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ドラゴンと甘口
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「うーん、それはですね……」
返す言葉に困り、もごもごと口ごもってしまう。
十八歳といえば、村の娘的には「結婚適齢期」。そのためフリーダさんからも何度か打診されてきた。その都度、まずは兄の方からお願いしますと話をはぐらかしてきた。だけどそれでやり過ごせるのもあとどれくらいだろうって危機感はある。フリーダさんの手腕の凄さはよく知っているから、いざとなったら回避できるかどうか、ちょっと自信がない。それにアルト兄さんが全力で阻止してくるのも想像に易い。
結婚話は、わたしとっては頭痛の種なのだ。
それに、結婚したいとかしたくないとかじゃなくて、正直、分からないっていうのもある。
だから、はっきりきっぱり答えられない。
そんなわたしの心の内を知る由もない水竜様は、斟酌を加えることなく、ずけりと尋ねてくる。
尋ね方が村のおばさま達と違って下世話な感じじゃないのはいいけど、妙に慎重なのがちょっと不可思議だった。
「ミルカは、誰ぞの嫁になりたいという希望はないのか?」
水竜様のその質問も、以前フリーダさんに訊かれたことがあった。世間話にさりげなく割り込ませ、「誰か意中の男の子はいないのか」って。
もちろん答えは「否」。そんな相手はいない。
これだけははっきりきっぱり返答できる。
「そんな人、いませんよ」
と答えたわたしに、水竜様は「ほう」と短く応え、それから僅かに思案した後、問いを重ねてきた。
「しかし、ミルカに求婚する者はおろう? 村の若者等とか……のう? 兄殿は別として」
さらっと兄を持ちださないでくださいよ、もう! 別勘定にしてくれたのはありがたい……っていうか、そもそも勘定に入れること自体間違ってるんだけど。
っていうツッコミはひとまず呑み込んでおいて。
水竜様の質問に、わたしは苦笑いを浮かべた。口調はどうしても歯切れの悪いものになる。
「えぇっと、ほら、わたしって器量良しとは言えないし。求婚なんてされたことないですよ。だから、その、嫁とか……むつかしいと思うんですよね」
目も当てられないほどの不細工とは思わない。醜女と呼ばれるほどひどくはなく、ごくごく平凡な容姿で、男性を惹きつけるような美人っていうには程遠い。
農作業してるから日に焼けて肌は浅黒いし、顔はそばかすだらけ。髪だって、ニンジンの葉っぱをニンジン色に染めたような色で、そのうえ癖が強くて、おさまりが悪い。農作業で体を動かしているから肥満体形ではないのは、見た目的な取り得と言えなくもないかな。
実を言えば、「初恋」の経験すらまだない。
村の男の子達と親交はあるけど、「恋」って感覚を得たことはなくって、それがどんな感覚なのかも、未だによく分からない。
仲良くしてる女友達、男友達、そのうち何人かはもう嫁いだり嫁がれたりしてて、すでに所帯を持っている。最近、子どもができたって報告してくれた友達だっている。
比べたって仕方ないかもだけど、わたしって「おくて」だと思う。恋だの結婚だのを拒んでるわけではないけど、興味も薄かった。
わたしにべったりなアルト兄さんが原因でそういうことに疎くなったっていうのも、ちょっとあるかもしれない。だけど、アルト兄さんのせいばっかじゃないとも、思う。
年頃の娘らしく、劣等感みたいなものもちょっとあったりするのだ。
