きみのその手に触れたくて"

遥風 かずら

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第三章 彼と彼氏と友達

29.ヒステリーミステリー?

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 わたしをライバルと言う七瀬の自称元カノが勝手なことを言うのは仕方ないとしても、林崎くんにまで突っかかるのは何となく許せなくて。

 だから、

「自称の元カノさん、何か用が?」

 隣にいるのは七瀬じゃないけど、わたしなりの意地悪を仕掛けてみた。

「違うし! 私は優美! 何で覚えてないかな~。一度だけしか会ってないかもだけど、忘れてしまうとかあり得なくない? ねぇ、そこのあなたもそう思うよね?」
「え? いや、俺もそのへんは自信ないし……」
「はぁ!? どゆこと? というか、似た者同士?」

 七瀬の自称元カノさんは随分と怒りっぽい人だなぁ。そもそも、もう一度会うかどうか分からない人のことをずっと覚える必要はあるの?

「ヒステリー?」
「違うし!!」
「あ、ミステリー?」
「……前々から思ってたけど、おかしいって言われたことない? そこの――あなたも思ってるよね?」
「それも彼女の個性だから」

 何をそんなに怒っているのか、わたしにも意味が分からないけれど。むしろわたしにとっても謎な人って思う。

 口数増やしてマウントとって、まくしたてて誤魔化してるとしか思えない。

「それはともかく、彼……林崎くんに謝って!」
「はぁ? な、何で? しかもこんな道の真ん中でなんて。そもそも謝る何かを私がしたとでも?」

 わたしはともかく、間違いなく林崎くんを馬鹿にしてた。

「歩道があるから問題ないし。林崎くんを不快にさせた罰。彼はとっても優しいし、柔軟……じゃなくて柔らかいし?」
「何で疑問形なわけ? そこまで彼のことを分かって想ってるなら輔と別れなさいよ!」
「輔はわたしの――だからあげない。神々しいし泣きやすいし、わたしが見てあげないと駄目な子だから」

 わたしも七瀬がいないと駄目。それくらい、依存してるし意識しちゃってるから。

「神々しいって何!? やっぱおかしいって! 今カノのあなた、普通じゃない」

 正直言えば子犬のように可愛いから。だけど、言いたくない。汗が本当に光ってたのに上手く説明できないのが悔しいけれど。

「とりあえず、あなたに構う時間はないから。だから、さよなら」
「えっと、七瀬の元カノさん。もう行かないとだから」
「――え? って言うか、輔はどこ?」

 もちろん学校の中にいるんだけど、今カノさんは冷静じゃなさそうだし理解してくれなさそう。

 ますます沸騰しそうだけど、

「女子の輪の中」

 うん、こういうのが正解。

「は?」

 よく分からないけれど七瀬に会いに来た?

  そうだとしても、部外者は入れないはずだし素直に会わせたくない。

「悪いね、俺らは買い出しでたまたま一緒に外に出ただけで、ここで時間かけてると何を言われるか分かんないんだ。だから戻らないと。七瀬に会いたかったら連絡すればいいんじゃないかな? あるよね、連絡手段くらい」

 うんうん、林崎くんナイス。

「な、ない……というか知らない」
「へ? 元カノだったなら、あるはずなんじゃ……?」
「えっと、彼は時代錯誤なくらいにガードが固いうえに全然教えてくれなかったから、だから会いに来ただけで……」

 時代とか関係なしに騒がしそうな人が苦手なだけかも?

「あ、ストーカーさんだ!」
「ちーがーうー!! そんなんじゃないし! と、とにかく輔にはきちんと伝えてよね? 私がまた会いたいって! もう帰るし!」
「お疲れ様でした。元カノさん」
「名前覚えてよ!!」

 七瀬の追っかけなのかな? 

 でも元クラスメートなのは本当だろうから、そこだけは伝えておこうかな? 

「葛西さん、七瀬にあの子のこと伝えとくの?」
「んん……迷ってる」
「言わないでおこうか? 俺と葛西さんだけが知ってるってことでいいんじゃないかな」

 遭遇したのはわたしと林崎くんだけだし、そうするのがいいかもしれない。

「林崎くんとわたしだけの秘密?」
「そうだね。七瀬のためにも葛西さんのためにもそれがいいと思う」
「ん、それで」

 秘密にするなんて大げさな気がするけれど、七瀬に話をしても仕方がないしあの子が勝手に会いに来てたから言わない方がいい気がする。

「優しいね?」

 林崎くんはこういう気遣いが出来る人なんだ。

「あ、いや、誰にでもってわけじゃないから。葛西さんだけだから」
「……?」
「ううん、気にしないでいいよ。じゃ、早く戻ろう」
「はい」

 林崎くんの優しさは誰のためのものなのかな?

 わたしだけとか言われても、わたしには言葉の意味が分からなかった。
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