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第三章 彼と彼氏と友達
32.七瀬、はぐれる?
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「ごめん~! まさか平日にこんなに人がいるだなんて思わなかったです。やっぱ、夏が近いし天気もいいから混むのかな」
「や、時間じゃね? 帰宅時間にかぶってるし。それ以外に店も入ってるから仕方ないっしょ」
ほぼ遠出をしないわたしとしては、夕方に混雑するだとか帰宅の時間がかぶるだとか、そんなのは考えたことも無かった。
だから、七瀬が知っていることに意外性を感じた。
「何で知ってる? って顔してっけど、俺が前にいたところはこんな感じの所だったから。だから慣れってわけじゃないけど、そんなもんって知ってる。綾希と一緒に人が多いところは今まで来てなかったから無理もないけどな」
そう言われれば確かに。二人だけで遠出をするのもありかな。
「林崎くんも同じ?」
「俺はこんな人が多い場所から来たわけじゃないよ。七瀬がいたところとは違うところだから」
「そっか。ごめんなさい」
「あ、いや、葛西さんは全然悪くないから」
何だか気まずい思いをさせているかもしれないって思ったら、林崎くんに自然と謝っていた。
わたしが頭を下げる光景を、七瀬は何とも言えない表情で眺めていたけれど。
「泉さんが俺らの分のチケット買ってくれるみたいだし、早く中に入ろうぜ。おっと、もちろん自分の分は払っとけよ?」
「当然」
「もちろん払うよ」
滅多に出かけないわたしが思う、出かける定番の場所で思いつくのが水族館とか映画館とか公園、それとカフェ。
今回のここは、ショッピングモールの一つで人気があるところ。予算的にもそんなでもなかったから、誰も文句は言わなかった。
「お待たせです! これからエスカレーター昇ってそこから入口なので、はぐれないように来てください~! 特にあやきち! あんたは七瀬くんから絶対離れないように」
雪乃はわたしに指差しをして念を押してくるので、
「分かった、そうする」
……などと素直に頷いた。
ちなみに七瀬はわたしたちの中で一番身長が高い。だから、いくら人混みがすごくても手を繋いでいればはぐれる心配はないと、少なくともわたしは思っていた。
そんな予想を覆して、かえって小回り的なのが上手くいかなかったのか、気付いたらわたしの手から七瀬の手がするりと抜けていた。
順路通りに進めるのは、結局のところその場所が空いている時だけ。
混雑した人の波でそのまま押し流されながら進まざるを得ない時は、上手くいくはずもなくて。
「あー……」
……うん、完全に見失った。
「――って、あやきち。七瀬くんどしたの? どこ行ったの?」
「流されてどこかに」
「嘘っ!? てっきりあやきちが真っ先にはぐれるって確信してたのに~。まさかの七瀬くんが! あやきち、すぐ彼に連絡して!」
「ん、分かった」
普段、学校にいる時はほとんど使わないスマートフォン。そのへんが他の女子と違う点。
何せ休み時間は寝るのがメインだったし、帰る時なんかは七瀬を見ながら話すだけだから、家に帰ってもメッセージのやり取りとかしたことが無かった。
それもあって、予想通りの展開が待っていた。
「うん、駄目っぽい」
「え? 七瀬くん、出ないの?」
「違う。充電してなくて電池切れてた」
「はぁ!? あんた、何の為の携帯なの……あーそう言えば、使ってるとこ見た時ないかも」
思い出したかのように、雪乃はわたしを見ながらがっくりと肩を落として下を向いている。
「……あのさ。俺なら七瀬の連絡知ってるけど、伝えとく?」
雪乃が呆れた顔でわたしを見ていた時、林崎くんがスマホ画面を見せながら声をあげた。
「流石です! あの、お願いします。ほらほら、あやきちもお礼を言いなって!」
「ありがと、林崎くん」
「いや、これくらいいいよ」
そう言うと、林崎くんは混雑地帯から外れ、壁際でスマホを見つめだした。そんな彼の姿に二人で期待して見ていた。
「ん~……やっぱりいいなぁ……」
しかも、雪乃は推しである彼の優しさと行動に見惚れっぱなしだった。
……少しして、彼がこっちへ戻ってくると雪乃はさりげなく彼の隣に立ち、上目遣いな体勢になりながら期待する答えをじっと待っていた。
「林崎くん、どうだった? 七瀬くんどこにいるって?」
「あ、うん。あいつ、人の波に流されたって。けど、正確にははぐれたんじゃなくて、この先の方で待ってるらしいよ。葛西さんにも連絡したらしいけど、何も返事がこないから予想通りだって言ってた」
「流石、あやきちの保護者。分かってる~!」
「違うし」
「じゃ、ウチらも七瀬くんのとこに合流しよっか。あやきち、ついてこいよ~!」
「了解」
七瀬がはぐれたわけじゃないんだ。
「泉さん。俺、葛西さんの後ろをついて歩くから、泉さんが先頭で誘導してくれるかな? それだと俺も助かるんだけど、いいかな?」
「おぉ! それはいいですね! そうします。優しいですね、林崎くんって。あの、そろそろ下の名前で呼びたいんですけどいいですか?」
「別に構わないよ。葛西さんも以前のように呼んでいいから」
そういえば最初は弘人って呼び捨てしてたんだった。別人疑惑から名字で呼ぶようになって、そのまま戻していたけれど。
七瀬の場合は輔って呼ぶのは気が向いてからにしてる。七瀬で呼び慣れてるし、個人的に好きだから。
「分かった。じゃあ、それでいい。後ろ、よろしく……弘人」
「! ま、任せて」
