ブンボル王国の恋事情

森田金太郎

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56甘:らしくないけど

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翌日、エリザータは帰宅する事にした。

「本当に、押しかけてきてごめんなさい」
「いいえ」
「また、何か話したくなったらお会いしましょうね」
「そんな。でも、その時はよろしくお願いします」

 そして、エリザータはミルフォンソの元を去った。見送ったミルフォンソの顔は、心なしか明るかった。

 帰宅すると、アルヴェードは仕事。想定より早いエリザータの帰宅は、さすがに使用人たちの動揺を誘った。

「ごめんなさい、帰るの早過ぎたようね。でも、用事は終わったから」

 使用人たちは、気持ちを切り替え、エリザータがいる時の仕事の態勢へと切り替えた。一方、エリザータは自室にて考え込む。

 数時間後、アルヴェードが帰宅した。

「おかえりなさい」
「え?もう帰ったのか」
「用は、終わったわ」
「さすが、エリザータ。もうミルフォンソを落としたんだな?」
「落としてない。ミルフォンソさんは落とさない。私、そう決めたから」

 アルヴェードは首を傾げ、更に焦った様子で言った。

「どうして?慰めは?」
「落とさなくても、慰められるわ。むしろ、落としちゃ駄目な人よ」
「何で!」
「全く、どうしたのよ?貴方らしくないわ、アルヴェード。わからない?ミルフォンソさんを落としてもいいけど、結局は、第八条を守ってミルフォンソさんと別れなきゃいけないのよ?失恋の後の恋がそれって、かわいそうだわ」
「た、確かに、そうだな」

 エリザータは一旦ため息をつく。

「だから、話し相手になってやるだけにしたわ」
「そういう事なら、棚上げにした事は、ここで『許す』としないとな」
「ありがとう」 

 エリザータは、アルヴェードの顔をまじまじと覗き込みはじめた。

「それより、貴方の問題の方が心配。どこか調子悪いの?なんだか変よ」

 アルヴェードは、わずかに震えた。

「ベルカイザ号の処女航海からこっち、色々あって気持ちが疲れている。正直」
「もう、仕方ないわね」

 エリザータは、アルヴェードを優しく抱きしめた。

「エリザータ。情けない俺に、そこまでする必要はない」
「こういう時は、素直に『ありがとう』でいいのよ。私は、貴方を支える為に貴方を愛し始めたんだから」
「エリザータ、ありがとう」
「どういたしまして」

 そして、アルヴェードは、エリザータから癒しを得ようとその唇を求めた。エリザータは、それを優しく受け止めた。軽く長く触れ合った唇が離れると、エリザータは言った。

「その、疲れが消えてからでいいんだけど、やって欲しい事があるの」
「何だ?」
「もしかしたら、凄く難しいことかもしれないけど、キャナリーンさんという女性を探して欲しいの。気が向いたら、愛人にしていいから」
「誰だ?その、キャナリーンとは」
「私がセブレーノを愛人にした頃、会った女性よ。そして、私はキャナリーンさんから、セブレーノを奪ってしまったのよ」
「初耳だぞ?そんな事」

 エリザータはアルヴェードの言葉を聞きつつ、昔に思いを馳せ始める。

「言ってなかったものね。多分、セブレーノはキャナリーンさんの事、ただの同居人としか思ってなかったと思うけど、キャナリーンさんは、セブレーノの事、絶対好きだったと思うのよ。その時の私、そんな事まで気が回らなかったから、セブレーノに好きって言っちゃって、結局失恋させちゃったのよね」

 アルヴェードの目に多少いつもの力強さが戻ってきた。そして、言った。

「失恋した者は、失恋した者に、か?」
「うん。あわよくば、とは思っているけど、そこまでは今のところ考えてない。真のミルフォンソさんの心の傷をわかってやれるのは、キャナリーンさんしか心当たりないのよね」

 エリザータは、ため息をつく。

「まあ、あれから10年以上も経っちゃったから、キャナリーンさん、結婚して子供もいるかもしれないから、私と同じ『話を聞く人』が1人増えるだけ、っていう状態になるかもしれないけど」
「それでも、いいだろう。しかし、なんで俺が探すことになるんだ?俺は顔も知らないぞ?お前の方がいいんじゃないか?」
「キャナリーンさんと顔を合わせたくないのよ。言ったでしょう?私は奪っちゃった女だって。それに、私にらしくない事させた貴方に仕返しもしたいしね」

 アルヴェードは、吹き出すように笑った。

「なるほど。確かにな。わかったやってみよう」
「あ、多分、セブレーノはキャナリーンさんの今の居場所、わからないと思うから。その辺よろしくね?」
「そうか。なかなか難儀な課題だな」
「頑張って。ひとつわかってるのは、看護師を目指していたって事だけ」
「情報提供に、感謝する」

 そう言ったアルヴェードの目の力強さは、以前の物を取り戻していた。
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