問いただすと4人はますます慌てた。

 「し、知りませんわ!」

 「ど、どうして私達がそんな事を?」

 「そ、そうよ、そうよ。何か証拠はありまして!?」

 しらばっくれる女生徒達の目の前に、クリフは先ほど拾った鋏を指で摘まむようにぶら下げた。女生徒達の顔色が変わる。

 「これ、君達のだよね?」

 「し、知りませんわ。そんな鋏・・・」

 「それこそ、証拠が無いでしょ・・・」

 「それで馬を刺しただなんて、だ、誰が見てたのかしら?」

 「そ、そうよ、そうよっ!」

 私は彼女達の言葉を聞いてニンマリした。

 (は~い、私は聞き逃さなかったよ。くっくっく・・・こいつら語るに落ちたわ)

 腕を組んで女生徒達に向き直る。

 「どうして、馬が刺さされた事を知ってるのですかぁ?」

 私の言葉に女生徒達はハッとして黙った。私はさらに追い詰める。

 「そんなこと知っているのは刺した本人だけ・・・ですよねぇ?」

 私はわざと不思議そうな顔をして頬に手を当てた。

 クリフがフッと笑って鋏をぶらぶらと揺らす。

 女生徒達の顔色はますます青くなった。

 (ふふふ、もう一押しじゃ)

 逃がす気は無かった。
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