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ドラゴンと玉肌
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黙りこみ、思案に暮れている水竜様を片手に乗せて、再び家に戻った。もちろんさっきの林檎酒も持ってきた。水竜様をテーブルに置いて、わたしは急いで空の瓶に林檎酒を注ぎこむ。これは兄にも飲ませよう。無事、帰って来られると良いけれど。まぁ、あの兄のことだから、元気で帰って来るに違いない。ちょっとくらい元気を奪ってこられてもいいくらいだ。
林檎酒を瓶に移し替えてから、今度はお酒じゃなくて、柘榴のジュースを持って水竜様のいるテーブルに戻った。
「水竜様、これどうぞ。柘榴のジュースです」
「む、柘榴とな」
「お酒にしても美味しいけど、ジュースもなかなかいけるんですよ」
お口に会うとよいのですがと、グラスを差し出した。水竜様はフンフンと鼻を鳴らして、柘榴ジュースのにおいを嗅ぐ。どうやらお気に召したらしい。
「うむ。美味そうなにおいじゃな。いただこう」
水竜様、柘榴も好物らしい。ただ、ジュースにしたものは飲んだ経験がそうだ。
ドラゴンの体は果物と酒でできている……? 栄養が偏りそうだなぁなんて、ちょっとだけ心配になってしまった。
水竜様用に用意したグラスは、うちの中でも小さいコップだ。それでもやっぱり水竜様には大きくて、人間サイズで考えると、バケツでジュースを飲んでるみたいな感覚だろう。それでも水竜様は文句も言わず、それどころかたっぷり飲めて、嬉しそうだ。
「そういえば水竜様。水竜様は、人里におりるのは、これが初めて?」
「いや。二、三度あるぞ。といっても、もうずいぶんと昔のことじゃ。この辺りは初めてじゃな。あの山は知っておったが」
「エト山ですか?」
「うむ。あの山は遠くからもよく見えて、空を往くのによい目印になっておる。こうして麓に降りるのは初めてじゃ。近くから眺めるのも良いものじゃな。美しい山じゃ。たしかあの山には火の竜がおるはずじゃが、久しく話を聞かぬの」
「あー、そうですね。もう伝説のようになってます。村人も、誰ひとり姿を見たことありませんから」
「そうか。では、冬眠しておるのやもしれぬな」
「冬眠? するんですか、ドラゴン様って」
意外なようなそうでもないような。水竜様はこっくり頷いて、長い時は何十年も眠り続けていると教えてくれた。眠りすぎて、化石になったドラゴンもいるとかいないとか。
……なんともマヌケなドラゴンもあったものだ。そう思ったけど、さすがにそれは口に出さずにおいた。
ドラゴンって、もっとこう……賢くって強剛で天下無敵な神獣ってイメージ持ってたんだけど。存外そうでもないみたい。水竜様も気さくだし。友好的なのは、人間的には嬉しいことだけど。
頬杖をつき、水竜様を見る。
水竜様は、トカゲっぽいこの姿で地上に降りたのかな?
この姿じゃ、ドラゴンだなんて認識はされなかっただろうな。ドラゴンだって自己申告してくれても、俄かには信じがたい。驚きはするだろうけど。なんたって、口が利けるトカゲなんて、きっとどこにもいないだろうから。
それでも、なんでだか、ドラゴンなんだって、わたしは容易く信じてしまった。
嘘をついているように見えないからかな。水竜様、反応がすっごく素直だし。あと、それなりに普通のトカゲじゃないっぽい雰囲気が全身から放たれてるし。
「人里に降りたのって、どのくらい前だったんですか?」
「うーむ……そうじゃな、たしか、二、三百年ほど前じゃな。その頃はまだ人間との交流も、ままあったのじゃ」
仰天して、手のひらからがくっと顎が落ちた。
二、三百年前!? ってことは、水竜様、けっこうな年寄り竜なの?
水竜様はいったい何年生きてるの? もしかして千年とか? 亀並みなんだけど! 長老様が亀は万年生きる生き物だと教えてくれた。亀って動物、絵でしか見たことないけど。
訊くと、水竜様はまだ千年は生きていないと言った。まだその半分、五百年しか生きていないと。まだまだ若輩者なのじゃと。
五百歳で若輩者って、どんだけ幼少期が長いの、ドラゴンって!
