20 / 20
悲劇の悪役令嬢は回帰して王太子を人柱に
20 最終話
しおりを挟む
✦12:00 AM~ 王太子を人柱に
(三人称視点)
「新しい龍祈殿の人柱として選ばれし者が、その命を神に捧げる」
大神官の声が、石造りの神殿に低く響いた。
龍祈殿の中央には、龍の鱗を模した白い円形台座が設置されている。
その正面では、御神体である巨大な龍の石像が厳かに祀られていた。
その台座へと向かい、リディアは静かに石の階段を上った。冷たい石の感触が足に伝わる中、彼女は無言のまま中央に立ち、身を正す。
「死を恐れるな。神と一体になるための聖なる儀式だ。さあ、行くがいいリディア。これこそが、真の信仰のかたちなのだ」
大神官の言葉に、リディアは両手を組み瞳を閉じる。
そして、深く息を吸い込み、魂のすべてを注ぎ込むように祈りを捧げた。
その瞬間、神殿内の空気が急激に変化した。
「ゴォォォ……ッ」
龍神の石像が地の底から響くような唸り声を発すると、音の波が神殿の隅々まで震撼を与えた。
天井の大理石が軋み、砂塵が舞い落ちる。
壁に刻まれた聖紋もわずかに光を帯び、揺れていた。
「っ……神が、動いている……!」
神官たちは顔を青ざめさせ、奥に控えていた信徒たちも恐怖に駆られ後退る。
リディアは祈りを続けながら、体内に秘めた魔力を静かに解き放った。
紫紺の光が指先からあふれ出し、空間を包み込んでいく。
龍神の眼は鮮紅に染まり、力強く輝き始めた。
石像が軋みながらゆっくりと首を振り、神殿の内を見渡す。
そして、次の瞬間……
地の底から響くような重低音が空気を貫いた。
「……我は、龍神なり」
その声は雷鳴のように轟き、神殿の奥まで到達する。
「千年の時を巡り、無数の魂を喰らいし神霊。我が意にそぐわぬ供物など、要らぬ」
玉座の脇にいたレオンハルトは、言葉を失って床に膝をつき、肩を震わせながら泡を噛むように座り込んでいた。
神官たちは腰を抜かし、祈りを忘れてただブルブルと震えている。
儀式の厳かな雰囲気は一瞬で恐怖のそれへと反転し、空気が凍りついていく。
龍神はゆっくりと首をめぐらせながら、神殿の隅々まで視線を這わせるように見回す。そして、再び言葉を発した。
「今この刻、神に捧ぐにふさわしき真の人柱となる生贄を差し出せ。然らずば、この大地と民すべてを供物とする」
龍神の言葉が神殿に重々しく響き渡ると、空気が張り詰め、場の誰もが凍りついた。
大神官は一歩も動けず、唇を震わせながら視線を泳がせる。やがて、絞り出すような声で龍神に答えた。
「そ、そ……そこに……い、いる……リ、リディアが……人柱となる供え物でございます……」
その言葉と同時に、すべての視線が台座に向けられる。
神殿が震撼する中、ただひとりリディアだけが微動だにせず、台座の前にすっと身を正していた。
彼女の姿は、まるで神意を受け入れる器のように静かだった。
龍神の石像は赤い眼光を灯したまま、雷鳴のごとき声を轟かせる。
「お前は、聖女か?」
その問いに対し、リディアは冷ややかな沈黙を破って頭を垂れた。
「いいえ。私は元・聖女でございます。今は祈りの力を失いました」
その返答を受け、龍神の眼はさらに赤く燃え上がる。
空気が震え、神殿の床には亀裂が走った。
「ひぇ……っ!」
足元のひび割れに誰かが驚き、悲鳴が上がる。
龍神の首がゆっくりと動き、大神官の方へと向けられた。
「なぜ、聖女でないまがい者を我に捧げる?」
大神官長の顔は土気色になり、つっかえながら必死に弁明した。
「そ、そ、それは……この者が……龍神様の怒りを買ったがため……」
「本物の聖女は、どこだ!」
龍神の怒声が轟いたその瞬間、龍祈殿の奥で微かな悲鳴が上がった。
「せ、聖女は……」
「わ、私は違うわ! 聖女なんかじゃ……!」
