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最終章 悪役令嬢は・・・
18(クリフ目線)
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ハッと気付くと、俺は地下牢の固い石の床に倒れていた。
「ぐ・・・痛ぅ・・・」
壁に叩きつけられた衝撃で、どうやらアバラを何本かやられたらしい。
「ア、アリアナは・・・?」
くらくらする頭を押さえながら、俺は部屋の中を見回した。そして入口に赤い髪の女が倒れているのを見てギョッとする。
「エメライン!」
慌てて起き上がると、全身に痛みが走る。気合で身構えたが、エメラインのは横たわったままピクリとも動かない。
「まさか・・・」
警戒しつつ近づくと、彼女は生気のない顔でぐったりとしている。呼吸はしている様だが、その様子に違和感を感じた。
(なんだこれは・・・?)
彼女から生きている人間の気配がしない。まるで空っぽの人形のようだ。ゾクリと嫌な予感が背中を走る。
(アリアナはどこだ!?)
俺は急いで牢屋から出ると、痛む身体を引きずるようにして階段を登る。
(くそっ!)
回復の魔術が使え無い自分に、苛立ちを覚えた。
やっとの思いで階段を登り切る。そして廊下の角を曲がった所で、運の悪い事に巡回中の兵士達と行き会ってしまった。
知らぬ顔で反対方向へ逃げようとしたが、
「おい!そこの女!」
と呼び止められてしまった。
(ちっ・・・)
仕方なく振り向くと、兵士達の顔に驚愕の表情が浮かんだ。
(・・・何だ?)
そこでやっと、さっき吹っ飛ばされた時にカツラが落ちてしまっていた事に気付いた。
(しまった!バレた!)
そう思っ身構えて魔術を使おうとしたが、兵士たちの様子がおかしい。敵意を感じられない上に、顔を真っ赤にさせている奴もいる。
(なんだこいつら?酒でも飲んでいるのか?)
訝しく思っていると、リーダーらしき男がやたらと咳ばらいをしながら話しかけて来た。
「あ・・・えー、どちらかのご令嬢の侍女の方ですかな?お、お怪我をなさっているようですが、大丈夫でしょうか?」
(バレていない!!?)
何よりもその事に衝撃を受けて、俺は数歩よろめいてしまった。
「あ、危ない!」
兵士の一人が素早く俺の腕を支えた。至近距離に冷や汗が落ちる。
「あ、ありがとう・・・ございます・・・」
掠れる声で礼を言いいながら、俺は困惑し続けた。
(なんで気付かないんだよ!?男と女の区別がつかない程、こいつらの目は馬鹿なのか?やっぱり酔っぱらっているのか?それともこの国の女は髪が短かくて普通なのか!?)
もしかして精神魔術に支配されて、思考力まで無くなっているのだろうかとまで考えてしまう。
兵士たちは巡回の途中だろうに一向に去ろうとしない。それに俺の方をチラチラ見ては、赤面しながらもじもじする。その様子が気色悪い。
(くそっ・・・どうするか)
男だとバレていないのなら有難いが、いつまでもこうしてはいられない。
そこで一計を講じてみる事にした。
俺は額を押さえて「ああ・・・」と座り込んだ。
「侍女殿!大丈夫ですかな!」
リーダーの男が慌てて俺の横に跪く。顔を覗きこむ鼻息が荒い。俺は吐き気を我慢して芝居を続けた。
「ち、地下の牢屋に狼藉者が・・・。エメライン様が襲われて倒れております。早く救助に行ってくださいませ・・・」
「な、なんですと!?お、おい、お前達、地下牢に急げ!エメライン様をお救いするのだ!」
「は、はい!」
兵士達は慌てて走って行く。しかしリーダーの男だけが俺の傍から離れてくれなかった。
「・・・あ、あの・・・どうか貴方様もエメライン様のところへ・・・」
「いえ!怪我をしているご婦人を放ってはおけませんからな。私が医務官の所までお送りいたしましょう!」
赤い顔で鼻息荒く肩を抱いてくる。一気に身体に鳥肌が立った。
「おお!震えておられる。もう大丈夫ですぞ。私がついていまおりますから。・・・もしかして、暴漢に御髪を切られてしまったのでは!?貴女の様な美しい方になんたる狼藉!」
嫌らしい顔で腰に手を回されて、そこまでが限界だった。
「気色悪い手で触んな、この下衆!」
俺は男の顔面に思いっきり拳をぶつけ、みぞおちに蹴りを入れた。
「がふんっ!」
変な声を上げて男は簡単にひっくり返った。
「あ~・・・くそっ!」
俺は痛むあばらを押さえながら、伸びてる男を見下ろす。
(このまま転がしとくと、見つかった時面倒だな・・・)
なんとか男を引きずって、空き部屋の中に引きずり入れ、俺は男の身ぐるみを剥がして侍女の服を着替えた。化粧もついでに拭き取る。
(ふう・・・もうスカートはごめんだ)
俺は兵士の恰好で廊下を進む。とにかくトラヴィス殿下達と合流しなくては。
その時、どこかで争う様な声が聞こえた。
(どっちだ!?)
