きみのその手に触れたくて"

遥風 かずら

文字の大きさ
9 / 75
第一章 きっかけ

9.嫌いじゃないし。

しおりを挟む
 えっ、もしかして七瀬の彼女? 

 彼女の方は嬉しそうしていたしそう見えた。わたしと七瀬とそんなんじゃないけれど、おごる為に誘ってるわたしとしては譲れない気分になりつつあった。

「ゆ、優美ゆみ? な、何で?」
たすくが歩いてるの見つけちゃったから声かけたくて。……何か都合悪いとか?」

 気のせいか優美と名乗る人がわたしを見てるような。

「そんなんじゃねえけど、今から用事がある。だから悪いけどさ……」
「……もしかしなくても、そこの人って彼女?」
「いや……」

 あからさまに品定めされてる。

 ……そんな目で見られても困るなぁ。

「えっと……?」

 そう思いつつわたしも見てしまうけど。

「あ、綾希、悪ぃ! 紹介が遅れたけどこいつ、前の学校の優美っていってただの友達。それだけ」

 前の学校? 

 ……あぁ、そっか。そういえば七瀬って編入してきたんだった。早くに馴染んだせいか忘れてた。

「あ、どうも。七瀬の隣人です」

 うん、いつもどおりの対応。

「――は? 隣人ってなに?」
「あぁ、綾希とは席が隣なんだよ。で、お前なにか用あんの?」
「用でもないけど、こんなとこで会えたしどっか行かない? 久しぶりだし?」

 用がなくても嬉しそうだったよね。

「悪ぃけど、俺は用があるから無理」
「ふぅん……? 用って、この人と?」

 何か勘違いはいってますか? 
 でも、何で七瀬も慌ててるのかな?

 よく分からないけど、わたしだけ帰った方がいいのかな。久しぶりに会った関係なら、わたしは帰った方がいいよね。

 そう思って七瀬に声をかけようとしたら、七瀬じゃなくて彼女に声をかけられた。

「輔のこと、好きなの? だったらライバル――になるっぽいけど」
「……何が?」
「どこか行く約束してたっぽいし、今度は遠慮よろしく! じゃ、そういうことでまたね、輔」
「って、おい!」

 よく分からない宣戦布告をされたまま、彼女はどこかへ歩いて行ってしまった。

 ライバルって何だろう? 

「綾希、何かごめん」
「七瀬。あのさ、ライバルってどういう意味をいう?」
「同じこととかモノとかを争う、だったけど……どうした?」

 同じこと、同じモノ……?

「……わたしって、ライバル?」
「いや、どうだろうな。好きだったらそうなのかもだけど、今のところ分かってないだろうし……」
「うん、分かってない」
「え、えっと、今から行くよな?」
「だっておごるし」

 動揺を見せる七瀬だったけれど、わたしはそんな感じにはなっていなくて、でも何かモヤモヤ。

「だよな! てか、後で話す」

 ライバルにもなってないのに宣言されてもね。好きとか、別にそんなんじゃないし。

 今はまだ……。

 そう思いつつ、何だか腹が立った。

「綾希、何か怒ってたりする?」
「……何が?」
「なんつうか、いつもよりも更に絡みづらい気がする」

 あれ、もしかして分かりやすく顔に出てた?

「んん、特に変わってないかと」
「ん~~いや、分かるって。だから、ごめん!」

 七瀬曰く、わたしが七瀬に怒っている――らしい。

 でも、たとえ七瀬に彼女がいても正直言って、そうなんだくらいしか思ってなかった。

 ただ、勝手にライバル扱いされたのが嫌だったくらいで。だから怒る相手は彼にじゃない。

 それなのに、そう思わせてることが余計に腹が立った。もちろん自分に。

「好きなの? とか聞かれて嫌だっただろ。本当にごめん。別に好きじゃないだろうし、あいつが勝手なこと言ってて何かその、何ていうか……」
「あ、七瀬のことなら嫌いじゃないから」
「――えっ?」

 これは本当のことだし隠す意味も無い。今はそれ以上の言葉がまだ出てこないだけ。

 本当にそれだけなんだよね。

「えと、あれ? マジですか!?」
「ん、嫌いじゃない」
「うん? キライジャナイ……あぁ、だよな。そりゃそうか」
「どうしたの?」
「何でもない。大丈夫です……本当に」

 七瀬は直後、すごく大きなため息をついていた。
 
 何かおかしなこと言った? 

「本当に面白い奴だな。ちと、聞くけどよい?」
「どうぞ」
「付き合ってる奴、いる?」
「今はいない。最近までいたけど、振ったから」

 これは隠すことでもないし本当のことだから正直に言ってみた。七瀬は出だしは喜んでたけど、冷静になったのかすぐに首を傾げていた。

「振った? 綾希が?」
「そう」
「何でかは聞かないけど、理想高いとか?」

 理想じゃなくて、本当に何となくなんだよね。

「何となく」
「あ、うん……分かった。もう聞かない。そいつと俺は違うし、気にしない。俺、こう見えて根性ある奴だし。綾希の気持ちが聞けたのはマジで上がった。だから、やる気出す!!」
「よく分かんないけど、応援するから」
「そうか、サンキュな」

