ブンボル王国の恋事情

森田金太郎

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46甘:一族の歴史

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アルヴェードは、冷や汗をかくギャスバーにこう言った。

「ギャスバーさん、クルセイン首相から、とあるお話を聞きました。エウル一族の現当主としての見解を述べていただきたい。それに、ここにいる全ての方々に聞いてもらいたい事もあります」
「な、何だ?」
「簡潔に申し上げます。1世紀半前のレトからの労働者が起こした暴動は、エウル一族が指示した事だと」

 王宮の全ての人々が驚愕の表情を見せた。ギャスバーは、冷静さを装いこう返した。

「何を言う、それはヒュラ一族が扇動した事だ」
「そういう伝承でしたか。そうですか。しかし、クルセイン首相は、ヒュラ一族を知りませんでしたよ?」
「それは、1世紀半の時間で忘れ去られたのであろう。そして、ブンボルを労働者に紹介した我々エウル一族しか覚えていないという事なのでは?」
「ギャスバーさん、それは無理がありますよ。陛下の御前で、偽りの話をするのですか?」
「くっ」

 マーディルは戸惑いの目でギャスバーを見る。そして、短く言った。

「それは、真の話か?」

 アルヴェードの「そうです」という声と、ギャスバーの「違います」という声が重なった。そして、間髪入れずにギャスバーは言葉を続ける。

「あくまで我々の伝承ですが、我々エウル一族が連れて来たレトの労働者をヒュラ一族は利用したのです!」

 アルヴェードは、一瞬呆れた表情を浮かべたが、すぐに表情を引き締め反論し始めた。

「そんな事をして、ヒュラ一族に何の利があると言うのですか?まあ、そんな話は脇に置くとして、私も、にわかに信じ難い話でしたので、知り合いのつてを辿ってヒュラ一族を源流に持つシュク一族の関係者に話を聞きに行きましたよ。そこで、伝承の話として、突然扇動の罪をヒュラ一族が負うことになって一族が分裂した話を聞きました」

 それを聞いていたランディレイは、呟く。

「ミルフォンソ?」

 その呟きは、ギャスバーの声にかき消される。

「一旦、基本に立ち返ろう。この場で聴取する内容は、レトであった事の報告だ。ブンボルの歴史の討論ではない」

 アルヴェードは、心の中で「正論だ。逃げられる。だが、ここで歴史を正さなければ」と言った。そんな中でもギャスバーの言葉は止まらない。

「レトであった事の話が終わったのなら、この聴取は終了する」

 さすがにアルヴェードは焦る。「万事休すか?だが」と心の中で呟いた。その時、アルヴェードの腕にエリザータやミルーネのぬくもりが訪れる。更に「いや、ここに来たのは、ミルーネの幸せの為。そして、エリザータに全身で励ましてもらったんだ、ここで終わらせてたまるか!」と心の中で叫んだ。そのアルヴェードの視線の先には、立ち上がろうとするギャスバー。

「待ってくださいよ、ギャスバーさん」
「そうだね。話の途中で終わらせるのは、どうかと思うよ?ギャスバー」

 アルヴェードの言葉に追いかけるようにして、ランディレイが言った。驚くアルヴェード。

「王子」
「話を続けて、アルヴェード。いいですよね?父上、母上」

 マーディルとランクーナは、頷き、更にマーディルは短く言った。

「許す」

 アルヴェードは頭を下げ、言った。

「ありがとうございます、王子、そして、陛下、王妃様」

 ギャスバーは、表情を歪ませる。それを見つつアルヴェードは話を続ける。

「話を続けます。分裂したヒュラ一族は、犠牲を生みました。分裂を止められなかった責任を感じたのか、当時の当主の妹が自殺したと。そんな犠牲を伴いながら別れたヒュラ一族とシュク一族は交流を持つことはなかったようです。そして、王族復帰を望んだシュク一族は、なりふり構っていられなかったのでしょう、ミルーネという女性を養女に迎えてまで王宮に接点を持とうとしました」

