ブンボル王国の恋事情

森田金太郎

文字の大きさ
13 / 67

13甘:拘束

しおりを挟む
アルヴェードは、もう一度ミルーネと会ってミルーネが悪い存在ではないと再確認したくなった。多忙の中ではあったが、ある日ミルーネの自宅兼アトリエを訪れた。

「いらっしゃい、アルヴェードさん。」

 アルヴェードを迎えたミルーネの声は、沈んだ物だった。

「どう、なされましたか?」

 アルヴェードは尋ねた。ミルーネはしばらく返答に躊躇したようだったが、重い口を開いた。

「お兄様が、いなくなってしまって」
「なんですって?いつから?」
「あの、船に飾る絵をお渡しした日から、帰って来てないんです。王宮に呼ばれたまま」
「王宮ですか」

 アルヴェードとミルーネの話題に挙がったミルフォンソは、王宮の中の粗末な部屋にいた。王宮の警備を担当する男性数人がその部屋を訪れる。その中のリーダーがミルフォンソの様子を見て言った。

「よし、今日も妙な動きはしてないようだな」

 その言葉に、ミルフォンソは聞き入れてもらえない前提でこう返した。

「いい加減、僕を解放して欲しい」

 警備担当リーダーは威圧するような声で言う。

「悪名高いヒュラ一族の残党をここに引き入れるのは、私も反対だ。しかし、これ以上の妙な動きをされたらかなわないからな。ミルフォンソ、お前は人質だ」
「やはり、駄目か」

 ミルフォンソは、それ以降言葉を発しなくなった。しかし、心の中の言葉は止まらなかった。「ミルーネ、会いたい。僕の大事な妹」と。

 一方、ミルフォンソが会いたがっているミルーネは呟いた。

「私、1人になってしまいました」
「ここに、私がいますよ」

 アルヴェードは、いつもの暗い部屋の中、ミルーネの涙の気配を感じ取り、それを自らの指で拭いに行った。ミルーネは、それに身を任せながら言葉を返す。

「そ、そうですね、ごめんなさい。でも、私」

 ミルーネは、躊躇しつつも言葉を続ける。

「あ、あの、私、アルヴェードさん以外にも好きな男性がいて、その、ごめんなさい」
「それは、さる筋から聞き及んでます。それを承知の上で貴女とお付き合いをしていました。だから、気に病む事はありません」
「アルヴェードさん、知っていたのですね?」
「王子、ランディレイ王子なのでしょう?」
「はい、そうです」

 アルヴェードは、声に笑顔を乗せた。

「王子と同じ女性を愛せるなんて、光栄だと思っていた所なんですよ」
「でも、王子とはもう、会えません。王宮から出入りを禁止されてしまいました。その前から、私の病気のせいで年に数えるくらいしか会えなかったのに、王宮は、私たちに会う事を禁止しました」

 ミルーネは、アルヴェードにすがりつく。

「私が、この一族に入ったからっ。とても困っているようだったから、この一族の養女になりました。けれど、王宮にとっては、いけない事だったようで」

 アルヴェードは、それを受け止めた。

「その話も、さる筋から聞いていまして、真相を知りたいと思っていた所なんですよ。ミルーネさんが知っている範囲で教えていただけないでしょうか?」
「私の一族は、王宮との繋がりがどうしても欲しかったようで、王子と関係のあった私を養女として迎えたいと言ってきました」
「なるほど。それで、貴女はそれを受け入れた、と言う事ですね?」
「はい。私の生まれた家も、貧しくて困っていたので、その、約束してくれたんです。私がシュク一族に入れば、『実家』の生活はシュク一族が保証してくれると」
「それは、一大決心でしたね」
「その時は、シュク一族も、『実家』も助けられると思いました」
「しかし、そうはならなかったようですね?」
「そうです」

 ミルーネは、アルヴェードの腕の中で震えた。

「私が、絵に拘ったから、全部壊れたんです」
「どうして?」
「この一族に私が来たのは、王子と一族を繋げる事。王子の寵愛を受ける為に、ここで努力をしなければならなかったのに、絵を続けてしまいました。当主様は、怒りを私の絵にぶつけてきました。絵は、壊され、燃やされました。正直、ショックでした。その頃から私の病気は悪くなって、王子に会えなくなりました」