「わたしがもうちょっと器量良しだったら、そういう話も身近に迫ってたかもしれないけど、いまのところ、ないですね……。せめてそばかすがなくなって、色白になれたらいいんですけど」
とほほ、としか言いようのない苦笑いとともに、弱音をこぼしてしまった。言ってから、わたし自身戸惑って、慌てて口を手でおさえた。
村の長老様やフリーダさん、友達にすらこんなこと言わないのに、なんでこんなぽろっとこぼしてしまったんだろう。
水竜様って、「水」竜様だけに、誘い水を向けるのが上手いってことなんだろうか。まいっちゃうな……。
「あの、水竜様。いまのは聞かなかったことに……」
恥ずかしくて前言を撤回しようとしたところ、やにわに、水竜様は両翼をバッと大きく広げて飛び上がった。
「何を申すか、ミルカ!」
水竜様は翼を動かしながら、器用にもわたしの眼前で空中停止している。羽ばたきでおこる風に前髪がふわふわと浮きあがってちょっと落ち着かない。
水竜様とわたしは、顔と顔を突き合わせている状態だ。いきなり目の前に来られて、わたしはちょっとだけ身をひいた。
「ミルカが何と言おうが、吾はミルカを可愛らしいと思うぞ。十分に器量良しじゃ!」
「…………」
いやいやそんなことは……と両手を小さく振ると、水竜様はムキになって言い募ってくる。
「吾の言葉を信じよ、ミルカ。吾はドラゴンぞ。ドラゴンは人間におべっかなどつかわぬ。真の言葉しか発せぬ。吾が、ミルカが可愛いと言えば、それは真のことなのじゃ!」
「……っ」
水竜様は怒ったみたいにまくしたて、その迫力に気圧されてしまった。
水竜様の目は真剣そのもの、真顔でわたしを見つめている。きりっとしたトカゲ顔って、存外美形だ。鱗もつやつや綺麗だし、つぶらな瞳があざとくすら感じる。
ううっ、それにしても、面と向かって可愛いと言われて、照れないわけがない。普段、そんなこと言ってくれる人は(兄以外)いないし、どう対応していいのか分からない。
けど、やっぱり、嬉しい……かも。
わたしは両手を水竜様に向かって差し出した。そこに、水竜様がちょこんと乗る。水竜様の足の裏はひんやりしてて気持ちがいい。そのひんやり具合とは裏腹に、心がほんのりと温かくなってきた。まるでりんご酒を飲んだみたい。甘酸っぱい気分になって、自然と顔がほころんでくる。
わたしは照れくさがりながらも、笑顔を作った。それから、素直な気持ちで、水竜様にお礼を言った。
「水竜様、ありがとう」
そして、水竜様の大きく裂けた口の先端に軽くキスをした。
「……!」
水竜様が驚いたように瞠目した。まるまるい目が、さらにまんまるく大きくなって、わたしを見据える。
――その直後。
「……きゃっ」
突然、目の前で強いつむじ風がおこった。あまりの勢いに思わずのけぞり、目を瞑る。
一瞬のことだった。ゴウッと風が鳴り、その音と同時に空気の塊が上へ……空へと飛んでいった。
な、なに、いまの? 何が起こったの?
わたしはそろりと目を開ける。この時すでに、わたしの手に乗っていたはずの水竜様は姿を消していた。
きょろきょろと辺りを見回しても水竜様の姿はどこにも見当たらない。
「水竜様……?」
一瞬、陽が陰った。翳りはすぐに去り、かと思ったらいきなり光が増して、いくつもの光の粒が降り注いできた。
はっとして、わたしは空を仰ぐ。
「……っ」
そして、それを目の当たりにして、言葉を失った。
空にいる、それ。巨大な存在に圧倒され、わたしはぽかんと口をあけ、ただただそれを見つめた。
――ドラゴンだ!
紺碧のドラゴンが悠然と空を旋回している。信じられない程の、非日常的な光景だ。
わたしは唖然ぼう然、空を飛翔するドラゴンを凝視した。
ドラゴンの姿は、大鷲のようでもありトカゲのようであり蛇のようでもある。鱗におおわれた巨大な胴は長く、水中を渡るようにくねっている。大きく裂けた口からは風を鳴らす咆哮が発せられ、吐息が雲を払っていく。鉤爪のある両翼は、エト山を抱え込んでしまえるのではと思えるほどに大きく、広い。
圧倒される。神威っていうんだろうか。
陽射しが眩しく、わたしは目を眇めた。
ドラゴンの体を覆う鱗が陽の光を反射して、七色の光を辺りに放っていた。まるで宝石が光を弾きながら降り落ちてくるみたい。キラキラと涼やかな音をたてて地上に降ってくる光は、物に触れると儚く消えてしまう。だけど光そのものが消えてしまうことはなく、空気自体がドラゴンの光を含んで、辺りを明るく満たしてくれてるようだった。
なんて綺麗なんだろう。
立ち上がり、わたしはうっとりとドラゴンを……水竜様を見つめた。
翼をゆったりとはばたかせて空を飛翔する水竜様は、眩しいほどの威光を放っていて、まさに神獣というに相応しい。
あれが水竜様の本当の姿なんだ……。
感嘆をこぼさずにはいられない。想像以上だった。あんなに巨大だなんて。それにものすごく神々しいし。さっきまで、手のひらサイズのトカゲだったのが信じられないくらい。
あんまり突然のことで、なにがどうなったのかさっぱり分からないけれど、ともあれ水竜様は「チカラ」とやらを取り戻し、真の姿に戻れたらしい。
よかったねって、わたしは大きく手を振った。
水竜様は天空高いところにいて、わたしの姿が見えているかは分からない。だけど、なんとなく大きな黒眸がこちらに向いている気がして、両腕を伸ばして手を振った。
伝説のドラゴンを見られて、わたしも嬉しかった。だから「ありがとう」の意味も込めて、手を振ったのだ。
村の人達もきっと水竜様に気がついて、その姿を拝せられたことだろう。村の人達も、喜んでるに違いない。村の長老様なんて、もしかしたら感涙に噎んでるかも。また見られるなんて、なんて幸運なんだろうって。
なんだかわたしも、うるっときてしまった。
だって、長年の夢だったんだもの。
本物のドラゴンを目の当たりにできるなんて、夢にも思わなかった。
ま、まぁ、リンゴやお菓子を食べさせてあげたり、水をぶっかけたり、はては手の上に乗せてキスなんかしちゃったりもしたわけだけど。
水竜様、このまま帰ってしまうのかな、西海の果ての果てにあるという、竜の棲む島に?
元の姿に戻れたことだし、もしかしたらこれでお別れなのかも。そう思うと、やっぱり……ううん、かなり……さみしいかも。
という、わたしの心を見透かしたのか、どうなのか。
光の乱舞が突然やみ、それからビュゥッと激しく風が鳴った。
そしてそれも、ごく僅かの間の出来ごとだった。
返す言葉に困り、もごもごと口ごもってしまう。
十八歳といえば、村の娘的には「結婚適齢期」。そのためフリーダさんからも何度か打診されてきた。その都度、まずは兄の方からお願いしますと話をはぐらかしてきた。だけどそれでやり過ごせるのもあとどれくらいだろうって危機感はある。フリーダさんの手腕の凄さはよく知っているから、いざとなったら回避できるかどうか、ちょっと自信がない。それにアルト兄さんが全力で阻止してくるのも想像に易い。
結婚話は、わたしとっては頭痛の種なのだ。
それに、結婚したいとかしたくないとかじゃなくて、正直、分からないっていうのもある。
だから、はっきりきっぱり答えられない。
そんなわたしの心の内を知る由もない水竜様は、斟酌を加えることなく、ずけりと尋ねてくる。
尋ね方が村のおばさま達と違って下世話な感じじゃないのはいいけど、妙に慎重なのがちょっと不可思議だった。
「ミルカは、誰ぞの嫁になりたいという希望はないのか?」
水竜様のその質問も、以前フリーダさんに訊かれたことがあった。世間話にさりげなく割り込ませ、「誰か意中の男の子はいないのか」って。
もちろん答えは「否」。そんな相手はいない。
これだけははっきりきっぱり返答できる。
「そんな人、いませんよ」
と答えたわたしに、水竜様は「ほう」と短く応え、それから僅かに思案した後、問いを重ねてきた。
「しかし、ミルカに求婚する者はおろう? 村の若者等とか……のう? 兄殿は別として」
さらっと兄を持ちださないでくださいよ、もう! 別勘定にしてくれたのはありがたい……っていうか、そもそも勘定に入れること自体間違ってるんだけど。
