206 / 284
第7章 悪役令嬢は目覚めたくない
30
しおりを挟む
「ディーン様。わたくし、貴方が嫌いですわ」
言葉の意味とは裏腹に、彼女の口調には熱が籠っていた。
「うん・・・」
ディーンは何を言われるのか分かっていたかのように、表情を変えなかった。
「貴方は酷い方ですわ。貴方はもう・・・ずっと、わたくしとあの子の事を知ってらした。それなのに婚約したままあの子をご自分に縛り付けた。貴方をお慕いしていたわたくしの気持ちを知っていましたよね?。わたくしがどんな感情を抱いたか、貴方にお分かりになりまして!?」
アリアナが立ち上がり、椅子が倒れる。目覚めて以来、彼女がここまで感情を爆発させたのは初めてだった。
「知っていましてよ。ディーン様が最近マーリンと一緒に居るのは、マーリンからあの子を守る為でしょう!?。貴方が動くのは全てあの子の事!。そこには、わたくしは一欠片も存在していないのよ。昔からそう、貴方はわたくしを見ようともしてくれませんでしたわ!」
アリアナの目が涙で歪む。スクリーンに映るぼやけた世界が彼女の悲しみを表していた。
「別荘の滝で・・・貴方と初めて向き合えたと思えましたの。わたくしの正直な気持ちを伝えて、初めて貴方の心に触れた気がしましたわ。・・・だけど、今の貴方は卑怯でしてよ。わたくしを愛するふりであの子を手元に置こうとするのはやめて!。そんなの嫌っ!許せないっ。貴方なんて大嫌いよ!」
感情を振り絞る様に叫んで、アリアナが床に崩れ落ちた。
「アリアナ!」
クラークがアリアナの肩を抱く。
「お兄様・・・わたくしあの子が好きなのです。大好きなのに憎い・・・。あの子の苦しみや葛藤も知っているのに、なのに羨ましいのですわ。だって、私が人生でたった一つ欲しいと願ったことを、あの子は当たり前のように手に入れてしまう・・・」
「アリアナ・・・」
アリアナはクラークの胸に顔をうめ、涙をこぼした。しんと静まった部屋にアリアナの泣き声だけが響く。
静寂を破ったのは他ならぬディーンであった。
「すまない・・・君が怒るのは当然だと思う。だけど、これだけは言わせて欲しい。私は彼女と君が別人だと疑っていたけど、確信を持っていたわけじゃ無いんだ。だから・・・彼女と話す時は、いつも彼女の中に君を探していた。君とちゃん向き合いたいと思ったから・・・」
アリアナが少し顔を上げた。ディーンは顔を逸らして俯いている。銀色の髪が彼の表情を隠していた。
「だけど、結局君を傷つけた。ごめん・・・」
「・・・」
「婚約は・・・君の言う通りかもしれない。私は、繋がりを無くしたくなかったから・・・」
ディーンは顔を上げてアリアナを見つめた。彼のそんな切なそうな目を、今まで見た事が無かった。
「でもそれは、あの時滝で・・・私はやっと君とちゃんと話せたと思ったから。初めて君の想いを聞く事が出来たって・・・だから、私はまた君とやり直せたらと・・・」
ディーンは痛みに耐える様にグッと右手の拳を握った
「ごめん・・・確かに私は彼女に惹かれていると思う。だから、彼女と君が別の人だと考えたくなかった・・・。それに、君の気持ちを利用して彼女を縛るつもりも無かった。私はただ、『アリアナ』ともう一度、最初から始めたいって思ったんだ。・・・でも、結果は私の独りよがりな感情で、君の気持ちを踏みにじるような形になってしまった・・・。本当にごめん・・・。」
重苦しい空気が流れた。誰も言葉を発する事が出来なかった。
クラークはずっとアリアナを守る様に彼女の肩を抱いていた。
そして・・・
「ずるい方・・・」
アリアナがポツリとそう言った。
クラークに支えて貰いながら彼女は立ち上がり、ゆっくりと椅子に座った。
「そんな言い方はずるいですわ・・・。貴方を憎み切れなくなりますもの」
アリアナはディーンを見つめる。二人の視線が交差した。
そしてアリアナは「ほう」と呆れたように溜息をついた。
「残念ですわ。貴方が思った通りのクズ男でしたら良かったのに。そうでしたら、わたくし、あの子を全力で貴方から守りましたのに」
ハニーブロンドの髪を片手で優雅にかき上げた。
「クズ男?私が?・・・そうかもしれないね」
ディーンが自嘲気味に笑みを浮かべた。
「くだらない男性にあの子はあげられなくてよ・・・貴方に限った事では無いですけれど」
アリアナはくすくす笑うと、
「さぁ、すっかりお待たせしてしまいましたわ。皆様申し訳ありません」
晴れやかな声でそう言うと、皆に向かって頭を下げ、
「精神魔術の解術をお願い致しますわ」
リリーとマリオット先生を交互に見ながらそう言った。
言葉の意味とは裏腹に、彼女の口調には熱が籠っていた。
「うん・・・」
ディーンは何を言われるのか分かっていたかのように、表情を変えなかった。
「貴方は酷い方ですわ。貴方はもう・・・ずっと、わたくしとあの子の事を知ってらした。それなのに婚約したままあの子をご自分に縛り付けた。貴方をお慕いしていたわたくしの気持ちを知っていましたよね?。わたくしがどんな感情を抱いたか、貴方にお分かりになりまして!?」
