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「こんちは。もう撮影始めてるんすか?」
「まだ時間じゃないよね?」
「そのはずだけどな」
撮影の途中で、
三人ほど、帰ってくる。男の人が二人、女の人が一人だ。
「んーにゃ。大丈夫、間に合ってるよ。今はヤミーちゃんの写真撮らせてもらってるだけ~」
「ほーん。てことは、その子がヤミーさん? 若いなー」
じーっと見られる。
「はい。ヤミーです。えっと、わいちこさんですか?」
「おう。そうだよ。よく分かったな」
「はい。事前にお顔は把握してたので……」
フィックスサーバーにいる人のアカウントは全部フォローさせてもらった。その中でもわいちこさんは明るい感じのコスプレをよくしてる人だ。あと、ボディペイントなどのメイクも派手だ。今回はテーマに合わせて暗めのコスにしてるけど、面影があるからわかる。というかほっぺたにつけた星のペイントですぐに分かった。
「じゃあ、こちらがミーさんで……」
「はい。ミーがミーっす」
「ミーちゃん。初対面の人にいつもそんなこと言うけど、それやめな。ヤミーさん困惑してんじゃん」
ダジャレを言った人がミーさん。女性の姿をしているけど、男性だ。私とほとんど変わらない身長で、中世的な顔立ち。アカウントの紹介文で男性だと明記されてなかったら、そうとな気づかなかっただろう。今は可愛らしいアイドル衣装を纏っている。黒のツインテールはウィッグだろうけど、体にぴっちりした衣装なのに補足女性らしい体つき、なで肩は天性のものだろう。とても可愛らしい稀有な人だ。
一方、ミーさんを窘めるのはあるふぁさん。ミーさんとは対照に、男勝りなコスプレをよくする人でカッコいい人だ。今回も、バーチャル男性アイドルのコスプレをしているらしい。私が見上げるほどの長身なだけあって、そのイメージ通り、とてもハキハキと喋る人だった。
三人は撮影の前に同人誌を買いに行っていたそうだ。並ぶサークルもあるので、手分けして買いに行っていたらしい。こう言う時、ジャンルが似通ってると便利だと言ってたけど、私にはよくわからなかった。
「あとはユーリンが来れば全員揃うけど……あいつら、何やってんの?」
それぞれ自己紹介や挨拶を終えると、あるふぁさんが腰に手を当て、全員に問いかける。
でも、聞き間違えかな。今あるふぁさん、あいつ「ら」って言ったような?
「ああ。ユーリンならEホールの方でなんか行列作ってたよ。あの調子だと、まだ捕まってるんじゃないかな」
「またか……人気だな、あいつら」
「流石っすね。あの人達は」
まただ。わいちこさんやミーさんまで、ユーリンさんが複数いるかのように話してる。
「あの。ユーリンさんってお一人じゃないんですか?」
「へ? ああ。そっか。ヤミーちゃんは知らないんだな。ユーリンは──」
「ちょい待ち。どうせなら、直接見てもらったほうが面白いんじゃない?」
答えを教えてくれようとした
変だ。ユーリンさんのことは私も知ってる。ただ、北野さん以外で唯一、ユーリンさんは自分のSNSアカウントを載せてなかったから、どんなお顔や姿をしているのかは分からないけど。
ただ、サーバーでの様子を見る感じ、気さくな女性ってイメージではあるけど。
不思議に思いながら、待つことしばらくして。
「あー。やっぱりみんな揃ってる……」
「なにー! て言うことは、また最後!?」
綺麗な亜麻色髪の凛とした女性と、クリーム色の髪をお団子にした背丈の低い女性、コスプレイヤーの二人組が、私たちのところにやってくる。
「ユー、リン。お疲れ。お客さんは捌き切れたの?」
「無理だよぉ……」
「うん。残念だけど、約束があるから、ごめんなさいしてきたよ」
二人に向けて、あるふぁさんがねぎらいの言葉をかけると、クリーム色の髪の人ががっくりと肩を落とす。亜麻色の髪の人は諦めたように笑って、首を振った。
あるふぁさんは二人に向けて、ユーリンと問いかけていた。一体どっちがユーリンさんなのだろう。
「ユーさん。リンさん。お久しぶりです」
北野さんはおもむろに一歩を踏み出すと、一人ずつ視線を移して呼びかける。
え、ユーさん? リンさん? まだ来てないのって、ユーリンさんじゃないの?