そうして人混みに負けじと先を進む雪乃と距離が徐々に離れていき、気付けば弘人と二人だけになっていた。
だからといって何がどうなるわけでもないけれど、心なしか弘人は嬉しそうにしていた。
「や、時間じゃね? 帰宅時間にかぶってるし。それ以外に店も入ってるから仕方ないっしょ」
ほぼ遠出をしないわたしとしては、夕方に混雑するだとか帰宅の時間がかぶるだとか、そんなのは考えたことも無かった。
だから、七瀬が知っていることに意外性を感じた。
「何で知ってる? って顔してっけど、俺が前にいたところはこんな感じの所だったから。だから慣れってわけじゃないけど、そんなもんって知ってる。綾希と一緒に人が多いところは今まで来てなかったから無理もないけどな」
そう言われれば確かに。二人だけで遠出をするのもありかな。
「林崎くんも同じ?」
「俺はこんな人が多い場所から来たわけじゃないよ。七瀬がいたところとは違うところだから」
「そっか。ごめんなさい」
「あ、いや、葛西さんは全然悪くないから」
何だか気まずい思いをさせているかもしれないって思ったら、林崎くんに自然と謝っていた。
わたしが頭を下げる光景を、七瀬は何とも言えない表情で眺めていたけれど。
「泉さんが俺らの分のチケット買ってくれるみたいだし、早く中に入ろうぜ。おっと、もちろん自分の分は払っとけよ?」
「当然」
「もちろん払うよ」
滅多に出かけないわたしが思う、出かける定番の場所で思いつくのが水族館とか映画館とか公園、それとカフェ。
今回のここは、ショッピングモールの一つで人気があるところ。予算的にもそんなでもなかったから、誰も文句は言わなかった。
「お待たせです! これからエスカレーター昇ってそこから入口なので、はぐれないように来てください~! 特にあやきち! あんたは七瀬くんから絶対離れないように」
雪乃はわたしに指差しをして念を押してくるので、
「分かった、そうする」
……などと素直に頷いた。
ちなみに七瀬はわたしたちの中で一番身長が高い。だから、いくら人混みがすごくても手を繋いでいればはぐれる心配はないと、少なくともわたしは思っていた。
そんな予想を覆して、かえって小回り的なのが上手くいかなかったのか、気付いたらわたしの手から七瀬の手がするりと抜けていた。
順路通りに進めるのは、結局のところその場所が空いている時だけ。
混雑した人の波でそのまま押し流されながら進まざるを得ない時は、上手くいくはずもなくて。
「あー……」
……うん、完全に見失った。
「――って、あやきち。七瀬くんどしたの? どこ行ったの?」
「流されてどこかに」
「嘘っ!? てっきりあやきちが真っ先にはぐれるって確信してたのに~。まさかの七瀬くんが! あやきち、すぐ彼に連絡して!」
「ん、分かった」
普段、学校にいる時はほとんど使わないスマートフォン。そのへんが他の女子と違う点。
何せ休み時間は寝るのがメインだったし、帰る時なんかは七瀬を見ながら話すだけだから、家に帰ってもメッセージのやり取りとかしたことが無かった。
それもあって、予想通りの展開が待っていた。
「うん、駄目っぽい」
「え? 七瀬くん、出ないの?」
「違う。充電してなくて電池切れてた」
「はぁ!? あんた、何の為の携帯なの……あーそう言えば、使ってるとこ見た時ないかも」
思い出したかのように、雪乃はわたしを見ながらがっくりと肩を落として下を向いている。
「……あのさ。俺なら七瀬の連絡知ってるけど、伝えとく?」
雪乃が呆れた顔でわたしを見ていた時、林崎くんがスマホ画面を見せながら声をあげた。
「流石です! あの、お願いします。ほらほら、あやきちもお礼を言いなって!」
「ありがと、林崎くん」
「いや、これくらいいいよ」
そう言うと、林崎くんは混雑地帯から外れ、壁際でスマホを見つめだした。そんな彼の姿に二人で期待して見ていた。
「ん~……やっぱりいいなぁ……」
しかも、雪乃は推しである彼の優しさと行動に見惚れっぱなしだった。
……少しして、彼がこっちへ戻ってくると雪乃はさりげなく彼の隣に立ち、上目遣いな体勢になりながら期待する答えをじっと待っていた。
「林崎くん、どうだった? 七瀬くんどこにいるって?」
「あ、うん。あいつ、人の波に流されたって。けど、正確にははぐれたんじゃなくて、この先の方で待ってるらしいよ。葛西さんにも連絡したらしいけど、何も返事がこないから予想通りだって言ってた」
「流石、あやきちの保護者。分かってる~!」
「違うし」
「じゃ、ウチらも七瀬くんのとこに合流しよっか。あやきち、ついてこいよ~!」
「了解」
七瀬がはぐれたわけじゃないんだ。
「泉さん。俺、葛西さんの後ろをついて歩くから、泉さんが先頭で誘導してくれるかな? それだと俺も助かるんだけど、いいかな?」
「おぉ! それはいいですね! そうします。優しいですね、林崎くんって。あの、そろそろ下の名前で呼びたいんですけどいいですか?」
「別に構わないよ。葛西さんも以前のように呼んでいいから」
そういえば最初は弘人って呼び捨てしてたんだった。別人疑惑から名字で呼ぶようになって、そのまま戻していたけれど。
七瀬の場合は輔って呼ぶのは気が向いてからにしてる。七瀬で呼び慣れてるし、個人的に好きだから。
「分かった。じゃあ、それでいい。後ろ、よろしく……弘人」
「! ま、任せて」
そうして人混みに負けじと先を進む雪乃と距離が徐々に離れていき、気付けば弘人と二人だけになっていた。
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