ドラゴンの年齢感覚はよく分からない。とんでもなく長寿ってことは分かったけれど。神獣なんだし、長寿なのは当然なのか。
「かくいうミルカは、いくつなのじゃ?」
「えっ、わたしですか? 年齢?」
「うむ。人間の年齢は、見た目で計るのはむつかしいのじゃ」
「…………」
いやいや、水竜様。見た目で計るの難しいの、ドラゴンの方ですよ。さっぱりわかりません。
と、つっこみたかったけれど、それも面倒だったので、ともかく水竜様の質問に答えた。わたしは現在、十八だ。十八歳。
水竜様は頷くだけで、とくに驚きもしなかった。ちょっと残念なくらい反応が薄くて、肩すかしをくらった気分だ。……まぁ、いいけども。
「それと水竜様。もうひとつ訊いていいですか?」
「うむ、なんじゃ?」
「水竜様、人里におりた時もやっぱりその姿だったんですか? というか、元はやっぱりもっと大きな姿なんですか?」
もうひとつ、と言いながら二つ質問してしまった。
水竜様はあれこれと詮索されるのを嫌がる様子はなく、むしろ喜んでいる風だ。快く答えてくれる。
「もちろん、元の吾はもっと大きいぞ。今はチカラが足りのうてこの大きさに萎んでしまったがの」
萎んじゃったんだ!? いったいぜんたい、ドラゴンの体ってどうなってるの?
「それと、人里におりる時は、人の姿に変ずるようにしておる。吾等ドラゴンは人間の姿に変ずることのできる種族なのじゃ。もちろんそれには強いチカラが必要じゃが、吾には……」
「えっ!? 水竜様、人間になれるんですかっ!?」
水竜様の語尾につい声を被せてしまった。言葉を遮られた水竜様は一瞬ムッとしたような表情をしたけど、すぐに機嫌を直した。わたしが驚いたのが嬉しいようだ。それにしても爬虫類顔なのに表情が豊かだと、改めて感心した。しかし、これはもしかして単にわたしが見慣れたってことかな。ほんのわずかの時間しか一緒にいないのに、なんだかすっごく馴染んじゃってるなぁ、わたしも水竜様も。
「人間だけじゃなく、他にトカゲや魚、鳥などにも変身できるぞ」
「そうなんですか」
いま、まんまトカゲですよね。それは変身してトカゲなんですか。というツッコミというか質問はしないでおこう。もしかして、今の形態は変身してのことじゃないかもしれないし。
それにしてもドラゴンは水陸両用生物……もとい、神獣なのかな。あ、飛べるのだから、空もか。そう考えると、やはりドラゴンってすごい存在だ。
すごいですねぇとしみじみ感心してみせると、水竜様はさらに上機嫌になり、上体を起こした。
「鳥に変ずるのが一番楽なのじゃが、やはり人里に降りる時は人間の姿に変身するのが都合がよい。そうじゃ、せっかくだから人間に変じてみせよう。その方がミルカも話しやすかろう?」
「え、今ですか?」
「うむ。変身は一瞬じゃ。チカラもだいぶん戻ってきておるし、問題ない」
そう言うなり水竜様はたたんでいた翼をばさっと広げた。そこから水色がかった光がはなたれ、水竜様の身を包む。きれいな光だった。あまり眩しくなく、直視できるくらいのやわらかい光だ。
水竜様の人の姿って、どんなだろう。口ぶりからして男(雄)かなとは思うんだけど。
ちょっとわくわくしつつ、水竜様の変身を待った。
水竜様の言う通り、変身はあっという間だった。わたしが瞬きを三度する間に、光は消え、そこに一人の青年が現れたのだ。テーブルの上に腕組みをして立っている、長髪の青年。
「ちっちゃ! っていうかすっぽんぽんですかっ!」
わたしはもう即座につっこみましたとも。ぎょわぁぁぁっと奇声も発しましたとも、ええ、そりゃもう動顛しまくって。
椅子から落ちなかったのは奇跡的です。動揺しまくって眩暈がしますが。
だって、テーブルの上にいる、水竜様が変身した姿らしい青年は、横に置いてある酒瓶と同じくらいの大きさで、しかもすっぽんぽんなんだもの!
「驚いたか、ミルカ。うむうむ。驚いてしかるべきじゃ」
素裸の青年は腕を組み、満足げに頷いている。よくみれば、白皙の美青年なわけだけど、すっぽんぽんだし、すっぽんぽんで、上半身より下半身に目が入ってしまうのですよ、年頃の乙女としてはっ!
「すっ、水竜様っ、こ、これっ!」
目のやり場に困り、とりあえず手近にあった布巾を水竜様に突きだした。
「なんじゃ、これは?」
「水竜様、すっぽんぽ……いや、その、素裸じゃないですか。何か着てくださいっ」
「む? なんじゃミルカ、なぜ顔を隠すのだ」
「だってそれは水竜様が丸裸だからで! 何か着てくれないと困るんです」
「何故困るのじゃ?」
ちょっと水竜様、ほんとに人里に降りたことあるんでしょうねっ!? まさかすっぽんぽんで歩きまわったとか? 変態認定されて誰も近寄りませんよ? いくら美男子でもすっぽんぽんはないです、……たぶん。遠目から眺める女子はいるにしても。
兄がいるから、多少は男性の裸には慣れているけど、さすがに下半身までは直視できない。いかに酒瓶サイズの男性でも見えてしまうわけで! っていうか、ものすごく視界に入りやすいいい位置にいるんです、水竜様! しかもキリッと立ってて、ちっとも隠してないし。長髪で隠すとかもないし。ちょっと白光する玉の肌が目に眩しいです……。
ううっ、顔が熱くなってきて、頭から湯気が出そう。
「だからですねっ」
「――ああ、そうか」
はたと気付いたようだ。水竜様は組んでいた腕をほどいて、腰に手を当てる。
「すまぬ、ミルカ。人間になる時は服を着用せねばならないのを、すっかり忘れておった」
「…………」
すまぬ、と言いながら、全然すまなそうな顔をしていないし、どうして腰に手をあてるんですか、水竜様。
「しばし待て」
また、水竜様の体がうっすらと光った。鱗のようなものがキラキラと光りながら水竜様の身を包み、やがて光沢のある衣に変わった。黒っぽい長袖のシャツと同色の長ズボンという簡素な格好だけど、ともかくすっぽんぽんよりずっといい。
「これで良いか、ミルカ?」
「は、はい、とってもよろしいです、水竜様」
わたしは深々と安堵のため息をこぼした。
林檎酒を瓶に移し替えてから、今度はお酒じゃなくて、柘榴のジュースを持って水竜様のいるテーブルに戻った。
「水竜様、これどうぞ。柘榴のジュースです」
「む、柘榴とな」
「お酒にしても美味しいけど、ジュースもなかなかいけるんですよ」
お口に会うとよいのですがと、グラスを差し出した。水竜様はフンフンと鼻を鳴らして、柘榴ジュースのにおいを嗅ぐ。どうやらお気に召したらしい。
「うむ。美味そうなにおいじゃな。いただこう」
水竜様、柘榴も好物らしい。ただ、ジュースにしたものは飲んだ経験がそうだ。
ドラゴンの体は果物と酒でできている……? 栄養が偏りそうだなぁなんて、ちょっとだけ心配になってしまった。
水竜様用に用意したグラスは、うちの中でも小さいコップだ。それでもやっぱり水竜様には大きくて、人間サイズで考えると、バケツでジュースを飲んでるみたいな感覚だろう。それでも水竜様は文句も言わず、それどころかたっぷり飲めて、嬉しそうだ。
「そういえば水竜様。水竜様は、人里におりるのは、これが初めて?」
「いや。二、三度あるぞ。といっても、もうずいぶんと昔のことじゃ。この辺りは初めてじゃな。あの山は知っておったが」
「エト山ですか?」
「うむ。あの山は遠くからもよく見えて、空を往くのによい目印になっておる。こうして麓に降りるのは初めてじゃ。近くから眺めるのも良いものじゃな。美しい山じゃ。たしかあの山には火の竜がおるはずじゃが、久しく話を聞かぬの」
「あー、そうですね。もう伝説のようになってます。村人も、誰ひとり姿を見たことありませんから」
「そうか。では、冬眠しておるのやもしれぬな」
「冬眠? するんですか、ドラゴン様って」
意外なようなそうでもないような。水竜様はこっくり頷いて、長い時は何十年も眠り続けていると教えてくれた。眠りすぎて、化石になったドラゴンもいるとかいないとか。
……なんともマヌケなドラゴンもあったものだ。そう思ったけど、さすがにそれは口に出さずにおいた。
ドラゴンって、もっとこう……賢くって強剛で天下無敵な神獣ってイメージ持ってたんだけど。存外そうでもないみたい。水竜様も気さくだし。友好的なのは、人間的には嬉しいことだけど。
頬杖をつき、水竜様を見る。
水竜様は、トカゲっぽいこの姿で地上に降りたのかな?
