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第6章 悪役令嬢は利用されたくない
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興奮した様に頬が上気し、口調も心なしか早くなっている。
「えっと、何か分かったのでしょうか?」
ドキドキする。
イーサンの魔力圧が私に効かなかった理由。そしてクラークが隠したかった事。
「結論から言わせて頂きます。アリアナ嬢には全く魔力が無いと思われます。」
(は?)
「えええっ!?だって・・・」
あなた、さっきまでこの世界に魔力ゼロの人は居ないって言ってませんでした?。
トラヴィスも怪訝そうに眉を寄せる。
「どういうことなのでしょう、ヘルダー卿。卿の先ほどの説明とは矛盾しているようだが。」
「ええ、私もまさかと思いましたが、そうとしか考えられないのです。」
ヘルダー卿の鼻息が少し荒くなっている。
「アリアナ嬢の『脈』の状態。そして魔力の有無。精神の有り方。全て視せていただきました。ええ、それはもう余すところなく。全身くまなく。頭のてっぺんから足のつま先まで。」
なんか、そこまで言われると気持ち悪いぞ・・・。
ヘルダー卿の口調に熱さが増し、説明には身振り手振りが加わり始めた。
「なんと、アリアナ嬢の『脈』は切れているのです。もう修復不可能なまでに。ブチブチにぶっちぎれています!。これでは魔力を全身に回す事は出来ません。と言う事は魔力が少しでもあった場合魔力停滞を起こしてしまい、身体に不調が出るはずで・・・。つまり、アリアナ嬢には全く魔力が無いと言う事なのです!。これは、凄い発見です!魔術省発足以来、いや魔力学会においても初めて見られる特異体質だ・・・!。なんてこった・・・。発見だ!。これは大発見!どうしよか!?。」
上品で温和そうな方だと思っていたのに、語彙まで荒れてきた。細い目の隙間からぎらぎらと瞳を輝かせながら、ヘルダー伯爵が私に詰め寄って来る。
(う、うわぁ・・・)
その異様な迫力に、どんどん後ずさってしまい、壁際まで追い詰められてしまった。それでもヘルダー卿はさらに寄ってきて私の目を覗きこもうとする。さっきまで紳士的だったのに、いまにも私の頭に掴みかからんばかりだ。
「さぁ、もっと視せてください!。私にあなたの全てを!」
(いや、あんたさっき、余す所なく視たって言ったじゃん!)
「ちょ、ちょっと離れて・・・。」
「おい!貴様!・・・いや、ヘルダー卿、いい加減にしてください!」
見かねたクラークが私を抱え上げて、ヘルダー伯爵から引き離す。
「ああ!そんなご無体な!。ひどいです。どうして視せてくれないのです!。こんな発見、論文が3つは書けるかもしれないというのに、はぁはぁ。」
ヘルダー伯爵の息が荒い。口は細い目を逆にしたような三日月形で笑っている。
駄目だ、この人興奮しすぎて暴走している。ヘルダー卿ってば、温和そうだけどかなりの研究オタク?。
どうしてトラヴィスは何も言ってくれないの!?と不思議に思って見ると、彼は顔を横に向けて震えていた。
(ね、ねーさん!?)
おーい!隠していても分かる。めちゃくちゃ笑ってるじゃないか!
「トラヴィス殿下!。笑って無いで伯爵を止めてください!。視て頂きたいとは言いましたが、論文は嫌です!。ここだけの話の筈でしたよね!?。」
だって、魔術省発足以来の魔力ゼロ人間?!。そんなの世間に公表されるのは流石に痛すぎる。
だけどトラヴィスはまだ笑っている。ヘルダー伯爵の興奮した様子と私の慌てっぷりがツボだったのだろう。
その上、
「君だって人前で私の秘密をバラしただろう?。卿の実験材料になって魔力学会に貢献するのも良いかもしれないよ?。」
仕返しとばかりに呑気にそんな事を言う。しかも笑い過ぎて目に涙が浮かんでるよ。
「トラヴィス殿下!。」
「はは、まぁ、冗談はこの辺にしておこう。クラークの目が怖いからね。ヘルダー卿、他言無用と言った筈だ。私は私の友人を君の論文のネタにする気は無いよ。約束が守れないのならば、この話はここで終わりだ。」
まだ笑っていたし口調は穏やかだが、トラヴィスはこれ以上は許さないという風にきっぱりとそう言った。
「殿下の仰る通りだ!。これ以上アリアナを伯爵の好きにはさせないぞ。あなたがアリアナに害をなす行動を取ろうと言うのならば、コールリッジ公爵家を敵に回すと思って頂きたい。」
クラークの方は完全に脅しである。
二人の言葉にさすがの研究オタクも我に返ったようだ。
「こ、これは・・・。その・・・つい、新しい発見に興奮してしまって・・・。すみません。殿下、クラーク殿。約束を破るつもりはございません!。・・・ああ、アリアナ嬢も驚かせてしまった様で申し訳ないです。」
ヘルダー伯爵の細い目が情けなさげに垂れ下がる。焦りで顔中に汗をかいている。皇国の皇太子と名門コールリッジ家の次期公爵の二人から責められたのだ、狼狽するのは当たり前だろう。
こうなると少し可哀そうになって来る。視て欲しいて言ったのは私であるし、悪い人では無さそうだし・・・。
伯爵はまだ動揺しているのかどもりながら続けた。
「あの、あの、他言は致しません。お、惜しいですが、論文は諦めます。で、で、ですが、もう一度私にアリアナ嬢を視させて頂けないでしょうか?。」
(え?また視るの?)
