恋愛蜜度のはかり方

るうあ

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甘やかな日常 ◆◆維月視点

あまおと <R>

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 夜半、雨が降り始めていた。風も強い。
 だが窓の外に、俺も美鈴も関心を払いはしなかった。

 好都合ではある。
 雨と風が、マンションの防音壁の効果をさらにあげてくれるだろう。
 耐えきれず漏れる彼女の甘い嬌声を室内にこもらせ、愉悦に浸る。


 なんとなく無心してみる気になった。悪戯心はいつでも不意に湧く。
 ふと思いついたことではあるが、以前から頼んでみたい事だった。
「美鈴、頼みたいことがある」
 俺が言うと、美鈴は頼み事の内容も聞かず、「はい」と快諾して微笑んだ。
 ベッドの上、まだ互いに汗もひかず熱りの残った状態で横たわっているというのに、美鈴は軽々と俺の要望を容れようとする。蕩心しきって判断力が鈍っているのかもしれない。どんなことを頼まれるのか考えもしないようだ。警戒心の欠片もなく、俺の腕の中で弛緩した体を休めている。
 俺が体を起すと、美鈴も追いかけるようにして上半身を起した。薄いブランケットを手繰り寄せて前を隠す美鈴を、そのまま抱きしめた。
 美鈴の体はどこもかしこも柔らかく滑らかで、抱き心地がいい。乱れた髪からは甘い花の香りがする。額やうなじに、汗のせいではりついている髪を払ってやり、さらに耳元から後頭部を指で梳き、軽く整えた。ゆるいウェーブのかかった髪が少し手に絡みついてくる。
「維月さん」
 美鈴は遠慮がちに俺の背中に腕を回し、僅かな隙間すら厭うように、ぴったりと身を寄せてくる。
 一度した後の美鈴は、こうして素直に甘えを見せてくる。羞恥心は相変わらず美鈴の行動を抑えるが、それでも俺に対する欲求を正直に表してくる。言葉に出さずとも、潤んだ瞳がそれを語る。
 美鈴は目を細めて俺を見つめる。誘惑的なまなざしに抗えるはずもない。
 後頭部に手を添え、顔を上げるよう美鈴を促した。美鈴はゆるく瞼を閉じる。睫毛が微かに震えている。瞼に軽くキスをしてから、やにわに、喰らいつくようにして唇を重ねた。
 薄く開かれた朱唇の隙間から舌をねじ込む。激しい口づけに美鈴は一瞬たじろぎ舌を引っ込めようとしたが、すぐに応戦し始めた。
「んっ、ふっ……んっ」
 舐め、吸い、舌を絡ませ合って、唾液すら混ぜ合わせる。美鈴の甘く苦しげな吐息が零れ、その息すら奪った。
 息継ぎのために一度唇を離し、深呼吸させたところでまた唇を押しつけて、その甘い息を貪った。
 ――キスだけでは物足りないだろう。
 空いている方の手を、美鈴の下腹部……さらにその下へと這わせると、足りていない確かな証拠がそこにあった。
 熱く、蒸れている。
「……ん、んっ」
 喉を反らせ、美鈴が喘ぐ。
 割れ目をなぞるようにして指を動かすと、美鈴は眉をひそめて、腰を捩った。だが拒みはしない。
 このまま焦らし続けるのも一興だが、美鈴の素直な反応が見たかった。
 しとどに濡れたそこに指を挿し入れた。指はすんなりと中へ吸い込まれていく。
 まずは緩慢に愛撫した。襞を擦るように指を動かし、美鈴の反応を見ながら動作を速めていく。陰核に触れると美鈴は堪らず声を漏らした。
「やぁっ、んっ、……いつ、き、さ……っ」
 美鈴は快楽から逃げようとしてか、いや、もっと欲しがってだろう、腰をくねらせた。
 指をさらに動かす。蜜が溢れ、粘ついた水音がたつ。
 離していた唇を再び重ねると、美鈴の方から積極的に舌を絡ませてくる。その動きはまだ拙くたどたどしい。
 不慣れなキスとは裏腹の淫らな腰つきが欲情を煽った。
 角度を変え、何度も何度もまさぐり合うようにして重ねた唇を名残惜しくも離し、呼吸をさせてやった。顎を汚した唾液を舐め取ってやり、そのまま首へ、肩口へ、鎖骨へと舌を這わせて、胸を露わにさせた。胸元に、クローバーのネックレスが貼りついている。誕生日に、美鈴に贈ったものだ。嵌めこまれた石は誕生石のエメラルド。小さな石で目立たないネックレスだが、美鈴は気に入って、常に身につけている。
 ネックレスのチェーンに沿って舌を這わせて、クローバーに軽く口づけた。そのままみぞおちへと口を移動させ、豊満な胸を丹念にねぶった。すでに硬くしこった胸のいただきを吸い、甘噛みすると、美鈴の中がさらに熱い蜜で溢れた。
 指が、ふやけそうだ。
 小さく笑ってからかうと、美鈴は「やぁっ」と声をあげて、紅潮している顔を背けた。抗議の声をあげはするが、怒った様子はない。それどころか、美鈴の体の中心は俺を求め、締めつけてくる。
 このまま、一旦いかせてやった方がいいか。
 ――いや。
 せっかく頼み事を承諾してもらえたのだ。そちらを先にしてもらう方が、俺としても、おそらくは美鈴にとっても都合がいいはずだ。
「美鈴」
「ん……、え? あ、……――」
 濡れそぼった秘裂から指を引き抜くと、美鈴はどうしてと言わんばかりに目を見開き、俺を見つめる。官能に潤んだ瞳を瞬かせ、湿った睫毛を動かした。
「頼みがある」
「あ、うん……。なに?」
「…………」
 先ほどよりも風雨が強くなってきていた。水滴が窓を打ち、風が鳴っている。
 美鈴はその音にも気付かない。雨が降っていることにすら気付いていないのか。
 部屋の明かりが点けられたままであるのに、文句を言うのも忘れている。文句を言われても消したためしはないのだが。
 美鈴の体を抱き寄せ、頬に口づけてから、また少しだけ体を離した。
「美鈴、これ」
「え?」
 周到に用意しておいたそれを、美鈴の眼前に差し出した。
「これ、つけて」
 さしだしたそれは、いつも使用している避妊具……コンドームだ。
 美鈴は絶句した。

