モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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第7章 悪役令嬢は目覚めたくない

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部屋にいる全員の目がアリアナに集中する。

「ア、アリアナ、大丈夫なのかい?」

クラークが慌てて立ち上がり、こっちに走って来た。アリアナの手をとってエスコートしているようだ。

「心配いらないですわ、お兄様。ああ、ステラ。グローシアに頂いた美味しいお菓子を皆様にお出しして。それに、昼食時間が近づいてきましたわ。スティーブンに人数分の昼食をお願いできるかしら?」

「は、はい!」

アリアナの言葉に呆気に取られているみんなの様子が見える。

(へぇ・・・アリアナってば、結構気が利くじゃない!。全然モブの悪役令嬢って感じじゃ無い。むしろ高貴なお嬢様感がにじみ出てて、格好良いんじゃない?!)

私には出せない技だな。

ゲームじゃあんなに我儘で意地悪だったのに、どうやら今のアリアナは違うようだ。

(以前はゲーム通りの性格だったらしいから、彼女は私と一緒に居るうちに変わったんだ!)

なんだか娘の成長を見るような気持ちになり、嬉しくなった。


アリアナは紅茶を一口飲んで、

「それで?」

と一言だけ言った。

「な、何だい?アリアナ」

クラークがアリアナに聞く。

(気を使ってるなぁ、クラーク)

私に対しても優しかったけど、元祖アリアナには温度が違う。

「わたくしに聞きたい事があるのでしょう?どうぞ」

「ア、アリアナ、何を・・・」

「じゃ、聞かせて貰う。お前は誰だ!?」

おろおろしているクラークの言葉に被せる様にクリフが詰問した。

「アリアナ・コールリッジ。先ほども言いましたわ」

「では、俺達が今までアリアナ嬢だと思っていた彼女は誰なんだ!?」

(ク、クリフ!?)

私はクリフの様子にびっくりしてしまった。彼の表情は固く、目が暗く燃えている。これじゃ皇太子暗殺を考えてた頃よりも雰囲気が怖いぞ!?

(ど、どうしちゃったのよぉ!?)

アリアナも彼の強い感情を感じているのだろうけど、表面上は落ち着いた様子で、

「あの子の事については・・・、何処の誰かはわたくし存じ上げませんの」

「貴様!・・・彼女を何処へやった!?」

「クリフ!」

激昂して立ち上がりかけたクリフをディーンが止めた。

だけど、アリアナはやはり落ち着いた口調で、

「あの子でしたら・・・」

アリアナはそっと・・・私からは見えないけど・・・自分の手を胸に当てたようだった。

「今もわたくしの中におりますわ。今は・・・悪しき魔術に囚われてしまっていますが、でも・・・」

「アリアナ、もう良い!」

アリアナの言葉を遮る様にクラークが声をあげた。

「みんな、アリアナは目覚めたばかりで混乱しているんだ。だから、少しおかしな事を・・・」

「お兄様?。これ以上あがくのはみっともなくてよ」

慌てて言い繕うとするクラークをアリアナが静かな声で止めた。

「もう隠すのは無理ですわ。それに、ここにいる方達は、あの子が信用できると認めた方達です。すべてお話ししましょう?」

「アリアナ・・・」

クラークは少しの間、逡巡していた。だけど心を決めたように息を吐くと、

「分かった」

とアリアナに頷いて、トラヴィスに向かって頭を下げた。

「殿下・・・すみませんでした。僕が分かっている事はすべてお話します」

そして、皆に向かって話し始めたのだ。



「クリフの言ってるように・・・馬車の事故の前のアリアナと、皆が知っているアリアナは確かに別人だ・・・」
クラークがそう言い切ると、皆の空気が一瞬で変わった。

「どうしてこんな事態が起きたのかは分からない。・・・そして事故後から『アリアナ』として生きていた彼女が誰なのかも僕は知らないんだ。だけど、僕も両親も・・・そして多分アリアナ自身も、彼女の存在を受け入れてきた」

「ど、どうしてですか?。だって、それが本当なら・・・い、今のアリアナ様はその・・・違うアリアナ様に身体を乗っ取られていたって事ですよね?」

ミリアが歯切れ悪くそう聞いた。

(あ~・・・ミリアは私の『アリアナ』しか知らないもんねぇ。)

ずっと友人だと思っていた『アリアナ』が実は偽物でした!・・・ってなると複雑だろうなぁ。なんとなく罪悪感を感じてしまう。

「最初から説明するよ。・・・さっきも言ったように、アリアナは魔力を持たず、魔力を巡らす事も出来ないことから、長く生きられないと言われた。だけど、一つだけ命を伸ばす方法があった。それが、他人から魔力を供給して貰う事だったんだ」

「さっき、クラークがアリアナにやったようにか?」

トラヴィスが考え込む様に腕を組んで、手を口に当てる。

「そうです・・・実はこれは偶然発見した事だったのですが・・・」

クラークは一旦言葉を切って気遣う様にアリアナを見た。

「両親はアリアナを救おうと奔走しましたが、上手くいきませんでした。そしてアリアナが生まれて一年程たった時に・・・僕は覚えていないのですが・・・まだ魔術の使い方を知らなかった僕が、自分の力を分けようとでも思ったのか、アリアナに自分の魔力を流したらしいのです。多分、子供ながらに妹を助けようと思ったのでしょう・・・」

クラークは自嘲する様に軽く笑った。
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