218 / 284
第8章 悪役令嬢は知られたくない
8
しおりを挟む
次の日も、その次の日も図書館での調査は続いた。館長は初日と同じ様に我々を案内し、時間になったら迎えに来る。
そして調査を初めてから4日目の事だった。
(はぁ・・・)
最初の日以来、はかばかしい発見も無く、私達は焦りと作業の冗長さで疲れ果てていた。
3人とも押し黙ったまま、ただ本をめくる音だけが部屋の中に響いている。
(この本棚はハズレ)
一つの本棚を調査し終わった私は固まった体をほぐそうと伸びをして、次の本棚に向かう。
まだ誰も調べていない右端奥の小さな本棚。そこで本を抜き取ろうとして違和感を感じた。
(ん?)
その本棚には背板が無く、壁がそのまま背になったいるのだが、本を抜いた向こう側の壁が他の壁と違っていたのだ。
(なんで?)
気になった私はその場所の本を5、6冊まとめて抜いてみた。
「よいしょっ!・・・お!?」
「アリアナ?」
私の声にトラヴィスが怪訝そうに声をかける。
「き、来てください!」
私は慌てて二人を呼んだ。
「どうしたんだ!?」
私は二人に本を抜いた後の壁を示した。
「見てください、ここ!。これって扉じゃ無いですか!?」
本棚の後ろに隠されたように扉の角の様な物が見える。
「本棚をどかせてみよう」
トラヴィスがそう言って、私達は急いでその本棚の本を全て抜き出し始めた。
すると思ってた通り、本棚の枠越しに小さな扉が現れた。
トラヴィスとディーンの二人で空になった本棚を脇に寄せ、私達はその前に立った。
レバー式のノブが付いた簡素な模様の小さな扉だった。
トラヴィスが扉を開けようと手を伸ばしたところを、ディーンが止めた。
「私が開けます」
もしも危険があったらと考えたのだろう。
トラヴィスは少し片眉を上げたがディーンに場所を譲った。
ディーンは扉のレバーハンドルを掴み下に降ろす。どうやら鍵はかかってい無いようだ。そして、扉を向こう側にゆっくりと押し開けた。
恐らく小さな部屋のようだ。だけど真っ暗で中の様子が良く分からない。
「どうやらここには、灯りの魔術が施されてい無いようだな」
トラヴィスが手の平を上に魔術で小さな炎を作る。炎が部屋の中をぼんやり照らすと、奥に小さなライティングデスクが見えた。
「アリアナは扉の外で待っててくれ」
「はい」
警戒しつつトラヴィスとディーンが中に入って行った。
私は万が一勝手に閉まらないようにと扉を押さえる。
二人はライティンデスクに近づくと、幾つかある引き出しを開けていった。どうやら何か見つけたのか頷き合っている。
(トラヴィスの炎だけじゃ、こっちからよく見えないな・・・)
ふと目線を上げると、壁には大きめの絵が飾っている様だった。人物画のようだが、これまた暗くて良く見えない。
すると二人は数冊の書物と何か巻物の様な物を持って、小部屋から出て来た。
「引き出しにあったのはこれだけだ」
トラヴィスは炎を消すと、それらをこちら側の部屋のテーブルに置いた。
「これは・・・何でしょう?」
書物のうち2冊はどうやら手書きのようだった。もしかしたら日記だろうか?
トラヴィスが1冊を手に持ち頁をめくっていく。そして目を見張った。
「どうやら当たりだな。これは闇の組織の者が書いた手記のようだ」
「えっ!?」
私とディーンもトラヴィスの持っている本を覗きこむ。
端正な文字で書かれた手記は、紙が変色して少し文字も掠れていたが、読む分には問題なさそうだ。言葉の言い回しが古く、歴史を感じさせる。
トラヴィスが目に付いた文章を読み上げた。
「ライナスが立ち上げた特殊魔力統制組織は、目覚ましい成果を上げている。闇の魔術や精神魔術のような制御の難しい魔術においても、世に役立つ事を示してくれた。特にエンリルの精神魔術の成長は著しく・・・エンリル!?」
トラヴィスの声が大きくなる。
「エンリルってあのエンリル様の事でしょうか?。初代皇妃の!?」
「時代は合うようですね。ここに日付が書いてあります」
ディーンが指で指し示した。
「エンリル皇妃が精神魔術の使い手だったというのか・・・?」
トラヴィスの声に動揺の色が隠せない。それはそうだろう。皇国が厳しく管理し、長くその能力を封じて来た精神魔術・・・。初代皇妃がその使い手だったなんて、歴史的には全く伝わっていない。
トラヴィスは厳しい顔で手記のページをめくりながら、
「この特殊魔力統制組織・・・闇の組織は、やはり最初は皇国も認める公的機関だったようだな。強すぎる魔力を持ったものや特殊な魔術の使い手の者は、ここで制御を学んだらしい。指導者は魔導士ライナス・アーク。闇の魔術だけでなく、光の魔術以外のほとんどの魔術を操ったと書いてある」
「まるで、イーサンの様です」
私がそう言うとトラヴィスは頷いた。
「そうだな。ライナスはもしかしたらイーサンの祖先だったのかもしれない。魔力や魔術の質は遺伝する事が多いから・・・」
ペラペラと頁をめくっていって、トラヴィスはある個所で手を止めた。
そして調査を初めてから4日目の事だった。
(はぁ・・・)
最初の日以来、はかばかしい発見も無く、私達は焦りと作業の冗長さで疲れ果てていた。
3人とも押し黙ったまま、ただ本をめくる音だけが部屋の中に響いている。
(この本棚はハズレ)
一つの本棚を調査し終わった私は固まった体をほぐそうと伸びをして、次の本棚に向かう。
まだ誰も調べていない右端奥の小さな本棚。そこで本を抜き取ろうとして違和感を感じた。
(ん?)