アイラの声だった。
いつの間にか、彼女は儀式の場から離れ、人々の背後に身を隠していた。その小さな肩は震え、顔を覆うようにうつむいたまま動こうとしない。
騒然とする中、神官のひとりが声を上げた。
「あ……新しい聖女は……アイラです!」
「ひ……っ!」
名を呼ばれた瞬間、アイラの声が神殿に響く。
「やめて! 違うわ! 私は聖女なんかじゃない!」
「ここへ来い」
龍神は神だ、従わなければならない。
けれど、アイラの足は根を張ったように動かず、瞳には恐怖が宿り、指先も痙攣するほどに震えていた。
だが次の瞬間。
彼女の身体がふわりと浮き上がった。何の前触れもなく、まるで重力が消えたかのように。空中をすべりながら、アイラは龍祈殿の空気を切り、台座の前へと引き寄せられていく。
「ひっ……う、うそ……!」
彼女の体は、静かに台座へと降ろされる。
神前に身を捧げるように、アイラは龍神の射るような眼差しの下へと導かれた。
龍神の眼が彼女を見下ろし、赤光が龍祈殿を染め上げる。
誰もがその光景に息を呑み、神威の前に膝をついて沈黙した。
「災いをなくし、民を幸せに導きたいという願い。叶えてやろう」
龍祈殿が静まり返る。
「だが、新しき龍祈殿の人柱となる者は、民の幸せを最も強く願い、そのために命を惜しまず捧げられる者でなければならぬ。その責を負える者のみが、神に近づけるのだ」
神殿に響き渡る言葉に、神官たちすら息を止める。
「どうだ、新しき聖女とやら。その者に己は相応しいか?」
台座の上で震えるアイラは、かすれ声を押し出すように答えた。
「い、いえ……私は責任とか、そんな……立場では……ありません……」
「ならば、誰が相応しい?」
場の空気が張り詰める。
迷うようにアイラの視線がさまよい、やがて恐る恐るリディアへと向けられる。
そこで、龍神がまた声を発した。
「間違うな。選びを誤れば、汝の命はここで終わる。言葉を慎重に選べ」
足元には稲妻のような魔光が走り、空気が一段と緊張を帯びた。
アイラは誰かを指名するしかなかった。
国民の幸せを願い、その責任を負うべき立場にあるものを。
追い詰められた彼女の瞳が、ゆっくりとレオンハルトを捉える。
「お……王太子殿下です!!」
その叫びが空間に響いた瞬間。
龍祈殿全体に衝撃波が走ったように、神殿の空気が軋んだ。
神官たちは息を呑み、地鳴りのような音が響く中、レオンハルトは呆然と目を見開いた。
その言葉の意味と重みに思考が追いつかず、ただ恐怖と混乱に呑まれていた。
龍神の視線が鋭く王太子を捉えた。
「な、な……なにを言っているんだ……アイラ……っ!」
立ち上がろうとしたレオンハルトの足元が揺れ、膝が崩れそうになる。
身体の奥底から怒りがこみ上げるが、それ以上に恐怖が体中を支配した。
「……我を神に捧げるだと? 貴様が……我の婚約者でありながら……!」
怒りに染まる顔、震える指先が空を切るように力を込めて握られる。
「裏切ったのか……アイラ……!」
その声は痛みを帯びていた。
神官たちは沈黙し、後ずさる者もいた。
王太子の心が砕け散る音が、確かに場にいた全員の耳に届いた。
リディアが台座の前に静かに立ち、姿勢を正し、ゆっくりと話し始めた。
「神と一体になるための聖なる犠牲です。あなたは神に選ばれし者。その運命は、国民の幸福と安寧を願う高潔なる犠牲です。最も尊き誇りであり、称えられるべき名誉。どうかその使命を受け入れ、国の未来の礎、人柱として、その身を神に捧げてください」
リディアの声が、龍祈殿の天井にまで響き渡った。
「それでは、王太子を人柱に」
その言葉が空間に放たれた瞬間、すべての音が掻き消えた。
空気はぴたりと静止し、神官たちも信徒たちも誰ひとりとして身を動かせない。
目を見開いたまま、まるで時間そのものが止まったかのようだった。
「リ……リディア……」
レオンハルトのかすれた声が、誰にも届かぬほど小さく漏れた。
龍神の眼がゆっくりと王太子を捉え、赤く燃える光が彼の影を長く伸ばした。
その重圧に、神殿は再び軋み始める。
そして龍神が低く、地鳴りのような声を放った。
「供物として、ふさわしき者。その名、受け取った」
―――おわり―――
【おまけ】
アイラは聖女の任を自ら辞退したのち、神に背を向けたことへの罰のように、民衆からの信頼をすべて失った。
王太子を指名したあの日の罪は、神殿を越えて広まり、彼女の名は哀れにも街の嘲笑の的となった。
一方、神官たちの過去は新聞によって暴かれた。癒着、収賄、民衆を欺いた儀式の捏造。そのすべてが白日の下に晒され、聖職者としての尊厳は完全に失われた。
大神官もまた、横領や司祭としての無能が告発され、国外追放の処分を受けた。
そうして、国は革命軍の手によって王政を終わらせた。
華やかだった玉座は砕け散り、新たな共和制のもとに、民が主役となる国が築かれた。
その構造にはもう「聖女」の役割はなかった。
“神に選ばれし者”という概念は、血と犠牲の象徴にすぎなかったからだ。
そして……
かつて人柱として指名されたリディアは、沈黙のまま神殿を後にした。
「さようなら、神々の檻よ」
彼女は最後にそう呟き、転移魔法を発動する。
足元に広がる魔法陣が光を帯び、彼女の姿は瞬きの間に消え去った。
以後、リディアの名は、各地の書物の中にしか存在しない。
極寒の砂漠で氷龍と踊った話、天空都市で風と契約を交わした伝説、呪われた深海で古代魔法を修復した記録。
彼女は世界を駆け巡り、残す足跡すら、そよ風のように微かだ。
神に捧げられるはずだった命が、神々の舞台を越えて自由に跳ねる物語になった。
新たな空の下で、リディアは笑っていた。
おしまい
(三人称視点)
「新しい龍祈殿の人柱として選ばれし者が、その命を神に捧げる」
大神官の声が、石造りの神殿に低く響いた。
龍祈殿の中央には、龍の鱗を模した白い円形台座が設置されている。
その正面では、御神体である巨大な龍の石像が厳かに祀られていた。
その台座へと向かい、リディアは静かに石の階段を上った。冷たい石の感触が足に伝わる中、彼女は無言のまま中央に立ち、身を正す。
「死を恐れるな。神と一体になるための聖なる儀式だ。さあ、行くがいいリディア。これこそが、真の信仰のかたちなのだ」
大神官の言葉に、リディアは両手を組み瞳を閉じる。
そして、深く息を吸い込み、魂のすべてを注ぎ込むように祈りを捧げた。
その瞬間、神殿内の空気が急激に変化した。
「ゴォォォ……ッ」
龍神の石像が地の底から響くような唸り声を発すると、音の波が神殿の隅々まで震撼を与えた。
天井の大理石が軋み、砂塵が舞い落ちる。
壁に刻まれた聖紋もわずかに光を帯び、揺れていた。
「っ……神が、動いている……!」
神官たちは顔を青ざめさせ、奥に控えていた信徒たちも恐怖に駆られ後退る。
リディアは祈りを続けながら、体内に秘めた魔力を静かに解き放った。
紫紺の光が指先からあふれ出し、空間を包み込んでいく。
龍神の眼は鮮紅に染まり、力強く輝き始めた。
石像が軋みながらゆっくりと首を振り、神殿の内を見渡す。
そして、次の瞬間……
地の底から響くような重低音が空気を貫いた。
「……我は、龍神なり」
その声は雷鳴のように轟き、神殿の奥まで到達する。
「千年の時を巡り、無数の魂を喰らいし神霊。我が意にそぐわぬ供物など、要らぬ」
玉座の脇にいたレオンハルトは、言葉を失って床に膝をつき、肩を震わせながら泡を噛むように座り込んでいた。
神官たちは腰を抜かし、祈りを忘れてただブルブルと震えている。
儀式の厳かな雰囲気は一瞬で恐怖のそれへと反転し、空気が凍りついていく。
龍神はゆっくりと首をめぐらせながら、神殿の隅々まで視線を這わせるように見回す。そして、再び言葉を発した。
「今この刻、神に捧ぐにふさわしき真の人柱となる生贄を差し出せ。然らずば、この大地と民すべてを供物とする」
龍神の言葉が神殿に重々しく響き渡ると、空気が張り詰め、場の誰もが凍りついた。
大神官は一歩も動けず、唇を震わせながら視線を泳がせる。やがて、絞り出すような声で龍神に答えた。
「そ、そ……そこに……い、いる……リ、リディアが……人柱となる供え物でございます……」
その言葉と同時に、すべての視線が台座に向けられる。
神殿が震撼する中、ただひとりリディアだけが微動だにせず、台座の前にすっと身を正していた。
彼女の姿は、まるで神意を受け入れる器のように静かだった。
龍神の石像は赤い眼光を灯したまま、雷鳴のごとき声を轟かせる。
「お前は、聖女か?」
その問いに対し、リディアは冷ややかな沈黙を破って頭を垂れた。
「いいえ。私は元・聖女でございます。今は祈りの力を失いました」
その返答を受け、龍神の眼はさらに赤く燃え上がる。
空気が震え、神殿の床には亀裂が走った。
「ひぇ……っ!」
足元のひび割れに誰かが驚き、悲鳴が上がる。
龍神の首がゆっくりと動き、大神官の方へと向けられた。
「なぜ、聖女でないまがい者を我に捧げる?」
大神官長の顔は土気色になり、つっかえながら必死に弁明した。
「そ、そ、それは……この者が……龍神様の怒りを買ったがため……」
「本物の聖女は、どこだ!」
龍神の怒声が轟いたその瞬間、龍祈殿の奥で微かな悲鳴が上がった。
「せ、聖女は……」
「わ、私は違うわ! 聖女なんかじゃ……!」
アイラの声だった。
いつの間にか、彼女は儀式の場から離れ、人々の背後に身を隠していた。その小さな肩は震え、顔を覆うようにうつむいたまま動こうとしない。
騒然とする中、神官のひとりが声を上げた。
「あ……新しい聖女は……アイラです!」
「ひ……っ!」
名を呼ばれた瞬間、アイラの声が神殿に響く。
「やめて! 違うわ! 私は聖女なんかじゃない!」
「ここへ来い」
龍神は神だ、従わなければならない。
けれど、アイラの足は根を張ったように動かず、瞳には恐怖が宿り、指先も痙攣するほどに震えていた。
だが次の瞬間。
彼女の身体がふわりと浮き上がった。何の前触れもなく、まるで重力が消えたかのように。空中をすべりながら、アイラは龍祈殿の空気を切り、台座の前へと引き寄せられていく。
「ひっ……う、うそ……!」
彼女の体は、静かに台座へと降ろされる。
神前に身を捧げるように、アイラは龍神の射るような眼差しの下へと導かれた。
龍神の眼が彼女を見下ろし、赤光が龍祈殿を染め上げる。
誰もがその光景に息を呑み、神威の前に膝をついて沈黙した。
「災いをなくし、民を幸せに導きたいという願い。叶えてやろう」
龍祈殿が静まり返る。
「だが、新しき龍祈殿の人柱となる者は、民の幸せを最も強く願い、そのために命を惜しまず捧げられる者でなければならぬ。その責を負える者のみが、神に近づけるのだ」
神殿に響き渡る言葉に、神官たちすら息を止める。
「どうだ、新しき聖女とやら。その者に己は相応しいか?」
台座の上で震えるアイラは、かすれ声を押し出すように答えた。
「い、いえ……私は責任とか、そんな……立場では……ありません……」
「ならば、誰が相応しい?」
場の空気が張り詰める。
迷うようにアイラの視線がさまよい、やがて恐る恐るリディアへと向けられる。
そこで、龍神がまた声を発した。
「間違うな。選びを誤れば、汝の命はここで終わる。言葉を慎重に選べ」
足元には稲妻のような魔光が走り、空気が一段と緊張を帯びた。
アイラは誰かを指名するしかなかった。
国民の幸せを願い、その責任を負うべき立場にあるものを。
追い詰められた彼女の瞳が、ゆっくりとレオンハルトを捉える。
「お……王太子殿下です!!」
その叫びが空間に響いた瞬間。
龍祈殿全体に衝撃波が走ったように、神殿の空気が軋んだ。
神官たちは息を呑み、地鳴りのような音が響く中、レオンハルトは呆然と目を見開いた。
その言葉の意味と重みに思考が追いつかず、ただ恐怖と混乱に呑まれていた。
龍神の視線が鋭く王太子を捉えた。
「な、な……なにを言っているんだ……アイラ……っ!」
立ち上がろうとしたレオンハルトの足元が揺れ、膝が崩れそうになる。
身体の奥底から怒りがこみ上げるが、それ以上に恐怖が体中を支配した。
「……我を神に捧げるだと? 貴様が……我の婚約者でありながら……!」
怒りに染まる顔、震える指先が空を切るように力を込めて握られる。
「裏切ったのか……アイラ……!」
その声は痛みを帯びていた。
神官たちは沈黙し、後ずさる者もいた。
王太子の心が砕け散る音が、確かに場にいた全員の耳に届いた。
リディアが台座の前に静かに立ち、姿勢を正し、ゆっくりと話し始めた。
「神と一体になるための聖なる犠牲です。あなたは神に選ばれし者。その運命は、国民の幸福と安寧を願う高潔なる犠牲です。最も尊き誇りであり、称えられるべき名誉。どうかその使命を受け入れ、国の未来の礎、人柱として、その身を神に捧げてください」
リディアの声が、龍祈殿の天井にまで響き渡った。
「それでは、王太子を人柱に」
その言葉が空間に放たれた瞬間、すべての音が掻き消えた。
空気はぴたりと静止し、神官たちも信徒たちも誰ひとりとして身を動かせない。
目を見開いたまま、まるで時間そのものが止まったかのようだった。
「リ……リディア……」
レオンハルトのかすれた声が、誰にも届かぬほど小さく漏れた。
龍神の眼がゆっくりと王太子を捉え、赤く燃える光が彼の影を長く伸ばした。
その重圧に、神殿は再び軋み始める。
そして龍神が低く、地鳴りのような声を放った。
「供物として、ふさわしき者。その名、受け取った」
―――おわり―――
【おまけ】
アイラは聖女の任を自ら辞退したのち、神に背を向けたことへの罰のように、民衆からの信頼をすべて失った。
王太子を指名したあの日の罪は、神殿を越えて広まり、彼女の名は哀れにも街の嘲笑の的となった。
一方、神官たちの過去は新聞によって暴かれた。癒着、収賄、民衆を欺いた儀式の捏造。そのすべてが白日の下に晒され、聖職者としての尊厳は完全に失われた。
大神官もまた、横領や司祭としての無能が告発され、国外追放の処分を受けた。
そうして、国は革命軍の手によって王政を終わらせた。
華やかだった玉座は砕け散り、新たな共和制のもとに、民が主役となる国が築かれた。
その構造にはもう「聖女」の役割はなかった。
“神に選ばれし者”という概念は、血と犠牲の象徴にすぎなかったからだ。
そして……
かつて人柱として指名されたリディアは、沈黙のまま神殿を後にした。
「さようなら、神々の檻よ」
彼女は最後にそう呟き、転移魔法を発動する。
足元に広がる魔法陣が光を帯び、彼女の姿は瞬きの間に消え去った。
以後、リディアの名は、各地の書物の中にしか存在しない。
極寒の砂漠で氷龍と踊った話、天空都市で風と契約を交わした伝説、呪われた深海で古代魔法を修復した記録。
彼女は世界を駆け巡り、残す足跡すら、そよ風のように微かだ。
神に捧げられるはずだった命が、神々の舞台を越えて自由に跳ねる物語になった。
新たな空の下で、リディアは笑っていた。
おしまい
967
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(25件)
