【完結】転生したら侯爵令嬢だった~メイベル・ラッシュはかたじけない~

おてんば松尾

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学院でサーシャに捕まってしまった。


「お姉様!なぜ家を出て行かれたのですか?もう、話もできないなんて……」

数ヶ月避け続け、帰りも護衛付きの王宮の馬車で移動していたので、会わずに済めばと思っていたが流石に無理だったようだ。

まさに家出同然で侯爵家を出て行った状態。サーシャにしてみれば私と話がしたいと思っていたに違いない。

許可を得ずに私と話せるのは学院の中だけだ。そして、その機会は同じ学院に通うサーシャにしかない。

「サーシャ、私はファーレン先生と婚約したの。王家の一員になるのよ。学院内でも簡単に話しかけてはいけないわ」

私はできるだけ、実家の侯爵家の者とは接触しないよう配慮されていた。
前回私を監禁しようとした、お父様に対してとられた措置だ。


「なぜですか!姉妹なんだし。話もできないなんておかしいです」

「ごめんなさいね。聞いていると思うけれど、侯爵家とは今後、簡単には交流できないことになっているの」

サーシャは詳しいことは聞いていないのかもしれない。

「お母様も心配してます。王命だからと言って、実家に帰ってこられないなんておかしいですわ」

何度も侯爵家から、話をしたいと申し出があった。

「お父様も了承された事なのよ」

王命で婚約者になった者を拘束しようとしたこと自体、王家に対する反逆だ。
大ごとにしない代わりに、私からの許可を得なければ面談できない。

「お母様は、嫁入りの道具も結婚式のドレスも揃えられないと泣いています。お姉様のお部屋の物もそのままですし、何も持っていかないなんて変ですわ」

「全て必要な物は、ファーレン殿下が揃えて下さっています。結婚式の準備も必要ありません。次回王宮主催の舞踏会で、お父様やお母様にお会いできるでしょう」


「それでも……私はお姉様に相談したいことが山ほどあるのです。もしかして、私がレイン様の婚約者になってしまったから、それでそんな年上の殿下と結婚されるのですか?」

「年上と言ってもまだ二十代です。不敬ですよ」

私は困ったように眉をひそめ、サーシャを優しく窘めた。

「でも、図書室の先生だなんて……見たことはありますけど、あまりパッとしない地味な方でしたよね?」

「あなたは、自分の結婚の事だけを考えなさい。婚約したのでしょう?卒業を待たずに結婚をするのだから、忙しくなるでしょう」

サーシャは学院でも劣等生なので、結婚を機に学院は辞める予定だ。
レインは騎士科を卒業後、騎士にはならずに侯爵家の執務を手伝うことになったらしい。


「レイン様は、学院が終わると毎日侯爵家へ勉強に来ていらっしゃいます。これからはお姉様の代わりに執務を手伝われるらしいです」

「それは良かったわね。サーシャは?」

「私は、結婚したら、子供を産むことに専念するようにと言われましたわ」

そうでしょうね。

「良かったわね。これから忙しくなるでしょうから、私に構っている暇はないわ。頑張ってね」

無理やり会話を切り上げて、私はその場を後にした。


そして、二人の会話を、廊下の角でレインが聞いていることには気付かなかった。



***



放課後、私は王都の街の一番大きな書店へ来ていた。
自分が書いた物がどれくらい売れているのか、気になって読者の直接の意見が聞きたかった。

新しく出版された他の作家の小説も買うつもりだ。

自分のために買い物ができるのが嬉しく、自由な時間が持て幸せだった。


「メイベル」

横に誰かが立ったかと思ったら、レインだった。


「レイン……」

客かと思っていたが、まさかレインだったとは。
驚いて少し動揺した。

数メートル離れた位置に私の護衛がいる。
目で、大丈夫だと合図を送った。


「少しだけ話ができればと思って」

レインは、曇った表情で少しやつれているように見えた。


「書店の横に、休憩できるベンチがあるわ。外ですが。いいですかそちらで?」

そう言うと、私はレインを伴い店から出た。

楓の木がバランスよく配置され、小径には木製のベンチが置かれている。
ちょうど木陰ができていて、訪れる人々が静かに本を読むための場所になっている。


「今は侯爵家の執務を手伝っているんだ」

彼は自分の現状を話し始めた。

「とてもじゃないけど、僕一人では覚えきれない。言われたことをやってはいるけど、その……難しくて」

「大丈夫よ、時間はあるわ。ゆっくり覚えていけばいいでしょう」

「そういう訳にはいかないんだ!君と同じことを求められる。子供の頃から跡継ぎとして教育されたメイベルと僕は違うだろう。そもそも、僕は騎士科なんだから、経理とか、経営、その分野に関して疎い。専門的な話題についていけない」

レインの視線には助けを求める切望が込められていた。


「騎士にはならないのよね?」


「騎士になりたかったのに、君が婚約を拒否したからこんなことになった。突然の婚約者の変更で、サーシャが僕の婚約者になってしまった。正直、サーシャは話をしているだけなら可愛らしいし、傍においておけば明るく元気な気分になれる。だけど……」

「だけど?」


「全く役に立たない。百害あって一利なしで、執務を手伝いでもしたら、深刻な悪影響を及ぼす」

思わず吹き出しそうになった。
何とか堪えた。


「大丈夫よ。愛の力でなんとかすればいいでしょう?結婚したら、きっとすべて上手くいくわよ」


わたしは知った事かと思い立ち上がった。

「きょ、協力はできるだろう?少しの間だけでもいい。結婚するまででいいから、侯爵家の仕事を手伝ってもらえないだろうか」


「ああ……それ、無理」

私は淑女らしく微笑んで、背筋を伸ばし護衛と共に馬車へ向かった。


結婚すればうまくいくと言ったけど、結婚したらきっともっと地獄を見るわよ。
それに早く気が付くといいわね。


「なぜ!何故君はそんなに冷たいんだ。仮にも、サーシャは君の妹だろう。それに侯爵家は君の育った家だ」

「……」

「ラッシュ侯爵も、君の母上も、とても心配されている。そのまま全て放り投げて、無責任だと思わないのか」


「あなたは……今まで私の仕事を手伝って下さった事があるかしら?助けてくれたことはある?」

「え……?」


「お茶会や、パーティ、サーシャと一緒に観劇に行ったり、ショッピングしたり。さぞ、楽しかったでしょうね。私が忙しかったから、仕方がなかったのですよね。図書室での資料整理も手伝おうと思われた事はなかったの?できましたよね」

「そ、それは……」



「あなたは騎士科に行きたかったのよね?私が領地経営したかったと、本当に思っているのかしら?」




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