その本棚には背板が無く、壁がそのまま背になったいるのだが、本を抜いた向こう側の壁が他の壁と違っていたのだ。
(なんで?)
気になった私はその場所の本を5、6冊まとめて抜いてみた。
「よいしょっ!・・・お!?」
「アリアナ?」
私の声にトラヴィスが怪訝そうに声をかける。
「き、来てください!」
私は慌てて二人を呼んだ。
「どうしたんだ!?」
私は二人に本を抜いた後の壁を示した。
「見てください、ここ!。これって扉じゃ無いですか!?」
本棚の後ろに隠されたように扉の角の様な物が見える。
「本棚をどかせてみよう」
トラヴィスがそう言って、私達は急いでその本棚の本を全て抜き出し始めた。
すると思ってた通り、本棚の枠越しに小さな扉が現れた。
トラヴィスとディーンの二人で空になった本棚を脇に寄せ、私達はその前に立った。
レバー式のノブが付いた簡素な模様の小さな扉だった。
トラヴィスが扉を開けようと手を伸ばしたところを、ディーンが止めた。
「私が開けます」
もしも危険があったらと考えたのだろう。
トラヴィスは少し片眉を上げたがディーンに場所を譲った。
ディーンは扉のレバーハンドルを掴み下に降ろす。どうやら鍵はかかってい無いようだ。そして、扉を向こう側にゆっくりと押し開けた。
恐らく小さな部屋のようだ。だけど真っ暗で中の様子が良く分からない。
「どうやらここには、灯りの魔術が施されてい無いようだな」
トラヴィスが手の平を上に魔術で小さな炎を作る。炎が部屋の中をぼんやり照らすと、奥に小さなライティングデスクが見えた。
「アリアナは扉の外で待っててくれ」
「はい」
警戒しつつトラヴィスとディーンが中に入って行った。
私は万が一勝手に閉まらないようにと扉を押さえる。
二人はライティンデスクに近づくと、幾つかある引き出しを開けていった。どうやら何か見つけたのか頷き合っている。
(トラヴィスの炎だけじゃ、こっちからよく見えないな・・・)
ふと目線を上げると、壁には大きめの絵が飾っている様だった。人物画のようだが、これまた暗くて良く見えない。
すると二人は数冊の書物と何か巻物の様な物を持って、小部屋から出て来た。
「引き出しにあったのはこれだけだ」
トラヴィスは炎を消すと、それらをこちら側の部屋のテーブルに置いた。
「これは・・・何でしょう?」
書物のうち2冊はどうやら手書きのようだった。もしかしたら日記だろうか?
トラヴィスが1冊を手に持ち頁をめくっていく。そして目を見張った。
「どうやら当たりだな。これは闇の組織の者が書いた手記のようだ」
「えっ!?」
私とディーンもトラヴィスの持っている本を覗きこむ。
端正な文字で書かれた手記は、紙が変色して少し文字も掠れていたが、読む分には問題なさそうだ。言葉の言い回しが古く、歴史を感じさせる。
トラヴィスが目に付いた文章を読み上げた。
「ライナスが立ち上げた特殊魔力統制組織は、目覚ましい成果を上げている。闇の魔術や精神魔術のような制御の難しい魔術においても、世に役立つ事を示してくれた。特にエンリルの精神魔術の成長は著しく・・・エンリル!?」
トラヴィスの声が大きくなる。
「エンリルってあのエンリル様の事でしょうか?。初代皇妃の!?」
「時代は合うようですね。ここに日付が書いてあります」
ディーンが指で指し示した。
「エンリル皇妃が精神魔術の使い手だったというのか・・・?」
トラヴィスの声に動揺の色が隠せない。それはそうだろう。皇国が厳しく管理し、長くその能力を封じて来た精神魔術・・・。初代皇妃がその使い手だったなんて、歴史的には全く伝わっていない。
トラヴィスは厳しい顔で手記のページをめくりながら、
「この特殊魔力統制組織・・・闇の組織は、やはり最初は皇国も認める公的機関だったようだな。強すぎる魔力を持ったものや特殊な魔術の使い手の者は、ここで制御を学んだらしい。指導者は魔導士ライナス・アーク。闇の魔術だけでなく、光の魔術以外のほとんどの魔術を操ったと書いてある」
「まるで、イーサンの様です」
私がそう言うとトラヴィスは頷いた。
「そうだな。ライナスはもしかしたらイーサンの祖先だったのかもしれない。魔力や魔術の質は遺伝する事が多いから・・・」
ペラペラと頁をめくっていって、トラヴィスはある個所で手を止めた。
24
あなたにおすすめの小説
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる