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閑話4 踊りたい人(リリー)
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「リリー嬢、一曲お相手願いたい。」
顔を上げると、不機嫌さを滲ませたディーン様が立っていた。
「ディーン様、飲食スペースでのダンスの申し込みはタブーですよ。」
「分かっている。だが、アリアナが君と踊る様に言ったのだ。」
そう言って、険しい顔で、ちらりとダンスホールの方を見るので、私もそちらに目をやった。
(まぁ・・・!)
私達がいる飲食スペースの程近くで、クリフ様とアリアナ様が踊っていた。微笑みながら踊る二人の姿は、どこか夢の中の世界のような、非現実的な美しさを感じさせた。まるで時の流れが違う様な、そして、そこだけスポットライトが当たっているように、周りからは浮き上がって見えた。
(アリアナ様・・・なんて、お可愛らしいのでしょう!)
周りの人達も、目を奪われている。踊っている人達ですら、二人の姿をボーっと目で追っているのだ。近くに座っている女生徒からも、賛辞の声が聞こえてきた。
(ああ、だから・・・。)
私がディーン様に目を戻すと、彼は無表情に私に手を差し伸べてきた。
「分かりました。お受けします。」
私はディーン様の手をとった。
「無理に誘ったようで、申し訳ない。」
ディーン様はダンスが始まってすぐ、私にそう言った。
私は思わずクスリと笑ってしまう。
「ディーン様は、アリアナ様とクリス様が踊ってるのを見て、お気になったのですか?」
彼の表情がグッと固まった。
「面白くなかった・・・、のではないですか?」
「そ、そういう訳ではない・・・ただ・・・、」
「ただ?」
「君も聞いていただろ?。アリアナは、私には、『さっさと踊ってしまおう』なんだ。」
ディーン様の顔は、拗ねた子供の様で、こんな表情を浮かべる彼を初めて見た。
「その上、他の人と踊れって、どういう事だ?!。・・・すまない・・・、こんなのは、ただの愚痴だ。」
彼は上手に私をリードしながら、溜息をついた。
普段は、冷静で頭脳明晰、人に隙など見せない方なのに、アリアナ様の事になると、普通の少年の様になる。その変貌の仕方が、微笑ましかった。
「良いですよ、愚痴ってくださっても。でも、当てつけの様にダンスに誘うのは、これきりにしてくださいね。」
図星を突かれたのだろう、彼は顔を赤らめ、後ろめたそうな表情を浮かべた。
「・・・気づいてたのか。」
「もちろんです。こんな事なさっては、アリアナ様がお可哀そうですよ。」
そう言うと、ディーン様はかすかに顔を曇らせた。
「アリアナは、私が誰と踊ろうが、気にしないさ。」
吐き捨てる様にそう言う。
「何せ、私が他の女性と踊れるように、『さっさと踊ろう』なのだから。」
「まぁ!」
悪いと思ったけれど、笑ってしまった。
「アリアナ様らしいです。多分、それはディーン様の事を思って、仰ったのですよ。でも、肝心のディーン様には、逆効果だったみたいですね。」
私がそう言うと、ディーン様は自嘲するように笑った。
「すまない・・・また愚痴を言ったようだ。・・・。前は、こんな風では無かったんだ。もっと自分をコントロール出来てたのに・・・。」
「それは、仕方ないですわ、ディーン様。」
だって『恋』とはそう言うものなのだから。
ダンスの曲が終わりに近づく。私達の秘密の会話もそろそろ終わりだ。
「私は、彼女にとっては、ただの友人で・・・、形だけの婚約者だというのは分かっている。だから、アリアナに、もし他に好きな人ができたら、直ぐに婚約を解消しようと思っていたんだ。でも、・・・今は自信が無い。形だけでも良いから、その立場にすがっていたいと思う時がある。・・・無様だな・・・。」
彼の言葉は、まるで懺悔の様だった。
とうとう曲が終わった。飲食スペースに戻りながら、私は彼に言った。
「ディーン様、『恋』とは無様なものですよ・・・。」
空いた椅子に腰かけながら、私は辺りを見回す。どうやら飲食スペースに、アリアナ様とクリフ様は居ないようだ。
お二人で、何処かに行かれたのだろうか?
(またディーン様がやきもきしてしまうわね。お気の毒に。)
アリアナ様のお気持ちは分からないけれど、クリフ様の心はアリアナ様を向いている。この先、3人の関係はどうなっていくのだろうか?。いずれにしても、アリアナ様が、そして皆が酷く傷つか無ければ良いと思う。
(いいえ・・・無理ね、そんな事。)
それでも私は、彼らが羨ましい。だって、私が本当に踊りたい方は・・・いまここには居ないのだから・・・。
私は、新しく始まったダンスの曲を聞きながら、そっと目を瞑った。
顔を上げると、不機嫌さを滲ませたディーン様が立っていた。
「ディーン様、飲食スペースでのダンスの申し込みはタブーですよ。」
「分かっている。だが、アリアナが君と踊る様に言ったのだ。」
そう言って、険しい顔で、ちらりとダンスホールの方を見るので、私もそちらに目をやった。
(まぁ・・・!)