 アルヴェードは、めまいを覚えた。

「貴重なミルーネさんの絵が、燃やされたですって?」

 アルヴェードは心の中で「許せない」と呟き、言葉を続けた。

「しかし、貴女は今でも絵を描けている。その後、理解があったのですか?」
「いいえ。今も、当主様はお許しになってません。しかし、お兄様が次期当主という立場を危うくしてまで、ここを別宅として借り上げてくれました。だから、私は絵を描けています」

 アルヴェードは、背中に握りしめられるミルーネの手の気配を感じた。

「お兄様には、感謝しています。なのに、王子からの電話が途切れた事で、私、余裕を失くしていました。あの時、アルヴェードさんに想いを告げた時、お兄様を邪険にしてしまった。また、私は間違いました。これは、罰です。お兄様が傍にいないのは、罰なんです」

 ミルーネの嗚咽の声が響く。

「私は、なんて、浅ましい人間なんでしょう。消えてしまいたいです」
「ミルーネさん、ミルーネさん、どうか、消えないでいただきたい。ここに貴女を必要としている人間が1人います」
「アルヴェードさんっ」

 暗闇の中、アルヴェードはミルーネに力を与えようときつく抱きしめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

離した手の温もり

橘 凛子
恋愛
3年前、未来を誓った君を置いて、私は夢を追いかけた。キャリアを優先した私に、君と会う資格なんてないのかもしれない。それでも、あの日の選択をずっと後悔している。そして今、私はあの場所へ帰ってきた。もう一度、君に会いたい。ただ、ごめんなさいと伝えたい。それだけでいい。それ以上の願いは、もう抱けないから。

偽りの愛の終焉〜サレ妻アイナの冷徹な断罪〜

紅葉山参
恋愛
貧しいけれど、愛と笑顔に満ちた生活。それが、私(アイナ)が夫と築き上げた全てだと思っていた。築40年のボロアパートの一室。安いスーパーの食材。それでも、あの人の「愛してる」の言葉一つで、アイナは満たされていた。 しかし、些細な変化が、穏やかな日々にヒビを入れる。 私の配偶者の帰宅時間が遅くなった。仕事のメールだと誤魔化す、頻繁に確認されるスマートフォン。その違和感の正体が、アイナのすぐそばにいた。 近所に住むシンママのユリエ。彼女の愛らしい笑顔の裏に、私の全てを奪う魔女の顔が隠されていた。夫とユリエの、不貞の証拠を握ったアイナの心は、凍てつく怒りに支配される。 泣き崩れるだけの弱々しい妻は、もういない。 私は、彼と彼女が築いた「偽りの愛」を、社会的な地獄へと突き落とす、冷徹な復讐を誓う。一歩ずつ、緻密に、二人からすべてを奪い尽くす、断罪の物語。

曖昧な距離で愛している

山田森湖
恋愛
結婚4年目のアラサー夫婦、拓海と美咲。仲は悪くないが、ときめきは薄れ、日常は「作業」になっていた。夫には可愛い後輩が現れ、妻は昔の恋人と再会する。揺れる心、すれ違う想い。「恋人に戻りたい」――そう願った二人が辿り着いた答えは、意外なものだった。曖昧で、程よい距離。それが、私たちの愛の形。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

あなたの片想いを聞いてしまった夜

柴田はつみ
恋愛
「『好きな人がいる』——その一言で、私の世界は音を失った。」 公爵令嬢リリアーヌの初恋は、隣家の若き公爵アレクシスだった。 政務や領地行事で顔を合わせるたび、言葉少なな彼の沈黙さえ、彼女には優しさに聞こえた。——毎日会える。それだけで十分幸せだと信じていた。 しかしある日、回廊の陰で聞いてしまう。 「好きな人がいる。……片想いなんだ」 名前は出ない。だから、リリアーヌの胸は残酷に結論を作る。自分ではないのだ、と。

処理中です...