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13甘:拘束
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アルヴェードは、もう一度ミルーネと会ってミルーネが悪い存在ではないと再確認したくなった。多忙の中ではあったが、ある日ミルーネの自宅兼アトリエを訪れた。
「いらっしゃい、アルヴェードさん。」
アルヴェードを迎えたミルーネの声は、沈んだ物だった。
「どう、なされましたか?」
アルヴェードは尋ねた。ミルーネはしばらく返答に躊躇したようだったが、重い口を開いた。
「お兄様が、いなくなってしまって」
「なんですって?いつから?」
「あの、船に飾る絵をお渡しした日から、帰って来てないんです。王宮に呼ばれたまま」
「王宮ですか」
アルヴェードとミルーネの話題に挙がったミルフォンソは、王宮の中の粗末な部屋にいた。王宮の警備を担当する男性数人がその部屋を訪れる。その中のリーダーがミルフォンソの様子を見て言った。
「よし、今日も妙な動きはしてないようだな」
その言葉に、ミルフォンソは聞き入れてもらえない前提でこう返した。
「いい加減、僕を解放して欲しい」
警備担当リーダーは威圧するような声で言う。
「悪名高いヒュラ一族の残党をここに引き入れるのは、私も反対だ。しかし、これ以上の妙な動きをされたらかなわないからな。ミルフォンソ、お前は人質だ」
「やはり、駄目か」
ミルフォンソは、それ以降言葉を発しなくなった。しかし、心の中の言葉は止まらなかった。「ミルーネ、会いたい。僕の大事な妹」と。
一方、ミルフォンソが会いたがっているミルーネは呟いた。
「私、1人になってしまいました」
「ここに、私がいますよ」
アルヴェードは、いつもの暗い部屋の中、ミルーネの涙の気配を感じ取り、それを自らの指で拭いに行った。ミルーネは、それに身を任せながら言葉を返す。
「そ、そうですね、ごめんなさい。でも、私」
ミルーネは、躊躇しつつも言葉を続ける。
「あ、あの、私、アルヴェードさん以外にも好きな男性がいて、その、ごめんなさい」
「それは、さる筋から聞き及んでます。それを承知の上で貴女とお付き合いをしていました。だから、気に病む事はありません」
「アルヴェードさん、知っていたのですね?」
「王子、ランディレイ王子なのでしょう?」
「はい、そうです」
アルヴェードは、声に笑顔を乗せた。
「王子と同じ女性を愛せるなんて、光栄だと思っていた所なんですよ」
「でも、王子とはもう、会えません。王宮から出入りを禁止されてしまいました。その前から、私の病気のせいで年に数えるくらいしか会えなかったのに、王宮は、私たちに会う事を禁止しました」
ミルーネは、アルヴェードにすがりつく。
「私が、この一族に入ったからっ。とても困っているようだったから、この一族の養女になりました。けれど、王宮にとっては、いけない事だったようで」
アルヴェードは、それを受け止めた。
「その話も、さる筋から聞いていまして、真相を知りたいと思っていた所なんですよ。ミルーネさんが知っている範囲で教えていただけないでしょうか?」
「私の一族は、王宮との繋がりがどうしても欲しかったようで、王子と関係のあった私を養女として迎えたいと言ってきました」
「なるほど。それで、貴女はそれを受け入れた、と言う事ですね?」
「はい。私の生まれた家も、貧しくて困っていたので、その、約束してくれたんです。私がシュク一族に入れば、『実家』の生活はシュク一族が保証してくれると」
「それは、一大決心でしたね」
「その時は、シュク一族も、『実家』も助けられると思いました」
「しかし、そうはならなかったようですね?」
「そうです」
ミルーネは、アルヴェードの腕の中で震えた。
「私が、絵に拘ったから、全部壊れたんです」
「どうして?」
「この一族に私が来たのは、王子と一族を繋げる事。王子の寵愛を受ける為に、ここで努力をしなければならなかったのに、絵を続けてしまいました。当主様は、怒りを私の絵にぶつけてきました。絵は、壊され、燃やされました。正直、ショックでした。その頃から私の病気は悪くなって、王子に会えなくなりました」
アルヴェードは、めまいを覚えた。
「貴重なミルーネさんの絵が、燃やされたですって?」
アルヴェードは心の中で「許せない」と呟き、言葉を続けた。
「しかし、貴女は今でも絵を描けている。その後、理解があったのですか?」
「いいえ。今も、当主様はお許しになってません。しかし、お兄様が次期当主という立場を危うくしてまで、ここを別宅として借り上げてくれました。だから、私は絵を描けています」
アルヴェードは、背中に握りしめられるミルーネの手の気配を感じた。
「お兄様には、感謝しています。なのに、王子からの電話が途切れた事で、私、余裕を失くしていました。あの時、アルヴェードさんに想いを告げた時、お兄様を邪険にしてしまった。また、私は間違いました。これは、罰です。お兄様が傍にいないのは、罰なんです」
ミルーネの嗚咽の声が響く。
「私は、なんて、浅ましい人間なんでしょう。消えてしまいたいです」
「ミルーネさん、ミルーネさん、どうか、消えないでいただきたい。ここに貴女を必要としている人間が1人います」