「んー? おーおー、これはこれは。我らがスペシャルアドバイザー、キタノくんじゃないかー! 久しぶりだね~」
クリーム色の髪の人、ユーさんが嬉しそうに北野さんに向けて手を上げる。
北野さんも同様に手を上げると、ユーさんは小さな背丈を精一杯伸ばして、北野さんの手のひらを叩いた。
「お久しぶりです。相変わらずお元気ですね、ユーさんは」
「えへへ。元気いっぱいがあたしの取り柄だからねー!」
今度はリンさんの方に視線を移して、
「リンさんも、お久しぶりです」
「久しぶり! キタノくんも元気してた?」
「はい。リンさん達もお元気でしたか?」
「うん。私も元気だよ。ユーのおかげでね」
柔らかな笑みを浮かべる。その目は慈愛に満ちていて、よっぽどユーさんのことが好きなんだろうなと思う。
ふと、リンさんと目が合う。リンさんはニコッと微笑むと、北野さんに向けて訊ねた。
「キタノくん。こちらの女の子はもしかして?」
「はい、そうです。この方が先日サーバーに参加したヤミーさんです」
「はじめまして。ヤミーです」
北野さんからの紹介を受けて、私は前に出る。
「はじめまして。私はリン。ヤミーさんと同じコスプレイヤーです」
「はいはーい。あたしはユーだよー」
ぴょこっと飛び出してくる。どうやらユーさんはクールなリンさんとは対照的に、活発で人懐っこいようだ。
「ヤミーちゃん! 同じサーバーの仲間なんだから、敬語はなしでいかない? あたし、ヤミーちゃんともっと仲良くなりたいな!」
目の前に来たと思ったら、いきなり手を握られる。訳もわからぬまま、繋がった手をぶんぶんと上下に振られる。
「ユー。いきなり距離詰めすぎ。ヤミーさん、困ってるでしょ」
そんなユーさんの肩を、リンさんが掴んで窘める。
「えー、そうかな?」
「えっと、私も仲良くしたいので、大丈夫ですよ」
「ほらー!」
「いや、どう考えても気遣ってくれてるだけでしょ……ヤミーさん。別にユーなんかに合わせなくても大丈夫だからね?」
「いえ!私もお二人と仲良くなりたいですから」
リンさんの言葉に、私はかぶりを振った。
確かに少し気は遣ったけれど、ユーさん達と仲良くなりたいというのは紛れもない本心だ。
だから、いつのまにかリンさんのわたしに対する口調が親しみを込めたものになっていることも嬉しかった。
「ただ、ちょっとタメ口は緊張するので、私の口調はこのままでも大丈夫ですか? こっちの方が話しやすいので……」
「だいじょぶだよー。全然話しやすい方でオッケー! そういうことなら、あたしたちも敬語使った方がいいかな?」
「いえ、そのままで大丈夫です! 私がこっちの方が話しやすいだけなので」
「そーお? じゃあ、このままで!」
私の場合、北野さんや他の人に対して丁寧な口調で喋るから、こまめに切り替えるよりそっちの方がいいだけの話で、ユーさんは北野さんに対してもこんな調子だから、それでいい。むしろ、無理して気遣われる方が嫌だ。
「まだ時間じゃないよね?」
「そのはずだけどな」
撮影の途中で、
三人ほど、帰ってくる。男の人が二人、女の人が一人だ。
「んーにゃ。大丈夫、間に合ってるよ。今はヤミーちゃんの写真撮らせてもらってるだけ~」
「ほーん。てことは、その子がヤミーさん? 若いなー」
じーっと見られる。
「はい。ヤミーです。えっと、わいちこさんですか?」
「おう。そうだよ。よく分かったな」
「はい。事前にお顔は把握してたので……」
フィックスサーバーにいる人のアカウントは全部フォローさせてもらった。その中でもわいちこさんは明るい感じのコスプレをよくしてる人だ。あと、ボディペイントなどのメイクも派手だ。今回はテーマに合わせて暗めのコスにしてるけど、面影があるからわかる。というかほっぺたにつけた星のペイントですぐに分かった。
「じゃあ、こちらがミーさんで……」
「はい。ミーがミーっす」
「ミーちゃん。初対面の人にいつもそんなこと言うけど、それやめな。ヤミーさん困惑してんじゃん」
ダジャレを言った人がミーさん。女性の姿をしているけど、男性だ。私とほとんど変わらない身長で、中世的な顔立ち。アカウントの紹介文で男性だと明記されてなかったら、そうとな気づかなかっただろう。今は可愛らしいアイドル衣装を纏っている。黒のツインテールはウィッグだろうけど、体にぴっちりした衣装なのに補足女性らしい体つき、なで肩は天性のものだろう。とても可愛らしい稀有な人だ。
一方、ミーさんを窘めるのはあるふぁさん。ミーさんとは対照に、男勝りなコスプレをよくする人でカッコいい人だ。今回も、バーチャル男性アイドルのコスプレをしているらしい。私が見上げるほどの長身なだけあって、そのイメージ通り、とてもハキハキと喋る人だった。
三人は撮影の前に同人誌を買いに行っていたそうだ。並ぶサークルもあるので、手分けして買いに行っていたらしい。こう言う時、ジャンルが似通ってると便利だと言ってたけど、私にはよくわからなかった。
「あとはユーリンが来れば全員揃うけど……あいつら、何やってんの?」
それぞれ自己紹介や挨拶を終えると、あるふぁさんが腰に手を当て、全員に問いかける。
でも、聞き間違えかな。今あるふぁさん、あいつ「ら」って言ったような?
