甘党ドラゴン。

るうあ

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ドラゴンと林檎

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 ドラゴンは神獣。おいそれとその姿を見られるものじゃない。そういう神秘的な存在だからこそ、一度でいいから実物を見てみたいって思うのは、人情ってものじゃなかろうか。まぁ、ただの好奇心ですけれども。好奇心なくして人類の成長はありえないって、兄も言っていたし。
 それはともかく、長老様のドラゴン話を何度も聞いていたせいもあって、ドラゴンに対するわたしの関心度はわりと高いのだ。
 だから、昨夜の風音がドラゴンの咆哮だったら素敵なのにって思うのは、わたし的には自然なこと。想像が膨らむ年頃でもあるのですよ。
 まぁ、実際はそうじゃないんだろうけど。と、想像に浸れない自分もいるわけだけど。
 ともかく、掃除しつつ、落ちた実を拾おう。
 考え事をしながらも、体は動かし、作業を続ける。
 拾い集めた林檎は、疵のついたものでも、そんなにひどい状態でなければ、加工すればいい。林檎なら砂糖漬けにしてもいいし、チーズと合わせた蒸しパンを作ってもいい。柘榴のシロップもちょうど切れていたから、作っておこう。林檎と合わせてジャムをつくるのもいいな。行商に出ている兄のためにも、ちょっと多めに作っておこうか。きっとお腹を空かせて帰ってくるだろうから。
 そんなことを考えながら、風に吹かれて落下した林檎や柘榴を拾い集め、籠に入れた。料理にも使えなさそうなくらい傷んだ実は、鳥達の餌にでもしよう。
「……ん? なにこれ?」
 折れて落ちた木の枝に紛れて、何か……トカゲらしき生物も一緒落ちている。木の枝にしては太いし、体の色も茶色じゃなくて青っぽくてなんか鱗みたいなのに覆われてるし、あと手足もついてるし、というか……まんまトカゲ? 魚っぽいけど、形は限りなくトカゲに近い。でもトカゲにしては大きい。普段見るトカゲの二倍か三倍くらいはありそうな。とりあえず手足があるので蛇ではないみたい。
 なんだろう、これ? もしかして死んじゃってるのかな? 生きてるような気もするけれど、どうだろう?
 トカゲを触るのに抵抗はないので、生きているかどうか、突いて確認したみた。
 あ、動いた。ぴくぴくと尻尾が動いて、さらに瞼がぱっちりと開かれた。
 生きているようだ。……けど、これ、なんだろう? 見たことない種類のトカゲだ。嵐に飛ばされてきたのかな。
 もう一度指で突いてみると、トカゲっぽい何かはこちらに頭をもたげ、わたしを見上げて口を開いた。
「……腹が、減った」
「……っ!?」
 喋った! いま、喋りましたね、このトカゲ!? 口きいた! 口きいたよ、トカゲがっ!
 思わずのけぞって、尻もちをついた。その時地面に打ち付けたお尻が痛かったので、どうやら夢でも幻聴でもないみたい。
「……チカラが、出ぬ……」
 トカゲはくったりと頭を垂れた。見るからに弱っている風で、憐憫を誘う。
「…………えっと、……林檎、食べる? 疵はついてるけど、食べられるから……」
 拾ったばかりの林檎を籠から取り出し、一応表面を拭いてから、くったりと弱りきってる、おそらくトカゲではないと思われる、トカゲっぽい生き物に林檎を差し出した。
「む、う?」
 トカゲっぽいそれを再び目を開けるや、差し出された林檎に口を寄せた。ちゃんと両手で林檎を掴んでいる様子は、ちょっと可愛い。リスっぽくもある。でも下半身は爬虫類だ。鱗付きの。
 一口齧って、どうやら林檎を気に入ったらしい。トカゲっぽいそれは、シャリシャリといい音をたて、あっという間に林檎を食べきった。さすがに芯の部分は残したけど、実にいい食べっぷりだった。
「うまいっ! なんとも美味な林檎じゃ!」
 大きく開かれた目をきらきらさせて、トカゲっぽいそれは感嘆の声を上げた。
 緑色の目に黒い縦の虹彩がやっぱり爬虫類っぽいけど、つやつやしていて、きれいだ。
 大きくて丸い目がわたしを見つめている。美味かったと、その瞳も雄弁に語っている。
 丹精込めて育てた林檎を美味しいと言ってもらえたら、やっぱり嬉しい。たとえそれを言ってくれたのが得体のしれない生物だとしても。
「ありがとう。まだあるけど、食べる?」
「うむ。ありがたい。空腹で参っておったのだ」
「そっか。えぇっと、待ってね。なるべくきれいなのを……」
 座り直し、籠の中から林檎と柘榴を取り出して、トカゲっぽいそれの前においてあげた。
 食べているうちに、トカゲっぽいそれは、みるみるうちに生気を取り戻していった。鱗の色艶が格段に良くなった。心なしか……体も大きくなったような?
「甘くて美味いのぅ。このような甘くて美味い林檎は初めてじゃ!」
「林檎、好きなんだ」
「うむ。果物はなんでも好きじゃが、林檎はとくに好物じゃ。しかしこのように甘い林檎は、今まで食うたことがない」
「甘いの、好きなんだ」
「うむうむ」
 トカゲっぽいそれは夢中で林檎を齧る。美味しそうに食べてくれるその様子がなんだか可愛くて、頬が緩んでしまう。
 どうやらそのトカゲっぽいそれは、酸っぱいものがちょっと苦手なようだ。出された林檎の一つに、「これはちょっと酸っぱいのう」と齧りつつ零した。酸っぱいと言いながらもちゃんと完食したけれど。
 疲れてる時は甘いものがほしくなるものだ。わたしだってそうだ。美味しくて甘いものは元気が出る。
 それで思いついて、トカゲっぽいそれに手を差し出した。
「うちに行けば甘いものあるから、来る? 林檎と柘榴の加工食品だけど」
 この時すでに、トカゲに話しかけている自分に違和感も覚えなくなっていた。
 ありがたいと大きく頷いて、トカゲっぽいけれどどうやらトカゲではなさそうなそれは、わたしの手の上に乗ってきた。
 そしてトカゲっぽいそれは、わたしに礼を述べてから、己の正体を明かしてくれた。
「吾#__われ__#は西海の大島に棲む水竜の一族じゃ。外遊の途についておったのじゃが、昨夜の嵐に巻き込まれ、不覚にもチカラを奪われてこのような姿になってしまったのじゃ。娘よ、感謝いたすぞ」
「……!?」
 その告白に、わたしはもう当然のごとく、唖然とした。
 水竜? いま、このトカゲ、竜って言った!?
 ちっちゃいけど! かなーりちっちゃいけど、もしかして、このトカゲ、ドラゴンなの?
 想像してたドラゴンと全然違うっていうか、めちゃくちゃちっちゃいんだけど!?
 でも喋ったし、ドラゴンって自己申告したし。あ、もしかしたら子どもなのかな? 子ドラゴン? そういえばなんとなく神々しいような気がしなくも……うーん、どうだろう。不可思議な生物には違いないけれども。喋ったし。
 ちっちゃかろうと子どもだろうと、ドラゴンといえば神獣様なわけで、片手に乗せているのは、もしかしたら礼を失する行為かも? そう思って、一応両手で抱えるようにして持ちあげた。
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