この姿じゃ、ドラゴンだなんて認識はされなかっただろうな。ドラゴンだって自己申告してくれても、俄かには信じがたい。驚きはするだろうけど。なんたって、口が利けるトカゲなんて、きっとどこにもいないだろうから。
それでも、なんでだか、ドラゴンなんだって、わたしは容易く信じてしまった。
嘘をついているように見えないからかな。水竜様、反応がすっごく素直だし。あと、それなりに普通のトカゲじゃないっぽい雰囲気が全身から放たれてるし。
「人里に降りたのって、どのくらい前だったんですか?」
「うーむ……そうじゃな、たしか、二、三百年ほど前じゃな。その頃はまだ人間との交流も、ままあったのじゃ」
仰天して、手のひらからがくっと顎が落ちた。
二、三百年前!? ってことは、水竜様、けっこうな年寄り竜なの?
水竜様はいったい何年生きてるの? もしかして千年とか? 亀並みなんだけど! 長老様が亀は万年生きる生き物だと教えてくれた。亀って動物、絵でしか見たことないけど。
訊くと、水竜様はまだ千年は生きていないと言った。まだその半分、五百年しか生きていないと。まだまだ若輩者なのじゃと。
五百歳で若輩者って、どんだけ幼少期が長いの、ドラゴンって!
ドラゴンの年齢感覚はよく分からない。とんでもなく長寿ってことは分かったけれど。神獣なんだし、長寿なのは当然なのか。
「かくいうミルカは、いくつなのじゃ?」
「えっ、わたしですか? 年齢?」
「うむ。人間の年齢は、見た目で計るのはむつかしいのじゃ」
「…………」
いやいや、水竜様。見た目で計るの難しいの、ドラゴンの方ですよ。さっぱりわかりません。
と、つっこみたかったけれど、それも面倒だったので、ともかく水竜様の質問に答えた。わたしは現在、十八だ。十八歳。
水竜様は頷くだけで、とくに驚きもしなかった。ちょっと残念なくらい反応が薄くて、肩すかしをくらった気分だ。……まぁ、いいけども。
「それと水竜様。もうひとつ訊いていいですか?」
「うむ、なんじゃ?」
「水竜様、人里におりた時もやっぱりその姿だったんですか? というか、元はやっぱりもっと大きな姿なんですか?」
もうひとつ、と言いながら二つ質問してしまった。
水竜様はあれこれと詮索されるのを嫌がる様子はなく、むしろ喜んでいる風だ。快く答えてくれる。
「もちろん、元の吾はもっと大きいぞ。今はチカラが足りのうてこの大きさに萎んでしまったがの」
萎んじゃったんだ!? いったいぜんたい、ドラゴンの体ってどうなってるの?
