モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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閑話6 森の山小屋(ディーン)

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私は自分の顔が真っ赤になってる事に気付いていた。

「な、何を言ってるんだ・・・!」

馬鹿みたいに声が上ずっている。

(落ち着け・・・アリアナは私をからかっているだけだ)

「彼女が・・・リナがそんな事思うはずがない。君が今、外に出ていると言う事は、彼女はもう眠っていると言う事だろう!?」

「ご名答ですわ。さすがディーン様ですわね」

アリアナはにっこり笑って小さく手を叩いた。

私はアリアナを睨んだ。

「どうも君は、とんでもない悪女のようだ」

「あら、ご存じないのですか?。わたくしは悪役令嬢ですのよ。あの子の世界ではそう呼ばれてたのですって。ふふ・・・わたくしは貴方に断罪されて婚約破棄されていたそうですよ」

アリアナは笑いながらそう言った。

何の事だか良く分からなかったが、何故か彼女の言う事が正しいような気がした。もしリナと出会わなかったら私は・・・。

(私はどんな人生を送っていたのだろう・・・?)

無理だと思った。リナと出会わなかった人生など考えたくも無い。

「わたくしも、あの子と出会えて本当に良かったですわ」

私の考えを読んだかのようなアリアナの言葉に、私はハッと顔を上げた。

「少なくとも、こうして貴方に意趣返しが出来ますもの。ふふ・・・それにきっと、何年か後に・・・」

アリアナは何か言いかけたのに、突然くるりと後ろを向いた。

「・・・眠くなりましたわ」

「え?」

「お休みなさい、ディーン様。良い夢を・・・」

パタンと寝室の扉が閉まった。

呆気に取られて私はしばらくその場に立ったまま扉を見つめていたが、苦い気持ちで頭を押さえて乱暴にソファに寝っ転がった。

(まったく・・・)

アリアナの事は、昔の様に厭う気持ちはもう無かった。だけどこんな風にたまに出会った時に、どう接して良いのか分からなくなる。

(振り回される)

それは罪悪感のせいなのか、それともアリアナが好きな女性と同じ身体に居るからなのか・・・。

(何年か後・・・か)

さっきアリアナは確かにそう言った。そして何かを言いかけた。

何年か後、それとも何十年か後かは分からないけれど、アリアナの精神はリナの精神と溶け合ってしまう。前にアリアナはそれを楽しみの様に語っていた。リナの精神が強い以上、表に出るのはリナだろうに。

(だけどその時にアリアナの精神は、リナにどんな影響を与えるのだろう・・・?)

そう思った瞬間、私は思いっきり両手で自分の頬を挟む様に叩いた。何故ならとんでも無く下劣な事を考えたからだ。

(本当に・・・クズ男だな)

アリアナが私を想う気持ちが、リナに入り混じれば良いなどという卑怯な思い。

―――くだらない男性にあの子はあげられなくてよ

前にアリアナに言われた事を思い出す。

「そうだな・・・このままじゃ、アリアナにだって愛想を尽かされて当然だ」

だけどもう引くつもりは無かった。クズだろうと卑怯だろうと全部飲み込んで糧にしてやろう。

私はゆっくりと体を起こした。

「リナは聡明で頭の回転も速い。だけど純粋で流されやすい所がある。そして・・・顔の良い男性に弱い」

自分の顔がそこそこ整っていて良かったと思う。彼女を手に入れる為ならどんな事でも利用する。

以前の自分は誠実だが堅物だと言われていたが、どうやら随分と変わったようだ。

もちろん、リナの隣にいるのに相応しい男になる為にならどんな努力だってするつもりだ。

(それだけは、得意だからな)

真面目で努力家と言う世間の評判。そこに策略家も付け加えてやろう。


色々と考え続けて、気付くと空が少し白々と明るくなってきている。

アリアナのせいで疲れていたのに全く眠る事が出来なかった。今も神経が立って目が冴えてしまっている。

私はリナが寝ている寝室の扉を見る。

(今はまだ、こちらから扉を開ける事は出来ない。でもいつか・・・)

私はソファに座ったまま、彼女が扉を開けるのを静かに待った。
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