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第3章 悪役令嬢は関わりたくない
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夏休みの間、私達は思いっきり楽しんだ。でも、休みはずっとは続かない。
(もう、あと10日で夏休みも終わりか・・・。)
パーシヴァルはさすが第二皇子だけあって、1週間前に迎えが来て城へと戻って行った。ミリア達とクリフも一昨日に自領へと発った。
そして今日、リリー、ディーン、グローシアが出発の準備をしている。グローシアは「お側を離れたくありません!」と言っていたが、侯爵家からの迎えの馬車が昨日から来ているのだ。兄と一緒に何とか説得して、帰る事を渋々納得させた。
リリーは夏休み終了まで居て貰って構わなかったのだが、多分遠慮したのだと思う。グローシアの馬車に乗せて行って貰い、途中で学園で降ろして貰うそうだ。
「ずっと一緒にいたから、なんだか寂しいですね。」
私は兄と並んで、馬車に乗り込んだリリーとグローシアの手を握った。
「また、学園でお会いするのを楽しみに待っています。」
リリーは微笑みながら、手を握り返してくれた。グローシアは目に一杯涙を溜めて、
「一旦、お側を離れるご無礼をおゆるしぐだざい・・・。グ、グラーグざまも、お元気で・・・。」
と言って、とうとう泣き出してしまった。
出発した二人の馬車に手を振って、振り返るとディーンも既に馬車の横に立っていた。
「ディーン様、ではまた学園で。」
「ああ、また。」
お互いあっさりとした挨拶だけだった。けれど今までと違うのは、二人とも笑顔だったことだ。
「では、お世話になり、ありがとうございました。」
「ああ、また学園で会おう。」
ディーンと兄も挨拶をかわし、馬車は出発した。
去って行くディーンの馬車を見送りながら、自然と顔がほころんだ。
(ディーンとは完全に和解したし、婚約解消も円満にできそう。皆とも、前よりもっと仲良くなれたし、ああ、良い夏休みだった!)
手を上に伸ばして伸びをしながら、私は別荘の玄関に向かった。今はもう、使用人以外は兄と私の二人しかいない。明日には私達も、両親のいる領都へ移動する予定だ。唯一気がかりなのは、夏休みになって、ずっと皆と過ごしていたから、ほとんど勉強していない事だ。
(こんなに遊んだ夏休みは、初めてかもしれない・・・。)
領都では新学期に向けて猛勉強する予定である。並居るライバル達に負ける訳にはいかないのだ。さぁ今から始めるぞ!と思っていると、ふとイルクァーレの滝へと続く遊歩道が目に入った。
(もう一度だけ行ってみようかな?)
あの滝では、沢山の思い出が出来たから。
私は玄関を入りかけている兄に声をかけた。
「お兄様、ちょっと滝まで散歩してきます。」
「一人で行くのは危ないよ。明日の移動の指示を使用人にしたら、僕も一緒に行くから。」
「では、お兄様は後から来てくださいな。私、先に行ってます。
」
私はそう言って、さっさと小走りで遊歩道へ向かった。
「お、おい、アリアナ!・・・全く、仕方ないなぁ。」
滝へと向かう道は気持ちが良かった。昨日まで、みんなと何度この道を通っただろう?。
緑の木々から出る新鮮な空気を胸いっぱい吸いながら、私は満ち足りた気分だった。
(5カ月前にアリアナになって、最初の頃はどうしようって思ってたけど・・・。)
木々に透ける木漏れ日を見上げながら、歩いてみる。
(断罪は回避できそうだし、友達もいっぱいできた。グスタフの件は残ってるけど、私がとことん嫌がれば、お父様だって無理強いしないよね。)
自分で何とかするって決めたし。大丈夫!私はやれる!。
この時の私は、ディーンと友人になれた事で、少し調子に乗っていたのだと思う。
しばらくすると、イルクァーレの滝の優しい流れの音と、優美な姿が見えてきた。
私はディーンと対峙した時の、アリアナを思い出していた。あれ以来、アリアナが出て来る事は無い。
(でも、アリアナの存在は、なんとなくずっと感じてるのよね・・・。)
この5カ月での彼女の成長が、嬉しかった。
私は滝への小道を降り、まっすぐ滝の裏側へと向かった。
「う~ん、やっぱりここって、凄い観光資源になると思うんだけど、人で溢れちゃうのは勿体ない気がするなぁ。」
思い入れもあるし、荒らされたくない。ふと滝つぼに目をやると、今日も紫色にきらきらと光っている。
私はあの時の、クリフの濡れた髪を思い出してしまい、一人で赤面した。
「やめよう・・・なんか背徳的な気分になる・・・。」
頭を振って、映像を脳から追い出した。すると、
「何が背徳的なの?」
誰も居なかったはずなのに、突然後ろから声をかけられた。私はビクッとなり、慌てて振り向き、驚愕に目を見開いた。