「それと、人里におりる時は、人の姿に変ずるようにしておる。吾等ドラゴンは人間の姿に変ずることのできる種族なのじゃ。もちろんそれには強いチカラが必要じゃが、吾には……」
「えっ!? 水竜様、人間になれるんですかっ!?」
水竜様の語尾につい声を被せてしまった。言葉を遮られた水竜様は一瞬ムッとしたような表情をしたけど、すぐに機嫌を直した。わたしが驚いたのが嬉しいようだ。それにしても爬虫類顔なのに表情が豊かだと、改めて感心した。しかし、これはもしかして単にわたしが見慣れたってことかな。ほんのわずかの時間しか一緒にいないのに、なんだかすっごく馴染んじゃってるなぁ、わたしも水竜様も。
「人間だけじゃなく、他にトカゲや魚、鳥などにも変身できるぞ」
「そうなんですか」
いま、まんまトカゲですよね。それは変身してトカゲなんですか。というツッコミというか質問はしないでおこう。もしかして、今の形態は変身してのことじゃないかもしれないし。
それにしてもドラゴンは水陸両用生物……もとい、神獣なのかな。あ、飛べるのだから、空もか。そう考えると、やはりドラゴンってすごい存在だ。
すごいですねぇとしみじみ感心してみせると、水竜様はさらに上機嫌になり、上体を起こした。
「鳥に変ずるのが一番楽なのじゃが、やはり人里に降りる時は人間の姿に変身するのが都合がよい。そうじゃ、せっかくだから人間に変じてみせよう。その方がミルカも話しやすかろう?」
「え、今ですか?」
「うむ。変身は一瞬じゃ。チカラもだいぶん戻ってきておるし、問題ない」
そう言うなり水竜様はたたんでいた翼をばさっと広げた。そこから水色がかった光がはなたれ、水竜様の身を包む。きれいな光だった。あまり眩しくなく、直視できるくらいのやわらかい光だ。
水竜様の人の姿って、どんなだろう。口ぶりからして男(雄)かなとは思うんだけど。
ちょっとわくわくしつつ、水竜様の変身を待った。
水竜様の言う通り、変身はあっという間だった。わたしが瞬きを三度する間に、光は消え、そこに一人の青年が現れたのだ。テーブルの上に腕組みをして立っている、長髪の青年。
「ちっちゃ! っていうかすっぽんぽんですかっ!」
わたしはもう即座につっこみましたとも。ぎょわぁぁぁっと奇声も発しましたとも、ええ、そりゃもう動顛しまくって。
椅子から落ちなかったのは奇跡的です。動揺しまくって眩暈がしますが。
だって、テーブルの上にいる、水竜様が変身した姿らしい青年は、横に置いてある酒瓶と同じくらいの大きさで、しかもすっぽんぽんなんだもの!
「驚いたか、ミルカ。うむうむ。驚いてしかるべきじゃ」
素裸の青年は腕を組み、満足げに頷いている。よくみれば、白皙の美青年なわけだけど、すっぽんぽんだし、すっぽんぽんで、上半身より下半身に目が入ってしまうのですよ、年頃の乙女としてはっ!
「すっ、水竜様っ、こ、これっ!」
目のやり場に困り、とりあえず手近にあった布巾を水竜様に突きだした。
「なんじゃ、これは?」
「水竜様、すっぽんぽ……いや、その、素裸じゃないですか。何か着てくださいっ」
「む? なんじゃミルカ、なぜ顔を隠すのだ」
「だってそれは水竜様が丸裸だからで! 何か着てくれないと困るんです」
「何故困るのじゃ?」
ちょっと水竜様、ほんとに人里に降りたことあるんでしょうねっ!? まさかすっぽんぽんで歩きまわったとか? 変態認定されて誰も近寄りませんよ? いくら美男子でもすっぽんぽんはないです、……たぶん。遠目から眺める女子はいるにしても。
兄がいるから、多少は男性の裸には慣れているけど、さすがに下半身までは直視できない。いかに酒瓶サイズの男性でも見えてしまうわけで! っていうか、ものすごく視界に入りやすいいい位置にいるんです、水竜様! しかもキリッと立ってて、ちっとも隠してないし。長髪で隠すとかもないし。ちょっと白光する玉の肌が目に眩しいです……。
ううっ、顔が熱くなってきて、頭から湯気が出そう。
「だからですねっ」
「――ああ、そうか」
はたと気付いたようだ。水竜様は組んでいた腕をほどいて、腰に手を当てる。
「すまぬ、ミルカ。人間になる時は服を着用せねばならないのを、すっかり忘れておった」
「…………」
すまぬ、と言いながら、全然すまなそうな顔をしていないし、どうして腰に手をあてるんですか、水竜様。
「しばし待て」
また、水竜様の体がうっすらと光った。鱗のようなものがキラキラと光りながら水竜様の身を包み、やがて光沢のある衣に変わった。黒っぽい長袖のシャツと同色の長ズボンという簡素な格好だけど、ともかくすっぽんぽんよりずっといい。
「これで良いか、ミルカ?」
「は、はい、とってもよろしいです、水竜様」
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