セイバー

森田金太郎

文字の大きさ
25 / 40

24話

しおりを挟む
◆心配
 勇は、それでもあのボールの元に走った。

「涼、晴、僕、1人で戦ったよ。でも、まだまだたね」

 そして、バスを途中下車したバス停まで戻り、来たバスに乗り込む。座席に座るなり、勇はボールの入った袋を見つめ呟いた。

「これ、壊されたり、無くなっちゃったりしたら、嫌だなぁ」

 翌日、勇は登校するなり、愛に話しかける。そして、2つのボールが入った布袋を見せた。

「愛ちゃんに、頼みたい事があるんだ」
「何?」

 愛は、急な勇からの依頼と見せられた袋に戸惑った。勇はこう返した。

「この中にね?涼と晴がいるんだ。見てみて?」

 ますます疑問の目になる愛。しかし、勇の言う通りにした。そんな愛の視線の先に、白いボールと黄色いボール。

「ぼ、ボール?」

 愛は、2つのボールを見つめ、やがて納得がいく。白いボールを取り出し、言った。

「これが、涼くん」

 引き続き、黄色いボールを取り出し言った。

「そして、これが晴くん、だね?」

 勇は頷いた。そして、言った。

「ずっと涼と晴といたくて、いろんな所に持っていってるんだ。でもこれ、戦ってる時さ、どっかに置いておかなきゃいけないってわかったんだ」
「そっか。それで?」
「愛ちゃん、これ僕が戦ってる時さ、持っててくれない?勿論、都合のいい時だけでいいから」

 愛は微笑んだ。

「いいよ?私も、なんだかさびしいから、涼くんと晴くんを任せてよ!」
「ありがとう!愛ちゃん!!」

◆癒しの奇跡は
 それから、愛は勇と一緒に下校する日が増えた。ボールの入った袋を交互に持ちつつ、涼と晴の思い出話に花を咲かせた。そうしていたある日、2人とも名残惜しくなり、家に帰らず宛もなく周辺を散策する事にした。

「あっ」

 勇は短い悲鳴を上げる。その視線の先に、充と彩がいたからだ。充と彩は川べりにて、何やら思案しているようだった。その充と彩は、勇の気配に気づき、バイオレットとオレンジに姿を変えた。その視線は、ゆっくり勇へ向けられる。

「プラネットクラッシャーアースバイオレット」
「プラネットクラッシャーアースオレンジ」

 名乗った2人は勇に急接近してくる。勇はボールの入った袋を愛に渡し、叫んだ。

「愛ちゃん!逃げて!!」
「うん!!」

 愛は、川沿いの並木の中の1本を選び、その影に隠れた。それと同時に勇は引き続き叫ぶ。

「解き放て!守りの力!!」

 そして、名乗った。

「三種の力は最強の証!アースセイバートリプル!!」

 更に、バイオレットとオレンジの拳に応戦しつつ言った。

「レッツ!セイブ!!」

 対岸には公園。その公園で憩いの時間を過ごしていた人々は、トリプルとバイオレット、オレンジの交戦に気づき、一斉に逃げ惑う。

「僕の盾!公園に!!」

 しかし、オレンジが言った。

「カラミティ!盾を落としなさい!!」

 発生したカラミティは、自らと刺し違える形でトリプルの盾を破壊した。トリプルの震える叫びが響いた。

「嘘っ!!」

 バイオレットは笑った。

「なんでこういう事を思いつかなかったんだろうなぁ!お前の盾は、もはや無用の長物だ!!」

 それでも、トリプルは守らねばと盾を翼から繰り出し続ける。

「でも!守るっ!!」

 今度は、バイオレットからのカラミティが盾を落とす。そのうちに、バイオレットとオレンジは、交互にトリプルを殴打する。トリプルは傷ついていく。そして、そんな中、一部のカラミティが公園に到達。人々を襲い始めた。トリプルは叫んだ。

「止めてー!!」

 必死に翼から盾を繰り出し、ようやっと人々に盾を届ける事が出来たが、時既に遅く、怪我人が発生したようだった。トリプルは、水と炎の力を放出し、バイオレットとオレンジに応戦。しかし、トリプルは更に傷ついていく。

