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第三章 見えない幼馴染と見られる幼馴染
第26話 変わったのは誰?
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「ぼえ~♪♪♪」
……などと、某ジャイ●ンのごとくマイクを握って歌っているだけで、音川をはじめとした他のみんなが静かに部屋から出て行く中、ただ一人だけが俺の歌を聴いて嬉しそうにしている。
「アハハ! いいね、最高!」
「馬鹿にしてる?」
「どうして? 少なくとも君の歌声はボクには響くものだよ。他の誰もが拒んでもボクだけ君のファンになり続けてみせるよ」
「…………どうも」
これがイケメンの余裕というやつなのか。他の奴らは正直に酷い奴ばかりなのに、俺をここまで認めるなんて嬉しい以外の感情が見当たらないぞ。
音痴ながらも最後まで歌い切った俺は、隣に座るアサにマイクを勧めるが――
「――ボクは歌わないんだ。悪いね」
といって、はっきりと拒否されてしまった。歌が上手そうなのにあっさりと断られるなんて、必要以上に構ってほしくない感じなのか。
「えっと、アサさんって俺とどこかで会ったことがあるかな?」
「お店で会ってる」
「だよねぇ……」
「……」
何だか知らないが妙な緊張感があるな。
「本店の短期バイトって聞いたけど、普段は何を?」
「学校」
「あぁ、同い年だったっけ。ちなみにどこの学校に?」
ううむ、何で俺は質問攻めをしているんだろうか。歌を褒められたからって俺に興味がありそうな感じじゃないというのに。
「……ボクに興味があるんだ? こんな男の子っぽいボクに」
「いや、どう見ても女の子でしょ。雰囲気は全然違うけど、俺の幼馴染の子に似てるっていうか……」
どうしてそう思ってしまっているのか自分でも分からないが、何となく似てる。
「へぇ~……その子のこと、好きなんだ?」
「どうだろうな。俺がそうだとしても、あいつは単なる幼馴染として仲がいいだけって感じだろうし、お互い意識しても仕方がないってなってるから……って、上手く言えないなごめん」
何で俺はイケメン女子に鈴菜のことをべらべらと話してるんだろうか。全然話せなくなってるから愚痴りたくなった感じか?
「黒山くん。君から見て、どっちが変わったと思う?」
「変わったっていうのは?」
「印象とか、そういうの」
そうかと思えば彼女も俺に質問してくるんだな。
いくら俺の歌が殺人級に下手だからって二人きりにされるとそれはそれで困るのに、あいつらどこまで避難してるんだよ。
「う~ん……俺は変わってないけど、あいつはよそよそしくなったかも。何となくだけど」
「……なるほど」
少し寂しそうな表情になったみたいだけど、彼女にも思い当たる人がいるのかもしれないな。
「ただいま~! 黒山~ドリンク一杯持ってきたぞ!」
何となく話すこともなくなって沈黙状態が続いたところで、木下が勢いよく部屋のドアを開けて入ってきた。
「遅すぎだろ。一体どこまで取りに行ってたんだよ!」
「悪い悪い! トイレ行きつつビリヤードやってた。音川たちもすぐに戻ってくると思うぞ」
お調子者め。
「あ~……そういえばアサだっけ。こいつ、黒山のウワサとかなんか知ってる?」
「何も」
「何を言うつもりだ、木下」
「まぁまぁ」
そうやって俺の肩を組んでくるが、
「いやぁ~、こいつさ、最近超絶美少女な妹が出来てすっかり舞い上がっちゃってんだけど、そのせいで幼馴染に相手されなくなって妹の学校にまで迎えに行ってるってウワサなんだよ! どうなんだ? 黒山」
全然関係ないアサに凪のことを包み隠さずに言いやがった。
「妹は夏くらいに井澄学園に編入してくるんだよ。だからそれまで道順含めて迎えに行って家までの道を覚えてもらってるだけだ。幼馴染の問題は別だ」
「だろうな。黒山だとそんなもんだ」
「……美少女な妹が可愛くて迎えに?」
木下もうざいが、アサも何でそんな根も葉もないウワサを気になるんだか。
「可愛いけどそれだけ。そんなもんでしょ、妹って」
今までいなかったとはいえあれだけ過剰に甘えてくればそれに慣れるし、だからといって恋愛的な意味では考えてない。
同い年だとか義妹だとかを抜きにしても魅了されるレベルの美少女だけど、義妹って時点で幼馴染に抱く感情とは別だな、うん。
「そう、そうなんだ……」
そう考えると、甘えてくる女子をあまり得意としてないってことになるのか?
