モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

文字の大きさ
271 / 284
最終章 悪役令嬢は・・・

19

しおりを挟む
気が付くと真っ暗闇だった。

あれからどれくらいの時間が経ったのか。

凄く長い時間だった気がするし、逆にあっという間だった様な気もする。

(どこだここ・・・?)

何も見えないし聞こえない。そして暗闇のくせに自分の姿がはっきりと見えるのが不可解だった。

なのに不思議とこの場所に見覚えがある。

(いつだったか・・・前に来た事がある・・・多分、私がアリアナになる前に・・・)

そんな風に考えた途端、後ろに気配を感じて慌てて振り返った。

「え?」

私の後ろで震えている一人の少女。

「アリアナ!?」

「・・・怖い・・・」

アリアナは泣きながら私にしがみついて来た。

「怖いの!・・・このままでは私達・・・」

その様子を見て、私もじわじわと恐怖を感じ始めていた。

(思い出した・・・ここは!)

自分がアリアナになる前に一度通った。

(そうだ!私は前の世界の生を終えて、ここに来た!そして、その時何か強い力に引っ張られて・・・気が付いたらアリアナになってたんだ!)

絶望的な気分で私は目線を上げた。まだ遠い少し先に、かすかに光の渦が見える。さっきまでは無かったものだ。それが少しずつ近づいてくる。

(や、やばい・・・)

それが何かは分からなかったけど、追いつかれたら終わりだと言う事だけ理解できた。

「ア、アリアナ!逃げよう」

私は彼女を引っ張って、光とは反対の方へ進もうとした。だけど、

「む、無理だわ・・・わたくし動けませんわ・・・」

アリアナがへなへたと座り込んでしまう。確かにあの光を見ると力が抜けるような、そして引っ張られる感覚があった。

(ええいっ!)

私は思い切ってアリアナを抱きあげる。意識の世界と同じように、ここでは私の身体は前の世界の身体になっていた。小柄なアリアナならなんとかなりそう。

「・・・リナ・・・」

「逃げるよ!」

彼女を抱えて光から逃げる為に走った。

しばらく必死で走って、やっと光が見えなくなった所で私はアリアナを降ろして座り込んだ。

「は・・・はぁ・・・つ、つっかれた・・・」

肉体は無いはずなのに、この疲労感は何なんなんだ!?

(と・・とりあえず・・・少しは・・・離れたはず・・・)

ひっくり返ってぜーぜー言ってる私をリナが揺すった。

「リナ・・・誰か居ますわ」

不安そうに私の腕をギュッと握った。

「・・・えっ・・・?」

驚いて身体を起こし、アリアナが指さす方を見ると、そこにはドレスの女性がうずくまっている。

(だ、誰?なんでここに?)

もしかしてこの人も、あの光の渦から逃げて来たのだろうか?

私はアリアナを後ろに庇いながら、ドレスの女性に近づいた。そして近くでその姿を見てドキリとする。

「エ、エメライン王女!?」

私の声にビクッと肩を揺らし、深紅の髪を揺らしながらエメラインは顔を上げた。その顔には涙の筋と共に疲労と絶望が滲んでいた。

「・・・助けて・・・」

いつもの居丈高な様子は無く、恐怖に身体を震わせながら這い寄って来る。

「どうしても、ここから出る事が出来ないの・・・。逃げても逃げても、あの光が追いかけてくる・・・。どうして!?わたくしはまだ、こんな所に来るはずじゃ・・・」

嗚咽と漏らしながらエメラインは顔を両手で覆う。

(牢獄に来た時、エメラインの身体はエンリルに乗っ取られていた。多分、この人もエンリルの精神魔術でここに飛ばされたんだ!・・・と言う事はだ・・・)

私は最悪の状況に思い至った。

「マジか!?」

(私達もここに飛ばされているってことは、つまりエンリルはアリアナの身体にいるって事!?)

こんなの自力で身体に戻る方法なんて分からないぞ。万事休すかよ!?

「う・・・ううう」

「アリアナ?」

私の背中にぴったりくっ付いたまま、アリアナがすすり上げている。

「わ、わたくし・・・貴女と一つになるのは怖く無いけど、あの光は恐ろしいですわ。ま、まだ生きる事に未練がございますもの・・・」

そう言ってさめざめと泣き続ける。

そして私の目の前ではエメラインが、

「嫌よ!わたくしだって、まだ若いのよ!美しくて、王女で、才能もあるわたくしがどうしてなのよ!トラヴィス様と結婚できなくたっていいから戻りたい・・・戻りたいのよぉ~」

と号泣し始めた。

私達よりも長い間あの光から逃げ続けていたのだろう、彼女は心底疲れ切っているようだった。それでもまだ光に捕まっていないのは、彼女が並外れた魔力の持ち主だからかもしれない。

そしてエメラインは私の腕にすがりながら、

「ねぇ!貴女、ここに来れたのなら、私を連れて戻って、お願いだから!」

背中ではアリアナが、

「わたくしも戻りたい。ここは嫌。あの光に取り込まれるのは嫌よ!」

悪役令嬢達に挟まれながら泣きつかれて、いったいどうすりゃいいんじゃい!?

私は途方にくれてしまった。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...