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花の絵の紅茶カップ
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治療院から去る時、彼女が紅茶のカップを一組くれた。
「このカップは、最近王都で流行っているものだそうです。これでお茶を飲んでほしいと私の妹が贈ってくれました。まだゆっくりお茶をいただく気にはなれなくて、一度も使っていません。人から貰ったものをお渡しするのは心苦しいのですが、お手紙のお礼に受け取ってください」
何もいらないと、それを断ろうとすると、彼女は「これはあなたの花のようだから」と言った。
「このここに描かれている花は、カップをキャンパスとして描かれた絵のようにみえませんか? 今までの紅茶のカップやソーサーに描かれる草花は、模様であり、飾りです。でもこのカップは花が大きく描かれてまるで花が主役です。 私はこのカップを見た時、あなたの花をここに描いたら、王都じゅうの人に、あなたの素晴らしい花を見せられるのにと思ったのです。だから是非このカップをもらってください」
このカップを受け取って、治療院を一歩出れば、もうあなたに会うことも手紙を送ることもできなくなる。
それを思うと、これからの日々をどうやって生きていけばいいか分からなかった。
「戦地では何があろうとも、どんな時も諦めず、救護院にもどってきてください。コレイン様、あなたのご無事をいつも祈っています。」
◇◇◇ ◇◇◇
あの別れの日から6カ月が過ぎた。
カレルは小さな包みを抱えて、治療院を訪れた。
コレインが訪ねてきたと聞いて、ドレ―ス治療師長は飛び出すように慌てて出てきたので、カレルは驚いてしまった。
「ヨンダルク辺境伯領にいるはずのあなたが、どうなさいました」
「実は、私は騎士団を辞めたのです。正確に言うと……その騎士の位も返上しました」
「では、ヨンダルクには行かれなかったのですか?」
カレルは「はい」と頷いた。
カレルは今、磁器の工房に見習として通っている。
エルジンガにカップをもらい、「ここにあなたの花を描いたら王都中の人にみてもらえる」という言葉に励まされ、幼い日に見た夢をもう一度追いかけることにしたのだ。
絵を描いて生きていく。
まだ見習の身で工房の下働きしかさせてもらえないが、先日練習で作った自作のカップが出来上がった。
「私のカップができたので、エルジンガ治療師に送りたいのです。ドレ―ス治療師長なら彼女に届けて頂けるのではないかと思い、こちらに参りました」
ドレ―ス治療師長は、すぐに承知してくれて「彼女はきっと喜びますよ」と微笑んだ。
「コレイン様、思い切ってお尋ねします。あなたはエルジンガを娶るおつもりはないかしら? あなただったら、彼女を受け止めてあげられるでしょう?」
あまりに直接的な問いかけに、カレルは顔を赤くした。
「ですが私がいくら想っても、彼女にはそこまでの気持ちはないのでは。私の手紙もきっぱり断れましたし」
「彼女は平民ですから身分差を気にしているようでした。それから彼女に起きた不幸なできごとも、あなたの重荷になるだろうと……」
カレルは彼女がそんなふうに思っていたとは知らず、ドレ―ス治療師長の言葉に動揺した。
「身分差なんて……私が騎士を返上したので、父からは勘当同然です。私はもう平民として生きていくつもりです」
「だったらなおさら、エルジンガに会いに行っておやりなさい。私はお二人に幸せになってほしいのです」
カレルはいつも胸にあるエルジンガへの想いを、初めて言葉にした。
「彼女に求婚します。ドレ―ス治療師長、ありがとうございます。あなたの言葉で決心がつきました。しかし今の私では無理なのです」
戸惑った顔で彼女が「どうしてですか」と問うた。
「私はまだ見習いの身、満足な給金ももらえません。一人前になるには早くても2年はかかるでしょう。ですから、私の準備ができた日には彼女を迎えにいきます。でもその前に彼女が相応しい相手を見つけたならば、私は潔く身を引きましょう」
