58 / 284
第3章 悪役令嬢は関わりたくない
8
しおりを挟む
その日の夕食後、皆でティールームに移動し、食後のお茶を飲んでいる時、母が面白い話をしてくれた。
「この屋敷から山の方へ続く道の途中に、滝があるのだけど、その滝には素敵な伝説があるのよ。」
「母上、またその話ですか?」
クラークが肩をすくめて苦笑する。
「あら、あなたとアリアナは何度も聞いたことがあるでしょうけど、皆様は初めてでしょう?」
(すみません、私も初めてです。アリアナは聞いてるだろうけど・・・。)
私は心の中で呟いた。
「あのね、昔その滝にはイルクァーレという美しい少年の精霊が住んでいたのですって。そして彼は、森の妖精のシーリーンに恋をするのよ。」
「まぁ、素敵なお話だわ。」
レティシアがうっとりとした顔をする。
「でも、滝の精霊であるイルクァーレは、滝から離れる事はできないの。だからいつも、緑の木漏れ日の中で踊るシーリーンを見つめているだけ。」
「私だったら、大声出して声かけるけど。」
ジョージアはそう言ってデザートのお代りをメイドに頼んだ。
「馬鹿ね、ジョー。大声出す精霊なんて変でしょ?。」
「そうよ、それにロマンティックじゃないわ。」
ミリアとレティシアがジョージアに、話の腰を折るなと注意した。母はそんな3人に「ほほほ」と笑いながら、話を続ける。
「イルクァーレはシーリーンに気付いて欲しくて、滝の音を奏でるの。そしていつしかシーリーンは、その音に合わせてダンスを踊る様になったそうよ。でもね・・・、あの山には嫉妬深い獣の神が住んでいて、二人の淡い恋を邪魔するの。獣の神は口から炎を吐いて山の雪を溶かし、滝の傍で踊っていたシーリーンを雪解け水で流してしまったの。」
「滝の精霊なんだから、雪解け水なんて止めちゃえばいいのに。」
「黙りなさい、ジョー!。お話の邪魔しないで。」
ミリアがジョージアの口を、手でふさいだ。
「ふふ、そうね。でもシーリーンに見惚れていたイルクァーレは、流れてくる雪解け水に気づかなかったのね。悲しんだイルクァーレは滝の裏にある洞窟に籠ってしまったの。そしてやがて彼は洞窟の中で、美しい水晶になってしまったそうよ。シーリーンを思いながら・・・。」
レティとリリーがほーっと溜息をついた。グローシアを見ると涙ぐんでいる。
「悲しいお話です・・・。」
そう言って鼻をすすった。
母はにっこり笑って
「でもね、お話はそれで終わりじゃないのよ。二人を可哀そうに思った山の神が、そのイルクァーレの滝に魔法をかけたの。」
「どんな魔法ですか?」
パーシヴァルが聞いた。
(おっ、男子でもこんな話に興味あるんだ?)
男子組に目をやると、皆、思ったより真剣に聞いている。
「山の神は、流されてしまったシーリーンの心を拾い上げて、イルクァーレの宿る水晶と一緒にしてあげたの。だから、滝の裏の洞窟には、一つだけ見る角度によって緑と紫に光る水晶があるそうよ。」
「良かった。」
「二人は一緒に居られるようになったのね。」
リリーとレティシアがホッとしたように言った。母はそんな二人に頷ずきながら、
「そしてね、その出来事があってから、滝で偶然、二人っきりで会うことができたら、その二人は運命の相手になるのですって。うふふ、実は私と夫はその滝で出会ったのよ。」
そう言って母は父見て、父は微笑みを返した。
女子たちの中で「キャー」っと言う声が上がる。
「素敵な話だわぁ・・・。」
レティシアが目をつぶって両手を合わせて口元に寄せた。
「ほんとにロマンティックですね。」
リリーも火照った頬を冷やすように、両手添えてそう言った。
「わ、わたくしも・・・・と、滝で・・・。」
グローシアが何かごにょごにょ言ってる。
ジョージアだけ一人、デザートのお代りの、次のお代りを頬張りながら、
「う~ん、私だったら雪解け水に流される様なドジはしないわ。」
「もう!。あなたは黙っときなさい!」
ミリアにそう怒られていた。
(ふ~ん、そんな伝説の滝があるのね。まぁ・・・ありきたりの話だな。)
現世を知ってる私は、どうやら皆よりドライのようだ。
「あの・・・、その滝は、今でも行けるのですか?」
そう聞いたリリーに、母は頷いて、
「ええ、もちろんよ。歩いて15分くらいだから、ちょうど良い散歩になるわ。」
「じゃあ、明日の朝、皆で行ってみようか?。僕が案内するよ。」
クラークがそう言うと、女子からは「素敵っ」と声が上がり、男子達も興味があるのか、各々頷いていた。
(まぁ、きれいな滝を見ながらマイナスイオンを浴びるのも、悪くないか。)
皆と行くのなら、どこだって楽しいだろうしね。
「さぁ、皆さん、そろそろお部屋に戻りなさい。明日、寝坊しないようにね。」
「ゆっくり休みたまへ。」
父と母の声で、その夜はお開きとなった。
ティールームから部屋に行く時、レティシアが私の袖を引っ張った。
「あの、アリアナ様。私、クラーク様にお願いがあるのですが・・・。」
レティシアがもじもじしている。
「何ですか?」
「あのですね・・・。」
レティシアは私に耳打ちした。
「この屋敷から山の方へ続く道の途中に、滝があるのだけど、その滝には素敵な伝説があるのよ。」
「母上、またその話ですか?」
クラークが肩をすくめて苦笑する。
「あら、あなたとアリアナは何度も聞いたことがあるでしょうけど、皆様は初めてでしょう?」
(すみません、私も初めてです。アリアナは聞いてるだろうけど・・・。)
私は心の中で呟いた。
「あのね、昔その滝にはイルクァーレという美しい少年の精霊が住んでいたのですって。そして彼は、森の妖精のシーリーンに恋をするのよ。」
「まぁ、素敵なお話だわ。」
レティシアがうっとりとした顔をする。
「でも、滝の精霊であるイルクァーレは、滝から離れる事はできないの。だからいつも、緑の木漏れ日の中で踊るシーリーンを見つめているだけ。」
「私だったら、大声出して声かけるけど。」
ジョージアはそう言ってデザートのお代りをメイドに頼んだ。
「馬鹿ね、ジョー。大声出す精霊なんて変でしょ?。」
「そうよ、それにロマンティックじゃないわ。」
ミリアとレティシアがジョージアに、話の腰を折るなと注意した。母はそんな3人に「ほほほ」と笑いながら、話を続ける。
「イルクァーレはシーリーンに気付いて欲しくて、滝の音を奏でるの。そしていつしかシーリーンは、その音に合わせてダンスを踊る様になったそうよ。でもね・・・、あの山には嫉妬深い獣の神が住んでいて、二人の淡い恋を邪魔するの。獣の神は口から炎を吐いて山の雪を溶かし、滝の傍で踊っていたシーリーンを雪解け水で流してしまったの。」
「滝の精霊なんだから、雪解け水なんて止めちゃえばいいのに。」
「黙りなさい、ジョー!。お話の邪魔しないで。」
ミリアがジョージアの口を、手でふさいだ。
「ふふ、そうね。でもシーリーンに見惚れていたイルクァーレは、流れてくる雪解け水に気づかなかったのね。悲しんだイルクァーレは滝の裏にある洞窟に籠ってしまったの。そしてやがて彼は洞窟の中で、美しい水晶になってしまったそうよ。シーリーンを思いながら・・・。」
レティとリリーがほーっと溜息をついた。グローシアを見ると涙ぐんでいる。
「悲しいお話です・・・。」
そう言って鼻をすすった。
母はにっこり笑って
「でもね、お話はそれで終わりじゃないのよ。二人を可哀そうに思った山の神が、そのイルクァーレの滝に魔法をかけたの。」
「どんな魔法ですか?」
パーシヴァルが聞いた。
(おっ、男子でもこんな話に興味あるんだ?)
男子組に目をやると、皆、思ったより真剣に聞いている。
「山の神は、流されてしまったシーリーンの心を拾い上げて、イルクァーレの宿る水晶と一緒にしてあげたの。だから、滝の裏の洞窟には、一つだけ見る角度によって緑と紫に光る水晶があるそうよ。」
「良かった。」
「二人は一緒に居られるようになったのね。」
リリーとレティシアがホッとしたように言った。母はそんな二人に頷ずきながら、
「そしてね、その出来事があってから、滝で偶然、二人っきりで会うことができたら、その二人は運命の相手になるのですって。うふふ、実は私と夫はその滝で出会ったのよ。」
そう言って母は父見て、父は微笑みを返した。
女子たちの中で「キャー」っと言う声が上がる。
「素敵な話だわぁ・・・。」
レティシアが目をつぶって両手を合わせて口元に寄せた。
「ほんとにロマンティックですね。」
リリーも火照った頬を冷やすように、両手添えてそう言った。
「わ、わたくしも・・・・と、滝で・・・。」
グローシアが何かごにょごにょ言ってる。
ジョージアだけ一人、デザートのお代りの、次のお代りを頬張りながら、
「う~ん、私だったら雪解け水に流される様なドジはしないわ。」
「もう!。あなたは黙っときなさい!」
ミリアにそう怒られていた。
(ふ~ん、そんな伝説の滝があるのね。まぁ・・・ありきたりの話だな。)
現世を知ってる私は、どうやら皆よりドライのようだ。
「あの・・・、その滝は、今でも行けるのですか?」
そう聞いたリリーに、母は頷いて、
「ええ、もちろんよ。歩いて15分くらいだから、ちょうど良い散歩になるわ。」
「じゃあ、明日の朝、皆で行ってみようか?。僕が案内するよ。」
クラークがそう言うと、女子からは「素敵っ」と声が上がり、男子達も興味があるのか、各々頷いていた。
(まぁ、きれいな滝を見ながらマイナスイオンを浴びるのも、悪くないか。)
皆と行くのなら、どこだって楽しいだろうしね。
「さぁ、皆さん、そろそろお部屋に戻りなさい。明日、寝坊しないようにね。」
「ゆっくり休みたまへ。」
父と母の声で、その夜はお開きとなった。
ティールームから部屋に行く時、レティシアが私の袖を引っ張った。
「あの、アリアナ様。私、クラーク様にお願いがあるのですが・・・。」
レティシアがもじもじしている。
「何ですか?」
「あのですね・・・。」
レティシアは私に耳打ちした。
17
あなたにおすすめの小説
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる