モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

文字の大きさ
253 / 284
最終章 悪役令嬢は・・・

1

しおりを挟む
早朝のダイナスの港には3隻の大型船が停泊していた。

「行先を調べてくる」

ディーンがそう言って、船着き場の方へと向かう。

「気を付けてください」

私とグローシアは港の倉庫の横で身を潜めていた。

(絶対にジョー達を見つけるんだ)


数時間前、真夜中に船でダイナスに着いた私達は、倉庫の事務所に潜り込んで朝を待った。

(最近、やたらと不法侵入してるなぁ・・・)

少々良心が痛んだが、背に腹はである。

驚いたのはあの真面目でお堅いディーンが、泥棒まがいの事をしているのに思いのほか堂々としている事だ。

ゲームの設定からするとあり得ない!

(真面目で正義感が強いって人が、2回も鍵を壊してるって凄くないか?)

躊躇がなさ過ぎて、逆に私の方が心配になってるぐらいだ。

(ディーンも変わったなぁ・・・)

でも、出会った頃の彼よりもずっとカッコいい・・・。


数分後、ディーンは難しい顔をして戻ってきた。

「昨日のうちに出発した船は無いそうだ。もしジョー達が国外に行こうとしているなら、この3隻のどれかに乗り込んでいる可能性は高い。2隻はかなり遠方の国に行く船だった。到着するのに1カ月はかかる距離だ。残る1隻は隣国のセルナク行き。最近セルナクとは緊張状態が続いているから、この船を最後にしばらくセルナク行きは無くなるそうだが・・・」

「出航は何時頃なのでしょう?」

「遠方国行きは両方とも今日の朝のうち。セルナク行きも昼前には出発すると聞いた」

(セルナク・・・エメラインの国)

「どうする?。あまり時間が無いが・・・」

ディーンの声音にも焦りが混じる。私は少しの間考えてから決心した。

「セルナク行きに乗り込んで二人を探しましょう」

「だが、遠方国行きの方が先に出る。そっちに乗ってたらどうする?」

心配そうに聞くディーンに私は首を振った。

「いいえ、闇の組織はセルナクと関わっています。トラヴィス殿下の暗殺を闇の組織に依頼したのはセルナクだと思うので・・・」

「エメライン王女の事で?」

私は頷いた。

「今のセルナク国ならアンファエルン皇国に仇なす為に、闇の組織と手を組んでもおかしく無いです。モーガン先生が闇の組織の幹部だとしたら喜んで匿うでしょう」

「分かった。ではセルナク行きの船に潜入しよう。グローシア頼めるか?」

「承知しました」

グローシアが姿と気配を隠す魔術を発動させる。そして私がグローシアの魔力をサポートする事で私達三人に魔術が施された。

「行きましょう」

声をひそめて、私達は三人ひとかたまりになって、こっそりと船の中に乗り込んだ。

(思ったよりも結構大きい・・・)

隣国とは言え、外国行きの船はかなり大きい。もしジョー達が船内の個室に入っていたら、探すのに時間がかかりそうだ。

(まずいな・・・出航までに探せるかな?)

だけどその心配は杞憂に終わった。

何故なら甲板の上を周りを見ながら歩いていたら、難なく船長らしき男性と話ているモーガン先生、そして先生に付き従う様に片膝をついているジョーとケイシーを見つけたからだ。

(な・・・何アレ!?。まるでお付きの家来じゃん!)

私達は声を出さない様にして慎重に彼らの元に近づいた。

船長とモーガン先生の話す声が聞こえる。

「サグレメッサ殿、相変わらず凄い精神魔術ですな。この二人は皇国の貴族の子供でしょう?セルナクに連れて行くのですか?」

「ええ、そこそこの人質にはなってくれそうだからね。本当はもう少しアンファエルン学園に残って皇国を荒らしたかったのだけど、リーツがへまをしたわ」

モーガン先生は妖艶に笑った。

(リーツ?。リーツって・・・もしかして黒フード!?。あいつ、そんな名前だったんだ。・・・それにしてもこの船の船長、モーガン先生とぐるなの?)

「だけど、多くの学園の生徒達を精神魔術下において来たんでしょ?」

「ええ、気付かれないようにね。半数の生徒は時が来れば皇国を攻撃するようになるわ。時限爆弾のようにね」

(は、はぁ!?。何それ、どう言う事!?)

私達は顔を見合わせた。ディーンもグローシアも戸惑っている。

「それだけじゃ無くてよ。学園の教師達。省庁の職員。それに入院していた病院の職員や医師達もね・・・ふふふ。リーツもあちこちで精神魔術をかけているはずだから、数はもっと増えるわ。そして起爆剤はセルナクのアンファエルン皇国への宣戦布告。皇国の中には我知らず、国を裏切る者が多発すると言う仕掛けよ」

サーっと血の気が引く思いだった。

セルナクはやっぱり皇国に戦争をしかけようとしている。そしてモーガン先生と黒フード・・・リーツと言う男を使って、とんでもない罠を仕掛けようとしてるのだ。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...