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第8章 悪役令嬢は知られたくない
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アリアナと入れ替わって私が再び表に出た。その1週間程経った頃だった。
彼は夜、突然寮を訪ねて来て私にある提案をした。
「互いの利益の為に、婚約を継続しないか?」
「は?」
失礼だが頭は大丈夫か?と思ってしまった。
ディーンはあの時アリアナが泣きながら激怒した事を忘れたのだろうか!?
呆れて言葉も出ない私に、彼は淡々と話しを続けた。
「公爵家同士の私達が婚約解消となると、周囲はかなり騒ぐ。勝手な噂も立てられるだろう。これ以上注目されるのも疲れると思わないか?」
(う~ん、確かにそれはディーンの言う通りだけど、今までだって色々噂はされていたし、いまさらと言う気がしないでも・・・)
反応の良く無い私にディーンは淡々と説得を続けた。
「トラヴィス殿下とエメライン王女の婚約が破棄された今、リナがもし私と婚約を解消したら、十中八九殿下との婚約話が持ち上がる。それでも良いのか?」
「う・・・」
痛い所を突かれた。私がフリーになった場合、怖いのはそれなのだ。
(しかも何故かねーさんは、私との結婚に抵抗が無さそうなんよね)
むしろ乗り気なのが恐ろしかった。
そりゃトラヴィスは国の事を大事に思ってるからだろうけど、私が皇妃だなんてとんでもない!
ディーンはさらに畳み掛けて来た。
「それに、リガーレ公爵だってまだ君を諦めていないと思うよ?彼は君のお父上であるコールリッジ公爵とも懇意であるし、二人は事業の面で協力し合っている。だから君との結婚は両公爵にとって、メリットが大きんだ。リガーレ公爵の年齢を考えると卒業と同時に結婚と言う事も・・・」
「や、止めてください!」
ゲームのアリアナの結末を思い出してソ~っとし青くなった。
「だから、私との婚約関係を続けることは、君にとって十分利益があると思うのだが?」
そう問われて反論出来なくなってしまった。
(そんなの言われるまでも無く分かってるよ~。分かってるけどさぁ・・・)
アリアナの気持ちはどうなんの?
だけど、不思議とアリアナの気持ちが凪いでいる様な気がした。
(アリアナ?)
戸惑ってしまい直ぐには承諾できなくて、私は反論を試みた。
「互いの利益と仰いましたが、これでは私が得してるだけです。ディーン様にメリットがあるとは思えないですけど?」
私と婚約している以上、ディーンは他の人とは付き合えない。虫除けにはなるけど・・・、
「私は昔、婚約を打診されていた令嬢がいる」
「え・・・?」
「アリアナと婚約する前にね」
ドキンと胸が鳴る。これはアリアナの感情?それとも私?
(令嬢って・・・きっとマーリンの事だ)
「君と婚約を解消すれば、またその話が持ち上がるだろう。・・・私は、彼女との結婚を考えていない」
「な、何故ですか?」
「私の気持ちは彼女には無いから」
ディーンはそう言って真っすぐに私を見た。思わずのけ反るように背筋を伸ばしてしまい、椅子がガタリと鳴る。
(う・・・あ・・・)
紺碧の瞳に射抜かれて目を逸らす事も出来ない。動くと何もかも見透かされそうで私は呼吸を止めた。
(なんで・・・なんでディーンにこんなに緊張するの?)
心臓がうるさい。
だけど先に視線を逸らしたのはディーンだった。私は一気に脱力して汗が流れた。
彼は目を伏せてテーブルのお茶のカップを持ち、
「だから私にも婚約の継続はちゃんと利益があるんだ」
そう言って初めてお茶を一口飲んだ。
あの時以来、私はディーンにずっと緊張しているようだ。彼の瞳に射竦められたままの気がして顔を見るのが怖い。
(こんなんじゃ、いかんよなぁ・・・)
ディーンとの契約はとりあえず卒業まで。それまでは婚約関係を続ける。
(その間にトラヴィスとマーリンに関しては、他に婚約者が出来るかもしれないもんね。問題はロリコンだけど・・・)
グスタフ・リガーレの顔を思い出すと、やっぱりゾ~っとした。
(悪い人じゃないんだろうけど、ロリコンはやっぱ無理!)
寒気を感じて私は自分を抱きしめる様に腕をまわす。すると、ディーンが自分の上着を脱いで、私の肩にかけた。
「え!?だ、駄目ですよ。これじゃ、ディーンが・・・」
「寮に着くまでリナが着ていて。私は寒くないから」
(嘘つき・・・)
シャツ一枚で寒くないわけ無いじゃん。
だけど私とは逆に、彼はとても自然体な気がした。
彼を見上げると柔らかく笑いかけられて、私は反射的に顔を伏せた。
やっぱりディーンは変わった。それとも・・・
(変わったのは私だろうか?)
