65 / 284
第3章 悪役令嬢は関わりたくない
15
しおりを挟む
実は昨日の夕食後、私はディーンを呼び出して、グスタフに関する事情を全て話した。
そして、断られるのを覚悟の上、「仲睦まじい婚約者」を演じてくれるよう頼んだのだ。
別荘の白檀の部屋の中、私は声を潜めた。
「すみません、ディーン様が気が進まない事は、重々承知しております。でも、どうしてもリガーレ公爵には、わたくしの事を諦めてほしいのです!。明日の朝だけで良いので、お願いできないでしょうか?」
そう言って、90度以上頭を下げた。
ディーンは最初、私の申し出に驚いていたようだが、しばらくして溜息をついてこう言った。
「私と・・・婚約したのは、リガーレ公爵の事があったから?」
「え?」
「だから婚約を打診してきたのかい?。」
「い、いえいえ・・・そういう事では無いです・・・よ。」
(だって、アリアナは本気でディーン・ラブだったもんね。)
ディーンは少しの間考えていたが、もう一度深く溜息をつくと、
「分かった。」
「え?」
「協力するよ。」
表情を変えずに、そう言った。
「あ、ありがとうございます!」
そして今、私達は並んで、お互い微笑み合っているわけなのだ。
「これはディーン君、アリアナ嬢。見送りに出てきてくれてありがとう。・・・はて、お二人は不仲だと言う噂を聞いて、心配していたのですが、どうやら杞憂だったかな?」
グスタフの声にも表情にも、特に特別な色は浮かんではいない。けれど、私の背中には冷や汗が流れ落ちる。
「たちの悪い噂を流す方がいるのですね。」
ディーンはあくまで冷静だ。
「根も葉もない、ただの噂です。」
「ほう・・・。」
グスタフの目が値踏みする様に細められた。
(怖い、怖い、怖い・・・。)
だが、グスタフは直ぐに完璧な紳士のスマイルを顔に浮かべると、
「いやぁ、ディーン君。アリアナ嬢の様な可愛らしい婚約者を持って、実に羨ましい。私もあやかりたいものです。」
そう言って、私の方にチラリと目をやった。
(心底うらやましそうに言うんじゃない!)
私は絶えず笑顔を張り付けていたが、思わずぎゅっとディーンと繋いでいる手に力がこもった。ディーンは驚いたのか、一瞬小さくビクッとしたが、直ぐに安心させるように手を握り返してくれた。そして、
「アリアナは可愛らしいだけではなく、優しくて聡明な女性です。私は・・・、彼女をずっと守っていきたいと、そう思っています。」
そう言って、私の方を向いて極上の笑みを浮かべた。
瞬間、心臓がドクンと跳ね上がる。
(うっ・・・、やば・・・笑顔が眩し・・・。)
私は顔が熱くなるのを感じ、(流石、神セブンの一人!)と、この場にそぐわない、のんきな事を考えた。
グスタフは、見逃しそうな程ほんの瞬間、悔しそうな表情を浮かべ、「そうですか・・・。」とだけ言って馬車に乗り込んだ。
私は内心ガッツポーズをしながら、「お気をつけて。」そう言って頭を下げた。
そうしてグスタフの馬車が、先に出立して行った。
父は、母を馬車に乗せると、私にこっそり耳打ちした。
「アリアナ、しくんだね。」
「何のことでしょう?。」
父はくっくと笑って、
「私の娘は可愛いらしい上に、とぼけるのも上手い。」
とウィンクして馬車に乗り込み、ドアを閉める前に真面目な声で言った。
「ディーン君、娘をよろしく頼む。」
「はい。」
そして、父と母を乗せた馬車も、領都へ向かって出立して行った。
私は一気に緊張が抜け、大きく息を吐いた。
(よ、・・・よし、これでグスタフも、ちょっとは考え直すはず・・・)
そう思って、ディーンの手をまだ握っていた事に気付いた。
「すみません!」
私は慌てて手を離した。そして、
「あの・・・、ありがとうございました。ほんとに、助かりました。」
そう言って、ディーンに頭を下げた。返事が無いので、頭を上げてみると、何故かディーンは先ほどまで握っていた手を、ぼんやり見つめている。
「あの・・・ディーン様?」
そう聞くと、彼はゆっくりと手を降ろし、
「いや、別に・・・私が君の婚約者であるのは、事実だから・・・。」
「え?でも・・・。」
「礼を言われるような事じゃないよ。」
そう言って、彼は私の方を見ずに、玄関の方へ歩いて行ってしまった。
(なんか、怒ってる・・・?)