 美鈴は耳まで真っ赤にして、俺が差し出した物を凝視したかと思えば目を逸らし、予想通りに周章狼狽している。
「つっ、つけてって、それを、わたっ……わたしが、維月さんにっ?」
 動揺のあまり美鈴は声をつっかえさせ、「無理です、無理ですからっ」と繰り返す。
「さっき、頼み事きいてくれると言ったのに」
「それはっ、言いました、けど……っ、でも、まさかそんなっ」
 俺は内心で笑っていた。だから、そう安請け合いするものではないのに、と。
「だいたい、そのっ、つ、付け方とか、分からないし、わたし、不器用で、……あ……っ」
 慌てふためく美鈴の手を掴み、俺の、すでに膨張して反り返っているそれに触れさせた。
「……っ」
 俺のそれが反応したように、美鈴もまたびくりと肩を震わせた。美鈴はきゅっと目を閉じる。けれどすぐに目を開け、そろりと視線を上げた。
「あ、あの……、維月さん、本気……?」
 引き下がるつもりはない。だが、美鈴を無理やり追い詰めるつもりはなかった。
「美鈴が、どうしても嫌なら諦める」
「…………」
 美鈴の逡巡は思いの外短かった。
「維月さんが、どうしてもと言うなら」
 そう言ってから、美鈴はまだ袋に入った状態のコンドームを受け取った。

 ごくりと喉を鳴らし、美鈴は生唾を呑んだ。
 初めて見るものではないにしろ、こうして改めて真正面から全体を見るのは、やはり恥ずかしいようだ。美鈴は視線を泳がせている。
「失敗してもいいよ。まだたくさんある。新しいのを買ってきたばかりだから、いくらでも」
 美鈴の緊張を少しでも和らげようと、笑いながら言い、開けたばかりの箱を見せてやった。
「もう、……そんな……」
 美鈴はからかわれたと思ったのは、拗ねたようにきゅっと眉根をひそめた。むくれた顔も可愛い。
 会社では見られない、美鈴の様々な表情がいとおしい。この腕にいつまでも抱きしめ、閉じ込めておきたいと思う程に。

 夜闇が深まってきていた。雨脚は一向に衰えない。
 雨音の響く中、しずしずとした美鈴の気息はひどく艶めいて、室内を甘い芳香で蒸れさせていくようだった。
「難しいことなんてないよ。ゆっくり、焦らずにして」
「……は、い」
 やり方は、教えた。やってみれば分かると言ったら、美鈴は素直に頷いた。
 さっきまでそうさせていたように、美鈴に屹立しているそれを握らせた。すでに硬くなっているから、装着するのに手間はかからないだろう。
 ふと、美鈴はひとりごちた。
「……先が……、濡れてる……」
 その声音には、驚きに混じって、好奇心も混じっていた。ぱちくりと瞬いて、恥じらいも忘れて凝視している。
 素直すぎる美鈴の感想に、思わず苦笑した。
「そう、美鈴と同じ」
「…………」
 俺のその一言で何かが吹っ切れたのか、美鈴は大胆になった。