あのランキング一位の先輩みたいに多少強気な女子の方が気楽ってことになるけど、鈴菜はどっちかというと凪寄りの甘え女子、いや脱力系だからどっちとも取れないってことになる。
「じゃあ黒山って、別にあの妹ちゃんが好きってわけじゃないのか?」
「好きだけど意味が違うだろ」
「なるほどな~……そうだってよ、アサくん」
何でアサに訊いてるんだ?
そんな木下の言葉にアサはどことなく安堵の表情を浮かべている。
「で、黒山はまだ気づいてねえの?」
「何がだよ?」
「……いや、別に」
「はっきり言えっての!」
木下に詰め寄ろうとすると、音川たちがようやく部屋に入ってくる。何なんだ一体。
「ごっめ~ん! 全然違う話で盛り上がっちゃって遅れた~! で、木下くん。黒山くんの件は解決した感じ?」
「あ~……ただの誤解と勘違いだったっぽい」
「そうなんだ。でもさ、黒山は違うけどもう変わっちゃった本人は後には引けないって強い意志があるし、黒山が気づくまで放置でいいよ」
俺だけが知らされていない話を、こいつらだけで終わらせようとしているように見えるのは気のせいだろうか。
ちらりとアサの方を見てみると、彼女も俺をジッと見ていて何とも言えない雰囲気が漂う。
「気づいてないんだ?」
「な、何が?」
声は鈴菜に似てるが、しかしこんな感じじゃない。髪色も長さも全然違うし。
「気づこうとしてないのかもしれないけど、それならそれでわたしは君の妹に負けないくらいの自分を出して、そのうえで君を気づかせることにするよ」
……などと、某ジャイ●ンのごとくマイクを握って歌っているだけで、音川をはじめとした他のみんなが静かに部屋から出て行く中、ただ一人だけが俺の歌を聴いて嬉しそうにしている。
「アハハ! いいね、最高!」
「馬鹿にしてる?」
「どうして? 少なくとも君の歌声はボクには響くものだよ。他の誰もが拒んでもボクだけ君のファンになり続けてみせるよ」
「…………どうも」
これがイケメンの余裕というやつなのか。他の奴らは正直に酷い奴ばかりなのに、俺をここまで認めるなんて嬉しい以外の感情が見当たらないぞ。
音痴ながらも最後まで歌い切った俺は、隣に座るアサにマイクを勧めるが――
「――ボクは歌わないんだ。悪いね」
といって、はっきりと拒否されてしまった。歌が上手そうなのにあっさりと断られるなんて、必要以上に構ってほしくない感じなのか。
「えっと、アサさんって俺とどこかで会ったことがあるかな?」
「お店で会ってる」
「だよねぇ……」
「……」
何だか知らないが妙な緊張感があるな。
「本店の短期バイトって聞いたけど、普段は何を?」
「学校」
「あぁ、同い年だったっけ。ちなみにどこの学校に?」
ううむ、何で俺は質問攻めをしているんだろうか。歌を褒められたからって俺に興味がありそうな感じじゃないというのに。
「……ボクに興味があるんだ? こんな男の子っぽいボクに」
「いや、どう見ても女の子でしょ。雰囲気は全然違うけど、俺の幼馴染の子に似てるっていうか……」
どうしてそう思ってしまっているのか自分でも分からないが、何となく似てる。
「へぇ~……その子のこと、好きなんだ?」
「どうだろうな。俺がそうだとしても、あいつは単なる幼馴染として仲がいいだけって感じだろうし、お互い意識しても仕方がないってなってるから……って、上手く言えないなごめん」
何で俺はイケメン女子に鈴菜のことをべらべらと話してるんだろうか。全然話せなくなってるから愚痴りたくなった感じか?