「やっぱり、変なお芝居させちゃったからかな・・・?。」
ディーンがリリーを好きなのだとしたら、嫌な役だったに違いない。
借り作っちゃったなぁ、と思いながら、私も別荘の中へ戻った。
そして、断られるのを覚悟の上、「仲睦まじい婚約者」を演じてくれるよう頼んだのだ。
別荘の白檀の部屋の中、私は声を潜めた。
「すみません、ディーン様が気が進まない事は、重々承知しております。でも、どうしてもリガーレ公爵には、わたくしの事を諦めてほしいのです!。明日の朝だけで良いので、お願いできないでしょうか?」
そう言って、90度以上頭を下げた。
ディーンは最初、私の申し出に驚いていたようだが、しばらくして溜息をついてこう言った。
「私と・・・婚約したのは、リガーレ公爵の事があったから?」
「え?」
「だから婚約を打診してきたのかい?。」
「い、いえいえ・・・そういう事では無いです・・・よ。」
(だって、アリアナは本気でディーン・ラブだったもんね。)
ディーンは少しの間考えていたが、もう一度深く溜息をつくと、
「分かった。」
「え?」
「協力するよ。」
表情を変えずに、そう言った。
「あ、ありがとうございます!」
そして今、私達は並んで、お互い微笑み合っているわけなのだ。
「これはディーン君、アリアナ嬢。見送りに出てきてくれてありがとう。・・・はて、お二人は不仲だと言う噂を聞いて、心配していたのですが、どうやら杞憂だったかな?」
グスタフの声にも表情にも、特に特別な色は浮かんではいない。けれど、私の背中には冷や汗が流れ落ちる。
「たちの悪い噂を流す方がいるのですね。」
ディーンはあくまで冷静だ。
「根も葉もない、ただの噂です。」
「ほう・・・。」
グスタフの目が値踏みする様に細められた。
(怖い、怖い、怖い・・・。)
だが、グスタフは直ぐに完璧な紳士のスマイルを顔に浮かべると、
「いやぁ、ディーン君。アリアナ嬢の様な可愛らしい婚約者を持って、実に羨ましい。私もあやかりたいものです。」
そう言って、私の方にチラリと目をやった。
(心底うらやましそうに言うんじゃない!)
私は絶えず笑顔を張り付けていたが、思わずぎゅっとディーンと繋いでいる手に力がこもった。ディーンは驚いたのか、一瞬小さくビクッとしたが、直ぐに安心させるように手を握り返してくれた。そして、
「アリアナは可愛らしいだけではなく、優しくて聡明な女性です。私は・・・、彼女をずっと守っていきたいと、そう思っています。」
そう言って、私の方を向いて極上の笑みを浮かべた。
瞬間、心臓がドクンと跳ね上がる。
(うっ・・・、やば・・・笑顔が眩し・・・。)
私は顔が熱くなるのを感じ、(流石、神セブンの一人!)と、この場にそぐわない、のんきな事を考えた。
グスタフは、見逃しそうな程ほんの瞬間、悔しそうな表情を浮かべ、「そうですか・・・。」とだけ言って馬車に乗り込んだ。
私は内心ガッツポーズをしながら、「お気をつけて。」そう言って頭を下げた。
そうしてグスタフの馬車が、先に出立して行った。
父は、母を馬車に乗せると、私にこっそり耳打ちした。
「アリアナ、しくんだね。」
「何のことでしょう?。」
父はくっくと笑って、
「私の娘は可愛いらしい上に、とぼけるのも上手い。」
とウィンクして馬車に乗り込み、ドアを閉める前に真面目な声で言った。
「ディーン君、娘をよろしく頼む。」
「はい。」
そして、父と母を乗せた馬車も、領都へ向かって出立して行った。
私は一気に緊張が抜け、大きく息を吐いた。
(よ、・・・よし、これでグスタフも、ちょっとは考え直すはず・・・)
そう思って、ディーンの手をまだ握っていた事に気付いた。
「すみません!」
私は慌てて手を離した。そして、
「あの・・・、ありがとうございました。ほんとに、助かりました。」
そう言って、ディーンに頭を下げた。返事が無いので、頭を上げてみると、何故かディーンは先ほどまで握っていた手を、ぼんやり見つめている。
「あの・・・ディーン様?」
そう聞くと、彼はゆっくりと手を降ろし、
「いや、別に・・・私が君の婚約者であるのは、事実だから・・・。」
「え?でも・・・。」
「礼を言われるような事じゃないよ。」
そう言って、彼は私の方を見ずに、玄関の方へ歩いて行ってしまった。
(なんか、怒ってる・・・?)
「やっぱり、変なお芝居させちゃったからかな・・・?。」
ディーンがリリーを好きなのだとしたら、嫌な役だったに違いない。
借り作っちゃったなぁ、と思いながら、私も別荘の中へ戻った。
17
あなたにおすすめの小説
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる