モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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第8章 悪役令嬢は知られたくない

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ぼんやりと周囲を照らすカンテラの灯りがほのかに揺れた。

「・・・今までもアリアナの気持ちが私に混ざる事があったのです。アリアナはずっとディーンを好きだったから、彼女の感情が私に影響してるのかもしれない・・・。私は、前の世界でもずっと誰かに恋愛感情を持ったことが無いんです。だから、アリアナのせいでディーンが好きだって勘違いしてるのかもしれない・・・」

私は膝に顔を押し付けた。情けない表情をクリフに見られたくなかったのだ。

「私、どこか欠けてたんです。友達として人を好きになる事は出来ても、恋愛感情が分からない。前に居た世界でもずっとそうでした。それが当たり前だった。だけど、誰かの恋を応援するのは楽しかった。自分の欠けているモノが見つかる様な気がして・・・」

「うん」

クリフは私の拙い独白を真剣に聞いてくれている。それが嬉しくてポロっと涙がこぼれた。

「でも、前にアリアナと入れ替わってから、私はおかしいのです」


―――貴女に人を深く想う気持ちを差し上げるわ


アリアナはそう言った。あの時は深く考えなかったけど、あれ以来私は変わってしまった。

「それまで気にならなかった事が気になったり、今まで気付かなかった事に・・・気付く様になってしまって・・・」

クリフが悪戯っぽく笑った。

「俺の気持ちや、トラヴィス殿下の気持ちに?」

(ぐっ・・・)

そう言われて私は胸が詰まったようになり、思わず手を握って自分の心臓に当てた。

「す、すみません!。鈍いにも程があったと自覚しております!」

頭を抱えながらそう言うと、クリフはくすくす笑いながら、

「まぁ、そうだね。でも分かる様になったんだ?。アリアナ嬢のおかげ・・・って事かな?」

「うう・・・」

アリアナは私の心に一体何をしたのだろう?。私は突然泉のように湧き出て来た新しい感情を、ずっと持て余している。

(だけど、それこそが今まで私に欠けていたものなんだ)

おかげで前よりは周りの人の気持ちや、自分に対する複雑な感情を推し量れるようになったと思う。

ディーンの気持ち。

クリフやトラヴィスの私に対する思い。

それにリリーやミリアやレティシアの好きな人・・・

「あの時アリアナと、お互い足りないものを補いあえるって思ったんです。まさかこんな形で振り回されるとは思いませんでしたけど・・・」

「あれからずっと、ディーンを意識してるだろ?」

私はクリフの言葉に、迷いながらも頷いた。

「・・・どうやって接したら良いのか分かりません。私はまだ自分の気持ちがどういうものかも分かってないし、おまけにアリアナの事もあるし」

(いかん・・・また泣けてきたぞ)

私は服の袖で乱暴に目元を拭った。

「アリアナの感情のせいで、ディーンをす、す、好き・・・って気持ちに、引きずられているだけかもしれないじゃないですか!。それなのに、どう言う訳か当のディーンがあまりにも自然かつスマートに迫って来るんですよ!」

私達は契約婚約者のはずだった。少なくともディーンはそう言った。なのに、ディーンの私に対する態度はすっかり恋人のそれだ。

「と、友達に対する態度では無いんです。しかも、周りに人が居る時は余計に・・・ううん、婚約者のフリしてるのでそれは仕方ないんですけど、限度があるじゃないですか!。それなのにいつも・・・うう・・・」

駄目だ、感情のリミッターが外れてしまった様だ。私は押さえてた涙が止まらなくなってしまった。

クリフは寝たまま腕を伸ばし、私の髪を一房掴み指を滑らせた。

「ディーンに怒られるかな。あいつは君の事となると心が狭いからな」

そう言って目を細める。

「わ、私にはあの人が何考えてるのか分かんない・・・だけど・・・」

こんな事クリフに相談する事じゃ無い。分かっているのにクリフの手や、私を見る目線が優しくて・・・私は誰にも言えなかった気持ちを泣きながら吐き出していた。

「・・・ど、どうして良いか分からなくなって・・・ディーンに対して凄くやな態度をとってしまう・・・うう・・・どうしよう、このままじゃ嫌われれしまうよ・・・」

クリフは寝ていた体を起こすと、泣いてる私の頭を優しく撫でた。

「大丈夫。嫌わないよ」

「だって・・・」

「大丈夫」

そう言って慰めながらずっと頭を撫でてくれる。涙を流れるままにしてその温かさを感じていると、自分のぐちゃぐちゃな気持ちが許される様な気がしてくる。

(クリフは、本当に滝の精霊みたい・・・)

純粋で、誰もが見惚れる程美しくて、包み込むように優しい。

(だけど時々、怖い時もあったなぁ)

皇太子暗殺を考えていた頃のクリフ。でもあれはもう遠い過去だ。


そんな事を考えていると少し冷静になってきた。

やっと涙も止まり・・・


(は・・・恥ずかしい事を言ってしまった)

先程の醜態を思い出して、自分のイタさに顔が赤くなった。

「す、すみません。もう大丈夫です!落ち着きました。大変無様な姿を・・・というか失礼な事を・・・」

わたわたと焦りながら謝ると、彼は「ぶっ」と吹き出して、こんどこそ笑い上戸を発揮してお腹を抱えて笑い出した。
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