声の聞こえる方に向かおうとして、足がもつれて膝を付いてしまった。息を吸う度に脇腹が鋭く痛む。
(アリアナを守るって約束したのに・・・)
自分の不甲斐なさに唇を噛みしめる。これじゃディーンに顔向けが出来ない。
かすかにトラヴィス殿下とリリーの声が聞こえた気がした。
「・・・動けっ!」
俺は萎えそうになる自分の足を叩いて、壁をつたいながら彼らの元へ急いだ。
「ぐ・・・痛ぅ・・・」
壁に叩きつけられた衝撃で、どうやらアバラを何本かやられたらしい。
「ア、アリアナは・・・?」
くらくらする頭を押さえながら、俺は部屋の中を見回した。そして入口に赤い髪の女が倒れているのを見てギョッとする。
「エメライン!」
慌てて起き上がると、全身に痛みが走る。気合で身構えたが、エメラインのは横たわったままピクリとも動かない。
「まさか・・・」
警戒しつつ近づくと、彼女は生気のない顔でぐったりとしている。呼吸はしている様だが、その様子に違和感を感じた。
(なんだこれは・・・?)
彼女から生きている人間の気配がしない。まるで空っぽの人形のようだ。ゾクリと嫌な予感が背中を走る。
(アリアナはどこだ!?)
俺は急いで牢屋から出ると、痛む身体を引きずるようにして階段を登る。
(くそっ!)
回復の魔術が使え無い自分に、苛立ちを覚えた。
やっとの思いで階段を登り切る。そして廊下の角を曲がった所で、運の悪い事に巡回中の兵士達と行き会ってしまった。
知らぬ顔で反対方向へ逃げようとしたが、
「おい!そこの女!」
と呼び止められてしまった。
(ちっ・・・)
仕方なく振り向くと、兵士達の顔に驚愕の表情が浮かんだ。
(・・・何だ?)
そこでやっと、さっき吹っ飛ばされた時にカツラが落ちてしまっていた事に気付いた。
(しまった!バレた!)
そう思っ身構えて魔術を使おうとしたが、兵士たちの様子がおかしい。敵意を感じられない上に、顔を真っ赤にさせている奴もいる。
(なんだこいつら?酒でも飲んでいるのか?)
訝しく思っていると、リーダーらしき男がやたらと咳ばらいをしながら話しかけて来た。
「あ・・・えー、どちらかのご令嬢の侍女の方ですかな?お、お怪我をなさっているようですが、大丈夫でしょうか?」
(バレていない!!?)
何よりもその事に衝撃を受けて、俺は数歩よろめいてしまった。
「あ、危ない!」
兵士の一人が素早く俺の腕を支えた。至近距離に冷や汗が落ちる。
「あ、ありがとう・・・ございます・・・」
掠れる声で礼を言いいながら、俺は困惑し続けた。
(なんで気付かないんだよ!?男と女の区別がつかない程、こいつらの目は馬鹿なのか?やっぱり酔っぱらっているのか?それともこの国の女は髪が短かくて普通なのか!?)
もしかして精神魔術に支配されて、思考力まで無くなっているのだろうかとまで考えてしまう。
兵士たちは巡回の途中だろうに一向に去ろうとしない。それに俺の方をチラチラ見ては、赤面しながらもじもじする。その様子が気色悪い。
(くそっ・・・どうするか)
男だとバレていないのなら有難いが、いつまでもこうしてはいられない。
そこで一計を講じてみる事にした。
俺は額を押さえて「ああ・・・」と座り込んだ。
「侍女殿!大丈夫ですかな!」
リーダーの男が慌てて俺の横に跪く。顔を覗きこむ鼻息が荒い。俺は吐き気を我慢して芝居を続けた。
「ち、地下の牢屋に狼藉者が・・・。エメライン様が襲われて倒れております。早く救助に行ってくださいませ・・・」
「な、なんですと!?お、おい、お前達、地下牢に急げ!エメライン様をお救いするのだ!」
「は、はい!」
兵士達は慌てて走って行く。しかしリーダーの男だけが俺の傍から離れてくれなかった。
「・・・あ、あの・・・どうか貴方様もエメライン様のところへ・・・」
「いえ!怪我をしているご婦人を放ってはおけませんからな。私が医務官の所までお送りいたしましょう!」
赤い顔で鼻息荒く肩を抱いてくる。一気に身体に鳥肌が立った。
「おお!震えておられる。もう大丈夫ですぞ。私がついていまおりますから。・・・もしかして、暴漢に御髪を切られてしまったのでは!?貴女の様な美しい方になんたる狼藉!」
嫌らしい顔で腰に手を回されて、そこまでが限界だった。
「気色悪い手で触んな、この下衆!」
俺は男の顔面に思いっきり拳をぶつけ、みぞおちに蹴りを入れた。
「がふんっ!」
変な声を上げて男は簡単にひっくり返った。
「あ~・・・くそっ!」
俺は痛むあばらを押さえながら、伸びてる男を見下ろす。
(このまま転がしとくと、見つかった時面倒だな・・・)
なんとか男を引きずって、空き部屋の中に引きずり入れ、俺は男の身ぐるみを剥がして侍女の服を着替えた。化粧もついでに拭き取る。
(ふう・・・もうスカートはごめんだ)
俺は兵士の恰好で廊下を進む。とにかくトラヴィス殿下達と合流しなくては。
その時、どこかで争う様な声が聞こえた。
(どっちだ!?)
声の聞こえる方に向かおうとして、足がもつれて膝を付いてしまった。息を吸う度に脇腹が鋭く痛む。
(アリアナを守るって約束したのに・・・)
自分の不甲斐なさに唇を噛みしめる。これじゃディーンに顔向けが出来ない。
かすかにトラヴィス殿下とリリーの声が聞こえた気がした。
「・・・動けっ!」
俺は萎えそうになる自分の足を叩いて、壁をつたいながら彼らの元へ急いだ。
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