 ランクーナの表情がかなしげになる。そして、呟きが漏れる。

「犠牲が、あったんですわね?」
「そうです」

 アルヴェードは、そんなランクーナに言葉を返すと、ギャスバーに向き直る。

「ここまでが、シュク一族関係者に私が聞いた話です。貴方が知っている事を教えてください。その、陛下の御前ですから、偽りの言葉は無用に願いたい。私が知る情報を、余計な物もあったかもしれませんが、嘘偽りなくここで答弁しましたから」

 ギャスバーは、奇怪な笑い声を上げた。

「まさか、黒だったとはな!この聴取は、元々我々エウル一族に不利な情報がベルカイザ号関係者にレトから渡っていない事の確認をしたかったのだよ!私がな!!」

 部屋に響き渡るギャスバーの奇声。それに、一同表情を歪めた。

「何か聞いたのに何も聞いていないと偽りを述べ、後々どこかで言いふらされたらたまらないからな!陛下の御前で『白』と確かめたかったが、クルセイン首相め、余計な事を言いおって、『黒』か!!」

 ランクーナが苦々しそうに言った。

「そんな事の為に、陛下を引きずり出すなんて、考えられませんわ」

 ギャスバーの笑い声は、乾いた物に変わる。

「終わりだ。エウル一族は。仕方ない!全て明かそう!!」

 一同、ギャスバーに注目した。

「アルヴェードとやら、シュク一族の関係者とは誰だ?」
「ミルフォンソさんです」
「ミルフォンソか!お前たちの所へ行ったのだな!!そのミルフォンソが言っていただろう?エウル一族とヒュラ一族の対立の件は」
「はい」
「何としてでも当時のエウル一族は、ヒュラ一族に負けを喫したくなかった。だから、陥れる計画を練った」

 ギャスバーは、レトがある方角をちらっと見る。

「エウル一族は、使い捨てに出来る駒として外国から労働者をレトを中心に募った。丁度、労働力不足という課題がブンボルにあった。それを表向き解消できるしな。貧しい奴らは、高額の報酬に目がくらみ大挙してきたぞ?そして、駒となった」

 アルヴェードは、「最悪のケースではないか」と心の中で言った。

「その外国人労働者の監督の補助として、ヒュラ一族に協力を呼びかけ、数人が来た。エウル一族とヒュラ一族の一部の人間で監督した外国人労働者にエウル一族は暴動を唆した。そして、実際暴動を起こしてくれたよ、レトの奴らはな!」

 ギャスバーの顔は、まるで鬼であった。

「当然、この件は問題となったが、エウル一族は、暴動を唆したのはヒュラ一族と偽の証言をした。当時の王は、外国人労働者たちと言葉が通じない事や証拠の少なさにエウル一族の証言を鵜呑みにした。そして、ヒュラ一族は、狙い通り王族追放と相成った!」

 マーディルは、眉間に皺を寄せた。

「残った駒に、後々言葉を覚えられ、証言されたらかなわないからな。多額の金を持たせ、強制送還という名目でレトなどに送り返した。この件で、ブンボルの王宮はレトに不信感を抱いて、一方的に国交断絶を言い渡してくれたわ!当時の当主は王の側近となる事が出来、今の今までうまく行っていた。なのに!」

 ギャスバーの鋭い視線は、アルヴェードに注がれる。

「お前たち、ベルカイザ号の面々が、やらかしてくれた!!そして、計算外だった!クルセイン首相が、ブンボルの言葉を話せるなどと!!我々の先祖が、策を巡らせて得たこの座を、私は守らねばならない。しかし、これまでだな」
「そうでしょうね」

 アルヴェードはそう声をかけた。一旦うなだれたギャスバーだったが、再び鬼の形相で顔を上げた。

「しかし、憎い」

 そのギャスバーの手には、王を守護するための短剣があった。

「その話を蒸し返した、クルーサム財閥次期総帥が!!」

 その短剣は、振りかざされた。
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