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第8章 悪役令嬢は知られたくない
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「そろそろ1時間だ・・・」
クリフが内ポケットから時計を出した。急に不安が増し、私の心臓の鼓動が早くなる。
「も、もう少し待ってみましょうよ?。今こっちに戻ってる途中かも・・・」
私はカンテラを持ち上げて、皆が入って行った通路の方に目を凝らした。だけど向こうからは何の気配も感じない。
トラヴィスが作った氷の橋は、まだその形を残していたけれど少しずつ溶けていっていた。
クリフが服をはたきながら立ち上がった。
「そろそろ俺達も出発しないと夕方までに入口に戻れない。どっちにしろ、俺達が戻らなかったらクラークとレティシアが助けを呼びに行くだろう」
冷静にそう言うクリフの目にも焦燥が滲んでいる。
(みんな、どうしたのよ?)
地底湖は静かで、耳を澄ましても何の音も聞こえてこない。
私とクリフは黙って抜け穴を見つめた。
そしてその時だった。
「ここで何をしている」
突然すぐ後ろから聞こえた声に驚いて、私とクリフは飛び上がりながら振り向いた。
(嘘!。どうして!?)
そこに居たのは、今まで見た事の無い冷たい目をしたイーサン。彼は数メートル上の空間に浮かんで私達を見下ろしていた。
彼はその体の周りに、魔力のほの暗い光をうねる様にまとっている。その圧倒的な存在感に私の両腕が粟立った。クリフが私を庇う様に前に出る。
だけどイーサンはそんな私達から、興味を無くした様にスッとと目を逸らすと、
「まぁ良い。今お前達に用は無い」
そう言ってワープするようなスピードで地底湖を渡ると、抜け穴の中へと姿を消した。
「た、大変!」
(このままじゃ、闇の神殿で皆がイーサンと鉢合わせしちゃう!。なんで?。イーサンがこの洞窟を見つけるのはゲームでは3部だった筈なのに・・・)
そう考えて私は自分の浅はかさに舌打ちをした。
(とっくの昔にこの世界じゃ、ゲームの進行は破綻してるじゃん!。何が起きたっておかしくないんだ)
私は抜け穴めがけて氷の橋を走り始めた。
「アリアナ、待て!」
クリフが私を追いかけてくる。
解け始めた氷は所々ぐずぐずになっていて、油断すると足を踏み抜きそうだ。
「あっ!」
半分くらいまで走った所で溶けた氷に足を取られて、私はバランスを崩した。だけど、湖に落ちそうになった所をクリフに体を支えられた。
「ご、ごめん。ありがとう、クリフ」
「無茶するな!。この橋を渡るのはもう無理だ」
私達が走ったせいか、振動で氷にひびが入って割れ始めている。
戻る事も進む事も出来ない状況で、足元の氷ににもひびが入り始めた。
「あ、わわ、どうしよう!?・・・えっ?」
突然クリフは私を横抱きに抱えると、目を閉じた。紫と銀の魔力の光がクリフを包むと、彼の体が私を抱きかかえたままゆっくりと浮かび、そしてそのままふわりと対岸の方へ進み始めた。
「す、凄い!」
「このまま行くぞ・・・!」
私達は抜け穴の通路の中へ入って行った。
私は腕を前に伸ばしてカンテラで先を照らす。イーサンの姿ももう見えない。クリフのスピードは彼ほど早くは無いから、ずっと先に行ってしまったのだろう。
私達が進んでいるこの通路の下半分は水の中にある。トラヴィスの魔術で凍っていた通路の中の氷の道も、もうほとんと溶けてきている。
「・・・まだか」
クリフの額に汗が流れて、声に余裕が無くなってきている。私を抱えて飛んでいるのだ。きっと魔力の消費が半端ないはず。
抜け穴の勾配が少しずつ上に登っていき、カンテラで照らされた先に、水に浸かっていない地面が見えた。
「クリフ、あそこです!」
私の指さす方を見て、クリフは速度を速めた。そして地面に到着するなり私を降ろすと、その場に倒れ込んでしまった。
「はっ・・・はぁ、くそっ」
「大丈夫ですか!?」
クリフは荒い呼吸のまま壁に寄りかかって座ると、目を閉じる。
「はぁ・・・、あいつに出来るならと・・・思ったんだけどな・・・」
ふうっと大きく息を吐いて、汗で張り付いた髪をかき上げた。
「も、もしかして、初めて飛んだのですか!?」
「ああ・・・だけど思ったより魔力の消費が激しい。・・・やっぱり化け物だな、あいつは・・・」
いやいや、あなたも十分そうですよと言いかけて止めた。
(私を抱えてたんだもん。ここまで辿り着けただけでも凄いよ!)
