きみのその手に触れたくて"

遥風 かずら

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第三章 彼と彼氏と友達

30.紹介と応援と眼差し

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 学校に戻ったわたしたちを出迎えてくれたのは、沙奈そして、輪の中から解放されたらしい七瀬だった。

「おかー! って、二人そうやってコンビニ袋持ってる姿がお似合いやな」

 競技が終わったからか、沙奈は敵に戻ってて嫌味ったらしいことを言ってくる。

「なんなら付き合ったらええのに。弘人は未だに――」
「――そ、そんなわけないだろ! お前、葛西さんに強く当たりすぎなんじゃないのか?」
「怒ってんなぁ? マジになってどうしたん? 前よりカノジョへの想いが強くなったん?」
「うるせーな! お前も教室戻るぞ」
「全然こっちの話が終わってないのにーー!」

 そう言うと林崎くんはわたしからお菓子が入ったコンビニ袋を受け取って、沙奈に渡した。

 やっぱり林崎くんと沙奈は相変わらず仲がいいみたい。彼は沙奈の腕を掴んでそのまま教室へ引っ張っていった。

 この場に残ったのは見事に七瀬とわたしだけ。

「コンビニから随分遅かったみたいだけど、何かあった?」
「ヒステリーとミステリーにあった」
「へ? はははっ、綾希は面白い奴だな。なんか安心出来るんだよな。つまり、俺はお前じゃないと駄目みたいだ」

 またすぐそういうこと言う。

「じゃあ抱きしめる?」
「したいけど、しない。ここは学校だしな。ただでさえ綾希のことをみんなに話す時間がかかったのに、また説明するのは勘弁して欲しい。その代わり、お前の手に触れたい。いいか?」
「どうぞ」

 なんか甘えてくるようになったっぽい?

 キスとかそういうのを我慢させて、どこかに触れさせるだけっていうのも男子には酷なことかもしれない。けれど、ほんのちょっとの気持ちが嬉しい。

 ただの握手を七瀬と。

 それだけなのに、

「喧嘩したわけでもねーし、なんつうか握手って不思議な感じがするな。妙に照れるっていうか」
「七瀬と手を繋ぐのは、キスをするのと同じ」
「や、流石に違うと思うけど。まぁ、綾希を感じられるって意味じゃ同じかもな」

 わたしも七瀬を目いっぱい感じられるまでには時間といくつかの季節、もっと距離を近づけないと。

 だから今後も七瀬を離すことなく過ごせればいい。

「……ところで。あいつ、林崎はお前になにか言ってこなかったか?」
「言葉」

 何か言ってたかなってくらい記憶にない。コンビニに行って一緒に袋を手分けして持ったくらい?

「じゃなくて、や、そうなんだけど……まぁ、いいや。綾希が分かってないっぽいしあいつには悪いけど、綾希は渡さねえよ。沙奈の奴がそう言ってたからって、そもそも本人の頭の上にはハテナマークがすごく浮いてるしな」

 七瀬の中ではまだ林崎くんは信頼してない感じ?

「なんのこと?」
「や、気にしなくていい。俺らも教室戻んぞ! せっかく買ってきたモンが無くなるし」

 そういうと七瀬は教室に向かってわたしを促した。

 わたし的に子犬な七瀬。そんな彼が、わたしの頭をポンポンと軽く撫でながら手を掴んで離さなかった。わたしへの気持ちを日ごとに増してきているような、そんな気がした。

 体育祭の打ち上げ的な何かが終わり、数日が経った日の教室。

 いつもの光景、いつもの時間が流れようとしていた。もうすぐ夏が近付いてきて、衣替えがきたら七瀬の肌がまた眩しく光るんだろうか、なんてことを思い浮かべながら。

「あやきちー!」

 ……まだ窓から春の風が吹き込んでくるのを感じて眠ろうとしていたら、雪乃が声をかけてきた。

「ん~?」

 もう少しで机に突っ伏していたのにタイミング悪すぎ。

「ふっふっふ、七瀬くんとどうだったのかね? 体育祭のあの日、教室入るまで間があったけど、校庭で何かしてきたのだね?」
「握手してた」
「はい? キスとかしてたんじゃなかったの? 握手ってあんた……そんなの誰でも出来るじゃん!」
「雪乃も握手する?」

 というわけで雪乃に手を差し出すも、

「あ、どうも……って、違くて! 七瀬と付き合ってんのが一応おなクラのみんなには許されたんだよ? どうしてそれを活用しないのだ君は。手に触れるなんていつでもどこでも出来るじゃん。それよりもキスを……」

 そっか、沙奈以外には公認されたんだ。

「出来ないから」
「んん?」

 わたしの返事に雪乃は首を傾げる。

 キスするのも簡単じゃないけれど、わたしはきっと握手とかどこかに触れるのを簡単だと思う日はこないと思ってる。

 わたしから七瀬に話しかける方が少ないのに、その状態で手に触れるなんてことは雪乃が思ってる以上に難しいから。

「付き合ってそんな経ってなくても、彼の方が甘えてきてんじゃん? どんどん近付いとけば喜ぶと思うんだけどなぁ」
「努力する」
「まっ、それはそれとして、あやきちに頼みがありまして。聞いてくれる?」
「なに?」

