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閑話5 消せない想い(クリフ)
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「毎年、ダンスパーティでパートナーを取り合うのは珍しい事じゃ無いがね。殴り合いまでするのは久しぶりに聞いたよ。」
「別に、パートナーを取り合いしたわけでは無いです。」
ディーンは憮然とした表情を浮かべた。彼の目の周りは綺麗に青あざができている。普段、真面目でお固い奴の無残な顔に、俺は思わず吹き出したが、途端に後悔する。
(痛っ・・。)
口の中が切れているのだ。
「笑うな、クリフ。これはお前がやったのだろう!。」
ディーンはそう言うと、彼も痛そうに顔をしかめた。
「お前だってやり返したじゃないか。」
俺は医務室の鏡に目を向けた。頬が腫れあがって、口から血が出ている。
学園医師であるファジソン医師は、俺たちのやり取りを聞いて、肩をすくめた。
「まぁ、どういう理由でこうなったかは知らんが、手当が終わったらしっかり先生に叱られておいで。」
俺達は、顔に脱脂綿を張り付け、消毒の匂いを振りまきながら、とぼとぼと先生の元へ向かった。
1年の学年主任だったワイバートン先生は、厳しい顔で俺達を迎えた。毎年恒例の大事なダンスパーティでの暴力沙汰だ。機嫌が悪くなるのも無理はない。
「さて、理由を聞こうか。」
腕を組んで、俺達の顔を交互に見た。俺は、先に口を開いた。
「むしゃくしゃしていたので、俺が先に殴りました。・・・ディーンは悪くありません。」
「私もイライラしていたので、直ぐに殴り返しました。クリフだけが悪い訳ではありません。」
俺達二人の意見を聞いて、ワイバートン先生は眉間にしわを作り、溜息をついた。
「クリフ君。ディーン君を殴った理由は?。」
「・・・別に。顔を見て腹が立っただけです。」
本当の理由など、言えない。
「私が、彼を腹立たせる事を言いました。」
きっぱりとディーンが言い放った。俺は心の中で舌打ちした。
(余計な事を・・・。)
「何と言ったのだね?」
「それは言えません。プライベートな事です。」
ディーンは表情一つ変えないで、冷静に言った。目の周りが青くなった顔じゃ、少々間抜けな感じは否めないが・・・。
ワイバートン先生が探る様に目を細める。
「噂ではリリー・ハートさんを取り合って、喧嘩したって聞いたが・・・。」
「それは違います!」
俺達二人の声が重なった。
「リリー嬢は関係ありません。」
ディーンが続けた。そうだ、リリー嬢は関係ない。
(ディーンがリリー嬢と踊った事は、関係しているけどな・・・。)
俺はダンスパーティでの出来事を思い返した。
「外に出よう。今なら誰も見ていない。」
俺はアリアナ嬢の顔を隠す様に、手の平をかざした。泣いてる顔が誰にも見られない様に。そして、彼女がそれ以上、ディーンとリリー嬢を見ない様に。
アリアナ嬢が泣くのを見るのは初めてだった。彼女は強い。見た目は小柄で、触れると折れてしまいそうな風情だが、中身はそんなにやわじゃない。俺は彼女のどんな表情も、好きだったが、ディーンの為に泣くのを見るのはキツかった。俺は彼女を外に連れ出しながら、気分は沈み込んでいた。
(やっぱり、ディーンの事が・・・。)
この一年、彼女の気を引きたくて、色々とアプローチをしてきたつもりだ。けれど、そんな俺の気持ちを知りつつ、かわしているのか、それとも恐ろしく鈍いのか、彼女は友人のスタンスを崩す事は無かった。
(ディーンに対しても、そうだと思っていたんだけどな・・・。)
初めて会った時、彼女は自分はディーンには好かれていないと言っていた。だから、将来は自分で身を立てたいのだと。その言葉通り、彼女は学業では誰にも負けなかった。ディーンの方も、リリー嬢に心を奪われていると言う噂があったから、俺は自分にも十分チャンスはあると思った。
それに、婚約者がいながら、他の女にフラフラする様な奴に、負ける訳が無いと思っていた。
けれど、知り合ってみると、ディーンは思ったよりも良い奴で、それに凄い奴だった。本気で勉強したのに、学年末の試験では完敗だった。誰かに負けて悔しいと思ったのは、初めてだったかもしれない。
それにどう見ても、あいつが好きなのは・・・。
(馬鹿な奴だ。せっかく婚約までしてるのに。)
何があったのかは知らないが、ディーンはアリアナ嬢から一歩、遠慮しているように見えた。そのくせ、嫉妬だけは隠しきれてないのだ。
そして、アリアナ嬢は、ディーンの事を大事な友人として見ていると思った。
だから、あの涙は正直こたえた。
「ディーンとリリーを見るのが辛かった?」
そう聞く俺に、
「い、いえ!違います。そんな筈は無いのです。」
と彼女は答えたけれど、握った手は震えていた。そして、小さい肩も・・・。抱きしめたい思いに駆られたが、辛うじて押しとどめた。彼女はそんな事、望んで無い。
俺が彼女の為に唯一出来るのは・・・。
