守ってあげたい女子の学園二位に君臨する脱力系幼馴染が俺の義妹を見た結果、対抗手段を間違ってイケメン女子になった

遥風 かずら

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第三章 見えない幼馴染と見られる幼馴染

第35話 新たな推しは義妹の凪!?

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 鈴菜がイケメン女子化してから、あっという間に夏になった。

 夏といえば、すでに俺が先行的に使っている凪の部屋が正式に使用可能になり、学校から帰って来てすぐに部屋の模様替えを手伝っている。

 今までは俺だけ先に部屋で寝泊まりをしていて凪だけ自宅に帰らせていた。だが、部屋が完全に使えるようになったので、凪も支店の部屋で過ごすようになった。

「ん~~! 真新しいお部屋っていいよね~」

 自宅でも体を伸ばしきって自由にしていたが、支店の部屋は完全に新設ということもあって凪ははしゃぐように大の字でベッドにダイブしている。

「まぁな。まぁ、俺だけ先に使ってたけど」
「うん。貴くんのニオイがするもん」
「え!?」

 思わず自分の腕とかを嗅いでしまう。

「違くて! 臭いとかじゃなくて、おにーさんのニオイって意味だよ?」
「……どこが違うんだ」

 紛らわしい言い方なんだよな。

 しかし、これでこの真新しい部屋も完全に凪の部屋になってしまうわけか。俺だけだとスペースを余していたから仕方ないが、ここに凪も寝泊まりするとなると新たな問題が起きそうな気がしないでもない。

「すみませーん! 宇草さん、います~?」

 ……ん? この声、まさか。

「あっ、は~い! こっちです、こっち~!」

 凪の声に反応して部屋のドアを開けて入って来たのは、音川だった。

 何でこいつがここに来るんだ?

「はぁ!? 何で黒山がここにいるわけ?」
「それはこっちのセリフだ! というか、俺が店にいるのは自然だ。音川がここに来ることの方が不自然だろうが!」
「うざ」

 音川も一応駄菓子好きメンバーの一員ではあるものの、客として来ることがあるだけで、河神たちとつるむことはほとんどない。

 それに音川はとっくに鈴菜の推しをやめてるおかげで、最近はほとんど俺に絡むことがない。それなのに何でウチの店、それもこの部屋に来るのか。

「え、えっとぉ~音川こころさん……ですよね?」
「あっ、ごめんなさい! はい、そうです! 井澄学園守ってあげたい推進委員会メンバーの音川こころです!」

 守ってあげたい推進委員会……どこかで聞いたことがあるな。

「えっと、私への話って――」
「――ズバリ! 宇草凪さん! あなたを井澄学園の守ってあげたい女子として推させていただきますっ!」
「は? 守ってあげたい女子? 凪が?」

 そういや音川が以前推していたのは鈴菜だったな。その推しをやめて違う女子を探してるとか言ってたが、何で凪なんだ?

 しかも凪はまだ編入も果たしてないのに。

「何であんたが驚くわけ? あんたに関係ないんだけど?」

 ほらきた。また音川がウザ絡みしてきた。

「関係はあるんだよな、これが」
「……は?」

 俺と音川が言い争う間に凪が割って入り、凪は俺の腕に勢いよく抱きついてくる。

「えっ? 宇草さん、そいつ……黒山って義兄なだけじゃないの?」
「です。大好きなおにーさんです! なので、不特定多数の誰かに守ってもらいたくないんです。ランキングとかも興味なくて、だからごめんなさーい!」
「え~……」

 なるほど。音川が推そうとしていた編入女子が凪だったわけか。しかし見事に当てが外れたな。

「ざまぁないな」
「は?」

 おっと、つい本音を口に出してしまった。

「宇草さん。でもそいつ、嘘つきですよ。そいつ、私の友達と付き合う寸前ですもん」
「知ってますよ~? 幼馴染の人ですよね? 浅木鈴菜って人」
「そ、そうです」
「別に気にしてないです~。敵じゃないので!」

 ううむ、音川に全く臆さないなんて強すぎるな。

「で、でも、宇草さんを推したいのは確かなので、それだけでも覚えてもらえたら~」
「……だって。どうしよっか、おにーさん」

 こういう時だけ俺を頼るなんて小悪魔ちゃんすぎる。

 凪はしてやったりな感じで腕を絡めながら俺を見つめているが、その様子を見ている音川は恐ろしい殺気を放ちまくりだ。

「い、いいんじゃないか、凪」

 俺の言葉に凪は意外そうな顔を見せているが、そこまで嫌そうにもしていない。というより、ここに音川を呼んでる時点で俺にこの話を聞かせようとしていた節がある。

 鈴菜を敵として見てないわりに俺次第で決めようとしてるし、凪の本心がいまいちつかめない。

「おにーさんの許可が正式に得られたので、いいですよ~?」
「えっ? 黒山の許可が必要だったの? だからここに?」
「そうで~す! おにーさんあっての私なので~。ね、おにーさん?」
「お、おぉ……」

 凪が俺の義妹というのは音川も知っていると思うが、それだけじゃない関係とでも思っているのか俺を見る音川はますます殺気を強めている。

「凪さんって妹ですよね、黒山の義理の……」
「そうですよ? でも、おにーさんが駄目って言ってたら断ってましたよ?」
「義兄なのに?」

 俺をいちいち睨むなよ。

「放っておくと寂しくて泣いちゃうくらい可愛い男の子なので! 凪がいないとおにーさんって駄目なんですよ~」
「は、はぁ……」

 俺への扱いがいつの間にか駄目人間にされてるのは気のせいだろうか。

「えっと、じゃあ凪さんの編入が決まったらその日から推させていただきますね! 今後とも音川こころをよろしくです~」

 そう言って音川は帰っていった。

「私、学園に推されるんだって!」

 凪が得意げに俺を見てくる。

「別に俺の許可がなくても、受けるつもりであいつをここに呼んだんだろ?」
「そうだよ。けど、不特定多数の奴から守られたくないのはマジだよ」

 極端な人見知り、いや人嫌いってやつだろうか。

「だったら何で?」
「おにーさん以外の奴とかの気持ちとかいらないけど、牽制にはなるじゃん? だから引き受けたんだ~」
「牽制?」

 一体何に牽制してるのか。まさか鈴菜に対しての牽制か?

「ま、ランキングとかどーでもいいけど、一位とか取ったらご褒美もらっちゃおうかな~」

 守ってあげたい一位は不動だからな。どうなることやら。

「ご褒美? 俺からの?」
「うん。貴くん、耳貸して!」

 凪に耳を近づけると、凪から聞こえてきた言葉は。

「凪がランキング一位になったら、凪をあげるからね!」
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