 その光景を見て愛は袋からボール2つを出しつつ言った。

「ねぇ、涼くん、晴くん、勇くんは一生懸命戦ってるけど、辛そうだよ」

 愛は涙を浮かべる。

「2人がいてくれたらよかったのに。でも、もう、いない」

 遂に落涙した愛の視線の先には、傷つきながらトリプルとして戦う勇の姿。

「私に出来る事、ない?私、勇くんの力になりたいよー!!」

 嗚咽と共に絞り出された愛の叫びに、白いボールが反応。ほんのりとした光をまとい、愛の手から離れ浮遊する。そして、強い光を辺りに振り撒いた。

 その光は、交戦するトリプルとバイオレット、オレンジの元にも届く。一様に驚き、思わず手を止める3人。

 一方、ボールは、丸く無色透明なセイブ・ストーンへと姿を変えた。愛は、それを涙で濡れた瞳で見た。

「勇くんたちが、変身する時に、使ってたのだ」

 その新たなセイブ・ストーンは、愛の手元に収まった。愛は言った。

「私、変身出来るの?」

 愛は、トリプル、バイオレット、オレンジを見つめながら、こう言った。

「解き放て!守りの力!!」

 新たなセイブ・ストーンは、愛を変身させた。緑色のコスチュームに、黄緑色の手袋、ベルト、靴。ベリーショートだった髪は、肩まで伸び、伸びた髪は一房両サイドに束ねられる。最後に表は黄緑色、裏は橙色のマントが包んだ。そして、背後に一瞬花の幻影が現れた。愛は、言った。

「わ、私、変身した」

 その光景を見たトリプルは言った。

「あ、愛ちゃんが、変身したっ!」

 バイオレットは言った。

「なんだとぉ?新たな守護者が誕生しちまった!」

 オレンジは言った。

「なんて事なの?こんなの、経験ないわ!」

 愛は、変身した姿でトリプル、バイオレット、オレンジの元に行った。トリプルの隣に行くと、トリプルが言った。

「花の幻影。愛ちゃんは、花のアースセイバーになったんだね。『アースセイバーフラワー』、それが愛ちゃんの戦士名だっ!」

 愛は、フラワーとしてそれに返した。

「アースセイバーフラワー」

 そんなフラワーを見るバイオレットとオレンジの目は、苦々しい物であった。オレンジが言った。

「フラワーだかなんだか知らないけど、ここで潰せば問題ないわ!」

 バイオレットも言った。

「そうだな!総攻撃だ!!」

 トリプルは慌てた。

「駄目だよっ!!」

 そして、フラワーに盾を与えた。フラワーは言った。

「勇くん、いいえ、トリプル、盾ありがとう。けど、いらない!この人たちと戦いたいの!!」

 トリプルは短く返した。

「えっ」

 そんなトリプルの横でバイオレットとオレンジに交互に殴られ始めるフラワー。トリプルは再び慌てた声を上げる。

「愛ちゃん!いや、フラワー!!」

 それを聞きつつ、フラワーはバイオレットとオレンジに叫びを聞かせる。

「あなたたちを!私は許さない!地球を壊すなんて、やらせない!」

 そして、フラワーはバイオレットとオレンジに反撃し始める。その拳を2人に叩きつけた。

「恭を捕まえた事、忘れてないよ!私の弟に、なんて事してくれたの?そして、いつもいつも、トリプルたちを傷つけて!私、あなたたちを許さない!!」

 叩きつけられるフラワーの拳に、バイオレットとオレンジは異変を感じ始める。バイオレットが言った。

「力が、抜けて、いく」

 オレンジも言った。

「何故?何故なの?私が、私の力が、弱っていく」

 フラワーは涙を流し始める。そして、こう言った。

「でも、今やりたいのは、こんな事じゃない。私は、トリプルの傷を癒してあげたいの!!」

 すると、フラワーの口が動いた。

「セイブ・フラワー・ストーム・ヒーリング!」

 一帯に花びらが乱舞する。その花びらは、トリプルや、対岸の公園にいる怪我人に届く。そして、急激にかつ優しく傷を消していった。トリプルは驚いた。

「す、凄い。もう、痛くない」

 そして、対岸の公園の人々も次々に立ち上がり、笑顔になった。毅然としたフラワーを見て、バイオレットは言った。

「な、ダメージがっ!!」

 オレンジは言った。

「これは、どう言う事なのよ!!」

 動揺する2人は、状況は不利と撤退して行った。変身が解ける勇と愛。2人は見つめ合った。そして、勇は、言った。

「ありがとう。愛ちゃん」

 愛は、すっかり傷の無くなった勇を見て、笑顔になった。

「よかった!勇くん!!」

 そんな2人を、黄色のボールが地面から見つめていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

悪役皇子、ざまぁされたので反省する ~ 馬鹿は死ななきゃ治らないって… 一度、死んだからな、同じ轍(てつ)は踏まんよ ~

shiba
ファンタジー
魂だけの存在となり、邯鄲(かんたん)の夢にて 無名の英雄 愛を知らぬ商人 気狂いの賢者など 様々な英霊達の人生を追体験した凡愚な皇子は自身の無能さを痛感する。 それゆえに悪徳貴族の嫡男に生まれ変わった後、謎の強迫観念に背中を押されるまま 幼い頃から努力を積み上げていた彼は、図らずも超越者への道を歩み出す。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

レオナルド先生創世記

ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...