237 / 284
第8章 悪役令嬢は知られたくない
27
しおりを挟む
「乗っても割れないくらいの厚さはあるはずだ」
トラヴィスは事も無げにそう言った。
「凄い!さすがですね。では早速行きましょう!」
私が地底湖の方へ足を向けた途端、トラヴィスが「待て」と言った。
「へ?」
「君はここまでだ。地図に載ってるとこまでしか行かないと約束しただろう?」
(あ・・・)
「いや、でも、あの・・・こんな所で一人で残されても・・・」
地底湖の岸辺で一人でいるなんて怖すぎないか?
「じゃ、俺も一緒に残る」
クリフが私の横で手を上げた。
「一人で待たせるのはもっと危険だろ?」
(え?)
クリフはどかっと地面に腰を下ろした。
「1時間以上経っても殿下達が戻らなかったら、アリアナを連れて外へ戻る。それで良いかな?」
クリフの言葉にトラヴィスが頷いた。
「ああ、そうしてくれ」
「そ、そんな!?」
(皆を放って行けって事!?)
「それが最善かもね。アリアナだってこっから先の地図は知らないだろ?。僕達が戻らなかったらクラーク達にすぐ連絡して貰えるし」
当然だという口調であっけらかんとパーシヴァルがそう言う。
私は反論しようとした。だけど、だけど・・・どうしても言葉を作れなかった。
(何かあった時・・・私は確実に足でまといだ)
出来る事なんて、クリフと一緒に外へ助けを呼びに行く事だけなのだ。
無力感に私は大きく溜息をついて項垂れた。
「・・・分かりました。ここで待ちます」
気落ちした声で渋々そう言った私の頭に、誰かがぽんと手を乗せた。そうしてくしゃりと髪を優しく掴む。
(ねーさん?)
そう思って目線をあげると、私の前に居たのはディーンだった。
(っ!?)
息が詰まったようになって、身体が硬直する。ディーンはもう一度柔らかく私の頭をぽんぽんとすると背を向けて、
「では殿下、私達は進みましょう。クリフ、アリアナを頼んだ」
そう言って氷の道を渡り始めた。
「行って来るわ、アリアナ」
「1時間で必ず戻ります。待っててください」
ミリアとリリーは心配そうな顔で私の手を握っている。
(逆だよ・・・危険なのはみんなの方なのに・・・)
何度も振り返りながら殿下達の後に続く二人に、私は頑張って気持ちを引き締めた。
「二人とも気を付けて。危ないと思ったらすぐ引き返して下さい」
手を振りながらそう言った。
そして私とクリフを残して5人は氷の橋を渡り、対岸の抜け穴をくぐって行った。
いつまでも皆が消えていった抜け穴を見ている私に、クリフが苦笑する。
「心配しなくても大丈夫だ。あいつら全員、魔術に関しては大人よりも優れているから」
「分かってますけど、心配です。この洞窟を指摘したのは私ですし・・・。もし本当に闇の神殿に繋がっていたら、何が起こるか予想できないです」
今からでも皆を追いかけて行きたかった。役に立たないって分かっていても、危険な目に遭うとしたら一緒が良かった。
「クリフも、ごめんなさい。私のせいで皆と一緒に行けなくて・・・」
「別に俺は闇の神殿になど興味が無いから構わないよ。君といる方が楽しい」
クリフはあっさりそう言うと、ごろりと地面に寝転がった。私もランタンを足元に置いて、その横に腰を下ろした。
するとクリフが寝っ転がったまま天井を指さした。
「見てごらん」
指さす方を見上げるとランタンの光に小さな水晶が反射して、まるで星空のようだった。
「わっ、綺麗ですね」
「・・・だな。なぁ、実は君に聞きたい事があったんだ。あいつらが戻ってくるまで丁度良い。話をしよう」
クリフは寝っ転がって天井を見たままそう言った。
「聞きたい事・・・ですか?」
「うん・・・君、ディーンが好きだろ」
余りにもダイレクトに言われて、私は取り繕う余裕を無くした。
「ぐっ、す・・・好き!?。え?あ、あの・・・」
目を白黒させてあたふたする私を見て、クリフは「ぶっ」と吹き出した。
そして「あはははは・・・」と笑ったけれど、いつもの上戸の笑い方とは少し違っていた。
「クリフ・・・?」
クリフは私の方を見ないで、
「ディーンは良い奴だと思う。俺は・・・君が幸せだったらそれで良い。相手がディーンだって、トラヴィス殿下だって構わない。だけど、一度はちゃんと行っておこうって思って」
クリフは身体を起こすと初めて私の方を真っすぐ見た。
「君が好きだよ」
紫色の瞳が水晶よりもきれいだと思った。空色の髪は今はランタンのオレンジの光を映している。
「だけど、君はディーンが好きだろ?」
少し眉尻を下げて笑うと、クリフはまたごろんと寝っ転がった。
「だからもう、この話は気にしなくて良いよ」
「わ、私は!」
黙ったままでクリフとの話を終わらせてしまうのは卑怯だと思った。だから、今の自分の正直な気持ちをちゃんと伝えようと必死で口を開いた。
「ご、ごめんなさい。本当は今でも自分の気持ちが良く分からないのです!」
目の端にクリフが怪訝そうに私を見ているのが分かった。私はカンテラの灯りをじっと見つめたまま言葉を探した。
トラヴィスは事も無げにそう言った。
「凄い!さすがですね。では早速行きましょう!」
私が地底湖の方へ足を向けた途端、トラヴィスが「待て」と言った。
「へ?」
「君はここまでだ。地図に載ってるとこまでしか行かないと約束しただろう?」
(あ・・・)
「いや、でも、あの・・・こんな所で一人で残されても・・・」
地底湖の岸辺で一人でいるなんて怖すぎないか?