っていうツッコミはひとまず呑み込んでおいて。
水竜様の質問に、わたしは苦笑いを浮かべた。口調はどうしても歯切れの悪いものになる。
「えぇっと、ほら、わたしって器量良しとは言えないし。求婚なんてされたことないですよ。だから、その、嫁とか……むつかしいと思うんですよね」
目も当てられないほどの不細工とは思わない。醜女と呼ばれるほどひどくはなく、ごくごく平凡な容姿で、男性を惹きつけるような美人っていうには程遠い。
農作業してるから日に焼けて肌は浅黒いし、顔はそばかすだらけ。髪だって、ニンジンの葉っぱをニンジン色に染めたような色で、そのうえ癖が強くて、おさまりが悪い。農作業で体を動かしているから肥満体形ではないのは、見た目的な取り得と言えなくもないかな。
実を言えば、「初恋」の経験すらまだない。
村の男の子達と親交はあるけど、「恋」って感覚を得たことはなくって、それがどんな感覚なのかも、未だによく分からない。
仲良くしてる女友達、男友達、そのうち何人かはもう嫁いだり嫁がれたりしてて、すでに所帯を持っている。最近、子どもができたって報告してくれた友達だっている。
比べたって仕方ないかもだけど、わたしって「おくて」だと思う。恋だの結婚だのを拒んでるわけではないけど、興味も薄かった。
わたしにべったりなアルト兄さんが原因でそういうことに疎くなったっていうのも、ちょっとあるかもしれない。だけど、アルト兄さんのせいばっかじゃないとも、思う。
年頃の娘らしく、劣等感みたいなものもちょっとあったりするのだ。
「わたしがもうちょっと器量良しだったら、そういう話も身近に迫ってたかもしれないけど、いまのところ、ないですね……。せめてそばかすがなくなって、色白になれたらいいんですけど」
とほほ、としか言いようのない苦笑いとともに、弱音をこぼしてしまった。言ってから、わたし自身戸惑って、慌てて口を手でおさえた。
村の長老様やフリーダさん、友達にすらこんなこと言わないのに、なんでこんなぽろっとこぼしてしまったんだろう。
水竜様って、「水」竜様だけに、誘い水を向けるのが上手いってことなんだろうか。まいっちゃうな……。
「あの、水竜様。いまのは聞かなかったことに……」
恥ずかしくて前言を撤回しようとしたところ、やにわに、水竜様は両翼をバッと大きく広げて飛び上がった。
「何を申すか、ミルカ!」
水竜様は翼を動かしながら、器用にもわたしの眼前で空中停止している。羽ばたきでおこる風に前髪がふわふわと浮きあがってちょっと落ち着かない。
水竜様とわたしは、顔と顔を突き合わせている状態だ。いきなり目の前に来られて、わたしはちょっとだけ身をひいた。
「ミルカが何と言おうが、吾はミルカを可愛らしいと思うぞ。十分に器量良しじゃ!」
「…………」
いやいやそんなことは……と両手を小さく振ると、水竜様はムキになって言い募ってくる。
「吾の言葉を信じよ、ミルカ。吾はドラゴンぞ。ドラゴンは人間におべっかなどつかわぬ。真の言葉しか発せぬ。吾が、ミルカが可愛いと言えば、それは真のことなのじゃ!」
「……っ」
水竜様は怒ったみたいにまくしたて、その迫力に気圧されてしまった。
水竜様の目は真剣そのもの、真顔でわたしを見つめている。きりっとしたトカゲ顔って、存外美形だ。鱗もつやつや綺麗だし、つぶらな瞳があざとくすら感じる。
ううっ、それにしても、面と向かって可愛いと言われて、照れないわけがない。普段、そんなこと言ってくれる人は(兄以外)いないし、どう対応していいのか分からない。
けど、やっぱり、嬉しい……かも。
わたしは両手を水竜様に向かって差し出した。そこに、水竜様がちょこんと乗る。水竜様の足の裏はひんやりしてて気持ちがいい。そのひんやり具合とは裏腹に、心がほんのりと温かくなってきた。まるでりんご酒を飲んだみたい。甘酸っぱい気分になって、自然と顔がほころんでくる。
わたしは照れくさがりながらも、笑顔を作った。それから、素直な気持ちで、水竜様にお礼を言った。
「水竜様、ありがとう」
そして、水竜様の大きく裂けた口の先端に軽くキスをした。
「……!」
水竜様が驚いたように瞠目した。まるまるい目が、さらにまんまるく大きくなって、わたしを見据える。
――その直後。
「……きゃっ」
突然、目の前で強いつむじ風がおこった。あまりの勢いに思わずのけぞり、目を瞑る。
一瞬のことだった。ゴウッと風が鳴り、その音と同時に空気の塊が上へ……空へと飛んでいった。
な、なに、いまの? 何が起こったの?
