モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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第6章 悪役令嬢は利用されたくない

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「あ・・・。」

「あっ!」

最初のはディーンで、次のは私の声だ。トラヴィスの馬鹿は、逃げようとしている私の頭を、いまだ掴んだままである。なんとか抜け出そうとするが、全く離してくれない。

(ぐ、ぐぐ・・・、痛いっ!この馬鹿力!。)

すると、腕を引っ張られる感覚があった後、突然私はトラヴィスの手から逃れる事が出来た・・・と同時に、顔を何かに押し付けられた。

「む・・・、む、む。」

(く、苦しい・・・。今度は息ができない・・・。)

もがきながら顔を上げて、「ぷはっ」と息を吐き、やっと自分の状況が分かった。

私の顔が押し付けられたのは、ディーンの胸で、ディーンは両腕で思い切り私を抱え込んでいるのだ。そして、トラヴィスの方を見ている彼の目は、ゾッとする程冷たかった。

(ななな、なんで?。)

思考と感情が、今置かれている状況に置いてけぼりにされて、目が回りそうだ。すると、

「殿下、これはどういう事ですか!?。」

普段のディーンとはまるっきり違う、厳しい声だった。だけど、私はこのディーンの声と表情に覚えがある。思い出して、身体が一瞬で冷たくなって震えた。

(学園で・・・最初に会った時のディーンだ。アリアナを嫌ってて、リリーを庇おうとした時と同じ・・・。)

心の奥底も冷える様な感覚がした。これは私の中のアリアナの感情だろうか?。

空気がピリッとする程、緊迫している。ディーンの態度は王太子に向けて良いものでは無い。明らかに不敬だ。

けれど、トラヴィスの表情は平静で、怒ってる様子も慌てた様子も無い。それどころか、目の奥には、面白がっている様な様子も見られる。彼は悠然とした態度で自分の机に半分腰かけると、腕を組んだ。

「そんな顔をするなディーン。君の婚約者が怖がっているぞ。」

「アリアナに何をしようとしていたのか、伺っても?。私には彼女が嫌がっている様に見えましたが。」

(あ、そうか!。私が嫌がってるのが分かったから、ディーンは怒ってくれてるんだ。)

私は慌てて、ディーンを見上げた。

「あ、あのディーン様。私は大丈夫です・・・から・・・。」

そう言いかけた私を、ディーンはスッと見下ろした。藍色の目が、暗い炎のように揺れているのを見て、言葉を続けられなくなる。

(・・・めっちゃ怒ってる。・・・え?、もしかして私にも怒ってる?。)

怖い・・・怖すぎる。こんな恐ろしいディーンの目は、ゲームの断罪シーンでしか見た事が無い。アリアナを断罪する目だ。

背筋を冷たい汗が落ちていく。それなのに、固まったように目を逸らすことが出来きない・・・。

「ディーン、落ち着け。アリアナは何も悪くない。お前は少し、思い込みが激しい所がある。まず、話しを聞け。」

見かねたのか、トラヴィスは呆れたように両肩をすくめた。

「自分の婚約者が、無体な事をされているのを見て落ち着けと?。聡明な殿下の仰る事とは思えませんが。」

冷静な口調の中にも、苛立ちが滲んでいた。それを聞いて、トラヴィスはやれやれと言う風に溜息をついたが、

「ひとまずは謝っておこう。お前の考えている様な事はしていないが、アリアナの頭を無理やり掴まえていたのは事実だ。済まなかった。」

と、あっさり頭を下げた。すると、私の頭や背に回されていた、ディーンの腕の力が少し弱まった。

「・・・理由を伺っても、宜しいですか?。」

気持ちが少し落ち着いてきたのか、口調もやや柔らかくなっている。ピリピリした空気も無くなった。トラヴィスはもう一度、肩をすくめた。

「ああ、聞いてくれ。言っておくが、私は単に、アリアナの目を見ていただけだ。思いついた事が有り、すぐ試してみたくなったから。故に、最初にアリアナに説明するべきだったが忘れてしまった。それも謝って置く。」

トラヴィスは私に向かっても頭を下げた。そして、さらに説明を続けた。

「魔力の評価テストを受けた事があるだろう?。子供の頃、もしくは2年次に進級する時に受ける試験だ。」

突然、話の内容が変わったせいか、ディーンは訝し気な顔をした。

「ええ、私は幼少期に受けた事があります。試験官は、特別な『目』を持っていて、魔力の量や属性を測る事が出来るのですよね。・・・それが何か?。」

私も、トラヴィスのさっきの行動との繋がりが分からなくて、首を傾げる。

トラヴィスは笑みを浮かべた。

「私もその『目』を持っているんだよ。」

「ええっ!?」

私とディーンの声が重なった。

「国の専門の試験官と、同じくらいの測定能力を持っていると思って貰って良い。」

(はぁ~・・・さすが、ミスター・チート。能力の種類も多岐に渡ってるんだ。)

思わず拍手したくなる。

「この『目』の能力は、他人の目を見る事で発動できる。その者の持つ魔力を、色や形などのイメージで見る事が出来るのだ。」

「へぇ・・・、凄いですね。」

思わず私がそう言うと、ディーンの腕が微かにビクッと動いた。

どうしたんだろう?。

トラヴィスは構わず続ける。

「それで、やっと話は戻るのだが、魔力と言うのは人の精神に紐づけられているものなんだよ。だから、先程アリアナの話を聞いて思いついたのだが、『目』の能力を使って、相手の肉体に宿る精神を見る事が出来ないかと思ったのだ。精神はイコール魂と言っても良い。それがどの様に私の『目』に映るのか、どうしても気になった。それで、直ぐにやってみたくなってね。だが、アリアナには私が突然、奇行に走ったように見えただろう。おまけにディーンには叱られるし、散々だった。」

そう言って、「ははは・・・。」と朗らかに笑い出したから、ディーンも私も毒気を抜かれてしまった。
ディーンの目の中にあった怒りも、すっかり消えてしまっている。

(良かった・・・。)

ホッとして、力が抜けるのが分かった。自分で思ったより緊張していたようだ。それに、トラヴィスの思惑も知る事が出来て、色々と腑に落ちた。要はトラヴィスは、イーサンが言っていたように、私の身体に精神が二つあるのかを確かめようとしたのだ。

(ディーンが居るから、どうだったかは、今聞くことはできないけど・・・。)

そう思いながらトラヴィスに目を向けると、彼は何故か、悪戯そうな目で私を見た。そして、

「それにしても、お前たちはいつまで、私に見せつけるつもりだ?。ディーン、お前がそんなに情熱的だったとは、知らなかったな。」

そう言って、ニヤッと笑ったのだ。

そう言えば、ディーンはここに来てから、トラヴィスが話している間もずっと、私を自分に抱き寄せたままだったのだ。
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