ドレ―ス治療師長はそれ以上なにも言わなかった。
「このカップは、最近王都で流行っているものだそうです。これでお茶を飲んでほしいと私の妹が贈ってくれました。まだゆっくりお茶をいただく気にはなれなくて、一度も使っていません。人から貰ったものをお渡しするのは心苦しいのですが、お手紙のお礼に受け取ってください」
何もいらないと、それを断ろうとすると、彼女は「これはあなたの花のようだから」と言った。
「このここに描かれている花は、カップをキャンパスとして描かれた絵のようにみえませんか? 今までの紅茶のカップやソーサーに描かれる草花は、模様であり、飾りです。でもこのカップは花が大きく描かれてまるで花が主役です。 私はこのカップを見た時、あなたの花をここに描いたら、王都じゅうの人に、あなたの素晴らしい花を見せられるのにと思ったのです。だから是非このカップをもらってください」
このカップを受け取って、治療院を一歩出れば、もうあなたに会うことも手紙を送ることもできなくなる。
それを思うと、これからの日々をどうやって生きていけばいいか分からなかった。
「戦地では何があろうとも、どんな時も諦めず、救護院にもどってきてください。コレイン様、あなたのご無事をいつも祈っています。」
◇◇◇ ◇◇◇
あの別れの日から6カ月が過ぎた。
カレルは小さな包みを抱えて、治療院を訪れた。
コレインが訪ねてきたと聞いて、ドレ―ス治療師長は飛び出すように慌てて出てきたので、カレルは驚いてしまった。
「ヨンダルク辺境伯領にいるはずのあなたが、どうなさいました」
「実は、私は騎士団を辞めたのです。正確に言うと……その騎士の位も返上しました」
「では、ヨンダルクには行かれなかったのですか?」
カレルは「はい」と頷いた。
カレルは今、磁器の工房に見習として通っている。
エルジンガにカップをもらい、「ここにあなたの花を描いたら王都中の人にみてもらえる」という言葉に励まされ、幼い日に見た夢をもう一度追いかけることにしたのだ。
絵を描いて生きていく。
まだ見習の身で工房の下働きしかさせてもらえないが、先日練習で作った自作のカップが出来上がった。
「私のカップができたので、エルジンガ治療師に送りたいのです。ドレ―ス治療師長なら彼女に届けて頂けるのではないかと思い、こちらに参りました」
ドレ―ス治療師長は、すぐに承知してくれて「彼女はきっと喜びますよ」と微笑んだ。
「コレイン様、思い切ってお尋ねします。あなたはエルジンガを娶るおつもりはないかしら? あなただったら、彼女を受け止めてあげられるでしょう?」
あまりに直接的な問いかけに、カレルは顔を赤くした。
「ですが私がいくら想っても、彼女にはそこまでの気持ちはないのでは。私の手紙もきっぱり断れましたし」
「彼女は平民ですから身分差を気にしているようでした。それから彼女に起きた不幸なできごとも、あなたの重荷になるだろうと……」
カレルは彼女がそんなふうに思っていたとは知らず、ドレ―ス治療師長の言葉に動揺した。
「身分差なんて……私が騎士を返上したので、父からは勘当同然です。私はもう平民として生きていくつもりです」
「だったらなおさら、エルジンガに会いに行っておやりなさい。私はお二人に幸せになってほしいのです」
カレルはいつも胸にあるエルジンガへの想いを、初めて言葉にした。
「彼女に求婚します。ドレ―ス治療師長、ありがとうございます。あなたの言葉で決心がつきました。しかし今の私では無理なのです」
戸惑った顔で彼女が「どうしてですか」と問うた。
「私はまだ見習いの身、満足な給金ももらえません。一人前になるには早くても2年はかかるでしょう。ですから、私の準備ができた日には彼女を迎えにいきます。でもその前に彼女が相応しい相手を見つけたならば、私は潔く身を引きましょう」
ドレ―ス治療師長はそれ以上なにも言わなかった。
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