「じゃ、俺も一緒に残る」
クリフが私の横で手を上げた。
「一人で待たせるのはもっと危険だろ?」
(え?)
クリフはどかっと地面に腰を下ろした。
「1時間以上経っても殿下達が戻らなかったら、アリアナを連れて外へ戻る。それで良いかな?」
クリフの言葉にトラヴィスが頷いた。
「ああ、そうしてくれ」
「そ、そんな!?」
(皆を放って行けって事!?)
「それが最善かもね。アリアナだってこっから先の地図は知らないだろ?。僕達が戻らなかったらクラーク達にすぐ連絡して貰えるし」
当然だという口調であっけらかんとパーシヴァルがそう言う。
私は反論しようとした。だけど、だけど・・・どうしても言葉を作れなかった。
(何かあった時・・・私は確実に足でまといだ)
出来る事なんて、クリフと一緒に外へ助けを呼びに行く事だけなのだ。
無力感に私は大きく溜息をついて項垂れた。
「・・・分かりました。ここで待ちます」
気落ちした声で渋々そう言った私の頭に、誰かがぽんと手を乗せた。そうしてくしゃりと髪を優しく掴む。
(ねーさん?)
そう思って目線をあげると、私の前に居たのはディーンだった。
(っ!?)
息が詰まったようになって、身体が硬直する。ディーンはもう一度柔らかく私の頭をぽんぽんとすると背を向けて、
「では殿下、私達は進みましょう。クリフ、アリアナを頼んだ」
そう言って氷の道を渡り始めた。
「行って来るわ、アリアナ」
「1時間で必ず戻ります。待っててください」
ミリアとリリーは心配そうな顔で私の手を握っている。
(逆だよ・・・危険なのはみんなの方なのに・・・)
何度も振り返りながら殿下達の後に続く二人に、私は頑張って気持ちを引き締めた。
「二人とも気を付けて。危ないと思ったらすぐ引き返して下さい」
手を振りながらそう言った。
そして私とクリフを残して5人は氷の橋を渡り、対岸の抜け穴をくぐって行った。
いつまでも皆が消えていった抜け穴を見ている私に、クリフが苦笑する。
「心配しなくても大丈夫だ。あいつら全員、魔術に関しては大人よりも優れているから」
「分かってますけど、心配です。この洞窟を指摘したのは私ですし・・・。もし本当に闇の神殿に繋がっていたら、何が起こるか予想できないです」
今からでも皆を追いかけて行きたかった。役に立たないって分かっていても、危険な目に遭うとしたら一緒が良かった。
「クリフも、ごめんなさい。私のせいで皆と一緒に行けなくて・・・」
「別に俺は闇の神殿になど興味が無いから構わないよ。君といる方が楽しい」
クリフはあっさりそう言うと、ごろりと地面に寝転がった。私もランタンを足元に置いて、その横に腰を下ろした。
するとクリフが寝っ転がったまま天井を指さした。
「見てごらん」
指さす方を見上げるとランタンの光に小さな水晶が反射して、まるで星空のようだった。
「わっ、綺麗ですね」
「・・・だな。なぁ、実は君に聞きたい事があったんだ。あいつらが戻ってくるまで丁度良い。話をしよう」
クリフは寝っ転がって天井を見たままそう言った。
「聞きたい事・・・ですか?」
「うん・・・君、ディーンが好きだろ」
余りにもダイレクトに言われて、私は取り繕う余裕を無くした。
「ぐっ、す・・・好き!?。え?あ、あの・・・」
目を白黒させてあたふたする私を見て、クリフは「ぶっ」と吹き出した。
そして「あはははは・・・」と笑ったけれど、いつもの上戸の笑い方とは少し違っていた。
「クリフ・・・?」
クリフは私の方を見ないで、
「ディーンは良い奴だと思う。俺は・・・君が幸せだったらそれで良い。相手がディーンだって、トラヴィス殿下だって構わない。だけど、一度はちゃんと行っておこうって思って」
クリフは身体を起こすと初めて私の方を真っすぐ見た。
「君が好きだよ」
紫色の瞳が水晶よりもきれいだと思った。空色の髪は今はランタンのオレンジの光を映している。
「だけど、君はディーンが好きだろ?」
少し眉尻を下げて笑うと、クリフはまたごろんと寝っ転がった。
「だからもう、この話は気にしなくて良いよ」
「わ、私は!」
黙ったままでクリフとの話を終わらせてしまうのは卑怯だと思った。だから、今の自分の正直な気持ちをちゃんと伝えようと必死で口を開いた。
「ご、ごめんなさい。本当は今でも自分の気持ちが良く分からないのです!」
目の端にクリフが怪訝そうに私を見ているのが分かった。私はカンテラの灯りをじっと見つめたまま言葉を探した。
24
あなたにおすすめの小説
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)
ラララキヲ
ファンタジー
乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。
……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。
でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。
ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」
『見えない何か』に襲われるヒロインは────
※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※
※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※
◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる