モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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第7章 悪役令嬢は目覚めたくない

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「どうしたんだい?アリアナ」

クラークが心配そうな声を上げ覗きこむ。

「・・・いえ、お兄様。あの子が・・・」

(お!もしかして聞こえた?)

私は気を良くして、

(アリアナ!。ディーンと婚約解消だよ!解消!)

もっと強めに心に念じてみた。

「彼女がどうかしたのかい?」

クラークの問いに周りもアリアナに注目した。だけどアリアナは優雅に一つ溜息をついて、

「なんでもありませんわ・・・」

と冷たい声でそう言った。


(な、なんでーっ!?)


私はスクリーンに駆け寄って叫んだ。

アリアナも私と同じ気持ちじゃ無かったの?

呆然と立ちすくむ私をしり目に、アリアナはステラにお茶の指示を出すと、小テーブルの椅子に腰かけた。

するとクリフが、

「彼女は今どうしてる?」

こちらを真っすぐ見てそう聞いた。彼の紫の瞳は、まるでアリアナの目を通して私を探してるようだった。

「こちらの話を聞いているみたいですわ。先ほど少し声が聞こえましたから」

「話が出来るのか!?」

クリフが期待に満ちた目を向けたが、アリアナは首を横に振って、

「中から言葉を伝えるのは簡単ではありませんわ。確かに、わたくしの場合はあの子の精神が大きくて・・・その・・・」

「彼女の精神が強すぎて、超えられなかったって事かな?」

トラヴィスが続けて言って、アリアナが頷いた。

「でも、今のあの子も精神魔術に囚われています。きっとこちらに意思を伝えるのは容易では無いと思いますの」

アリアナの言葉に私はポンと膝を打った。

(なるほど!。だから力を入れないと伝わらないわけだ。・・・ん?だとしたら、さっきは渾身の力で言ったのに、どうしてアリアナは無視したんだだろう?

私は疑問に思ってスクリーンの前で腕を組んだ。

スクリーン上では、クリフがこちらをじっと見つめている。そして、

「大丈夫か?こっちは皆、元気にやってる・・・なんて、まるで手紙の書き出しみたいな言い方だな」

そう言ってクスっと笑った。

(あ・・・、クリフってば、私に話しかけてくれてるんだ)

胸の奥がじわっと温かくなった気がした。

「聞いたかもしれないけど、モーガン先生は捕らえられた。それに、皆も君を助ける為に動いている。だから・・・待ってて欲しい」

そして少し躊躇う態度を見せてから、

「俺は・・・君に会いたい」

そう言って目を伏せた。

(ありがとう、クリフ・・・)

クリフの気持ちは嬉しかった。

だけど、私の意識が外に出ると言う事は、アリアナをまた閉じ込めると言う事だ。私はそれを喜ぶ事は出来ない。

そしてクリフも、

「アリアナ嬢、すまない。俺は・・・」

「良くてよ。貴方の気持ちは、とても分かりますもの。それに・・・」

アリアナは言葉を続ける。

「貴方の言葉、あの子はきっと嬉しく思ってますわ。貴方の事をとても信頼していますもの。あの子も貴方に会いたいと思っていてよ」

その言葉にクリフはほんの少し頬を赤らめ、ふわりと笑みを浮かべた。


(ぐ、ぐはっ・・・)


その破壊力たるや・・・。


私は両手の拳を握って、よろよろとソファに顔を押し付けた。

(・・・スクリーン越しでも殺られるかと思った・・・・)

いや、直接見るよりもこの大写しのアップはヤバい!

(アリアナ・・・頼むからこのイケメン共と話す時は注意してくれ)

眼福ではあるが、不意打ちの微笑みは私には刺激が強すぎる。

悶絶していると外からトラヴィスの声が聞こえてきた。

「聞こえているなら話は早い。アリアナ嬢、彼女に少し聞きたい事がある」

スクリーンにはトラヴィスが映る。

(ねーさん・・・ねーさんも相変わらず超絶カッコいいよ・・・)

私は呑気にそんな事を考えていたが、トラヴィスは真面目な顔でアリアナに了承を得ると、

「君は今、どういう状態だ?」

そう聞いてきた。

(どういう状態・・・ええと、どう答えたら・・・?)

とりあえず必死にアリアナに返事を送った。

「・・・ソファで座って・・・鎖に・・・黒い・・・影、・・・エイガのスク?」

アリアナが私の言葉を伝えてくれる。どうやら途切れ途切れにしか聞こえないみたいだ。

(映画のスクリーンはこっちには無いからマズかったか・・・でもねーさんなら分かってくれるかな?)

だけど、スクリーンに映る皆の顔が完全に困惑状態だ。

トラヴィスは苦い顔でこめかみを人差し指でトントンと叩くと、

「分かった。単語で良いからもう少し分かりやすく答えてくれ」

(ううう・・・)

私は必死で考えて、またアリアナに言葉を送った。
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