アリアナが立ち上がり、椅子が倒れる。目覚めて以来、彼女がここまで感情を爆発させたのは初めてだった。
「知っていましてよ。ディーン様が最近マーリンと一緒に居るのは、マーリンからあの子を守る為でしょう!?。貴方が動くのは全てあの子の事!。そこには、わたくしは一欠片も存在していないのよ。昔からそう、貴方はわたくしを見ようともしてくれませんでしたわ!」
アリアナの目が涙で歪む。スクリーンに映るぼやけた世界が彼女の悲しみを表していた。
「別荘の滝で・・・貴方と初めて向き合えたと思えましたの。わたくしの正直な気持ちを伝えて、初めて貴方の心に触れた気がしましたわ。・・・だけど、今の貴方は卑怯でしてよ。わたくしを愛するふりであの子を手元に置こうとするのはやめて!。そんなの嫌っ!許せないっ。貴方なんて大嫌いよ!」
感情を振り絞る様に叫んで、アリアナが床に崩れ落ちた。
「アリアナ!」
クラークがアリアナの肩を抱く。
「お兄様・・・わたくしあの子が好きなのです。大好きなのに憎い・・・。あの子の苦しみや葛藤も知っているのに、なのに羨ましいのですわ。だって、私が人生でたった一つ欲しいと願ったことを、あの子は当たり前のように手に入れてしまう・・・」
「アリアナ・・・」
アリアナはクラークの胸に顔をうめ、涙をこぼした。しんと静まった部屋にアリアナの泣き声だけが響く。
静寂を破ったのは他ならぬディーンであった。
「すまない・・・君が怒るのは当然だと思う。だけど、これだけは言わせて欲しい。私は彼女と君が別人だと疑っていたけど、確信を持っていたわけじゃ無いんだ。だから・・・彼女と話す時は、いつも彼女の中に君を探していた。君とちゃん向き合いたいと思ったから・・・」
アリアナが少し顔を上げた。ディーンは顔を逸らして俯いている。銀色の髪が彼の表情を隠していた。
「だけど、結局君を傷つけた。ごめん・・・」
「・・・」
「婚約は・・・君の言う通りかもしれない。私は、繋がりを無くしたくなかったから・・・」
ディーンは顔を上げてアリアナを見つめた。彼のそんな切なそうな目を、今まで見た事が無かった。
「でもそれは、あの時滝で・・・私はやっと君とちゃんと話せたと思ったから。初めて君の想いを聞く事が出来たって・・・だから、私はまた君とやり直せたらと・・・」
ディーンは痛みに耐える様にグッと右手の拳を握った
「ごめん・・・確かに私は彼女に惹かれていると思う。だから、彼女と君が別の人だと考えたくなかった・・・。それに、君の気持ちを利用して彼女を縛るつもりも無かった。私はただ、『アリアナ』ともう一度、最初から始めたいって思ったんだ。・・・でも、結果は私の独りよがりな感情で、君の気持ちを踏みにじるような形になってしまった・・・。本当にごめん・・・。」
重苦しい空気が流れた。誰も言葉を発する事が出来なかった。
クラークはずっとアリアナを守る様に彼女の肩を抱いていた。
そして・・・
「ずるい方・・・」
アリアナがポツリとそう言った。
クラークに支えて貰いながら彼女は立ち上がり、ゆっくりと椅子に座った。
「そんな言い方はずるいですわ・・・。貴方を憎み切れなくなりますもの」
アリアナはディーンを見つめる。二人の視線が交差した。
そしてアリアナは「ほう」と呆れたように溜息をついた。
「残念ですわ。貴方が思った通りのクズ男でしたら良かったのに。そうでしたら、わたくし、あの子を全力で貴方から守りましたのに」
ハニーブロンドの髪を片手で優雅にかき上げた。
「クズ男?私が?・・・そうかもしれないね」
ディーンが自嘲気味に笑みを浮かべた。
「くだらない男性にあの子はあげられなくてよ・・・貴方に限った事では無いですけれど」
アリアナはくすくす笑うと、
「さぁ、すっかりお待たせしてしまいましたわ。皆様申し訳ありません」
晴れやかな声でそう言うと、皆に向かって頭を下げ、
「精神魔術の解術をお願い致しますわ」
リリーとマリオット先生を交互に見ながらそう言った。
23
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)
ラララキヲ
ファンタジー
乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。
……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。
でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。
ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」
『見えない何か』に襲われるヒロインは────
※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※
※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※
◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる