パーティーから追い出された劣等賢者ですが、最強パーティーを育てて勇者を世界から追い出そうと思います。

遥風 かずら

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第2章:目覚めへの道

20.峡谷での遭遇 中編

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 自分の姿が見えていようが見えてなかろうが、ハイクラスの相手となれば、どうにも出来ない。

 だからこそ、もっと周りに気を張るべきだったと反省しているわけだが。

 どうやら五感は、姿を現している時にこそ働くものであるらしい。

「どどどど、どうしましょう~!?」
「パナセの合成で何とか出来ないか? 図体のデカい相手に有効なら、薬でも葉でも構わないぞ」
「あぅあぅあぅ~わ、わたしはそこまで万能ではありませぇん……アクセリさまとここで命を落とせるのなら満足です~」
「落とさせるわけにいくか。姿が見えずとも要素は使えるのだからな。何とかして見せるさ」
「はひ! 期待しておりますです!」

 不思議な女だ。

 出会った当初はこんな感覚にならなかったのだが、見えない何かでみなぎらせてくれているようだ。

「……ルシナはそのまま霧を張ったままでいてくれ」
「それは構いませんけど……どうされるのです?」
「砂嵐だ。峡谷は石だとか岩だとかが多いが、ここで俺の要素が使える」
「土ですか」
「そういうことだ。ルシナとパナセは目を瞑れ! 土煙で視界を失わせて、周辺を凍らせるぞ」
「また寒くなるのですか」
「姉妹仲良く、身を寄せ合う機会だ」
「やったー! ルシナちゃん、チャンス、チャンス~!」
「何でそうなるの……と、とにかく、早く何とかしてください」

 竜に通じるかは分からないが、動きを封じることくらいは出来るはずだ。

 封じたところでこの場を離れてしのげれば、身を隠すことが容易となるだろう。

『大地の鋼、姿無くとも統べるる者……風、砂、おびやかしに向け、静寂なる凍土を解き放て』

 これでなんとかなりそうではあるが……

「ア、アクセリさま、さ、寒気が止まらないです……」
「さ、寒い……」
「我慢をしてくれ。凍らせれば、寒いのは一瞬だ」
「こ、怖い感じがするです……」
「なに? 怖い?」

 土と氷の要素は、味方となる者には怖れを抱かせないものなのだが、もっと違う何かがいるということか。

「……む? 何だ?」

 パナセとルシナふたりは、身を寄せ合いながら、ずっと身震いをしている。

 その正体は俺の要素などでもなく、竜の恐怖でないことにようやく気付いた。

 氷で固めた土で竜らしきモノの動きは封じたが、それ以外に何かがいるようだ。

 隠すことの出来ない敵意は、明らかに姿の見えない俺に向けられているような気がしてならない。

 このどす黒い気配には覚えがある。

 直後、竜が感じる所から尖りのあるモノからの衝撃音と、切り裂きの刃のような振り下ろし音が鳴り響いた。

 竜を固めた氷とルシナの作り出した霧は、大気ごと断ち切るかのような閃光の走りと共に、静寂ごと飲み込まれた。

「はわわわ!?」
「パナ、大人しく……」

 薬師二人の緊張を更に高めたのは、音が消えた直後に姿を晒した大量の血と、竜らしきモノの最後の咆哮だった。

 この俺と、気配を殺すロサ、そして薬師二人の動きを封じた奴らは、ようやくその姿を見せつけて来た。

「……竜がいるからと辺境に足を向けて来てみれば、他愛ない。雑魚たる女が二匹と、気配を殺したダークエルフが我らの邪魔をしていただけか」
「ラットンさま、薬師の女どもとダークエルフは殺しますか?」
「……ダークエルフは貴様たちに任せる。封じの魔法で足を止め、耳を斬って手土産としろ!」
「は……」

 剣と槍と術者の4人PT。

 こいつらは……身なりからして、高レベル帯の冒険者のように見えるが、いい奴等ではなさそうだ。

 それに指示を出している奴の纏う空気が、あまりに異質すぎる。

 あの野郎と似た雰囲気だが、まさか勇者か?

 ロサであれば、コイツ以外の奴等に負けはしないだろうが、パナセとルシナに手を出させるわけにはいかない。

「チュニックの女。お前が霧の術者か?」
「……それがなんです?」
「こんな辺鄙へんぴな所に幻術を使う者が隠れているとはな。他にも仲間がいるはずだ! 答えろ!」
「答える謂れは私にはありません。あなたこそ罪なき竜を殺し、無用な血を流させました。何者ですか?」
「薬師ごときが勇者に歯向かうか……」

 勇者だと? ベナークの野郎の他にいると言われていた内の一人か。

 4人の勇者は血縁で男と女に分かれている……だったか。

 しかし勇者がことわりをむやみやたらに冒すのか?

 ハイクラスの竜は脅威だが、殺すとなると世界を狂わしてしまうはず。

「……ん? もう一匹の薬師……何を震わせている? 答えろ!」
「血……血は駄目……駄目ーー!」
「――む!?」

 パナセの様子がおかしいと思ってみていたが、勇者らしき奴が血の付いた剣で恫喝した時だった。

 手にしていた草をソイツに投げ浴びせたかと思えば、途端に瘴気のようなものを発生させたようだ。

「ちっ――」

 一瞬のことであろうと、怯ませたことを機ととらえた俺は、ルシナと似た霧の要素を発動させることに成功した。

「くそが――他にもいやがったのか! く……」

「ルシナ! パナセを連れて退け!」
「は、はい」
「急げ!」

 ロサの行方も気になるが、今は薬師の彼女たちを守ることに専念せねばならない。

「ルシナ、パナセを落ち着かせて走れ」
「はい」
「パナセ、俺だ、アクセリだ。意識を保ち、自分を見失わずに場から離れろ。俺はお前の傍にいるぞ」
「……」

 パナセの身に何かを起こしおって……腹立たしいが、一先ず退かねば。
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