「黒山くん。君から見て、どっちが変わったと思う?」
「変わったっていうのは?」
「印象とか、そういうの」
そうかと思えば彼女も俺に質問してくるんだな。
いくら俺の歌が殺人級に下手だからって二人きりにされるとそれはそれで困るのに、あいつらどこまで避難してるんだよ。
「う~ん……俺は変わってないけど、あいつはよそよそしくなったかも。何となくだけど」
「……なるほど」
少し寂しそうな表情になったみたいだけど、彼女にも思い当たる人がいるのかもしれないな。
「ただいま~! 黒山~ドリンク一杯持ってきたぞ!」
何となく話すこともなくなって沈黙状態が続いたところで、木下が勢いよく部屋のドアを開けて入ってきた。
「遅すぎだろ。一体どこまで取りに行ってたんだよ!」
「悪い悪い! トイレ行きつつビリヤードやってた。音川たちもすぐに戻ってくると思うぞ」
お調子者め。
「あ~……そういえばアサだっけ。こいつ、黒山のウワサとかなんか知ってる?」
「何も」
「何を言うつもりだ、木下」
「まぁまぁ」
そうやって俺の肩を組んでくるが、
「いやぁ~、こいつさ、最近超絶美少女な妹が出来てすっかり舞い上がっちゃってんだけど、そのせいで幼馴染に相手されなくなって妹の学校にまで迎えに行ってるってウワサなんだよ! どうなんだ? 黒山」
全然関係ないアサに凪のことを包み隠さずに言いやがった。
「妹は夏くらいに井澄学園に編入してくるんだよ。だからそれまで道順含めて迎えに行って家までの道を覚えてもらってるだけだ。幼馴染の問題は別だ」
「だろうな。黒山だとそんなもんだ」
「……美少女な妹が可愛くて迎えに?」
木下もうざいが、アサも何でそんな根も葉もないウワサを気になるんだか。
「可愛いけどそれだけ。そんなもんでしょ、妹って」
今までいなかったとはいえあれだけ過剰に甘えてくればそれに慣れるし、だからといって恋愛的な意味では考えてない。
同い年だとか義妹だとかを抜きにしても魅了されるレベルの美少女だけど、義妹って時点で幼馴染に抱く感情とは別だな、うん。
「そう、そうなんだ……」
そう考えると、甘えてくる女子をあまり得意としてないってことになるのか?
あのランキング一位の先輩みたいに多少強気な女子の方が気楽ってことになるけど、鈴菜はどっちかというと凪寄りの甘え女子、いや脱力系だからどっちとも取れないってことになる。
「じゃあ黒山って、別にあの妹ちゃんが好きってわけじゃないのか?」
「好きだけど意味が違うだろ」
「なるほどな~……そうだってよ、アサくん」
何でアサに訊いてるんだ?
そんな木下の言葉にアサはどことなく安堵の表情を浮かべている。
「で、黒山はまだ気づいてねえの?」
「何がだよ?」
「……いや、別に」
「はっきり言えっての!」
木下に詰め寄ろうとすると、音川たちがようやく部屋に入ってくる。何なんだ一体。
「ごっめ~ん! 全然違う話で盛り上がっちゃって遅れた~! で、木下くん。黒山くんの件は解決した感じ?」
「あ~……ただの誤解と勘違いだったっぽい」
「そうなんだ。でもさ、黒山は違うけどもう変わっちゃった本人は後には引けないって強い意志があるし、黒山が気づくまで放置でいいよ」
俺だけが知らされていない話を、こいつらだけで終わらせようとしているように見えるのは気のせいだろうか。
ちらりとアサの方を見てみると、彼女も俺をジッと見ていて何とも言えない雰囲気が漂う。
「気づいてないんだ?」
「な、何が?」
声は鈴菜に似てるが、しかしこんな感じじゃない。髪色も長さも全然違うし。
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