貸して貰った上着は、ほんのりと温かかった。
彼は夜、突然寮を訪ねて来て私にある提案をした。
「互いの利益の為に、婚約を継続しないか?」
「は?」
失礼だが頭は大丈夫か?と思ってしまった。
ディーンはあの時アリアナが泣きながら激怒した事を忘れたのだろうか!?
呆れて言葉も出ない私に、彼は淡々と話しを続けた。
「公爵家同士の私達が婚約解消となると、周囲はかなり騒ぐ。勝手な噂も立てられるだろう。これ以上注目されるのも疲れると思わないか?」
(う~ん、確かにそれはディーンの言う通りだけど、今までだって色々噂はされていたし、いまさらと言う気がしないでも・・・)
反応の良く無い私にディーンは淡々と説得を続けた。
「トラヴィス殿下とエメライン王女の婚約が破棄された今、リナがもし私と婚約を解消したら、十中八九殿下との婚約話が持ち上がる。それでも良いのか?」
「う・・・」
痛い所を突かれた。私がフリーになった場合、怖いのはそれなのだ。
(しかも何故かねーさんは、私との結婚に抵抗が無さそうなんよね)
むしろ乗り気なのが恐ろしかった。
そりゃトラヴィスは国の事を大事に思ってるからだろうけど、私が皇妃だなんてとんでもない!
ディーンはさらに畳み掛けて来た。
「それに、リガーレ公爵だってまだ君を諦めていないと思うよ?彼は君のお父上であるコールリッジ公爵とも懇意であるし、二人は事業の面で協力し合っている。だから君との結婚は両公爵にとって、メリットが大きんだ。リガーレ公爵の年齢を考えると卒業と同時に結婚と言う事も・・・」
「や、止めてください!」
ゲームのアリアナの結末を思い出してソ~っとし青くなった。
「だから、私との婚約関係を続けることは、君にとって十分利益があると思うのだが?」
そう問われて反論出来なくなってしまった。
(そんなの言われるまでも無く分かってるよ~。分かってるけどさぁ・・・)
アリアナの気持ちはどうなんの?
だけど、不思議とアリアナの気持ちが凪いでいる様な気がした。
(アリアナ?)
戸惑ってしまい直ぐには承諾できなくて、私は反論を試みた。
「互いの利益と仰いましたが、これでは私が得してるだけです。ディーン様にメリットがあるとは思えないですけど?」
私と婚約している以上、ディーンは他の人とは付き合えない。虫除けにはなるけど・・・、
「私は昔、婚約を打診されていた令嬢がいる」
「え・・・?」
「アリアナと婚約する前にね」
ドキンと胸が鳴る。これはアリアナの感情?それとも私?
(令嬢って・・・きっとマーリンの事だ)
「君と婚約を解消すれば、またその話が持ち上がるだろう。・・・私は、彼女との結婚を考えていない」
「な、何故ですか?」
「私の気持ちは彼女には無いから」
ディーンはそう言って真っすぐに私を見た。思わずのけ反るように背筋を伸ばしてしまい、椅子がガタリと鳴る。
(う・・・あ・・・)
紺碧の瞳に射抜かれて目を逸らす事も出来ない。動くと何もかも見透かされそうで私は呼吸を止めた。
(なんで・・・なんでディーンにこんなに緊張するの?)
心臓がうるさい。
だけど先に視線を逸らしたのはディーンだった。私は一気に脱力して汗が流れた。
彼は目を伏せてテーブルのお茶のカップを持ち、
「だから私にも婚約の継続はちゃんと利益があるんだ」
そう言って初めてお茶を一口飲んだ。
あの時以来、私はディーンにずっと緊張しているようだ。彼の瞳に射竦められたままの気がして顔を見るのが怖い。
(こんなんじゃ、いかんよなぁ・・・)
ディーンとの契約はとりあえず卒業まで。それまでは婚約関係を続ける。
(その間にトラヴィスとマーリンに関しては、他に婚約者が出来るかもしれないもんね。問題はロリコンだけど・・・)
グスタフ・リガーレの顔を思い出すと、やっぱりゾ~っとした。
(悪い人じゃないんだろうけど、ロリコンはやっぱ無理!)
寒気を感じて私は自分を抱きしめる様に腕をまわす。すると、ディーンが自分の上着を脱いで、私の肩にかけた。
「え!?だ、駄目ですよ。これじゃ、ディーンが・・・」
「寮に着くまでリナが着ていて。私は寒くないから」
(嘘つき・・・)
シャツ一枚で寒くないわけ無いじゃん。
だけど私とは逆に、彼はとても自然体な気がした。
彼を見上げると柔らかく笑いかけられて、私は反射的に顔を伏せた。
やっぱりディーンは変わった。それとも・・・
(変わったのは私だろうか?)
貸して貰った上着は、ほんのりと温かかった。
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