「イーサン!」
「やぁ、久しぶり。」
滝の裏の岸壁を背に、ライナス・イーサン・ベルフォートがニヤリと笑った。
(もう、あと10日で夏休みも終わりか・・・。)
パーシヴァルはさすが第二皇子だけあって、1週間前に迎えが来て城へと戻って行った。ミリア達とクリフも一昨日に自領へと発った。
そして今日、リリー、ディーン、グローシアが出発の準備をしている。グローシアは「お側を離れたくありません!」と言っていたが、侯爵家からの迎えの馬車が昨日から来ているのだ。兄と一緒に何とか説得して、帰る事を渋々納得させた。
リリーは夏休み終了まで居て貰って構わなかったのだが、多分遠慮したのだと思う。グローシアの馬車に乗せて行って貰い、途中で学園で降ろして貰うそうだ。
「ずっと一緒にいたから、なんだか寂しいですね。」
私は兄と並んで、馬車に乗り込んだリリーとグローシアの手を握った。
「また、学園でお会いするのを楽しみに待っています。」
リリーは微笑みながら、手を握り返してくれた。グローシアは目に一杯涙を溜めて、
「一旦、お側を離れるご無礼をおゆるしぐだざい・・・。グ、グラーグざまも、お元気で・・・。」
と言って、とうとう泣き出してしまった。
出発した二人の馬車に手を振って、振り返るとディーンも既に馬車の横に立っていた。
「ディーン様、ではまた学園で。」
「ああ、また。」
お互いあっさりとした挨拶だけだった。けれど今までと違うのは、二人とも笑顔だったことだ。
「では、お世話になり、ありがとうございました。」
「ああ、また学園で会おう。」
ディーンと兄も挨拶をかわし、馬車は出発した。
去って行くディーンの馬車を見送りながら、自然と顔がほころんだ。
(ディーンとは完全に和解したし、婚約解消も円満にできそう。皆とも、前よりもっと仲良くなれたし、ああ、良い夏休みだった!)
手を上に伸ばして伸びをしながら、私は別荘の玄関に向かった。今はもう、使用人以外は兄と私の二人しかいない。明日には私達も、両親のいる領都へ移動する予定だ。唯一気がかりなのは、夏休みになって、ずっと皆と過ごしていたから、ほとんど勉強していない事だ。
(こんなに遊んだ夏休みは、初めてかもしれない・・・。)
領都では新学期に向けて猛勉強する予定である。並居るライバル達に負ける訳にはいかないのだ。さぁ今から始めるぞ!と思っていると、ふとイルクァーレの滝へと続く遊歩道が目に入った。
(もう一度だけ行ってみようかな?)
あの滝では、沢山の思い出が出来たから。
私は玄関を入りかけている兄に声をかけた。
「お兄様、ちょっと滝まで散歩してきます。」
「一人で行くのは危ないよ。明日の移動の指示を使用人にしたら、僕も一緒に行くから。」
「では、お兄様は後から来てくださいな。私、先に行ってます。
」
私はそう言って、さっさと小走りで遊歩道へ向かった。
「お、おい、アリアナ!・・・全く、仕方ないなぁ。」
滝へと向かう道は気持ちが良かった。昨日まで、みんなと何度この道を通っただろう?。
緑の木々から出る新鮮な空気を胸いっぱい吸いながら、私は満ち足りた気分だった。
(5カ月前にアリアナになって、最初の頃はどうしようって思ってたけど・・・。)
木々に透ける木漏れ日を見上げながら、歩いてみる。
(断罪は回避できそうだし、友達もいっぱいできた。グスタフの件は残ってるけど、私がとことん嫌がれば、お父様だって無理強いしないよね。)
自分で何とかするって決めたし。大丈夫!私はやれる!。
この時の私は、ディーンと友人になれた事で、少し調子に乗っていたのだと思う。
しばらくすると、イルクァーレの滝の優しい流れの音と、優美な姿が見えてきた。
私はディーンと対峙した時の、アリアナを思い出していた。あれ以来、アリアナが出て来る事は無い。
(でも、アリアナの存在は、なんとなくずっと感じてるのよね・・・。)
この5カ月での彼女の成長が、嬉しかった。
私は滝への小道を降り、まっすぐ滝の裏側へと向かった。
「う~ん、やっぱりここって、凄い観光資源になると思うんだけど、人で溢れちゃうのは勿体ない気がするなぁ。」
思い入れもあるし、荒らされたくない。ふと滝つぼに目をやると、今日も紫色にきらきらと光っている。
私はあの時の、クリフの濡れた髪を思い出してしまい、一人で赤面した。
「やめよう・・・なんか背徳的な気分になる・・・。」
頭を振って、映像を脳から追い出した。すると、
「何が背徳的なの?」
誰も居なかったはずなのに、突然後ろから声をかけられた。私はビクッとなり、慌てて振り向き、驚愕に目を見開いた。
「イーサン!」
「やぁ、久しぶり。」
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