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第三章 彼と彼氏と友達
33.自然と浮かんだ彼氏の顔
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「葛西さん、大丈夫? 人、多いよね」
「ん、平気」
「泉さんの姿がすぐに見えなくなってしまったけど、もう七瀬と出会えたのかな。葛西さんも早く会いたいよね?」
「進んでいれば会えるから。それは別に」
「……そっか」
弘人は七瀬のことを気にしているのか、すごくそわそわしている感じ。この機会に雪乃をどう思っているのか訊いてみたい。
だって、今回の話は雪乃が弘人と話したくて誘ったわけだから。
「弘人は雪乃のこと、どう思ってる?」
「いい子だと思う。話しやすいし引っ張ってくれるし、気遣いが嬉しいよね!」
いい子?
いい子って何だろう。
よく分からないけれど、上手くいきそうなのかな?
「それなら良かった。雪乃、きっと喜ぶ。なぜかというと、弘人と話がしたくて誘ってるから。だから、雪乃とこれからも仲良くしてね」
これは本心。推してる弘人とは仲良くなって欲しい。
「それはもちろん、そうするよ。でもさ、もしかして忘れてるのかな? それともわざと?」
「なにがわざと?」
何か約束でもしてたっけ?
「もう俺のことなんて何とも思わないで、あくまで七瀬の友達として接してくれてるのかな? 葛西さんに言ってどうなるでもないけど、俺は本気で君のことを――」
沙奈がわたしと弘人を二人だけにして、わたしに告白をした日があったことを思い出した。あの時は七瀬がどうとかまだそんなでもなかったけれど、弘人に対しても同様だったわけで。
沙奈と一緒にいてからかったり空気を読まない言葉があっただけ。ただそれだけに過ぎなくて、弘人に対していい思いを浮かべることは一度も無かった。
彼からの告白の正体は、わたしを一方的にいいなと思っての発言――ただそれだけの意味としか思えなくて。
最初の頃と今とじゃ弘人の口調も態度も雰囲気も違うけれど、だからといって彼に対して『好き』といった気持ちが芽生えるかと言えばそうでもないわけで。
……というより、わたしが好きなのは七瀬だけ。まだちゃんとしたキスもしていないけれど、彼のことをもっと知りたいし近付きたい。
そういう段階だから、わたしの気持ちはきっと変わらないって断言できる。
「ふぅ~七瀬くん、見ーつけた! あやきちと弘人くん、七瀬はここだよーって、あれっ?」
先へ先へと進んでいた雪乃は、館内で座ってくつろぐ七瀬を見つけて声をかけるも、いるはずの二人がいないことに気づいて首を左右に動かしている。
「おっ、おかえり。ん? 泉さんだけなのか? 綾希と林崎は?」
七瀬も雪乃の姿しか見えず、一緒になって辺りを見回してみた。
「弘人くんがあやきちの後ろについてくれるって言ってたから一緒だとは思うけど、私だけ先に来すぎちゃった感じかな。どうしようか?」
「弘人? あぁ、呼び方を変えたのか。綾希と一緒にいるだって? まずいな……」
よりにもよってあの林崎と一緒にいると知り、七瀬は焦りを見せた。
「だ、だよね? また戻って探しに行く?」
そんな七瀬を見ながら雪乃も来た順路を振り向くが。
「いや、泉さんはそこの自販機の前で休んでていいよ。そこなら分かりやすいし。俺だけ綾希たちを探してくるから。大人しく待っててくれる?」
「うん、オッケーです。じゃあ、私は水分補給しながら待ってますね! あやきちをよろしくです」
七瀬はわたしたちを探しに順路を逆流してまで戻ってくるみたいだった。何をそんなに慌てているのか、雪乃には分からなかったらしい。
「俺は……葛西さんのこと、諦めるつもりなんてないから」
「わたしは七瀬が好き。だから、弘人のことは好きじゃない。嫌いでもない……」
「嫌いじゃないなら、俺はずっと君を――」
弘人は壁を背にしてわたしと向き合っている。でも、わたしは七瀬がいる方を気にしながら、進んでくる人に体がぶつかってよろけそうになっていた。
「あっ……」
「葛西さん、こっちに!」
ほんの少しだけ体のバランスを崩した瞬間、弘人がわたしの手を引っ張って壁際に寄せていた。
以前、歩道上で自転車を避けた時に弘人の顔が間近に迫った時があるけれど、その時よりも近くに迫っていた。
「……え」
「お、俺は君のことが――」
顔が間近にあって、そのままわたしに近付きながら何かを言おうとしている。一瞬、ほんの数秒だけ動けなくなった。
でも、わたしはそんなつもりもなくて、させるつもりもなかった。それなのに、近付く弘人を強く押し返すことも出来ないまま、七瀬の顔が咄嗟に浮かんでいた。
七瀬の顔を浮かべながらも、弘人はわたしの顔――口元に迫ってきている。そんなのは駄目って思っていたら、わたしは自分の手で顔を隠してガードしていた。
だけど、興奮状態の弘人はわたしのその手すらも掴もうとしてくる。
その時、
「――はい、そこまで!!」
目の前にあった弘人の顔に変わって、七瀬の手がすぐそこにあった。弘人に掴まれていた手は、七瀬の手がしっかり押さえていた。
しかも、わたしの体は半分だけ七瀬に抱き寄せられている。
「――あ」
「ったく、綾希は俺がいないと駄目なんだな。大丈夫か?」
「……ん、平気」
今度は離れないように七瀬の手はしっかりと繋がれてた。七瀬の視線は、壁に寄りかかる弘人に向けられている。
何だか穏やかじゃなくて、どちらかというと怒りを向けた状態で。
「……で、だ。林崎。自分がしようとした意味は理解してるか?」
「ん、平気」
「泉さんの姿がすぐに見えなくなってしまったけど、もう七瀬と出会えたのかな。葛西さんも早く会いたいよね?」
「進んでいれば会えるから。それは別に」
「……そっか」
弘人は七瀬のことを気にしているのか、すごくそわそわしている感じ。この機会に雪乃をどう思っているのか訊いてみたい。
だって、今回の話は雪乃が弘人と話したくて誘ったわけだから。
「弘人は雪乃のこと、どう思ってる?」
「いい子だと思う。話しやすいし引っ張ってくれるし、気遣いが嬉しいよね!」
いい子?
いい子って何だろう。
よく分からないけれど、上手くいきそうなのかな?
「それなら良かった。雪乃、きっと喜ぶ。なぜかというと、弘人と話がしたくて誘ってるから。だから、雪乃とこれからも仲良くしてね」
これは本心。推してる弘人とは仲良くなって欲しい。
「それはもちろん、そうするよ。でもさ、もしかして忘れてるのかな? それともわざと?」
「なにがわざと?」
何か約束でもしてたっけ?
「もう俺のことなんて何とも思わないで、あくまで七瀬の友達として接してくれてるのかな? 葛西さんに言ってどうなるでもないけど、俺は本気で君のことを――」
沙奈がわたしと弘人を二人だけにして、わたしに告白をした日があったことを思い出した。あの時は七瀬がどうとかまだそんなでもなかったけれど、弘人に対しても同様だったわけで。
沙奈と一緒にいてからかったり空気を読まない言葉があっただけ。ただそれだけに過ぎなくて、弘人に対していい思いを浮かべることは一度も無かった。
彼からの告白の正体は、わたしを一方的にいいなと思っての発言――ただそれだけの意味としか思えなくて。
最初の頃と今とじゃ弘人の口調も態度も雰囲気も違うけれど、だからといって彼に対して『好き』といった気持ちが芽生えるかと言えばそうでもないわけで。
……というより、わたしが好きなのは七瀬だけ。まだちゃんとしたキスもしていないけれど、彼のことをもっと知りたいし近付きたい。
そういう段階だから、わたしの気持ちはきっと変わらないって断言できる。
「ふぅ~七瀬くん、見ーつけた! あやきちと弘人くん、七瀬はここだよーって、あれっ?」
先へ先へと進んでいた雪乃は、館内で座ってくつろぐ七瀬を見つけて声をかけるも、いるはずの二人がいないことに気づいて首を左右に動かしている。
「おっ、おかえり。ん? 泉さんだけなのか? 綾希と林崎は?」
七瀬も雪乃の姿しか見えず、一緒になって辺りを見回してみた。
「弘人くんがあやきちの後ろについてくれるって言ってたから一緒だとは思うけど、私だけ先に来すぎちゃった感じかな。どうしようか?」
「弘人? あぁ、呼び方を変えたのか。綾希と一緒にいるだって? まずいな……」
よりにもよってあの林崎と一緒にいると知り、七瀬は焦りを見せた。
「だ、だよね? また戻って探しに行く?」
そんな七瀬を見ながら雪乃も来た順路を振り向くが。
「いや、泉さんはそこの自販機の前で休んでていいよ。そこなら分かりやすいし。俺だけ綾希たちを探してくるから。大人しく待っててくれる?」
「うん、オッケーです。じゃあ、私は水分補給しながら待ってますね! あやきちをよろしくです」
七瀬はわたしたちを探しに順路を逆流してまで戻ってくるみたいだった。何をそんなに慌てているのか、雪乃には分からなかったらしい。
「俺は……葛西さんのこと、諦めるつもりなんてないから」
「わたしは七瀬が好き。だから、弘人のことは好きじゃない。嫌いでもない……」
「嫌いじゃないなら、俺はずっと君を――」
弘人は壁を背にしてわたしと向き合っている。でも、わたしは七瀬がいる方を気にしながら、進んでくる人に体がぶつかってよろけそうになっていた。
「あっ……」
「葛西さん、こっちに!」
ほんの少しだけ体のバランスを崩した瞬間、弘人がわたしの手を引っ張って壁際に寄せていた。
以前、歩道上で自転車を避けた時に弘人の顔が間近に迫った時があるけれど、その時よりも近くに迫っていた。
「……え」
「お、俺は君のことが――」
顔が間近にあって、そのままわたしに近付きながら何かを言おうとしている。一瞬、ほんの数秒だけ動けなくなった。
でも、わたしはそんなつもりもなくて、させるつもりもなかった。それなのに、近付く弘人を強く押し返すことも出来ないまま、七瀬の顔が咄嗟に浮かんでいた。
七瀬の顔を浮かべながらも、弘人はわたしの顔――口元に迫ってきている。そんなのは駄目って思っていたら、わたしは自分の手で顔を隠してガードしていた。
だけど、興奮状態の弘人はわたしのその手すらも掴もうとしてくる。
その時、
「――はい、そこまで!!」
目の前にあった弘人の顔に変わって、七瀬の手がすぐそこにあった。弘人に掴まれていた手は、七瀬の手がしっかり押さえていた。
しかも、わたしの体は半分だけ七瀬に抱き寄せられている。
「――あ」
「ったく、綾希は俺がいないと駄目なんだな。大丈夫か?」
「……ん、平気」
今度は離れないように七瀬の手はしっかりと繋がれてた。七瀬の視線は、壁に寄りかかる弘人に向けられている。
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