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されないと知った時、私は
yanako
恋愛
私は聞いてしまった。
彼の本心を。
私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。
父が私の結婚相手を見つけてきた。
隣の領地の次男の彼。
幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。
そう、思っていたのだ。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
〖完結〗その愛、お断りします。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚して一年、幸せな毎日を送っていた。それが、一瞬で消え去った……
彼は突然愛人と子供を連れて来て、離れに住まわせると言った。愛する人に裏切られていたことを知り、胸が苦しくなる。
邪魔なのは、私だ。
そう思った私は離婚を決意し、邸を出て行こうとしたところを彼に見つかり部屋に閉じ込められてしまう。
「君を愛してる」と、何度も口にする彼。愛していれば、何をしても許されると思っているのだろうか。
冗談じゃない。私は、彼の思い通りになどならない!
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?
ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。
一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?
〖完結〗親友だと思っていた彼女が、私の婚約者を奪おうとしたのですが……
藍川みいな
恋愛
大好きな親友のマギーは、私のことを親友だなんて思っていなかった。私は引き立て役だと言い、私の婚約者を奪ったと告げた。
婚約者と親友をいっぺんに失い、失意のどん底だった私に、婚約者の彼から贈り物と共に手紙が届く。
その手紙を読んだ私は、婚約発表が行われる会場へと急ぐ。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
前編後編の、二話で完結になります。
小説家になろう様にも投稿しています。
〖完結〗私との婚約を破棄?私達は婚約していませんよ?
藍川みいな
恋愛
「エリーサ、すまないが君との婚約を破棄させてもらう!」
とあるパーティー会場で突然、ラルフ様から告げられたのですが、
「ラルフ様……私とラルフ様は、婚約なんてしていませんよ?」
確かに昔、婚約をしていましたが、三年前に同じセリフで婚約破棄したじゃないですか。
設定はゆるゆるです。
本編7話+番外編1話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
11話のナタリー編が大好きです
時々読み返しますが、何度読んでも笑ってしまいます
口角を吊り上げ楽しみながら書かれたのではと想像し
作者様の意図に見事に乗せられいつも笑っています
面白い作品をありがとう😊
うわぁぁ!
ありがとうございます😊
全く内容を忘れてしまっていて、もう一度読み返しました。ああ、こういうザマァか!と、読者様の求めているものが少し分かったような気がしました。ありがとうございます😊勉強になります。
これ……書かねばならぬ作品です。筆が止まってしまっている(汗)
感想をいただけて大変嬉しくなり、勢いで行ける気もしてきました。
頑張ろ💪
愉快痛快!ますます先が楽しみです
これは、環境が腐り過ぎてたせいで力が制限されてたパターンですね。