「聞いて。・・・俺は何があっても君の味方だから。君がこれからどんな選択をしても、俺はそれを尊重するし、側に居て君を守るよ。・・・友達だからね。俺達は。」
ただそう伝える事だけだった。
「別に、パートナーを取り合いしたわけでは無いです。」
ディーンは憮然とした表情を浮かべた。彼の目の周りは綺麗に青あざができている。普段、真面目でお固い奴の無残な顔に、俺は思わず吹き出したが、途端に後悔する。
(痛っ・・。)
口の中が切れているのだ。
「笑うな、クリフ。これはお前がやったのだろう!。」
ディーンはそう言うと、彼も痛そうに顔をしかめた。
「お前だってやり返したじゃないか。」
俺は医務室の鏡に目を向けた。頬が腫れあがって、口から血が出ている。
学園医師であるファジソン医師は、俺たちのやり取りを聞いて、肩をすくめた。
「まぁ、どういう理由でこうなったかは知らんが、手当が終わったらしっかり先生に叱られておいで。」
俺達は、顔に脱脂綿を張り付け、消毒の匂いを振りまきながら、とぼとぼと先生の元へ向かった。
1年の学年主任だったワイバートン先生は、厳しい顔で俺達を迎えた。毎年恒例の大事なダンスパーティでの暴力沙汰だ。機嫌が悪くなるのも無理はない。
「さて、理由を聞こうか。」
腕を組んで、俺達の顔を交互に見た。俺は、先に口を開いた。
「むしゃくしゃしていたので、俺が先に殴りました。・・・ディーンは悪くありません。」
「私もイライラしていたので、直ぐに殴り返しました。クリフだけが悪い訳ではありません。」
俺達二人の意見を聞いて、ワイバートン先生は眉間にしわを作り、溜息をついた。
「クリフ君。ディーン君を殴った理由は?。」
「・・・別に。顔を見て腹が立っただけです。」
本当の理由など、言えない。
「私が、彼を腹立たせる事を言いました。」
きっぱりとディーンが言い放った。俺は心の中で舌打ちした。
(余計な事を・・・。)
「何と言ったのだね?」
「それは言えません。プライベートな事です。」
ディーンは表情一つ変えないで、冷静に言った。目の周りが青くなった顔じゃ、少々間抜けな感じは否めないが・・・。
ワイバートン先生が探る様に目を細める。
「噂ではリリー・ハートさんを取り合って、喧嘩したって聞いたが・・・。」
「それは違います!」
俺達二人の声が重なった。
「リリー嬢は関係ありません。」
ディーンが続けた。そうだ、リリー嬢は関係ない。
(ディーンがリリー嬢と踊った事は、関係しているけどな・・・。)
俺はダンスパーティでの出来事を思い返した。
「外に出よう。今なら誰も見ていない。」
俺はアリアナ嬢の顔を隠す様に、手の平をかざした。泣いてる顔が誰にも見られない様に。そして、彼女がそれ以上、ディーンとリリー嬢を見ない様に。
アリアナ嬢が泣くのを見るのは初めてだった。彼女は強い。見た目は小柄で、触れると折れてしまいそうな風情だが、中身はそんなにやわじゃない。俺は彼女のどんな表情も、好きだったが、ディーンの為に泣くのを見るのはキツかった。俺は彼女を外に連れ出しながら、気分は沈み込んでいた。
(やっぱり、ディーンの事が・・・。)
この一年、彼女の気を引きたくて、色々とアプローチをしてきたつもりだ。けれど、そんな俺の気持ちを知りつつ、かわしているのか、それとも恐ろしく鈍いのか、彼女は友人のスタンスを崩す事は無かった。
(ディーンに対しても、そうだと思っていたんだけどな・・・。)
初めて会った時、彼女は自分はディーンには好かれていないと言っていた。だから、将来は自分で身を立てたいのだと。その言葉通り、彼女は学業では誰にも負けなかった。ディーンの方も、リリー嬢に心を奪われていると言う噂があったから、俺は自分にも十分チャンスはあると思った。
それに、婚約者がいながら、他の女にフラフラする様な奴に、負ける訳が無いと思っていた。
けれど、知り合ってみると、ディーンは思ったよりも良い奴で、それに凄い奴だった。本気で勉強したのに、学年末の試験では完敗だった。誰かに負けて悔しいと思ったのは、初めてだったかもしれない。
それにどう見ても、あいつが好きなのは・・・。
(馬鹿な奴だ。せっかく婚約までしてるのに。)
何があったのかは知らないが、ディーンはアリアナ嬢から一歩、遠慮しているように見えた。そのくせ、嫉妬だけは隠しきれてないのだ。
そして、アリアナ嬢は、ディーンの事を大事な友人として見ていると思った。
だから、あの涙は正直こたえた。
「ディーンとリリーを見るのが辛かった?」
そう聞く俺に、
「い、いえ!違います。そんな筈は無いのです。」
と彼女は答えたけれど、握った手は震えていた。そして、小さい肩も・・・。抱きしめたい思いに駆られたが、辛うじて押しとどめた。彼女はそんな事、望んで無い。
俺が彼女の為に唯一出来るのは・・・。
「聞いて。・・・俺は何があっても君の味方だから。君がこれからどんな選択をしても、俺はそれを尊重するし、側に居て君を守るよ。・・・友達だからね。俺達は。」
ただそう伝える事だけだった。
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