 お店に入るまでの途中、わたしは少しだけムカッとしていた。けれど、彼と話をしていたら良くなった。

 ……嫌いじゃない。今はこんなことしか言えないけど。

「んじゃ、今日はサンキュ。また明日な!」
「ん、またね」

 その場で七瀬と別れて家に戻ろうとすると、偶然にも沙奈と弘人に出会った。やっぱり関係なのかなって感じで歩いていた。

「あれ? 綾希じゃん。何してんの?」
「帰るとこ」
「方角同じだし、一緒に帰る?」
「うん、いいよ」

 普段沙奈が誰とどうしてるかなんて気にしたことのなかったわたしだったけれど、どうしてか、今日は気になってしまった。

「沙奈って、その……付き合ってる?」

 ――って、聞いた途端、二人は顔を見合わせながら苦笑いしていた。おかしなことを言ったつもりなかったけど、違ったのかな?

「違う違う! あたしが好きな人、別だから。弘人とは全然違うし!」
「あ、そうなんだ。知ってる人?」
「ん~……まぁ、そうかな」

 何となく聞いちゃいけない空気だったけれど、これくらいはいいよね?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

月の綺麗な夜に終わりゆく君と

石原唯人
恋愛
ある日、十七才の春に僕は病院で色のない少女と出会う。 それは、この場所で出会わなければ一生関わる事のなかった色のない彼女とモノクロな僕の 秘密の交流。 彼女との交流によって諦観でモノクロだった僕の世界は少しずつ色づき始める。 十七歳、大人でも子どもでもないトクベツな時間。 日常の無い二人は限られて時間の中で諦めていた当たり前の青春へと手を伸ばす。 不器用な僕らの織り成す物語。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

次期社長と訳アリ偽装恋愛

松本ユミ
恋愛
過去の恋愛から恋をすることに憶病になっていた河野梨音は、会社の次期社長である立花翔真が女性の告白を断っている場面に遭遇。 なりゆきで彼を助けることになり、お礼として食事に誘われた。 その時、お互いの恋愛について話しているうちに、梨音はトラウマになっている過去の出来事を翔真に打ち明けた。 話を聞いた翔真から恋のリハビリとして偽装恋愛を提案してきて、悩んだ末に受け入れた梨音。 偽恋人として一緒に過ごすうちに翔真の優しさに触れ、梨音の心にある想いが芽吹く。 だけど二人の関係は偽装恋愛でーーー。 *他サイト様でも公開中ですが、こちらは加筆修正版です。 性描写も予告なしに入りますので、苦手な人はご注意してください。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

不器用な大富豪社長は、闇オクで買った花嫁を寵愛する

獅月@体調不良
恋愛
「 御前を幸せにする為に、俺は買ったんだ 」 〜 闇オク花嫁 〜 毒親である母親の為だけに生きてきた彼女は、 借金を得た母の言葉を聞き、 闇オークションへ売られる事になった。 どんな形にしろ借金は返済出来るし、 母の今後の生活面も確保出来る。 そう、彼女自身が生きていなくとも…。  生きる希望を無くし、 闇オークションに出品された彼女は 100億で落札された。 人食を好む大富豪か、 それとも肉体を求めてか…。 どちらにしろ、借金返済に、 安堵した彼女だが…。 いざ、落札した大富豪に引き渡されると、 その容姿端麗の美しい男は、 タワマンの最上階から5階部分、全てが自宅であり、 毎日30万のお小遣いですら渡し、 一流シェフによる三食デザート付きの食事、 なにより、彼のいない時間は好きにしていいという自由時間を言い渡した。 何一つ手を出して来ない男に疑問と不満を抱く日々……だが……? 表紙 ニジジャーニーから作成 エブリスタ同時公開

フェチではなくて愛ゆえに

茜色
恋愛
凪島みなせ(ナギシマ・ミナセ) 26歳 春霞一馬(ハルガスミ・カズマ) 28歳 同じオフィスビルの7階と9階。違う会社で働く男女が、恥ずかしいハプニングが縁で恥ずかしい展開になり、あたふたドキドキする話。 ☆全12話です。設定もストーリーも緩くて薄いです。オフィスラブと謳ってますが、仕事のシーンはほぼありません。 ☆ムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

丘の上の王様とお妃様

よしき
恋愛
木崎珠子(35才)は、大学を卒業後、帝国財閥の子会社に勤めていた、ごくごく平凡なOLだった。しかし、同じ職場の彼に二股をかけられ、職場にも居づらくなり、あげくに両親が交通事故でいっぺんに他界。結局会社を退職し、両親がやっていた喫茶店「坂の上」を引き継ごうと、地元へ帰ってくる。喫茶店の仕事は、会社務めに比べると、珠子にはなんとなくあっているようで...ご近所さんを相手にユルくやっていた。そんな珠子が地元へ戻ってから半年ほどして、喫茶店「坂の上」の隣にある、通称「お化け屋敷」と呼ばれる大豪邸に、帝国財閥の偉い人が越してくると話題になる。珠子は、「別の世界の人間」だからと、あまり意識をしていなかったのだか... 「お化け屋敷」の噂からひと月後。いつもは見ない紳士が、喫茶「坂の上」によってきて。そこから始まる現代シンデレラ物語

処理中です...