モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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第7章 悪役令嬢は目覚めたくない

9(トラヴィス)

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アリアナが目を覚ました。

ついさっきまで彼女を目覚めさせる為に全員で必死に、ああでもないこうでもないと、知恵を絞っていたというのに・・・

思いもよらなかった出来事にさすがの私も呆気に取られた。

(え?起きたよ!?。解術出来たの?)

まさか、クラークが魔力を流したら精神魔術が解けたというのか?


「アリアナ!」

「アリアナ様」

「大丈夫か!?」

全員が彼女の周りに集まる。


アリアナは放心した様子でゆっくりと目を動かし、確認する様に周りを見る。

そしてベッドに横たわったまま自分の腕を持ち上げると、両手をじっと見つめた。すると、その目にみるみる涙が浮かび、ぽろぽろとベッドに流れ落ちた。

「ど、どうしたんだ。どこか痛いのか?」

クラークがおろおろと心配そうに慌ててアリアナ様の頬に手を添えた。だけどアリアナは、


「お兄様!」


叫ぶ様にそう言うと、クラークに向かって手を伸ばした。

「アリアナ!?」

アリアナの様子を見ていたクラークは驚いたようだったが、何かに気付いたようにハッとすると、彼はもう一度「アリアナ!」と大きく叫ぶと強く彼女を抱きしめた。


・・・だけど、私は彼女の様子に何処か引っかかりを覚えた。


(ん?アリアナ・・・?)


なんだろう?この違和感は・・・。


「アリアナ!ああ、アリアナなんだね!?」

クラークは涙を流してアリアナが目覚めた事を喜んでいる・・・が、

(待って・・・なんか違うわよ・・・なんなのこれ?)

見た目は確かにアリアナなのに、何処か違う。何か物足りない。これって!?


(えっ?も、もしかして、もしかしてなの!?。ど、どうして?・・・あ、どうしよう・・・?)


皆にこの事をどう説明すべきか迷っていたら、私の隣でゆらりとクリフが動いた。


「誰だお前は・・・」

クリフの声が低く響いた。

(あっ、マズい!)

そう思ったが、止める間もなくクリフが続けた。

「お前はアリアナ嬢じゃないだろう。彼女は何処へ行った?」

抱き合っていたクラークとアリアナの肩がピクリと動き、ゆっくりと二人はクリフを振り返った。

「わたくしはアリアナよ」

「ありえない!」

「クリフ!」

冷たく言い放ったクリフにクラークがたしなめる様に声を飛ばす。

「良いのよ、お兄様」

アリアナは冷ややかな声でそう言った。

やはりいつものアリアナとは全く違う。口調が違う。表情が違う。目の光が違う。

クリフはベッドに近づき、アリアナを睨みつけた。

「彼女をどこへやった!?」

今にも胸ぐらを掴みかからんばかりだ。クラークは二人の間に割って入り、アリアナを背に庇った。

「よせクリフ!。この子はアリアナだ」

クリフの顔色が変わった。

「どうして?!クラーク様!。貴方だって分かるでしょう!。全然違うじゃないか!こんなのアリアナ嬢であるはずがない!」

激昂するクリフの肩をディーンが止めるように強く掴んだ。

「止めろクリフ。彼女はアリアナだ」

「ディーン!お前まで!」

「落ち着け、彼女はお前の知らないアリアナなんだ」

「何だって!?」

クリフは納得いかないという風にディーンを睨みつける。私は額に手を当てて天を仰いだ。

(参ったわね、これは・・・。まさかこんな状況になるとは)


さすがの私も予想外だ。


ミリア達やリリーは、未だに訳が分からない様子でオロオロとしている。漠然と引っかかりを感じているようだけど、理解が及ばないようだ。


(どうやら気付いているのはクラークとディーン・・・そしてパーシヴァルか)


ディーンとクリフのやり取りを見て、パーシヴァルは肩をすくめて溜息をついた。そしてクリフに向かって、

「確かにそうだよ。彼女がアリアナだ。僕達が昔から知っていたね」

「・・・どういう事だ?」

混乱し戸惑うクリフに対し、当のアリアナが呆れたような声をあげた。


「ねぇ貴方。わたくしの寝室にいつまで居座るつもり?。うるさくて堪らないんだけど」

「何!?」

クリフの周りの温度が一段と下がる。

「だいたい、淑女の寝室に入るなんて紳士のする事では無くてよ。他の方達もさっさと隣のリビングに行ってくれなくて?。わたくし着替えたいの」

アリアナは高慢なお嬢様そのものの口調でそう言った。


(おお!悪役令嬢っぽいじゃない!これよ!これがイメージ通りの悪役令嬢アリアナよ!)

私はつい前世のゲームを思い出して興奮してしまった。だけど直ぐに我に返って、急いで気持ちを引き締しめた。


(いかん、いかん。そんな場合では無いでしょ!)


女の子達は全員、訳が分からず混乱しているし、クラークはアリアナに張り付いたまま泣いている。(いい加減にしろ!)

ディーンは思いつめた顔で何処かを見てるし、パーシヴァルはそんな彼を心配そうに見つめている。(おい、バレるぞ!)

そしてクリフは凄まじい目つきででアリアナを睨んでいる。(美形が本気で怒った顔は怖すぎるって・・・)


(ああもう、何なの?、このカオス!)


なんとかこの場をまとめなければと思い、私が必死でひねり出した言葉は、


「ええと、皆・・と、とりあえずリビングに行こう。アリアナ嬢は着替えたいらしいから・・・」


全く皇太子トラヴィスらしく無かった。
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