 美鈴は手を動かし、先の割れ目に指をあてがった。時々ぴくりと動くそれを、美鈴はしげしげと見つめている。先の割れ目からくびれの部分を撫ぜられて、堪らず、声が漏れた。
「……くっ」
 下腹部が痛むほどの甘い快感が走った。さらに膨張し硬くそそり立つそれが芯から疼く。
 男の意地で射精しそうになったのを耐えたが、正直、長くはもたない気がした。
「維月さん?」
 美鈴は素知らぬ顔で小首を傾げる。
 平素、俺をずるいと責める美鈴だが、はたしてずるいのはどちらか。
「……美鈴」
 あまり焦らしてくれるなと、袋から出したそれを装着するよう、急かした。
 美鈴は頷き、説明した通りに手を動かした。
 手先が不器用だと言うが、存外それほどでもない。失敗することなく、一度で、装着は上手くいった。仕上げは俺自身でした。
 美鈴はほっと胸を撫でおろした。そうして、嬉しそうに俺を見上げる。無防備すぎる美鈴の笑みに内心呆れつつ、だがやはりいとおしくて堪らなかった。
「簡単だろう?」
 問うと、美鈴は肩を竦めて曖昧に笑った。
 腕を掴み、美鈴を抱き寄せる。
「ついでだ」
「え?」
「――いれて」
「え? な、に? わっ、きゃっ」
 美鈴を腕に抱いたまま、後ろに倒れた。美鈴が俺の上にのしかかる体勢となる。
「い、維月さんっ?」
 慌てて身をどかそうとする美鈴の脚を割り、手を差し込んだ。蒸れて、熱くなっている。
「美鈴も、いい具合になってる」
「……っ」
「自分でいれて、好きに動いて」
「そ、んな! そんなこと……っ」
 美鈴はぶんぶんと首を左右に振る。体を離そうとするが、逃がしはしない。腕を掴んで引き止めた。
 指は、抜いた。美鈴の腰が抜かれた指を追うように浮く。
「いれて」
 美鈴の両脚を開けさせて、馬乗りの姿勢にさせた。美鈴は身じろぎ、もがいて抵抗してみせるが、本気で逃げるつもりはないだろう。秘部から溢れた熱い蜜がすでに内腿を汚している。
「美鈴、早く」
「……っ」
「このままじゃ美鈴も辛いだろう? 俺も、もう……」
「ん、……っ」
 やがて観念した美鈴は、ためらいを払って腰を浮かせ、そして深く沈めた。
 快感が腰から背中へと迸る。
「ああ……っ!」
 美鈴は嬌声を上げ、体を弓なりにのけ反らせた。
「……くっ、……っ」
 嵐に揉まれるような激しい快感に、かろうじて保っていた余裕など跡形もなく消し飛んだ。
 熱い蜜が溢れ、美鈴の中がきゅうきゅうと切なく収縮し、俺を締めつけてくる。
 柳眉をきつく顰め、目を閉じて、美鈴は一心不乱に腰を揺らした。豊かな胸がそれに合わせて揺れ動く。美しく、扇情的な光景だった。
 角度を変え、緩急をつけ、美鈴は腰をうねらせる。腰の動きに合わせ、喘ぎ声をもらし、喉を反らせる。抑えようもなく漏れる美鈴の切なげな嬌声と、粘り気のある淫靡な水音が部屋に響いた。
「い、つき、さ……」
 ふいに、美鈴の手が何かを掴もうと、もどかしげに伸ばされた。その手を掴み、指を絡ませて握った。
「み、すず」
 薄く開かれた美鈴の目の端から涙が伝う。
 官能に溺れた瞳が語りかけてくる。俺が欲しい、と。もっと、もっと、と希求している。
 意を得、俺も腰を動かし、美鈴の中に埋められている硬い屹立をさらに深く、奥へと突き立てた。
「みす、ず……っ」
「維月さ、んっ、んっ、ああっ……!」
 美鈴の手を強く握り、口元に寄せた。

 ――この手は離さない。

 美鈴を離しはしない、ずっと、このまま。

 身の内が震えるほどに、美鈴が恋しい。

「維月さん、維月さん……っ!」
 切迫した美鈴の声が限界を知らせた。
「維月さ……ん、いっしょ……に……っ」
「ああ……」
「んっ、いつ、きさ……んっ、あっ、ああ……っ」
 二人、手に手を取って高みへと上り詰め、やがて溶け合って一つになり、快楽の渦へともに身を投じた。

 汗ばんだ肌を重ね、息すら一つに合わせ、繋がったまま蒸れた熱の中に墜ちていった。
 墜ちたそこは深く、しかし底も果てもない。
 互いの呼吸と鼓動、その甘い音を聴きながら、心も身体も満たされていく。


 ――雨は一晩中降り続け、夜が明けてもまだ大気をしっとりと蒸らし、雨後の余韻を残していた。
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