 雪乃がチラりと視線を送るその先には、林崎くんが座っている廊下側の席があった。彼は休み時間の時、七瀬と笑いながら何かを話すくらいすっかりと仲良くなっている。

 休み時間に限っては、七瀬はわたしの隣には座りっぱなしではなくなっていた。

「こらこら。寂しい気持ちは分かるけど、いつもいつも七瀬くんと隣でいられるとは限らないのだよ。オーケー?」
「……ん? じゃなくて、雪乃が見ていたんじゃなくて?」

 てっきり推しの林崎くんを気にしているかと思っていたのに、雪乃が見ていたのはわたしの視線の先だった?

「そうでした。えっと、あやきちって林崎くんとも仲いいじゃん? なので、お願いが~……」
「分かった。行ってくる」

 そうならわたしが林崎くんのところに向かえばいいだけ。

 なので、とりあえず彼らがいる場所に足を動かそうとすると、

「ちょ! 待てい! 私が言いたいこと理解してる? 何を言うつもりなのかね?」

 そしたらすぐに雪乃に止められた。

「雪乃は林崎くんが好き」

 以前から聞いていた話だから、わたしに代弁をして欲しいと思っていたのに。

「や、そうなんだけど、それはあやきちが言うことじゃないから。そういうのは自分で言うから。じゃなくて、紹介して欲しいわけ。私のことを彼に! そしたらすぐに行くし話を進めるから。よい?」
「あ、うん、理解」

 雪乃の期待の眼差しが、林崎くんの席に向かって歩くわたしの背中にひしひしと注がれている。確かに席は遠いけど自分で言えばいいのに。

 わたしと違って、雪乃は話しやすいし積極的なのに何でだろう。

「林崎くん。少しだけ話、いい?」

 近づいてすぐに声をかけた。

「えっ? 葛西さん? 七瀬じゃなくて、俺に?」

 林崎くんは、驚きの反応を見せながら七瀬を何度も見て確認していた。七瀬もちょっとだけ驚いていたけれど。

「その、林崎くんに紹介――」
「どうも~! あやきちの友達の、泉雪乃です。林崎くん、放課後空いてる?」

 なんだ、結局自分で来たんだ。

「え、あ……空いてるけど」
「じゃあ、ウチのあやきちと林崎くんと一緒にどっか行きません? 話とかしたいんで」
「葛西さんも?」
「ですです! あやきちも行かせます」

 有無を言わさず強制参加。

 でも、沙奈の時と違って強引な事でもないしそもそもわたしを間に挟んでのことだから、行かないと駄目かも知れない。

 雪乃は多分、いきなり二人きりは無理って判断したはず。

「特に用も無いから行くよ。その、泉さん。よろしく!」
「はい。よろしくです! それじゃっ、席に戻りますね! ほら、あやきちも」
「そういうことで」

 雪乃に続いてわたしも席に戻ろうとすると、黙っていた七瀬がわたしの手を掴んで引き留めた。

「こらこら、綾希さん。俺が全く見えてなかったのか?」
「見える」
「だよな? 俺も行くぞ?」
「なぜ?」

 そういえば三人だけで話が進んでいたけど、七瀬がいないのは変だと思っていた。

「お前の友達は話が上手く出来そうだけど、林崎がずっと女子に話振られてたらキツいだろ? だから、俺とお前で二人を見守りながら話をした方がよくないか?」
「そうかも」
「だろ? 林崎もそう思うだろ?」

 そして何気に林崎くんも席から立ちあがれずこの場に残ってた。

「……そ、そうだね。七瀬も居てくれた方がきっと葛西さんの面倒を見てくれるだろうし、それでいいよ」
「ってことだ。綾希はお友達に俺も行くってことを伝えといて」
「分かった」

 七瀬の言う通りかもしれない。

 雪乃は林崎くんと話がしたくてわたしに頼んだけれど、多分林崎くんはわたしの方が慣れているし話もするだろうから、気まずい思いをするかもしれない。

 そこに七瀬がいてくれれば、林崎くんも安心するし雪乃も話を弾ませられるはず。

 七瀬に言われるがままに自分の席に戻ったわたしは、先に待っていた雪乃に事情を話してみた。

「七瀬……お前、何を心配してんの?」
「んあ? お前が話をしたいのは泉さんじゃなくて、綾希だろ? 悪ぃけど、それは認めてない」
「決めつけられても困るけど。それとも、自分の彼女を信用してないの?」
「あいつじゃなくて、俺が心配なのはお前だ。分かるけどさ、分かるけど……あいつは渡さねえよ」
「……何のことを言ってるのか俺には分からないな」

 わたしが自分の席に戻ってからも、予鈴がなるギリギリまで七瀬は戻って来なかった。

 よほど林崎くんと仲良しになっているんだなぁと、安心しながら机に伏した。
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