私達がいる飲食スペースの程近くで、クリフ様とアリアナ様が踊っていた。微笑みながら踊る二人の姿は、どこか夢の中の世界のような、非現実的な美しさを感じさせた。まるで時の流れが違う様な、そして、そこだけスポットライトが当たっているように、周りからは浮き上がって見えた。
(アリアナ様・・・なんて、お可愛らしいのでしょう!)
周りの人達も、目を奪われている。踊っている人達ですら、二人の姿をボーっと目で追っているのだ。近くに座っている女生徒からも、賛辞の声が聞こえてきた。
(ああ、だから・・・。)
私がディーン様に目を戻すと、彼は無表情に私に手を差し伸べてきた。
「分かりました。お受けします。」
私はディーン様の手をとった。
「無理に誘ったようで、申し訳ない。」
ディーン様はダンスが始まってすぐ、私にそう言った。
私は思わずクスリと笑ってしまう。
「ディーン様は、アリアナ様とクリス様が踊ってるのを見て、お気になったのですか?」
彼の表情がグッと固まった。
「面白くなかった・・・、のではないですか?」
「そ、そういう訳ではない・・・ただ・・・、」
「ただ?」
「君も聞いていただろ?。アリアナは、私には、『さっさと踊ってしまおう』なんだ。」
ディーン様の顔は、拗ねた子供の様で、こんな表情を浮かべる彼を初めて見た。
「その上、他の人と踊れって、どういう事だ?!。・・・すまない・・・、こんなのは、ただの愚痴だ。」
彼は上手に私をリードしながら、溜息をついた。
普段は、冷静で頭脳明晰、人に隙など見せない方なのに、アリアナ様の事になると、普通の少年の様になる。その変貌の仕方が、微笑ましかった。
「良いですよ、愚痴ってくださっても。でも、当てつけの様にダンスに誘うのは、これきりにしてくださいね。」
図星を突かれたのだろう、彼は顔を赤らめ、後ろめたそうな表情を浮かべた。
「・・・気づいてたのか。」
「もちろんです。こんな事なさっては、アリアナ様がお可哀そうですよ。」
そう言うと、ディーン様はかすかに顔を曇らせた。
「アリアナは、私が誰と踊ろうが、気にしないさ。」
吐き捨てる様にそう言う。
「何せ、私が他の女性と踊れるように、『さっさと踊ろう』なのだから。」
「まぁ!」
悪いと思ったけれど、笑ってしまった。
「アリアナ様らしいです。多分、それはディーン様の事を思って、仰ったのですよ。でも、肝心のディーン様には、逆効果だったみたいですね。」
私がそう言うと、ディーン様は自嘲するように笑った。
「すまない・・・また愚痴を言ったようだ。・・・。前は、こんな風では無かったんだ。もっと自分をコントロール出来てたのに・・・。」
「それは、仕方ないですわ、ディーン様。」
だって『恋』とはそう言うものなのだから。
ダンスの曲が終わりに近づく。私達の秘密の会話もそろそろ終わりだ。
「私は、彼女にとっては、ただの友人で・・・、形だけの婚約者だというのは分かっている。だから、アリアナに、もし他に好きな人ができたら、直ぐに婚約を解消しようと思っていたんだ。でも、・・・今は自信が無い。形だけでも良いから、その立場にすがっていたいと思う時がある。・・・無様だな・・・。」
彼の言葉は、まるで懺悔の様だった。
とうとう曲が終わった。飲食スペースに戻りながら、私は彼に言った。
「ディーン様、『恋』とは無様なものですよ・・・。」
空いた椅子に腰かけながら、私は辺りを見回す。どうやら飲食スペースに、アリアナ様とクリフ様は居ないようだ。
お二人で、何処かに行かれたのだろうか?
(またディーン様がやきもきしてしまうわね。お気の毒に。)
アリアナ様のお気持ちは分からないけれど、クリフ様の心はアリアナ様を向いている。この先、3人の関係はどうなっていくのだろうか?。いずれにしても、アリアナ様が、そして皆が酷く傷つか無ければ良いと思う。
(いいえ・・・無理ね、そんな事。)
それでも私は、彼らが羨ましい。だって、私が本当に踊りたい方は・・・いまここには居ないのだから・・・。
私は、新しく始まったダンスの曲を聞きながら、そっと目を瞑った。
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