「アルヴェードさんっ」
暗闇の中、アルヴェードはミルーネに力を与えようときつく抱きしめた。
「いらっしゃい、アルヴェードさん。」
アルヴェードを迎えたミルーネの声は、沈んだ物だった。
「どう、なされましたか?」
アルヴェードは尋ねた。ミルーネはしばらく返答に躊躇したようだったが、重い口を開いた。
「お兄様が、いなくなってしまって」
「なんですって?いつから?」
「あの、船に飾る絵をお渡しした日から、帰って来てないんです。王宮に呼ばれたまま」
「王宮ですか」
アルヴェードとミルーネの話題に挙がったミルフォンソは、王宮の中の粗末な部屋にいた。王宮の警備を担当する男性数人がその部屋を訪れる。その中のリーダーがミルフォンソの様子を見て言った。
「よし、今日も妙な動きはしてないようだな」
その言葉に、ミルフォンソは聞き入れてもらえない前提でこう返した。
「いい加減、僕を解放して欲しい」
警備担当リーダーは威圧するような声で言う。
「悪名高いヒュラ一族の残党をここに引き入れるのは、私も反対だ。しかし、これ以上の妙な動きをされたらかなわないからな。ミルフォンソ、お前は人質だ」
「やはり、駄目か」
ミルフォンソは、それ以降言葉を発しなくなった。しかし、心の中の言葉は止まらなかった。「ミルーネ、会いたい。僕の大事な妹」と。
一方、ミルフォンソが会いたがっているミルーネは呟いた。
「私、1人になってしまいました」
「ここに、私がいますよ」
アルヴェードは、いつもの暗い部屋の中、ミルーネの涙の気配を感じ取り、それを自らの指で拭いに行った。ミルーネは、それに身を任せながら言葉を返す。
「そ、そうですね、ごめんなさい。でも、私」
ミルーネは、躊躇しつつも言葉を続ける。
「あ、あの、私、アルヴェードさん以外にも好きな男性がいて、その、ごめんなさい」
「それは、さる筋から聞き及んでます。それを承知の上で貴女とお付き合いをしていました。だから、気に病む事はありません」
「アルヴェードさん、知っていたのですね?」
「王子、ランディレイ王子なのでしょう?」
「はい、そうです」
アルヴェードは、声に笑顔を乗せた。
「王子と同じ女性を愛せるなんて、光栄だと思っていた所なんですよ」
「でも、王子とはもう、会えません。王宮から出入りを禁止されてしまいました。その前から、私の病気のせいで年に数えるくらいしか会えなかったのに、王宮は、私たちに会う事を禁止しました」
ミルーネは、アルヴェードにすがりつく。
「私が、この一族に入ったからっ。とても困っているようだったから、この一族の養女になりました。けれど、王宮にとっては、いけない事だったようで」
アルヴェードは、それを受け止めた。
「その話も、さる筋から聞いていまして、真相を知りたいと思っていた所なんですよ。ミルーネさんが知っている範囲で教えていただけないでしょうか?」
「私の一族は、王宮との繋がりがどうしても欲しかったようで、王子と関係のあった私を養女として迎えたいと言ってきました」
「なるほど。それで、貴女はそれを受け入れた、と言う事ですね?」
「はい。私の生まれた家も、貧しくて困っていたので、その、約束してくれたんです。私がシュク一族に入れば、『実家』の生活はシュク一族が保証してくれると」
「それは、一大決心でしたね」
「その時は、シュク一族も、『実家』も助けられると思いました」
「しかし、そうはならなかったようですね?」
「そうです」
ミルーネは、アルヴェードの腕の中で震えた。
「私が、絵に拘ったから、全部壊れたんです」
「どうして?」
「この一族に私が来たのは、王子と一族を繋げる事。王子の寵愛を受ける為に、ここで努力をしなければならなかったのに、絵を続けてしまいました。当主様は、怒りを私の絵にぶつけてきました。絵は、壊され、燃やされました。正直、ショックでした。その頃から私の病気は悪くなって、王子に会えなくなりました」
アルヴェードは、めまいを覚えた。
「貴重なミルーネさんの絵が、燃やされたですって?」
アルヴェードは心の中で「許せない」と呟き、言葉を続けた。
「しかし、貴女は今でも絵を描けている。その後、理解があったのですか?」
「いいえ。今も、当主様はお許しになってません。しかし、お兄様が次期当主という立場を危うくしてまで、ここを別宅として借り上げてくれました。だから、私は絵を描けています」
アルヴェードは、背中に握りしめられるミルーネの手の気配を感じた。
「お兄様には、感謝しています。なのに、王子からの電話が途切れた事で、私、余裕を失くしていました。あの時、アルヴェードさんに想いを告げた時、お兄様を邪険にしてしまった。また、私は間違いました。これは、罰です。お兄様が傍にいないのは、罰なんです」
ミルーネの嗚咽の声が響く。
「私は、なんて、浅ましい人間なんでしょう。消えてしまいたいです」
「ミルーネさん、ミルーネさん、どうか、消えないでいただきたい。ここに貴女を必要としている人間が1人います」
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暗闇の中、アルヴェードはミルーネに力を与えようときつく抱きしめた。
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