「ああ。ユーリンならEホールの方でなんか行列作ってたよ。あの調子だと、まだ捕まってるんじゃないかな」
「またか……人気だな、あいつら」
「流石っすね。あの人達は」
まただ。わいちこさんやミーさんまで、ユーリンさんが複数いるかのように話してる。
「あの。ユーリンさんってお一人じゃないんですか?」
「へ? ああ。そっか。ヤミーちゃんは知らないんだな。ユーリンは──」
「ちょい待ち。どうせなら、直接見てもらったほうが面白いんじゃない?」
答えを教えてくれようとした
変だ。ユーリンさんのことは私も知ってる。ただ、北野さん以外で唯一、ユーリンさんは自分のSNSアカウントを載せてなかったから、どんなお顔や姿をしているのかは分からないけど。
ただ、サーバーでの様子を見る感じ、気さくな女性ってイメージではあるけど。
不思議に思いながら、待つことしばらくして。
「あー。やっぱりみんな揃ってる……」
「なにー! て言うことは、また最後!?」
綺麗な亜麻色髪の凛とした女性と、クリーム色の髪をお団子にした背丈の低い女性、コスプレイヤーの二人組が、私たちのところにやってくる。
「ユー、リン。お疲れ。お客さんは捌き切れたの?」
「無理だよぉ……」
「うん。残念だけど、約束があるから、ごめんなさいしてきたよ」
二人に向けて、あるふぁさんがねぎらいの言葉をかけると、クリーム色の髪の人ががっくりと肩を落とす。亜麻色の髪の人は諦めたように笑って、首を振った。
あるふぁさんは二人に向けて、ユーリンと問いかけていた。一体どっちがユーリンさんなのだろう。
「ユーさん。リンさん。お久しぶりです」
北野さんはおもむろに一歩を踏み出すと、一人ずつ視線を移して呼びかける。
え、ユーさん? リンさん? まだ来てないのって、ユーリンさんじゃないの?
「んー? おーおー、これはこれは。我らがスペシャルアドバイザー、キタノくんじゃないかー! 久しぶりだね~」
クリーム色の髪の人、ユーさんが嬉しそうに北野さんに向けて手を上げる。
北野さんも同様に手を上げると、ユーさんは小さな背丈を精一杯伸ばして、北野さんの手のひらを叩いた。
「お久しぶりです。相変わらずお元気ですね、ユーさんは」
「えへへ。元気いっぱいがあたしの取り柄だからねー!」
今度はリンさんの方に視線を移して、
「リンさんも、お久しぶりです」
「久しぶり! キタノくんも元気してた?」
「はい。リンさん達もお元気でしたか?」
「うん。私も元気だよ。ユーのおかげでね」
柔らかな笑みを浮かべる。その目は慈愛に満ちていて、よっぽどユーさんのことが好きなんだろうなと思う。
ふと、リンさんと目が合う。リンさんはニコッと微笑むと、北野さんに向けて訊ねた。
「キタノくん。こちらの女の子はもしかして?」
「はい、そうです。この方が先日サーバーに参加したヤミーさんです」
「はじめまして。ヤミーです」
北野さんからの紹介を受けて、私は前に出る。
「はじめまして。私はリン。ヤミーさんと同じコスプレイヤーです」
「はいはーい。あたしはユーだよー」
ぴょこっと飛び出してくる。どうやらユーさんはクールなリンさんとは対照的に、活発で人懐っこいようだ。
「ヤミーちゃん! 同じサーバーの仲間なんだから、敬語はなしでいかない? あたし、ヤミーちゃんともっと仲良くなりたいな!」
目の前に来たと思ったら、いきなり手を握られる。訳もわからぬまま、繋がった手をぶんぶんと上下に振られる。
「ユー。いきなり距離詰めすぎ。ヤミーさん、困ってるでしょ」
そんなユーさんの肩を、リンさんが掴んで窘める。
「えー、そうかな?」
「えっと、私も仲良くしたいので、大丈夫ですよ」
「ほらー!」
「いや、どう考えても気遣ってくれてるだけでしょ……ヤミーさん。別にユーなんかに合わせなくても大丈夫だからね?」
「いえ!私もお二人と仲良くなりたいですから」
リンさんの言葉に、私はかぶりを振った。
確かに少し気は遣ったけれど、ユーさん達と仲良くなりたいというのは紛れもない本心だ。
だから、いつのまにかリンさんのわたしに対する口調が親しみを込めたものになっていることも嬉しかった。
「ただ、ちょっとタメ口は緊張するので、私の口調はこのままでも大丈夫ですか? こっちの方が話しやすいので……」
「だいじょぶだよー。全然話しやすい方でオッケー! そういうことなら、あたしたちも敬語使った方がいいかな?」
「いえ、そのままで大丈夫です! 私がこっちの方が話しやすいだけなので」
「そーお? じゃあ、このままで!」
私の場合、北野さんや他の人に対して丁寧な口調で喋るから、こまめに切り替えるよりそっちの方がいいだけの話で、ユーさんは北野さんに対してもこんな調子だから、それでいい。むしろ、無理して気遣われる方が嫌だ。
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