そう思った時、
ドンッ!
大きな衝撃音が通路の奥から聞こえて来た。
「な、何!?」
バチバチッと弾ける様な音も聞こえる。
私は立ちあがって通路の奥を見た。暗闇の先に小さな火花が散るのが見えた。微かに誰かの悲鳴が聞こえる。
「待て・・・」
走りかけた私の手首を座り込んだままのクリフが掴んだ。
「・・・俺も行く」
汗びっしょりの顔で立ち上がろうとするのを、私は押しとどめた。
「今動くのは無理ですよ!もっと休まないと。・・・様子だけ見てきますから」
「一人でなんか行かせられるか!。・・・俺は大丈夫だから・・・それにきっとあいつらに何かあったんだ。早く行かないと」
(それはそうだけど、今の状態のクリフを連れて行くなんて・・・)
ドンッ!
また大きな音が響いて来た。
「行こう・・・」
クリフがよろめきながら立ち上がり、進み始める。
(うう・・・もうっ!)
私はクリフの腕を取って肩を貸した。
「支えます!。ゆっくり進みましょう」
通路の奥で、また大きな音が聞こえた。
クリフが内ポケットから時計を出した。急に不安が増し、私の心臓の鼓動が早くなる。
「も、もう少し待ってみましょうよ?。今こっちに戻ってる途中かも・・・」
私はカンテラを持ち上げて、皆が入って行った通路の方に目を凝らした。だけど向こうからは何の気配も感じない。
トラヴィスが作った氷の橋は、まだその形を残していたけれど少しずつ溶けていっていた。
クリフが服をはたきながら立ち上がった。
「そろそろ俺達も出発しないと夕方までに入口に戻れない。どっちにしろ、俺達が戻らなかったらクラークとレティシアが助けを呼びに行くだろう」
冷静にそう言うクリフの目にも焦燥が滲んでいる。
(みんな、どうしたのよ?)
地底湖は静かで、耳を澄ましても何の音も聞こえてこない。
私とクリフは黙って抜け穴を見つめた。
そしてその時だった。
「ここで何をしている」
突然すぐ後ろから聞こえた声に驚いて、私とクリフは飛び上がりながら振り向いた。
(嘘!。どうして!?)
