ブンボル王国の恋事情

森田金太郎

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55甘:想い

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夜が来る。夕飯後の食休みの時間になった。ゆったりとした雰囲気の中、ミルフォンソは呟く。

「なんだか、食事を明るい部屋で食べるのは、新鮮でした」
「え?どういう事ですか?」
「妹の病気が重くなってからは、徹底的に光を避けようと、僕ら暗い部屋で食事していたんです」
「それは、大変でした」
「でも、それももうすぐ無くなる。さびしいですね」
「確かにそうですね。この家でお一人になるんですよね」
「はい」

 ミルフォンソの話は、いつもミルーネの事ばかり。しかし、ミルーネの事を話すミルフォンソの表情は痛みを感じる。そうエリザータは思った。話題を変えようと、エリザータは尋ねる。

「普段、どんな生活をされてるんですか?ミルフォンソさん」
「え?ああ、妹の助手をしてます」

 結局ミルーネの話になってしまった事に「どうしよう」と思いつつもエリザータは話しを続けた。

「そうですか」
「それももうすぐ無くなりますね」
「あ、あの下世話な話で申し訳ないんですが、これからの収入とか、心配ですね?」
「まあ、シュク一族を支持してくれている人たちが、僕らに献金してくれているんですよ。実は。何も、彼らに僕らはやってあげられないのに」
「そ、そうでしたか。変な事を聞いてしまいまして、ごめんなさい」

 すると、風呂が沸いたという電子音が鳴る。ミルフォンソはそれを確認すると言った。

「エリザータさん、先にお風呂どうぞ」
「ありがとうございます」
「やっと、あの時の恩返しが出来ますね。あの時、人質から解放された後のお風呂はとても気持ちよかったです」
「あの時!それはよかったです!お言葉に甘えて先にお風呂いただきますね」

 そして、エリザータは入浴し、ミルフォンソに声をかけた。

「お風呂、気持ちよかったです。ありがとうございました」
「そうですか。それはよかった」

 そして、その後2人は就寝した。

 翌朝。

「おはようございます」
「おはよう、ミル、じゃなかった。エリザータさん、おはようございます」

 エリザータは微笑みこう返した。

「そんな感じでミルーネさんと朝を毎日迎えていたんですね?」
「まあ、そんな所です。失礼しました」
「いいえ」

 そして、特にやる事がない2人の一日が始まった。エリザータは、徹底的にミルフォンソと話してみることにした。

「暇ですね?ミルフォンソさん」
「そうですね」
「色々、時間潰しにお話ししませんか?」
「え?は、はい」

 エリザータとミルフォンソは向かい合う。

「そ、それでエリザータさん、何を話しましょうか?」

 エリザータは、それから身の上話をし始める。当時のルルコス銀行の頭取の娘として産まれ、政略的な結婚をアルヴェードとし、紆余曲折あって今の夫婦の形が作り上げられた事を。ミルフォンソは、驚きをもってそれを受け止めた。

「そんな、事が」
「だから、王子とミルーネさん、そして、シュク一族の事は他人事と思えなかったんです」
「そう、だったんですか」
「ねえ、ミルフォンソさん?私、貴方の事知りたいです」
「ええ?」

 ミルフォンソは、戸惑った様子だったが、語り始める。

「どこから話せばいいんでしょうか?」
「どこからでもいいです。えっと、シュク一族の一員として産まれたんですよね?」
「はい。一人っ子でしばらく育ちました。その、小さい頃からシュク一族は、ヒュラ一族を源流としているという事、そして、エウル一族と因縁があるという事もしっかり聞かされて育ちました」
「そうだったんですね?」

 ミルフォンソは、両手を組み、話しを続けた。

「更に、王族復帰が悲願だという事もね。でも、それは叶わない夢とも言われました。国王の子供と結婚出来る子がこの家にはいませんでしたから。王子しかいない王宮と、息子しかいない家では、どうあってもね。王宮に王女がいるか、家に娘がいれば違っていたのかもしれません」

 エリザータは、頷き、その話を受け止める。

「でも、王子とミルーネの交際の話を父がどこかで聞いてきた時から風向きが変わりました。この際、養女でもいい、王子と結婚出来る人を確保したいと動きました。そして、年齢からいって、僕は妹を持つ事になりました」

 ミルフォンソは、少し居心地の悪そうな顔になる。

「それで、今に至ります」

 そして、急に話は省略された。エリザータは、そこに何かがあると感じた。

「妹さん、ミルーネさんの第一印象はどうだったんですか?」

 ミルフォンソは、言葉を詰まらせる。しかし、質問に答えてくれた。

「かわいい妹が、来たと、思いました」
「そうでしたか」

 それから、少しだけ沈黙の時間が流れた。ミルフォンソは、その後エリザータに尋ねる。

「も、もし、エリザータさんがミルーネの立場だったらという前提で、意見が聞きたいんですが」
「何ですか?」
「そして、この話はここだけの話にして欲しいんですが」
「内容にもよると思いますけど、なるべくそうします」

 ミルフォンソは、意を決して話す。

「あの、血が繋がらない兄に、『恋人になって欲しい』と言われたら、どんな気持ちになりますか?」
「困っちゃいますね」
「やっぱり」
「やっぱり。貴方はミルーネさんに恋されてたんですね?」
「はい」

 エリザータは笑顔になる。

「私はその気持ち、わからなかったんですけど、夫がね?貴方がミルーネさんを好きなんじゃないかって話をしたんです。その、心配した夫がね?ミルフォンソさんの様子が気になるから見て欲しいって頼んできたんです。だから、ちょっと嘘ついちゃったんですが、ここに来たんです」
「そ、そうだったんですか」
「ええ」

 ミルフォンソは頭を抱えた。

「心配かけて、すみません」
「いいえ。むしろ話してくれた勇気に感動しましたよ。もっと話、聞かせてください」

 エリザータは、ここでミルフォンソを愛人として「落とす」のはやめようと考えた。苦しみを聞く、それだけでいいと。

「いいんですか?」
「はい」

 ミルフォンソは、堰を切ったようにミルーネへの想いを吐露し始めた。

「一目惚れでした。顔を見る前は、妹として、一族の希望として迎え入れようとしていたのに、ミルーネの顔を初めて見た時、そんな考えは、瓦解しました。ただ、女として手に入れたいと毎日思うようになりました」

 ミルフォンソは、抱えるだけだった頭をかきむしる。

「時々、下劣な考えも抱きました。寝ている妹に乱暴したくなりました。最低な兄なんです。僕は」
「でも、我慢されたんですよね?」
「勿論」
「偉いですよ、それは」
「そんな妹は、父に事あるごとに『王子を誘惑しろ』と言われてかわいそうになりました。病気が重くなったのをきっかけに、僕は、ミルーネと一緒に家出をしました。そして、ここに2人で暮らし始めて、今に至るんです」
「ミルーネさん想いの素敵な人ですね。ミルーネさんには、想いは伝えてないんでしょう?」
「はい」
「お辛いですね」

 ミルフォンソの目に涙。落涙する事はなかったが、その涙は、それ以降のミルフォンソの言葉を奪った。

「話は、ここまでにしましょうか。辛い話をさせてしまってすみませんでした」

 そのエリザータの言葉に、ミルフォンソは首を横に振った。
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