この人結構しつこい?。いや、研究者ってこういうものか。
伯爵の言葉にクラークの目はますます物騒な気配を増した。
「えっと、何か分かったのでしょうか?」
ドキドキする。
イーサンの魔力圧が私に効かなかった理由。そしてクラークが隠したかった事。
「結論から言わせて頂きます。アリアナ嬢には全く魔力が無いと思われます。」
(は?)
「えええっ!?だって・・・」
あなた、さっきまでこの世界に魔力ゼロの人は居ないって言ってませんでした?。
トラヴィスも怪訝そうに眉を寄せる。
「どういうことなのでしょう、ヘルダー卿。卿の先ほどの説明とは矛盾しているようだが。」
「ええ、私もまさかと思いましたが、そうとしか考えられないのです。」
ヘルダー卿の鼻息が少し荒くなっている。
「アリアナ嬢の『脈』の状態。そして魔力の有無。精神の有り方。全て視せていただきました。ええ、それはもう余すところなく。全身くまなく。頭のてっぺんから足のつま先まで。」
なんか、そこまで言われると気持ち悪いぞ・・・。
ヘルダー卿の口調に熱さが増し、説明には身振り手振りが加わり始めた。
「なんと、アリアナ嬢の『脈』は切れているのです。もう修復不可能なまでに。ブチブチにぶっちぎれています!。これでは魔力を全身に回す事は出来ません。と言う事は魔力が少しでもあった場合魔力停滞を起こしてしまい、身体に不調が出るはずで・・・。つまり、アリアナ嬢には全く魔力が無いと言う事なのです!。これは、凄い発見です!魔術省発足以来、いや魔力学会においても初めて見られる特異体質だ・・・!。なんてこった・・・。発見だ!。これは大発見!どうしよか!?。」
上品で温和そうな方だと思っていたのに、語彙まで荒れてきた。細い目の隙間からぎらぎらと瞳を輝かせながら、ヘルダー伯爵が私に詰め寄って来る。
(う、うわぁ・・・)
その異様な迫力に、どんどん後ずさってしまい、壁際まで追い詰められてしまった。それでもヘルダー卿はさらに寄ってきて私の目を覗きこもうとする。さっきまで紳士的だったのに、いまにも私の頭に掴みかからんばかりだ。
「さぁ、もっと視せてください!。私にあなたの全てを!」
(いや、あんたさっき、余す所なく視たって言ったじゃん!)
「ちょ、ちょっと離れて・・・。」
「おい!貴様!・・・いや、ヘルダー卿、いい加減にしてください!」
見かねたクラークが私を抱え上げて、ヘルダー伯爵から引き離す。
「ああ!そんなご無体な!。ひどいです。どうして視せてくれないのです!。こんな発見、論文が3つは書けるかもしれないというのに、はぁはぁ。」
ヘルダー伯爵の息が荒い。口は細い目を逆にしたような三日月形で笑っている。
駄目だ、この人興奮しすぎて暴走している。ヘルダー卿ってば、温和そうだけどかなりの研究オタク?。
どうしてトラヴィスは何も言ってくれないの!?と不思議に思って見ると、彼は顔を横に向けて震えていた。
(ね、ねーさん!?)
おーい!隠していても分かる。めちゃくちゃ笑ってるじゃないか!
「トラヴィス殿下!。笑って無いで伯爵を止めてください!。視て頂きたいとは言いましたが、論文は嫌です!。ここだけの話の筈でしたよね!?。」
だって、魔術省発足以来の魔力ゼロ人間?!。そんなの世間に公表されるのは流石に痛すぎる。
だけどトラヴィスはまだ笑っている。ヘルダー伯爵の興奮した様子と私の慌てっぷりがツボだったのだろう。
その上、
「君だって人前で私の秘密をバラしただろう?。卿の実験材料になって魔力学会に貢献するのも良いかもしれないよ?。」
仕返しとばかりに呑気にそんな事を言う。しかも笑い過ぎて目に涙が浮かんでるよ。
「トラヴィス殿下!。」
「はは、まぁ、冗談はこの辺にしておこう。クラークの目が怖いからね。ヘルダー卿、他言無用と言った筈だ。私は私の友人を君の論文のネタにする気は無いよ。約束が守れないのならば、この話はここで終わりだ。」
まだ笑っていたし口調は穏やかだが、トラヴィスはこれ以上は許さないという風にきっぱりとそう言った。
「殿下の仰る通りだ!。これ以上アリアナを伯爵の好きにはさせないぞ。あなたがアリアナに害をなす行動を取ろうと言うのならば、コールリッジ公爵家を敵に回すと思って頂きたい。」
クラークの方は完全に脅しである。
二人の言葉にさすがの研究オタクも我に返ったようだ。
「こ、これは・・・。その・・・つい、新しい発見に興奮してしまって・・・。すみません。殿下、クラーク殿。約束を破るつもりはございません!。・・・ああ、アリアナ嬢も驚かせてしまった様で申し訳ないです。」
ヘルダー伯爵の細い目が情けなさげに垂れ下がる。焦りで顔中に汗をかいている。皇国の皇太子と名門コールリッジ家の次期公爵の二人から責められたのだ、狼狽するのは当たり前だろう。
こうなると少し可哀そうになって来る。視て欲しいて言ったのは私であるし、悪い人では無さそうだし・・・。
伯爵はまだ動揺しているのかどもりながら続けた。
「あの、あの、他言は致しません。お、惜しいですが、論文は諦めます。で、で、ですが、もう一度私にアリアナ嬢を視させて頂けないでしょうか?。」
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