守ってあげたい女子の学園二位に君臨する脱力系幼馴染が俺の義妹を見た結果、対抗手段を間違ってイケメン女子になった

遥風 かずら

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第三章 見えない幼馴染と見られる幼馴染

第27話 アサ(鈴菜)さん、好きピに宣戦布告する

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 カラオケ自体はそこまで遅くまでやることなく二十時過ぎには解散になった。カラオケでのアサの挑発的な態度が気になったので、その足で本店に顔を出してアサのシフトや素性的なものを訊いてみることにした。

 店に着いたときは閉店作業中で、しかも丁度良く母さんがいたのでとりあえず話しかけた。

「あのさ、短期バイトで来てるアサって人のこと、何か知らない?」

 本当は個人情報だから訊いちゃいけないけど、妙に気になるし俺を知ってる感じだから駄目元でトップに訊いてみる。

「アサさん? あぁ、浅木さんでしょ。彼女がどうかした?」
「――浅木? 浅木って……」
「鈴菜ちゃん。あれ、何も聞いてないの?」

 アサ、浅木……あぁ、なんて単純な。

「鈴菜のことなの? っていうか、何で"アサ"なんだよ?」
「さぁ。Sでもいいよって言ったんだけど、別にイニシャルは強制でもないし、じゃあ浅木のアサにしよっか。で、決めただけ。あぁ、そっか。あんたに内緒で始めたんだ」

 あの銀髪と普段と違うショートはどうやって?

「え、髪が全然普段と違うけど……」
「ウィッグでしょ? 鈴菜ちゃんの場合はフルウィッグなんだろうけど、似合ってるよね」
「ちなみにいつまで?」
「そこまでは知らないけど、なに? もしかしてケンカでもしてる?」

 ケンカというわけでもないので今は首を傾げることしか出来ない。

「よく分かんないけど、明日にでも訊いてみたら?」
「いや、でも教室とかで最近口利いてないし……」
「そこはあんた次第でしょ。あ、でも支店の応援に行ってもらうことにしてるから、店で話してみればいいんじゃない?」

 支店にも来るのか、あいつ。

 しかしあの口調は何なんだ? いつものだるそうな姿なんて全然なくなってるじゃないかよ。

 ……とにかく、明日教室で声をかけて確かめるしかない。流石にバイト中に話はするべきじゃないからな。

「え? フルウィッグ?」
「凪は使ったりすることがあるのかな……と」

 本店から自宅に帰ると、凪がくつろいでいたのでウィッグについて訊いてみると。

「……触って確かめてもいいよ~?」

 そう言って凪はうなじの辺りを見せてくる。いつも触っていいとかほざくが、それは気にしないでおくとしてうなじをまじまじと見てみた。

「……なるほど、補助的な感じで使うのか」
「補助って。でも何でそんなこと訊くの? 欲しいの?」
「何となく気になっただけだよ」

 鈴菜との問題を凪に話すわけにはいかないからな。

「ふ~ん……もしかして、おっぱい装備してウィッグつけて、女装する予定があったりして?」
「アホか!! 訊きたい事聞けたし、もう寝る」
「じゃあ、凪も寝る~!」

 凪は相変わらずの甘えっぷりだった。やはり実家に留まると、義妹ばかり構うようになるから駄目かもしれない。

「やぁ、おはよう。貴俊」

 翌朝、特に誰も声をかけてこない通学路を歩いていると、銀髪ではなく黒髪でショートの彼女が俺の前を通り過ぎた。

 その直後に振り向いて、笑顔で声をかけてきた。

「お、おはよう? 鈴菜……だよな?」
「そうだよ。見ても分からないくらい、妹に夢中なのかい?」
「いや、そんなことはないけど。その口調……というか髪を切ったのか?」
「まぁね。気分を変えたくて切ったんだ。それがどうかした?」

 まさかの先制攻撃だった。外でアサとして出会うまで、今まで散々顔も合わせず口も利いてこなかった鈴菜がまさか、俺よりも先に声をかけてくるなんて。

 それにしてもフルウィッグとかじゃなくて、長く伸ばしていた髪をバッサリ切って本当にショートに変えるとか、何でそんなこと。

「立ち止まってないで歩きなよ」
「あ、あぁ」

 ここまで変わるものなのか?

 あれだけ脱力系でいつも気だるそうに眠りまくっていた鈴菜が、ここまで――。

「な、何で?」
「ん~? あぁ、わたしのこと? 教えてあげてもいいけど、それは今じゃない。朝の通学時に話す気も起きないし。だから、昼休みでいい? 周りに女子たちがいる前でいいなら教えるよ」
「女子に囲まれながら?」
「こう見えて、ボクを推す子たちが出来たからね。二人だけで話すのは難しいんだ」
「そ、そうか……」

 アサとしてカラオケで話した時の方がまだ今までの鈴菜に近かったのに、通学路で出会った鈴菜がもはや今までの鈴菜じゃなくなってるのはかなりショックなんだが。

「そうそう、貴俊に言っておくよ」
「え?」

 なんだ、何を言われるんだ?

「黒山貴俊! 君は今、全然違う相手しか見てないだろうけど、これから気持ちも意識も全部奪うから気をつけていてね!」

 俺に笑顔を見せつつも指差しをしながら俺に言い放ち、鈴菜はそのまま機嫌よく学園の方へ足早に向かって行った。

 あの言い方はまるで、宣戦布告とも言うべき煽り言葉だった。

 それにしても何で俺にあそこまで――。
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