きみのその手に触れたくて"

遥風 かずら

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第三章 彼と彼氏と友達

31.渇いた笑顔の裏側

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「……綾希」
「……」
「綾ちゃん。今すぐ起きないとキスするけど?」
「よくない」
「なら、顔を上げて机顔……っ、はははっ! やっぱ、お前最高だな! 綾希」

 七瀬が綾ちゃんって、似合わないし違和感だらけ。言われても嫌じゃないけれど、まだそれは許可したくないな。

「……なに?」

 顔を上げたら七瀬だけがいるかと思っていたのに、後ろの気配に気づいてそこに目をやると、ニヤニヤしている雪乃、そして苦笑いをしている林崎くんが立っていた。

「あ……そっか」
「そういうことな。流石にここでキスはしないし俺もアホじゃない。それとも、がっかりしてる?」
「さぁ……?」

 七瀬は雪乃の言う通り積極的に甘えてくるようになった。それに加えて、わたしに挑発的なことを言ってきたりやってきたり。

 どういうことなのだろう?

 もしかして、キスのお預けをくらっているからわたしにそれ以上の思いを抱くようになったとか?

「あやきち~ここ、学校なんだからね? そういうのは他でやりなさい! ピュアな林崎くんも反応に困ってるよ?」

 雪乃のすぐ隣に立っている林崎くんは、何とも言えない表情でわたしたちのやり取りを見ていた。

「ごめんね?」

 これはよろしくない――そう思って林崎くんにはすぐに頭を下げた。

「えっ? き、気にしてないから」
「あやきちが謝るとか珍しい……」

 そうかと思えば雪乃は結構失礼なことを言ってるし。

「綾希が起きたことだし、そろそろ行こうぜ」

 七瀬が先に教室から出て行こうとしているみたいで、その素早さに焦った雪乃がわたしの腕を引っ張っている。

「わわっ、七瀬くん、ちょい待って! ほらほら、綾希!」
「林崎くんも行こ」

 雪乃に引っ張られたので、わたしも雪乃にならって林崎くんに手を伸ばした。

「……」
「どうかした? 林崎くん行かないの?」
「いや、何でもないよ。葛西さん、行こうか」

 考え事をしていたのか、わたしが声をかけるまで林崎くんはしばらく静止して反応がなかった。

 もしかして具合でも悪い? 

「……で、どこ行く?」

 外で先に待っていた七瀬が雪乃に場所を訊いているのに対し、

「えーと、私から誘ったといて近場で済ませるのはどうかなと思うので、今から電車乗ります~」

 ……なんて突発的なことを言い放った。

「え、どこ行くの?」
「いいからいいから、あやきちはついて来るだけでいいの」

 別に電車で移動するのはいいけれど、一駅だけの移動は何か嫌だ。橋一本だけの距離には思い出したくもないがいるから。

 大きくない街ではあるけれど、どういうわけか遭遇する可能性が高いわけで。そういう心配をしていたものの、気づいたら一駅どころかかなりの駅を通り過ぎていた。

「人、多すぎ……」
「夕方だしな。そこは仕方ないだろ。綾希、ほら……」
「……ん」

 迷子になる心配もあるだろうけれど、七瀬は自然とわたしに手を差し出してくる。抵抗なく、わたしも彼の手を握り返す。

 七瀬と手を繋ぐのはとても好き。

 一度触れてしまえばそれ自体難しくなくて。いつも手を繋いでいるわけではないけれど、七瀬に安心感を覚えているせいもあるかもしれない。

「……」
「林崎くん。元気なさそうだけど、どしたの?」
「何でもないよ、泉さん」

 話しかけるのを躊躇していた雪乃だったのに、すぐに慣れたのか林崎くんに簡単に話しかけている。

「あやきちと七瀬くん。目的地、このビルの中にある水族館だから! しっかりついて来てね」
「分かった、綾希をはぐれさせないようについて行く」
「おけおけ、じゃあ行きまーす」

 雪乃の言葉に、七瀬の握る手の力が少しだけ強くなった――かと思ったら、その手をすぐに離して。

「綾希。少し手、離す。動くなよ?」

 そう言って林崎くんの元に近づいた。

「おい、林崎。……泉さんについててやれよ」
「分かってるよ」

 七瀬に注意を受けるも、具合でも悪いのか林崎くんの表情はあまり冴えない。そんな表情をずっとしていてわたしも気になって顔を見てしまう。

 すると、わたしの視線に気づいたのか今度は林崎くんがわたしの元にやってきて、

「……葛西さん、七瀬から離れちゃ駄目だよ?」
「分かった」

 ……などと、優しく声をかけられた。

「じゃあ、俺は泉さんの所に行ってくるね」

 そう言うと林崎くんは笑顔を見せて、雪乃の所に駆けていく。彼の笑顔は満面でもなく、何となく曖昧な笑顔。

 どうしてそんな表情を見せたのか、わたしは分からないままだった。
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