そこに居たのは、今まで見た事の無い冷たい目をしたイーサン。彼は数メートル上の空間に浮かんで私達を見下ろしていた。
彼はその体の周りに、魔力のほの暗い光をうねる様にまとっている。その圧倒的な存在感に私の両腕が粟立った。クリフが私を庇う様に前に出る。
だけどイーサンはそんな私達から、興味を無くした様にスッとと目を逸らすと、
「まぁ良い。今お前達に用は無い」
そう言ってワープするようなスピードで地底湖を渡ると、抜け穴の中へと姿を消した。
「た、大変!」
(このままじゃ、闇の神殿で皆がイーサンと鉢合わせしちゃう!。なんで?。イーサンがこの洞窟を見つけるのはゲームでは3部だった筈なのに・・・)
そう考えて私は自分の浅はかさに舌打ちをした。
(とっくの昔にこの世界じゃ、ゲームの進行は破綻してるじゃん!。何が起きたっておかしくないんだ)
私は抜け穴めがけて氷の橋を走り始めた。
「アリアナ、待て!」
クリフが私を追いかけてくる。
解け始めた氷は所々ぐずぐずになっていて、油断すると足を踏み抜きそうだ。
「あっ!」
半分くらいまで走った所で溶けた氷に足を取られて、私はバランスを崩した。だけど、湖に落ちそうになった所をクリフに体を支えられた。
「ご、ごめん。ありがとう、クリフ」
「無茶するな!。この橋を渡るのはもう無理だ」
私達が走ったせいか、振動で氷にひびが入って割れ始めている。
戻る事も進む事も出来ない状況で、足元の氷ににもひびが入り始めた。
「あ、わわ、どうしよう!?・・・えっ?」
突然クリフは私を横抱きに抱えると、目を閉じた。紫と銀の魔力の光がクリフを包むと、彼の体が私を抱きかかえたままゆっくりと浮かび、そしてそのままふわりと対岸の方へ進み始めた。
「す、凄い!」
「このまま行くぞ・・・!」
私達は抜け穴の通路の中へ入って行った。
私は腕を前に伸ばしてカンテラで先を照らす。イーサンの姿ももう見えない。クリフのスピードは彼ほど早くは無いから、ずっと先に行ってしまったのだろう。
私達が進んでいるこの通路の下半分は水の中にある。トラヴィスの魔術で凍っていた通路の中の氷の道も、もうほとんと溶けてきている。
「・・・まだか」
クリフの額に汗が流れて、声に余裕が無くなってきている。私を抱えて飛んでいるのだ。きっと魔力の消費が半端ないはず。
抜け穴の勾配が少しずつ上に登っていき、カンテラで照らされた先に、水に浸かっていない地面が見えた。
「クリフ、あそこです!」
私の指さす方を見て、クリフは速度を速めた。そして地面に到着するなり私を降ろすと、その場に倒れ込んでしまった。
「はっ・・・はぁ、くそっ」
「大丈夫ですか!?」
クリフは荒い呼吸のまま壁に寄りかかって座ると、目を閉じる。
「はぁ・・・、あいつに出来るならと・・・思ったんだけどな・・・」
ふうっと大きく息を吐いて、汗で張り付いた髪をかき上げた。
「も、もしかして、初めて飛んだのですか!?」
「ああ・・・だけど思ったより魔力の消費が激しい。・・・やっぱり化け物だな、あいつは・・・」
いやいや、あなたも十分そうですよと言いかけて止めた。
(私を抱えてたんだもん。ここまで辿り着けただけでも凄いよ!)
そう思った時、
ドンッ!
大きな衝撃音が通路の奥から聞こえて来た。
「な、何!?」
バチバチッと弾ける様な音も聞こえる。
私は立ちあがって通路の奥を見た。暗闇の先に小さな火花が散るのが見えた。微かに誰かの悲鳴が聞こえる。
「待て・・・」
走りかけた私の手首を座り込んだままのクリフが掴んだ。
「・・・俺も行く」
汗びっしょりの顔で立ち上がろうとするのを、私は押しとどめた。
「今動くのは無理ですよ!もっと休まないと。・・・様子だけ見てきますから」
「一人でなんか行かせられるか!。・・・俺は大丈夫だから・・・それにきっとあいつらに何かあったんだ。早く行かないと」
(それはそうだけど、今の状態のクリフを連れて行くなんて・・・)
ドンッ!
また大きな音が響いて来た。
「行こう・・・」
クリフがよろめきながら立ち上がり、進み始める。
(うう・・・もうっ!)
私はクリフの腕を取って肩を貸した。
「支えます!。ゆっくり進みましょう」
通路の奥で、また大きな音が聞こえた。
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