わたしはそろりと目を開ける。この時すでに、わたしの手に乗っていたはずの水竜様は姿を消していた。
きょろきょろと辺りを見回しても水竜様の姿はどこにも見当たらない。
「水竜様……?」
一瞬、陽が陰った。翳りはすぐに去り、かと思ったらいきなり光が増して、いくつもの光の粒が降り注いできた。
はっとして、わたしは空を仰ぐ。
「……っ」
そして、それを目の当たりにして、言葉を失った。
空にいる、それ。巨大な存在に圧倒され、わたしはぽかんと口をあけ、ただただそれを見つめた。
――ドラゴンだ!
紺碧のドラゴンが悠然と空を旋回している。信じられない程の、非日常的な光景だ。
わたしは唖然ぼう然、空を飛翔するドラゴンを凝視した。
ドラゴンの姿は、大鷲のようでもありトカゲのようであり蛇のようでもある。鱗におおわれた巨大な胴は長く、水中を渡るようにくねっている。大きく裂けた口からは風を鳴らす咆哮が発せられ、吐息が雲を払っていく。鉤爪のある両翼は、エト山を抱え込んでしまえるのではと思えるほどに大きく、広い。
圧倒される。神威っていうんだろうか。
陽射しが眩しく、わたしは目を眇めた。
ドラゴンの体を覆う鱗が陽の光を反射して、七色の光を辺りに放っていた。まるで宝石が光を弾きながら降り落ちてくるみたい。キラキラと涼やかな音をたてて地上に降ってくる光は、物に触れると儚く消えてしまう。だけど光そのものが消えてしまうことはなく、空気自体がドラゴンの光を含んで、辺りを明るく満たしてくれてるようだった。
なんて綺麗なんだろう。
立ち上がり、わたしはうっとりとドラゴンを……水竜様を見つめた。
翼をゆったりとはばたかせて空を飛翔する水竜様は、眩しいほどの威光を放っていて、まさに神獣というに相応しい。
あれが水竜様の本当の姿なんだ……。
感嘆をこぼさずにはいられない。想像以上だった。あんなに巨大だなんて。それにものすごく神々しいし。さっきまで、手のひらサイズのトカゲだったのが信じられないくらい。
あんまり突然のことで、なにがどうなったのかさっぱり分からないけれど、ともあれ水竜様は「チカラ」とやらを取り戻し、真の姿に戻れたらしい。
よかったねって、わたしは大きく手を振った。
水竜様は天空高いところにいて、わたしの姿が見えているかは分からない。だけど、なんとなく大きな黒眸がこちらに向いている気がして、両腕を伸ばして手を振った。
伝説のドラゴンを見られて、わたしも嬉しかった。だから「ありがとう」の意味も込めて、手を振ったのだ。
村の人達もきっと水竜様に気がついて、その姿を拝せられたことだろう。村の人達も、喜んでるに違いない。村の長老様なんて、もしかしたら感涙に噎んでるかも。また見られるなんて、なんて幸運なんだろうって。
なんだかわたしも、うるっときてしまった。
だって、長年の夢だったんだもの。
本物のドラゴンを目の当たりにできるなんて、夢にも思わなかった。
ま、まぁ、リンゴやお菓子を食べさせてあげたり、水をぶっかけたり、はては手の上に乗せてキスなんかしちゃったりもしたわけだけど。
水竜様、このまま帰ってしまうのかな、西海の果ての果てにあるという、竜の棲む島に?
元の姿に戻れたことだし、もしかしたらこれでお別れなのかも。そう思うと、やっぱり……ううん、かなり……さみしいかも。
という、わたしの心を見透かしたのか、どうなのか。
光の乱舞が突然やみ、それからビュゥッと激しく風が鳴った。
そしてそれも、ごく僅かの間の出来ごとだった。
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